書店業界の不況に伴って、いわゆる「まちの本屋さん」が次々と姿を消している。今年に入ってからも、本誌と長年取引があった県内の書店が2軒、立て続けに閉店した。地域の教育と文化を支えてきた書店は、このまま消え去ってしまうのか。
外商に一縷の望みをかける書店組合

「まぁーねぇー。ここまで頑張ってきたんだけど潮時かなって」
静かにそう漏らしたのは、三春町にあるカネサン書店の渡辺佳世子さん(66)だ。
国道288号バイパス沿いのコンビニ、コインランドリー、ラーメン店などが集まるエリアの一角で営業していたカネサン書店が1月末で閉店した。筆者が同店を訪ねたのは閉店から6日後だったが、店内の棚に本は1冊もなく、店員2人がCD類の片付け作業をしているところだった。残っている商品はレジの前に並べられた文房具類だけだった。
「今は小さな子どももスマホで電子書籍を読むから、紙の本を買うお客さんは本当に減った。店で子どもの姿を見ることはなくなりましたよね。そうなると、店に来るのはお年寄りが中心になるが、その方たちもだんだん亡くなって、定期購読もやめていくので……」(同)
返品が増えると、そのデータをもとに取次店から店の状況を探る連絡がくるようになる。
「そうなると、新刊も入荷しづらくなります。売れない本屋に売り出したい新刊を置いても意味がありませんから」(同)
売上が全てデータで管理されている状況では、店側が「置きたい」と要望しても、取次店が「置いても売れない」と判断すれば入荷されなくなるのだという。
店内では大手メディアショップと提携してゲームソフトも販売していたが、利益は少なかった。
「本が売れない挙げ句、新刊もないとなれば、ただでさえ少ないお客さんが『読みたい本がない』とさらに足が遠のく。やればやるほど悪循環でした」(同)
田村高校の教科書販売も行っていたが、少子化で年々生徒数が減っている影響で取扱量は減っていた。近年は1人1台タブレット端末の導入が進んだことで、紙の教科書が減る傾向にもあった。
「子どもたちは独立し、後継者はいません。今後も伸びていく商売なら継がせてもよかったんでしょうけど。少しでも余力があるうちに(閉店を)決断したって感じかな」(同)
店の奥では佳世子さんの夫で店主の渡辺康人さん(68)が作業をしていた。もともと書店経営は、康人さんの父が三春町の中心市街地にある交流館「まほら」の辺りに店を構えてスタート。まほらの建設に伴い現在の店舗に賃貸で入居した。今年は移転30年の節目だった。それまで首都圏に暮らし、大手重機メーカーに勤務していた康人さんは、母の病気を機に書店を継ごうと決意。家族を連れて三春町に戻った。

「ちょうど会社から海外勤務の打診を受けていたが、それを断って三春に戻り、ここで本屋を始めたんです。タブレッド端末、あれがよくないね。簡単に答えに辿り着いちゃうんだから。紙の本で勉強するより深度は浅いと思うよ」(康人さん)
今後は年金暮らしで、少しのんびりする時間を持ちたいと話す康人さん。その横で、佳世子さんが言葉を続けた。
「うちが閉まることで町から本屋が1軒もなくなっちゃうのは残念だけど……。これも時代の流れなんでしょうね」
カネサン書店には本誌を長年取り扱っていただき、田村地方の記事が載った号は追加注文が入る売れ行きだった。おふたりに長くお世話になったお礼を告げ、店を後にした。
それから数日後、今度は伊達市の木村書店が2月いっぱいで閉店するという連絡が入った。
旧保原町の中心部を通る国道349号沿いで営業する木村書店は伊達市を代表する書店だ。ここもカネサン書店と同様、本誌を長年取り扱っていただいた。お得意さんの立て続けの閉店に寂しさがこみ上げる。
店主の木村和史さんの話。
「正直、紙の本は厳しいなって。このまま店を続けてもどうなのかなと思い、やめようと決めました」
ただ、書店は閉店するが、外商は継続するという。
「状況によっては店を再開する可能性も残しておこうかと。店の方はそんな感じですが、外商の方は新年度に向けた教科書販売で忙しくさせてもらっています」(同)
あらためて外商とは、営業担当者が学校、官公庁、企業、図書館などを訪問し、教科書、書籍、雑誌や学用品、事務用品などを直接販売・納品する事業だ。OA機器やデスク、チェアなどを扱う書店もある。店売りが立ち行かなくなる中、木村書店のように外商のみにシフトする書店は少なくない。
「本屋だけでは食えない」
このように閉店を決断する書店は今では珍しくないが、逆に新店舗を建てて営業を続けようとしている書店もある。田村市船引町の中心部にある小泉書店だ。
店主の小泉祐一さんが謙遜しながら言う。
「うちは前の店が古すぎたので建て替えているだけさ。厳しい状況にあるのは他の本屋と一緒だよ」
旧店舗は蔵造りで、小泉さんいわく「屋根は壁に乗っかっているだけ。風が吹くと(屋根が)浮き上がるんだから」。冬は寒く、灯油代もばかにならないと数年前から建て替えのタイミングを見計らっていた。
「新店舗は半分をレンタルスペースにして、もう半分で本屋をやる。前の店が広すぎたので、在庫も最低限置ければいいかなって」(同)
レンタルスペースは既に借り手が決まっており、書店のスペースも身の丈に合った広さにとどめるなど堅実な印象を受ける。
「えっ、木村(書店)さんも閉めるの?
