政経東北|多様化時代の福島を読み解く

「コロナ閉店」した郡山バー店主に聞く

〝コロナ閉店〟した郡山バー店主に聞く

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「自粛」が求められる場面が増えている。とりわけ、酒類を扱う「夜の飲食店」に行く機会が減った人は多いと思われる。当然、客が来なければ飲食店もやっていけない。いわゆる〝コロナ閉店〟する飲食店は少なくないという。実際に〝コロナ閉店〟した郡山市のバー店主に話を聞いた。

「営業しただけ赤字増加」で見切り

 「店を開ければ開けただけ赤字が増えるんですから、やってられませんよ。幸い、『やめられるメド』が立ったので閉店しました」

 こう話すのは、郡山市のJR郡山駅近く、陣屋でバーを経営していた男性。この男性は昨年秋前に自身が経営していたバーを閉店した。いわゆる〝コロナ閉店〟である。

 「2020年2、3月にコロナの問題が本格化して以降は、多少の変化はありつつも、ずっと厳しい状況が続いていました。歓送迎会や忘新年会など、本来なら最もにぎわうシーズンですら、お客さんがかなり少なく、ゼロという日も少なくなかったですからね。特に『どこかでクラスターが発生した』といった報道等が出ると、発生源の店舗が入居するビルはもちろん、その周辺には人が寄り付かなくなります。一度そうなってしまうと、なかなか客足は戻りません」(元バー店主の男性)

 本誌2020年10月号に「クラスター発生に揺れた郡山と会津若松」という特集記事を掲載し、郡山市のホストクラブでクラスターが発生したことを受け、行政の対応、関係者の足取り、店舗の対応などについてリポートした。その中で、周辺店舗関係者の「緊急事態宣言解除後、少しずつ売り上げが戻っていたが、今回のクラスター発生で再び下降している。こんなことが二度、三度と続けば持たない」、「クラスター発生を機に駅前全体の客足が鈍っている。他店からも『いつまで持つか』という嘆きが聞かれる。回復にはまだまだ時間がかかるだろう」といった声を紹介した。そういった事例が出ると、周辺店舗やその後の客足など影響が大きいというのだ。

人通りが少ない郡山市飲食店街(陣屋)

 それでなくても、この間、接待を伴う飲食店、酒類の提供を行う飲食店に対しては、まん延防止等重点措置や、県独自の緊急・集中対策によって、営業自粛・時短営業を求められることが多かった。

 「少し落ち着いてきたと思ったら、まん延防止や県独自の措置によって営業自粛・時短営業要請が発令される、ということの繰り返しでしたからね。もっとも、営業自粛・時短営業要請の期間は協力金が受け取れたため、店を開けて客が全く来ないときよりはマシでした。といっても、協力金は各種支払いに全部消えましたけど」(同)

協力金の仕組み

 例えば、2021年1月13日から2月14日までに出された営業自粛・時短営業要請では、1日当たり4万円の協力金が支給された。33日間で計132万円だったが、「家賃の支払いを待ってもらっていた分、カラオケのリース料、酒卸業者への支払いなどで全部なくなった。むしろ、それだけではまかなえなかった」(同)という。

 その後は、郡山市の場合、2021年7月26日から8月16日までは、県の「集中対策」として、営業自粛・時短営業要請が出され、この時は売り上げに応じて、「1日2万5000円〜」というルールで協力金が支払われた。昨年1月27日から2月21日までは、まん延防止等重点措置として営業自粛・時短営業要請が出され、この時は「前年度、前々年度の売上高に応じて1日当たり2万5000円〜7万5000円」の売上高方式か、「前年度、前々年度比の1日当たりの売上高減少額の4割」の売上高減少方式を選択できる仕組みだった。

 ただ、いずれにしても、「協力金は各種支払いにすべて消える」といった状況だったという。

 ちなみに、本誌はこの間、感染リスクが高いとされる業種(旅客業、宿泊・飲食サービス業など)は国内総生産(GDP)の5%程度で、これまで政府がコロナ対策として投じてきた予算が数十兆円に上ることを考えると、東京電力福島第一原発事故に伴う賠償金の事例に当てはめて補償するというような対応が可能で、そうすべきだった――と書いた。

一番厳しかった一昨年夏

 男性によると、最も厳しかったのは2021年夏ごろだったという。感染拡大「第5波」が到来し、感染力が強く、重症化のリスクも高いとされる変異種「デルタ株」が流行していたころだ。

 「あの時期は本当に厳しかった。平日(月〜木)はほぼお客さんがゼロという日が続き、週末(金・土)だって、それほど入るわけではありませんでしたから。それでも、私は1人でやっていたから、まだマシだったと思う。従業員がいたら、どうしようもなかった」(同)

 コロナ前、平日(月〜木)は売り上げが5万円から8万円、週末(金・土)はその約3倍で、週50万円〜80万円の売り上げがあった。それがひどい時は平日はほぼゼロ、週末はコロナ前の平日並みになった。それでも、家賃や光熱費などの固定経費は変わらない。結果、「店を開ければ開けただけ赤字が増える」状況だったというのである。

 「最近は少し規制などが緩くなり、以前よりはマシになりました。週末の居酒屋などはそこそこ入っていると思います。ただ、バーや女性が接待する店はまだまだ戻っていない。私の知り合いの店でも、女性キャストは週の半分は休みという感じです。週末は黒字だが、平日の赤字分をカバーしきれない、といった店が多いのではないか」(同)

 冒頭、男性は「『やめられるメド』が立った」と語ったが、一番大きいのは、「テナント退去時の修繕費が最初に納めた敷金でまかなえたこと」という。そのほか、残っていた各種支払いがあったが、何とかそのメドが立ったから閉店を決めた。

 「テナント退去時の修繕費がどうなるのかが怖かったが、敷金でまかなえたので良かった。逆に、やめたいと思っても、その(修繕費の)見通しが立たなくてやめられないところもあると思います」(同)

 男性の知人の店舗でも、やめたところが何軒かあり、「いつやめたのか分からないが、気付いたら閉店していたところもあった」という。

 コロナが出始めたころは、ワクチンが普及し、ある程度、通常の生活ができるようになり、客足が戻ってくることを期待していたようだ。ただ、思いのほか長引き、見切りを付けた。最後に男性は「こんなことなら、もっと早くやめれば良かった」と語った。

モバイルバージョンを終了