特定企業に偏る南相馬市のコンサル契約

特定企業に偏る南相馬市のコンサル契約

 南相馬市は常磐自動車道鹿島サービスエリア(SA)周辺で観光施設などの整備を検討している。基本計画の策定等は公募型プロポーザルの結果、東京の企業に委託されたが、実はこの企業、わずか1年数カ月の間に市の業務を他に3件も受託していた。いずれもプロポーザルを経たとはいえ、偏りは否めない。市役所内からは総務省出身の副市長との関連を〝邪推〟する声も漏れる。その副市長は、再任の議決で議員の3分の1から反対された過去がある。

総務省出身の副市長にパワハラ疑惑

鹿島SA周辺開発エリア
鹿島SA周辺開発エリア
好調な運営を見せるセデッテかしま
好調な運営を見せるセデッテかしま

 2月上旬、常磐道鹿島SAを訪ねると、平日にもかかわらず利用者の姿が結構あった。食事を楽しむ高齢夫婦、遊具で遊ぶ小さい子、犬を散歩させる男性。同SAは常磐道を走るドライバーだけでなく、一般道からもアクセスできるため、市民が気軽に立ち寄れる場になっている。お目当ては、同SAに設置された商業施設「セデッテかしま」だ。

 セデッテかしまは市が運営主体となり2015年にオープンしたが、実際の運営は指定管理者の㈱野馬追の里が担っている。食堂、物販、テナント、コミュニティー広場、ボールトランポリン、ドッグランなどで構成される同施設はオープン以来好調で、年間利用者数は53万人と想定していたが、2022年は100万人、2023年には127万人を数えた。

 市鹿島区地域振興課によると、好調の要因は近隣にSAがない立地条件の良さと、野馬追の里の経営努力にあるという。

 この優れた集客力を地域経済に波及させ、市全体の活性化につなげることを目的に、市は鹿島SA周辺の開発を検討している。事業概要によると、同SA周辺の山林、畑など最大20㌶を活用して(実際の開発面積は未定)PPP―PFIなど官民連携により開発する計画で、総事業費は未定。これまでの協議で《地元食材を使った飲食店や入浴、宿泊ができる施設、相双地方の伝統行事「相馬野馬追」の魅力を発信する施設など》(福島民報1月9日付)が想定されている(開発エリアは下の地図参照)。

 事業は3年前から始まり、これまでに事業構想大学院大学と「地方創生及び人材育成の推進に係る連携協定」を締結(2022年3月)、市プロジェクト研究の実施(同年5月~2023年3月)、鹿島SA利用実態調査の実施(2022年11月)、サウンディング型市場調査の実施(2023年3月)、市プロジェクト研究トライアル事業の実施(同年7月)を終えた。同年11月には、周辺開発に係る基本計画策定およびPPP―PFI導入可能性調査業務がUDS㈱(東京都渋谷区、黒田哲二社長)に委託された。

 UDSはホテルや食堂などの施設運営事業を主力に、建築、不動産の企画・設計・コーディネート事業を手掛ける。設立は2009年、資本金は1億円。2023年12月期決算は売上高134億6000万円、当期純利益12億5800万円を計上したが、前年までは5期連続の赤字決算だった。

 UDSは市が2023年10月に募集したプロポーザルに応募し、同11月に開かれた審査会で最優秀提案事業者(契約相手先候補者)に選ばれた。

 選定の過程を記した公文書によると、応募した事業者はUDSを含む4社で、鹿島区役所長を委員長とする審査委員会が600点満点で評価した。同委員会による評価表を見ると、1位のUDSは459点。他の3社は社名が「黒塗り」されていて分からないが、得点は413点、383点、346点だった。

 選定後、市はUDSと2037万円で契約を交わした。履行期間は2023年11月16日から2025年3月31日。

 実は、UDSが市と契約しているのはこの業務だけではない。他に3件の業務を受託している。

 一つは、市地域子育て支援拠点施設基本設計・実施設計業務で、契約額は3619万円。履行期間は2024年9月13日から2025年3月31日。

 二つは、旧小高商業高校の産業支援施設整備に向けた可能性調査業務で、契約額は1072万円。履行期間は2024年10月4日から2025年3月28日。

 三つは、(仮称)こども・子育て賑わい創出エリア公民連携事業構想策定業務で、契約額は1455万円。履行期間は2024年6月4日から2025年3月31日(※)。

※同業務のみ七十七リサーチ&コンサルティングとのJVで受託。

 四つ合わせて契約額は8183万円。これらの業務も全て公募型プロポーザルが行われたが、気になるのは応募者数で、旧小高商業高校の業務はUDSを含む2社。こども・子育て賑わい創出エリアの業務もUDSを含む2社だったが、その後1社が辞退。市地域子育て支援拠点施設の業務に至ってはUDS1社と、競争になっていないのである。

