M&Aで事業承継した【三立土建】

M&Aで事業承継した【三立土建】

 下郷町の三立土建グループが投資・マネジメント会社の「フロンティア・キャピタル」と資本業務提携を結んだ。同グループ創業者一族で、資本提携後は会長に就いている浅沼秀俊氏に経緯などを聞いた。

浅沼秀俊会長に決断の背景を聞く

浅沼会長
浅沼会長

 三立土建グループは、以下の3社から構成される。

 三立土建▽本社は下郷町で、郡山市と会津若松市に支店があるほか、下郷町に砂利採取場を有する。1949年設立。資本金2000万円。主な業務は総合建設業(土木一式・建築一式請負)、土木・建築工事の企画設計・施工の監督、土木・建築工事に要する材料の販売・販売受託、産業廃棄物の運搬業務、砂利採取・販売など。

 三立道路▽本社は会津若松市。1969年設立。資本金2000万円。主な業務は建設業、産業廃棄物の運搬・処理業務、砂利採取、採石業、砕石業、土木建築資材の斡旋・販売業務、テニス場、ゴルフ練習場等スポーツ施設の経営業務、株式の取得・譲渡、不動産の賃貸、自然エネルギー等による発電事業、その管理・運営、電気の供給・販売等に関する業務など。

 三立エンタープライズ▽本社は下郷町。2000年設立。資本金1000万円。主な業務は、建設機械のリース・販売に関する事業、生コンクリート・骨材の生産プラントのリースに関する事業、自動車のリース・販売に関する事業、事務用機器・情報処理機器のリース・販売に関する事業、不動産の賃貸に関する事業、有価証券の売買に関する事業、建設資材の販売に関する事業、土木建築工事の企画、測量、設計、監理に関する事業など。

 この3社からなる同グループが投資・マネジメント会社の「フロンティア・キャピタル」と資本業務提携を結んだ。昨年12月に同社が以下のリリースを発表した。

   ×  ×  ×  ×

 当社と三立土建グループとの資本業務提携について

 フロンティア・キャピタル株式会社(本社・東京都港区六本木、代表取締役・大西正一郎、松岡真宏、以下「当社」という)は、株式会社第四北越銀行(本社・新潟県新潟市中央区東堀前通、頭取・殖栗道郎)、第四北越キャピタルパートナーズ株式会社(本社・新潟県新潟市中央区東大通、代表取締役・川邊正則)が設立した「第2号第四北越地域創生投資事業有限責任組合」(以下、当社と総称して「当社ら」という)と共に、三立土建株式会社(本社・福島県南会津郡下郷町、代表取締役・浅沼秀俊)、三立道路株式会社(本社・福島県会津若松市、代表取締役・浅沼秀俊)、株式会社三立エンタープライス(本社・福島県南会津郡下郷町、代表取締役・浅沼秀俊。以下、三立土建株式会社、三立道路株式会社、株式会社三立エンタープライズを「三立土建グループ」という)との間で資本業務提携を行うことを本日決議しましたので下記の通りお知らせいたします。

 三立土建グループは永きにわたってインフラの維持向上・防災をリードし続けてきた地域に不可欠な存在であり、激甚化する風水害への対策やインフラの老朽化対策への希求が高まる中、自ら持続的成長が期待できるポテンシャルを有していると考えております。

 三立土建グループが事業を行う土建業界の業界環境としては、事後保全から予防保全へと転換点を迎えながら、地域の各種の工事への対応や人員の高齢化・人手不足などの課題を抱えております。フロンティア・マネジメントグループが数多くの地域企業向けコンサルティングで培ったノウハウを活かし、三立土建グループと一体となり経営を推進させて頂くことで、三立土建グループの成長ポテンシャルの確実な実現、企業価値の更なる向上、ひいてはそれを通じた地域活性化が期待できると判断し、今回の資本業務提携に至りました。

 本資本業務提携では、当社らが設立するSPC(特別目的会社)を通じて当社らが三立土建グループに資本参加を行います。

 三立土建グループ各社の代表取締役社長である浅沼秀俊氏には各社の代表取締役会長に就任頂き、引き続き当社らと共に経営にあたっていただくことを想定しております。

 有償のコンサルティング契約を締結のうえ、当社らからは代表取締役、取締役を常駐派遣することに加え、執行役員も複数名派遣し、三立土建グループのさらなる発展に邁進する予定です。