そういう話を聞くと、本屋はますますニッチな商売になっていく気がするけど、紙の本がすたれることはないと私は思っています。そういうニーズを拾っていけば、まだまだ商売としてやっていけるんじゃないかな」(同)
小泉書店は前身の雑貨屋が昭和元年創業で、今年はちょうど100周年に当たる。祐一さんが3代目として経営を引き継ぐタイミングで法人化(㈲小泉書店)し、本を中心に扱うようになった。4代目には息子の翔平さんが控えており、後継者問題もクリアしている。
「食えるような商売じゃないと息子に継がせようなんて思わないさ。ただ本屋だけでは食えない。商材を扱ったり教科書販売をしたり、外商は一つのカギだよね。もう一つは不動産かな。不動産があれば運用できるし、自分の土地建物で店をやれば固定資産税はかかるけど地代や家賃はかからない」(同)
小泉書店はもともと教科書販売を行っているが、前出・カネサン書店が閉店したため、今年(2026年度の教科書)から同書店が扱っていた分を引き継いだ。
「ある意味、教科書販売は社会貢献でもある。少しでも地元の学校のお役に立てるよう、微力ながら尽くしていきたい」(同)
小泉書店の新店舗は教科書販売が落ち着いた後の4、5月にオープンする予定。現書店は工事が進む新店舗の裏にある仮店舗で営業中だ。
翻って、書店は今どういう状況に置かれているのか。
一般社団法人日本書籍出版協会が発行する「2025年出版再販・流通白書」によると、全国の店舗数は2024年現在1万0417店。2016年は1万4098店あったので、8年間で3675店減った。一方、新規店は2016年が243店だったが、2024年は57店にとどまる。これに対し、閉店は2016年が736店、2024年が537店。ただ、対新規店で見ると2024年の方が閉店する割合は高い。
店舗数が減っている背景も見ておきたい。別図は書籍と雑誌(コミック含む)の販売部数と販売金額(いずれも推定)を示したものだ。右肩下がりに減っているのが一目瞭然で分かる。

書籍のピークは1996年の9億1531万冊(売上1兆0931億円)。雑誌のピークは1995年の39億1060万冊(売上が最も多かったのは1997年の1兆5644億円)。その時と2024年の販売金額を比べると書籍は2分の1、雑誌は3分の1から6分の1も減っている。出版不況は数字の上からも明白だ。
県内の書店の現状を福島県書店商業組合の佐藤大介理事長(郡山書店社長)が説明する。
「十数年前、書店は淘汰が進みました。そうした中でも閉店を免れた書店は立地が良かったり、外商に強みを持つなど何らかの特長を持っていました。ですが、そうやって生き残った書店も今は大きなピンチに立たされています」(佐藤理事長)
書店を直撃したのが、ここ数年見られる店売りの激減だ。
「まちの本屋が扱うのは雑誌とコミックが中心で、書籍は少ない。昔に比べて雑誌は売れなくなっているが、今はコミックも売れなくなっており、それが本屋の経営を苦しくしています」(同)
官公庁に再販制度の適用を
原因は電子コミックの台頭だ。特にコロナ禍以降、外出を制限された人たちが電子コミックに一気に馴染んだ。加えて電子コミックは1、2話を無料で読めてしまう。今は紙のコミックが電子化されるだけではなく、最初からデジタルのみで発行されるコミックもある。
データも押さえておこう。別表は紙と電子の出版物販売金額を示したものだが、紙の書籍、雑誌が減っているのに対し電子コミック、書籍は増えているのが分かる。

「読書の形態がコロナ禍を経て一気に変わってしまった。今は子どももスマホを持っていますから、若者やその下の世代が本屋に来ないのも当然です」(同)
そんな店売りの激減をカバーするのが外商だが、こちらも少子化の影響を受けている。
「子どもが減っているため、教科書販売も減っています。大きい市はまだいいが、町村は学校の統廃合が進み、子どもだけでなく先生も減っているため、へき地の本屋ほど取扱量は減っています。加えて今は一人ひとりにタブレット端末を持たせていますからね。紙の教科書の出番は減る一方です」(同)