 応募する・しないは事業者の判断だが、特定の企業がわずか1年数カ月の間に4件の業務をほぼ競争無しで受託しているのは、さすがに偏っている。

 鹿島SA周辺の開発事業を担当する鹿島区地域振興課にはUDSの社員が市の職員として勤務している。肩書は副主査で、2024年5月1日付で特定任期付きで採用された。

UDS社員が市職員に

 一見すると違和感を覚えるが、民間の能力を行政に生かすため、企業人を採用するのは珍しいことではない。市総務課人事給与係によると現在13人が勤務しているという。給与は採用時に相手企業と交わす協定に基づいて決められ、市が相手企業に支給し、社員に支払われる。企業勤務時の金額がベースになるようだ。

 鹿島区地域振興課にUDSの社員を採用した経緯を聞くと

 「UDSが鹿島SA周辺の開発事業を受託したため、業務をより円滑に進める目的で、市から『可能なら社員を派遣してもらえないか』と打診し、快諾してもらった」(担当者)

 確かに業務の円滑化は図れるだろうし、採用自体も問題ないのかもしれない。ただ、鹿島区地域振興課は現在、職員4人が病休中。これらの職員が普通に勤務していれば採用する必要はなかったかもしれないし、逆に病休者がいない状態で採用していれば純粋に戦力アップにつながったはず。複数の病休者がいる状態で採用するのは、足りない戦力を補うだけにとどまり、目指す業務の円滑化が達成されない恐れもある。そもそも「健全ではない職場」に迎え入れること自体、失礼な話だ。

 「問題ない採用」のはずが、市役所内からはこんな声も漏れる始末。

 「社員から職員になったということは、市がどんな事業を発注するのか知り得る立場になったことを意味する。もちろん、市役所内の情報は見放題。UDSが鹿島SA周辺の開発事業を受託した後、短期間に3件もの業務を立て続けに受託できたのは、自社の人間が市役所内にいることも関係しているのではないか」

 これまで市の業務に関わったことがない企業が、急に現れて次々と受託すれば、単純に「なぜ?」と思うのは当然だろう。

 UDSに①南相馬市の業務に着目する理由と、鹿島SA周辺開発事業のプロポーザルに応募した経緯、②同市以外に一つの自治体から立て続けに業務を受託したケースはあるのか――の2点を質問すると、広報担当者から以下の返答が届いた。

 ①の質問に対する回答「企画から設計、運営まで自社で手がける点を独自の強みとしながら、これまで地域が豊かになるような場づくりに取り組んできたが、今後は一つの地域内に様々な用途の場を立ち上げ、その地域の中で循環継続していく『面視点』でのまちづくりに取り組むことを目指している。そうした中で弊社のビジョンや実績を見た南相馬市地域振興課より、鹿島SA周辺の開発事業について意見交換できないかと問い合わせがあり、話し合いや現地確認を行う中で市の先進的な取り組みや理念、復興への思いに共感し、復興の次のフェーズに向けた市の取り組みの初期段階から関われる点、SAを中心としながら周辺エリアのまちづくりにも面視点で関わっていける可能性がある点に意義を感じ、プロポーザルに参加してきている」

 ②の質問に対する回答「これまでも自治体のプロポーザルには参加してきており、同一自治体のプロポーザルに参加し、受託したケースもある。自治体名および業務内容についてはウェブ検索でも出てくると思うが、具体的な言及は控えたい」

 四つの業務を受託したのは「面視点」でまちづくりに取り組むことを意識した結果らしい。また、鹿島SAの事業を受託したのは、市からの打診がきっかけだったという。自治体の業務実績は滋賀県、千葉県習志野市、都内などが確認できたが、南相馬市のような連続での受託は見つからなかった。

3分の1が再任に反対

 「UDSと常木孝浩副市長との関連を指摘する人もいる」

 と話すのは市役所関係者だ。

 常木氏は2020年4月に総務省の官僚から南相馬市に副市長として出向し、現在2期目。

 UDSとの関連とはどういう意味か。同社の親会社は野村不動産ホールディングスだが、内閣府発表の資料を見ると、野村グループには総務官僚が定期的に再就職している。そのつながりから、UDSが総務官僚の常木氏がいる南相馬市の業務を知るきっかけになったのではないか、という見方だ。

 確かに関連と言えばそうかもしれないが、野村不動産ホールディングスがUDSの大株主になったのは2024年4月で、1年も経っていない。UDSが鹿島SA周辺開発事業を受託したのは2023年11月なので、当時は野村グループとは無関係だった。つまり、同グループに再就職した総務官僚と常木副市長の関連は〝邪推〟の域を出ないことになる。