 当社は特定の産業・エリア・業種に限らず、経営課題を抱える様々な企業に対してヒト・ノウハウ・カネを投入することで、長期的視点から経営課題の解決を支援し、地域経済の活性化に貢献することを投資コンセプトとしております。

 当社は一般的なPEファンドと異なり、多様な投資手段とグループ内のチームアップによって、経営者的視点に立った長期的・持続的な成長を主眼としております。投資先が抱える経営課題に対して、フロンティア・マネジメントグループ各社が一体となってコンサルティング・知見、豊富な経営人材・ネットワークなどを提供することで、長期的・継続的な企業価値向上を支援していきます。

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 このリリースにあるように、フロンティア・キャピタルは、第四北越銀行と関係が深い。2022年4月設立の新しい会社である。同社ホームページによると、主要メンバーとして、代表取締役社長CEO兼COO・大西正一郎氏、取締役Co―CIO・高橋信之氏、取締役・堀越康夫氏、社外取締役・山口顕氏、安藤大輔氏、岡村健寛氏、Co―CIO・矢島政也氏、マネージング・ディレクター・泰永大輔氏、出口知史氏、木場亮太氏、中村雅一氏、監査役(非常勤)・濱田寛明氏の名前が記載されている。

きっかけは後継者不在

三立土建本社
三立土建本社

 投資実績としては、三立土建グループのほか、歯科技工物を全国の歯科医院に供給している「ZOO LABO」(神奈川県川崎市)が紹介されている。建設業者との資本提携(出資)は三立土建グループが初めてのようだ。

 実際に資本提携(出資)が実施されたのが今年3月。これに伴い、リリースに記されていたように、グループ3社のすべてで代表取締役社長に就いていた浅沼秀俊氏は、代表権を残したまま会長となり、矢島政也氏が代表取締役社長に就任した。

 本誌は9月中旬、フロンティア・キャピタルに①資本業務提携に至った経緯、②資本業務提携に伴うメリット、③今後も機会があれば、県内建設業者との資本業務提携の考えはあるか――といった点について質問したが、本号締め切りまでに回答は得られなかった。

 一方、浅沼会長に取材を申し込むと応じてもらうことができ、9月12日に三立土建の一室(会長室)で話を聞いた。最初に資本業務提携に至った経緯について聞くと、「事業承継の問題です」という。

 「何とか私1人で3つの会社をやってきましたが、後継ぎがいないんです。息子はいますが、この業界にはいないので」

 息子さんはいま40歳だそうだが、高校・大学への進学や、その後の就職などを決める時期、すなわちいまから約20年前は、建設業界が最も厳しい時期だった。

 当時、公共事業は減少の一途を辿っていた。そんな中、2006年の「県政汚職事件」を契機に、指名競争入札から一般競争入札への移行が急速に進み、建設業者はただでさえ少なくなった仕事を低価格競争で奪い合う状況だった。赤字受注も横行し、その結果、建設業者は自らの首を絞める格好になり、どこも厳しい経営を強いられていたのだ。

 「あのころが一番厳しかったと思いますね。そんな折に、息子が高校・大学へと進学するタイミングで、自分から後を継ぎたいと言えば別ですが、そうでなければ最初から(自身の後継として)やらせる考えはなかったので、好きなこと(仕事)をやれ、と。ただ、会社もそれなりの規模になって、従業員も3社で140〜150人になりますから、事業承継を考えるようになりました」

 浅沼会長は現在67歳で「私は父から会社を引き継ぎましたが、父は63歳で亡くなったので、(自分が)その年齢を超えたころから、どうしようかと考えていました」という。すなわち、2、3年前から考えていたということだ。

銀行を介してのやり取り

 その中で、M&Aも選択肢の1つには考えていたが、直接そういったところとやり取りをするのは不安があった。実際、悪質あるいは胡散臭いところがあるのが実情でもある。そこで、取引銀行を通していろいろと比較しながら提携先を探した。