実は、佐藤理事長が社長を務める郡山書店も郡山市と須賀川市に書店を構え、本誌も取り扱っていただいていたが、現在は閉店し外商に注力している。しかし、教科書販売も減る状況を踏まえ、全くの異業種である児童発達支援・放課後等デイサービスに参入している。
それでも、本業の本屋として生き残ることをあきらめているわけではない。県書店商業組合はこれまで目立った活動をしてこなかったが、店売りはニーズがなければ店じまいをするしかない半面、外商はサポートできる余地があるとして、県への要望活動に乗り出している。
本は再販制度(※)が適用されているが、官公庁に入札で本を納入する場合は同制度を適用しないことを出版社と書店、取次店と書店が交わす契約書の中で取り決めてきた。官公庁の仕事は入札で安値を入れた者が取れる仕組みなので、本の納入も定価より安くなるのはやむを得ないという論理だ。しかし、本はもともと価格が安く、安値で納入しては儲けが出ないことから、官公庁の入札にも再販制度を適用させることを目指すため、昨年5月、出版業界において前記取り決めを契約書から削除することを決定した。
※再販売価格維持制度、略して再販制度。出版社が書籍や雑誌の定価を決定し、書店などで定価販売できる制度。独占禁止法では再販売価格の拘束を禁止しているが、1953年の独禁法改正により著作物の再販制度が認められている。
「官公庁の入札にも再販制度を適用させるべきという声は書店から多く上がっていました。県には今後、入札から随意契約への変更を求めていきます」(佐藤理事長)
もう一つは図書館に本を納入する際に行う装備の問題。本の表面に保護フィルム、背ラベル、バーコードなどを貼る作業のことだが、これまでは書店がサービスで行ってきた。しかし、人件費や資材費の高騰で、本代とは別に装備代ももらわなければ経営が成り立たないという。
「組合として装備代を別予算で取るよう要望していますが、市町村によっては『装備なしで納入して構わない』と司書に装備を任せるところも出てきています」(同)
県が再販制度や装備の問題に理解を示せば市町村もそれに倣う。せっかく注文をもらっても、利益が出なければ意味がない。「各地で頑張る書店の経営にプラスになるよう、組合として後押ししていきたい」と佐藤理事長は話す。
とはいえ、これで課題が解消されるわけではない。
今後は2028年から施行されるトラック新法が待ち構える。物流業界で問題となっているドライバー不足や長時間労働などを受け、適正原価を下回る運賃設定が禁止される。違反すれば荷主(取次店)に罰則が科されるため、遠方への本の輸送費を誰が負担するのかが検討課題になっている。再販制度を踏まえると出版社が価格転嫁で本の定価を上げるしかないが、そうなるとますます紙の本離れが進む恐れがある。ならば取次店、出版社、書店が協力して増えた分の輸送費を負担するしかないのか――現時点で妙案は見いだせていない。
2024年8月現在、県内には書店が1軒もない「無書店自治体」が29ある。福島県は59市町村なので無書店率は49・2%。その後、前記カネサン書店なども閉店しているので最新の数字はもっと増えている。全国を見渡すと都道府県によって市町村の数が違うので一概には比較しづらいが、福島県は北海道(77)、長野県(42)に次いでワースト3位となっている。
佐藤理事長は最後にこう訴えた。
「アマゾンがあるからいいという人もいます。しかし、本当にそれでいいのか。本を通じて地域の教育や文化を支えているのがまちの本屋さんです。教科書販売を担っている書店は教育に携わっている自負や子どもたちのためという使命感で続けている面もあります。正直、店売りはどうにもならないところまできています。ならば再販制度や装備の問題に関しては、県、市町村に是非ともご理解を願いたい」
※本誌は三春町をはじめ、震災・原発事故後に書店がなくなった浜通りの町村など無書店自治体で『政経東北』を常時販売するため、各地のコンビニ(とりわけセブンイレブン)のオーナーさんと直接交渉し、了承がいただけた店舗で販売を始めています。店頭には毎月5日に並ぶ予定です。無書店自治体で『政経東北』を販売しているコンビニを知りたい方は、本誌のホームページでご確認ください。

























