77歳教師【相楽新之助さん】「これからも教壇に立ち続けたい」

77歳教師【相楽新之助さん】「これからも教壇に立ち続けたい」

 教員不足が全国的に深刻になっており、教員免許を持つ教員OBが教育現場に戻るケースが増えている。福島市内でも70歳を超えても教壇に立ち続ける男性がいる。

小中学校の教員不足率は0・35%

 教育委員会が定める教員の配当数を満たせない学校が増えつつある。文部科学省が実施した調査によると、2021年度の始業式時点での小中学校の教員不足率は0・35%。全国で2065人不足している。別の調査では、今年度開始時点で「教員不足の状況が1年前より悪化した」と回答した都道府県・政令指定都市教育教員会は43%に上った。

 背景には団塊世代の教員が大量退職したことに加え、特別支援学級増加への対応、産休・育休取得者の増加、臨時的任用教員のなり手が減少していることなどが挙げられる。教員の多忙かつ長時間の労働環境が一般的に知られるようになり、教員を目指す人が減っている事情もある。

 昨年9月5日付の福島民報によると、県教委調査の結果、県内の学校(小・中・高・特別支援学校)約130校で約140人の教員が不足していた。本県の場合、前述した事情に加え、少人数教育、震災・原発事故からの復興推進に取り組むための「加配」で定数が増え、欠員が膨らんでいることも影響している。

 県教委では2~3年以内の定年退職者を中心に職場復帰を呼び掛けており、教員免許を持っている人にもさまざまなルートをたどって声がかけられている。そうした中、60代、70代になっても教壇に立つ教員が増えているが、パソコン対応や体力面の問題もあって簡単ではないという話が新聞などで報じられている。

 「私の場合、目の前の生徒のためになっていると実感できれば、年齢を忘れてのめりこんでしまうので、年齢を感じることはないですね」

 こう話すのは、70歳を超えた後も現役教員として教壇に立ち続けてきた相楽新之助さんだ。

再任用で中学校教員に

 1946(昭和21)年5月16日生まれの77歳。福島高、福島大経済学部卒。川俣高、福島北高、矢吹高、安達高、福島東高、福島商業高で英語教員として教鞭をとり、定年退職後も再任用されて3年間勤めた。

 その後は、福島東稜高で指導を継続。その一方で飯舘村教委から声がかかり、学力向上を目指した村学力向上アドバイザーに就任。仮設校舎(当時)で授業と若手教師へのアドバイスを担当した。

 それらがひと段落すると、今度は取得していた中学校教諭の免許を生かし、福島市の平野中、福島三中、西信中、北信中で教員を務めた。

 「小学校中学年では『外国語活動』として楽しく英語に触れるが、高学年から教科として『外国語』が始まると急に文法などが出てきて難易度が高まり、授業についていけなくなりがち。その結果、中学校に入る頃には英語嫌いになるケースが少なくないのです。そのため、英字新聞を活用するなど、教科書にとらわれない英語関連の話題を出して、興味を持ってもらうように心がけてきました」

 もともとは商業科の教員だった相楽さん。転機となったのは、福大生時代に献血制度制定を呼び掛ける運動に携わったことだった。その運動内容について、県の赤十字大会でスピーチしたところ、世界中の若者が集う国際会議に日本代表として出席することになった。片言の英語で意思疎通を図る中で、各国の代表らは世界平和や自国の将来を真剣に考えていることを知った。

 刺激的な体験をして居ても立っても居られなくなった。すでに大学を卒業し、川俣高の教員になっていたが、英語の教員免許を取って子どもたちに教えたいと考えた。同校に在職しながら福島大経済学部の専攻科や教育学部に通い直し、必要な条件を満たし、英語の高等学校教諭1級(当時)の免許を手にした。その後、生徒への指導のために数学、社会の免許も取得したという。

 これまでの教員生活で印象に残っているエピソードを語ってもらったら止まらなくなった。

 安達高で女子生徒3人から「米国に留学したい」と相談され、準備を手伝ってそれぞれ別の公立高校に送り出した。

 英語教員向けに国が実施する「中央研修」に参加後、出版社から声がかかって英和辞典の編集に携わり、英語検定試験の面接官を務めた。

 福島商業高の国際経済科(当時)の生徒に東京商工会議所が主催した英語の会計の検定試験を指導して受験させたところ、14人が合格した。

 人とのつながりから刑務所でボランティア指導を行うようになった。

 その行動力もさることながら、記憶力の良さに圧倒されるばかり。

自由度が低い教育現場

 いま教育現場にいて感じることを尋ねると、「自由度が低くなっている」ことだという。

 「授業に集中したいのに、やることが多すぎてがんじがらめで、教材研究をやったりする余裕は全くありません。高校に勤めていたときとは大きく異なると感じました」

 どんな授業をやるのか、事前に「指導案」の提出を求められる。学力向上会議や生徒指導委員会といった各種会議も入り、県から降ってくる仕事もある。

 相楽さんによると、教育現場では、1年間の目標を立て年度末に校長・教頭が4段階(S・A・B・C)で評価する「目標管理制度」が導入されている。時間が足りず学級運営に手が回らなくなり、学級崩壊などを引き起こした教員の評価は低くなるとみられる。評価が低いと次年度の給料にも影響するという。

 こうした中で、自由な発想で指導を行う教員が減っている、と。

 「新学習指導要領で求められている『指導と評価の一体化』(子どもへの評価を学習改善や指導改善にうまくつなげる取り組み)への対応も教員を悩ませる一因となっている。仕事がひと段落して帰宅できるのは19時過ぎ。朝は7時ごろから出勤しているので12時間勤務です。こうした現状を見直さないと、教員志望者も増えないのではないでしょうか」

 県教委では「教職員多忙化解消アクションプランⅡ」を策定し、業務改善、部活動・校務の見直しなどに取り組んでいるが、現場の実感としてはまだまだ厳しいということになる。こうした声を受け、さらなる抜本的改革に取り組む必要があろう。

 教育関係者は「70代の教員がデジタル技術を用いた授業を行ったり、最新受験テクニックを教えることができるのか。生徒も保護者も不安を抱くだろう」と疑問を呈するが、相楽さんは意に介さずこう話す。

 「どの生徒も知りたいという欲求を持っていて、うまく〝鉱脈〟に突き当たると、目を輝かせて話を聞き始める。まだまだ教壇に立ち続けたい。現在は臨時的任用教員として登録しているわけではありませんが、今度、福島市に公立の夜間中学校ができると聞いているので、機会があればそちらでもぜひ指導してみたいと考えています」

 教育への情熱はまだまだ消えることがなさそうだ。

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