 「銀行からもいろいろと話があった中、私としては従業員を大事にしてくれることや、この地域では建設業者は災害対応や除雪などの重要な役割がありますから、そういったことを含めて地域で存続できるような形にしてもらいたい、ということを要望して、いろいろと提案をもらいました。そんな中、フロンティア・キャピタルさんは具体性があって良かったので、そこに決めました」

 グループのうち三立道路は、もともとは新潟県の建設業者と共同で設立した会社だった。そんな関係で、第四北越銀行と付き合いがあり、同銀行を通してフロンティア・キャピタルとつながった。

 フロンティア・キャピタルは従業員と個別面談したり、かなり丁寧な対応だった。その結果、「私が把握しきれていなかった問題点なんかも洗い出されて、いい方向に進んでいると感じます。本当に丁寧にやってくれて、ありがたいですね」(浅沼会長)という。

 さらには、浅沼会長が求めていた災害対応や除雪などの役割をこなし、地域に根付いた経営をしてもらえると確信したから、同社に決め、良かったと感じているようだ。そのほか、例えば下請け業者や資材の調達先などもいままで通りの付き合いが続いているという。

 本誌が取材したのは、資本提携から半年ほど経った時期だが、浅沼会長は「アドバイザーのような形で、いろいろと伝えられることは伝えているという感じです」とのことで、この間、特に問題などは発生していないようだ。

 従業員にこの話をした際の反応はどうだったのか。

 「昨年12月(前述したフロンティア・キャピタルのリリースが発表された時期)に、初めてこの話を伝えたんですが、特段、混乱・反発などはなかったように思います。実際、(体制が変わって)辞めた人もいませんし、むしろ従業員が増えていますから。中には『浅沼社長に何かあったら、俺たちは路頭に迷うのではないかと思っていたので、これからも会社が存続すると分かり安心しました』という従業員もいました」

業界関係者からの反応

 一方で、「かつての建設業界の状況だったら、こういった形での事業承継は難しかったのではないか」との問いには、浅沼会長は「そうでしょうね。おそらく、(出資してもいいというところは)どこも出てこなかったでしょう」と明かした。

 前述したように、2006年の「県政汚職事件」のころの建設業界は、非常に厳しかった。さらに、それ以前までは、建設業者のトップは高級車を乗り回し、特に郡部などでは地域の行政・選挙に大きな影響を持っているようなことが多く、あまりいい印象を持たれていなかった。

 その後、東日本大震災があり、仕事が増えたことで、業績が回復しただけでなく、復旧工事などで建設業者が活躍したことで、見る目が変わり「地域に必要な業者」といった認識を持たれるようになった。

 本誌では過去に「復興需要により業績改善につながったか」というテーマで業界リポートを掲載したが、その際、業界関係者は次のようにコメントしていた(2017年6月号「復興需要で〝身軽〟になった建設業界の先行き」より)。

 「震災前、この業界は相当苦しい状況で、内部留保があるところはほとんどなかった。いまは、復旧・復興関連工事で業績が改善され、倒産寸前の状況から持ち直したところもある。ただ、もともとが酷かっただけに、まずは債務をなくすこと、その次の段階として、何とか蓄え(内部留保)をつくるところまで持っていき、復興需要が一段落した後の備えができれば、というのがおおよその状況です」(業界団体の関係者)

 「震災後、公共土木施設の復旧や除染など、多くの仕事をこなす中、ある程度のストック(内部留保)はできた」(県北地方の建設業者)

 「浜通りは津波で被災したほか、原発事故で復旧が後回しになったところもあるため、ほかの地域より、量、期間ともに仕事が見込める。それを踏まえながら、借金返済や内部留保を計画的に進めている」(浜通りの建設業者)

 これらの話から、多くの建設業者の業績改善が図られたのは間違いない。

 県の予算を見ても、震災前に組まれた2011年度当初予算では、公共事業費は1000億円弱だった。それが震災・原発事故を経て、公共事業費は大幅に増加した。県予算で言うと、ピークは2015年度(当初)の約3300億円。それ以降は徐々に減少し、今年度は約2000億円だが、それでも震災前に比べると倍以上だ。