 念のため、常木副市長に総務官僚を介したUDSとの関連、同社が短期間に複数の事業を受託していること、同社社員の派遣について尋ねると次のような答えが返ってきた。

 「私が野村不動産と何か良からぬ関係があるのではとの質問ですが、ありません。民間人材の活用(編集部注・UDS社員の派遣)については、市が抱える課題により効果的に対応できると考え、派遣いただいている。一部は相互交流として市からも職員を派遣している」

 「プロポーザルや契約については適正に行われていると考えており、派遣元企業とは協定を結び、契約の締結など決定行為に関わる業務に従事させない、秘密情報を第三者に漏洩してはならない、としている。また、他課の入札等に関する非公表情報にはアクセスできない。複数業務の受託については、プロポーザルの結果や1社しか応募がなかったなどの結果と考えている。コンサルティングやPR、調査業務など、結果として1社が複数の業務を受託することはこれまでにもあった」

 やましいことは一切ない、と。

 丁寧な回答を寄せていただいたことには素直に感謝したいが、市役所内から〝邪推〟されてしまうのはそれなりの理由がある。

 前市長の櫻井勝延議員は2024年3月定例会の一般質問で、職員の病気休暇・休職・早期退職について尋ねている。執行部の答弁は「2023年度(2月末時点)における30日以上の病気休暇者は46人(うち精神疾患は39人)、病気休職者は17人(同16人)、早期退職者は15人」。精神疾患の多さが、職場環境の劣悪ぶりをうかがわせる。

 こうした状況を踏まえ、櫻井議員は次のように指摘している。

 「職員が病むことなく、気持ち良く仕事ができる環境が保障されればいいが、市役所内を歩くと職員から常木副市長の話をよくされる」

 「常木副市長からいろいろなオーダーが来る。その時、なかなかオーダーに応えられないくらいのプレッシャーが職員にはあるんだなと私は感じた。常木副市長にはもうちょっと積極的に、職員を理解するための意思疎通や対話が必要なのではないかと思います」

 オブラートに包んだ言い方をしているが、要するに、職員から「常木副市長のパワハラ」を相談された櫻井議員は、職員との接し方を改めるよう本人に直接問い質したわけ。

 このことが影響してか、同定例会最終日に少々の波乱が起きる。常木副市長は2024年3月31日で任期満了となるため、門馬和夫市長が再任について同意を求める議案を提出したところ、賛成14、反対7と3分の1の議員が「常木氏は副市長に相応しくない」と意思表示したのだ。

 被災自治体なら、本来は国とのパイプを維持したい心理が働く。にもかかわらず、これだけの人数が再任に反対したのは、議員の目にも常木氏の日頃の言動が問題アリと映っていた表れではないか。

パワハラ疑惑を全面否定

 常木副市長には、3分の1の議員が再任に反対したこととパワハラ疑惑についても尋ねた。

 「総務省からの出向であっても不同意の場合もある。議員それぞれに思いや判断があるのだと思うが、7名の方は私の取り組みが不十分と評価したわけで、期待に応えられず申し訳なく感じている」

 「私は同じ職場で働く者に、職務上の地位や職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為をしているとは考えていない。なお2024年3月議会ではパワハラの疑いで不同意ということではなく、職員の精神疾患や病気休暇・休職の原因が私との関係性において多いという指摘だった。職員のテンションが非常に下がっており、これ以上テンションが下がらないためにも不同意とするとのご意見だったと承知している」

 「総務課によると、2018年1月から2024年3月までに30日以上の病気休暇、あるいは病気休職を取得した職員について全件確認したとのこと。そのうち職場での対人関係、もしくは業務内容を原因としたものが33人いたとのことだが、私の名前や私からのプレッシャーは出なかった。私は総務課がこのような調査を行っていたこと自体知らなかったし、気が付くこともなかった」

 市は当時、早稲田大学の教授に依頼し、ハラスメントに関する調査を行ったが、調査対象は「部長以下」で特別職は含まれなかった。市役所内からは「これでは意味がない」との声が聞かれたため、この点も常木副市長に尋ねたが

 「私は回答者になっていないが、部長級に対するアンケートの設問における『上司』とは当然私も含まれる。また、課長級、その他の職員へのアンケートにおける『上司』には私も入っている」

 パワハラ疑惑を全面否定し、再任に反対されたことは自分の取り組みが評価されなかった結果と答えた常木副市長。職員がここに載せた回答を見てどう思うか興味深いが、今後の職員に対する言動は厳しく注視されることを肝に銘じるべきだ。

 UDSが、時期が重なるように複数の業務を受託し、それによってどんなまちづくりが展開されていくのか。公募型プロポーザルを経てはいるが、現実は特定企業との連携の成果に注目が集まる。

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