 「大震災以降、建設業界が見直されて仕事も増えました。もっとも、会津地方はそれほど震災復旧・復興事業はありませんでしたが、水害があったり、そのほかにも災害があったりと、そうした(復旧工事の)影響で、業界全体がだいぶ持ち直したのは間違いありません」

 当然、出資する側もビジネスだから、先が見えないところには出資しない。震災前の同業界の状況だったら、出資先を探すという選択肢すらなかっただろう。

 ただ、震災を経て状況が変わり、自身の年齢、会社の今後のこと、いまの経営状況などを考え、このタイミングでM&Aを決めたということだ。なお、グループの中核である三立土建の業績は別表の通り。

三立土建の業績

決算期売上高当期純利益
2019年30億0500万円1億7813万円
2020年35億9200万円2億9424万円
2021年37億5100万円5億2924万円
2022年41億3700万円3億1358万円
2023年35億0700万円3億3270万円
※民間信用調査会社調べ。決算期は5月。

 一方で、もう一つ気になるのは、業界内の仲間たちの反応はどうだったのか。というのは、同業界内では「事業承継で悩んでいる」という話をよく耳にするからだ。

 「親しくしている人に『上手くやったね』と言われることはありました。あとは、山形県の建設業協会の役員に昔からの知り合いがいて、『ちょっと話を聞きたい。何なら、山形県に来て講演をしてもらえないか』と言われました」

 近隣の人ほど聞きたくても聞きにくいということがあるのかもしれないが、業界内で興味を持たれているのは間違いない。

増え続ける「後継者難倒産」

 県では、建設業が持続可能で活力ある産業となれるよう、2017年度に「ふくしま建設業振興プラン」を策定し、建設業の振興に向けた各施策に取り組んできた。2022年度には同プランを改定し、同年度から2030年度までを「第2次」の期間としている。

 その中で、事業承継についての支援策も設けているが、その背景にあるのはやはり後継者不在が問題になっているからにほからならない。

 同プランによると「後継者難倒産は全国で増加しており、業種別では建設業が最多となっています。2020年の建設業における後継者難倒産75件のうち、東北が24件(うち、福島県2件)を占めています」と記されている。

 さらに東京商工リサーチのリポートによると、今年上半期(1~6月)の後継者不在に一因する「後継者難倒産」(負債1000万円以上)は、全国で254件あり、前年同期比20・9%増だった。そんな中でも、業種別では建設業が60件で最多だったという。

 2020年は1年間で75件だったが、今年は上半期だけでそれに迫る60件の後継者難倒産が発生しており、このペースだと年間100件を超える。そのくらい、建設業界では後継者不在が問題になっているということだ。

 こうした中、第2次ふくしま建設業振興プランでは、次のような具体案が示されている。

 ○後継者不足による事業承継等の経営上の課題を抱える建設企業を支援するため、事業承継のノウハウを持つ専門家を派遣。

 ○緊急事態発生時の事業継続、または事業復旧に課題を抱える建設企業を支援するため、事業継続計画(BCP)や事業継続力強化計画の策定ノウハウを持つ専門家を派遣。

 ○建設企業が将来にわたってその活力を維持し、発展していくためには、事業がしっかりと承継されていくことが重要。後継者問題の高まりに伴い、事業承継が円滑に行われる環境整備の必要性が生じるとともに、廃業時の雇用維持や技術継承への影響が懸念されることから、事業承継等に関する現状・課題の把握や支援策に関する検討に産学官が連携して取り組む。

 身内の後継者がいない会社では、同業他社との合併や、身内以外への事業承継などのほか、ファンドの傘下に入ることなど、いろいろな方策が考えられるが、今後はおそらく三立土建グループのような事例も増えてくるのではないか。

 最後に、浅沼会長に「いまは肩の荷が下りたといった感じですか」と尋ねると、次のように答えた。

 「ちょっとだけですね。いまはまだ県建設業協会の役員をやっており、来年は役員改選なので、そこで次の人にバトンタッチできれば、本当の意味でそういう感じになるんでしょうけどね。その後は、時期を見て、会社から退任するという形になると思います」

 浅沼会長の願いは、自身が退任した後も、従業員とその家族の生活が守られ、地域に根ざした形で存続していくことだが、現状はそれが達せられていると言えよう。

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