【国見町】企業寄付優遇制度の認定取り消し

【国見町】企業寄付優遇制度の認定取り消し

 任期満了に伴う国見町長選が11月10日、投開票され、元県職員の新人村上利通氏(60)が2515票を獲得し、再選を目指した現職引地真氏(64)=1期=、元町議の新人松浦和子氏(75)を抑え初当選した。引地氏は2031票、松浦氏は577票を獲得した。

「課税逃れ」に待ち受ける税務調査

 町長選は、中断した高規格救急車の研究開発事業の是非が最大の争点だった。事業には企業から自治体への寄付優遇制度「企業版ふるさと納税」が使われ、寄付した企業グループと受注した企業が裏でつながっている複雑な構図が隠れていた。この構図が制度上禁じられている寄付に対する代償に当たるのではないかと問題視された。だが、町議会の百条委員会や町執行部設置の第三者委員会による検証では「不透明な契約」の認定に留まり、町が制度に違反したかどうかは判然としなかった。

 町が企業の口車に乗って制度を歪めたという本質的な問題は構図を理解するのが難しく、多くの町民にとっては重要ではなかった。村上氏はあくまで「混乱した町政の刷新」を訴えたが、得票率は48・5%と過半数に届かなかった。対する引地氏は「反省と町政の継続」を訴え、得票率39・1%と底堅い支持を得て4年後の再起に可能性を残した。

 だが、ここに来て「お上からのお達し」が届き、ようやく多くの町民が、救急車事業問題が全国を揺るがす重大事であると理解した。問題の事業に関し企業版ふるさと納税を所管する内閣府が、禁じられている「寄付の代償としての便宜供与があった」と判断し、事業を盛り込んだ町の地域再生計画の認定を取り消したのだ。前代未聞の措置で、今後、企業が町に寄付をしても税額控除が受けられず、寄付を呼び込みにくくなる。

 内閣府が認定取り消しを公示した11月22日は、町長選で落選した引地氏が町長の任期満了を迎える4日前で、政府・与党が来年度の税制改正を議論し始めた時期。町長選にも新町長の任期中にも影響を与えないよう、内閣府は公示のタイミングを伺っていたのだろう。

 企業版ふるさと納税制度は、2024年度で一区切りを迎え、来年度以降の継続を視野に政府・与党が検討している。ふるさと納税は一般版と企業版ともに菅義偉元首相が推し進め、「地方創生」の成功例と位置付けられている。菅氏は与党内で影響力を保持し、石破茂首相を誕生させたキングメーカーの1人。制度は継続する方向に力が働く。内閣府が「制度に問題はない。悪いのは国見町」と結論付け、町に厳しい措置を取るのは必至だった。

 ふるさと納税導入を巡り、菅元首相に徹底抗戦したという元総務省自治税務局長の平嶋彰英氏に国見町の件についてコメントを求めると、こんなメールが届いた。

 《ふるさと納税が返礼品で話題を呼んでいる状況から考えて、企業が見返りのない寄付をするということは通常考えられません(収益に寄与しない寄付などは株主代表訴訟で訴えられる恐れすらある)。国見町のような事例が将来出ることは想定でき、税を歪めるような制度は慎重にすべきと懸念していました。「ふるさと納税に返礼品は重要」、「企業版ふるさと納税も、あまり慎重にならずどんどんやれ」という菅元首相の安易な姿勢が招いた当然の帰結のように感じます。国見町の件を耳にした時には「やはりこういうことが起きたか。過剰な税のメリットは、もっと慎重であるべきなのに」と感じました》

 企業版ふるさと納税を受ける経過を上図に示した。自治体が地域再生計画を作成し、国から認定を受けた後は、事業を企画立案して寄付を企業に働きかけることになっている。

ふるさと納税に欠陥

企業版ふるさと納税の活用プロセス

 だが、知名度のない自治体がただ募集を掛けても寄付企業が集まるはずがない。事実、問題の救急車事業もワンテーブル社が太田久雄町長時代にできた町とのつながりを足掛かりに引地町長(当時)に持ち掛けた。

 実質、同社が企画立案を主導し、事業を受注した。内閣府は、事業の企画立案には、「企業が寄付活用事業の企画立案段階から参画する場合もある」と認めているが、企業によっては無知な自治体に付けこみ、税額控除と企業間の資金還流ありきで、自治体に不向きで必要性に乏しい事業を立案する可能性がある。

 さらに内閣府は、企業側のメリットとして寄付金の税額控除のほかに「新たなパートナーシップの構築の機会が創出される」ことを挙げる。この時点で寄付に対する便宜供与を暗に認めているように受け取れる。

 公正なプロセスを経れば、自治体と寄付した企業は契約を結んでも便宜供与に当たらないとするが、国見町の場合はグループ会社間の巧妙な資金還流で利害関係の全体像を把握するのが困難だった。事業者にワンテーブルを選んだ「公募型プロポーザル」は、公募期間が短く、他の応募者を事実上排除する仕様書を作成していたため、「公正なプロセス」を演出する装置に過ぎなかった。

 企業版ふるさと納税は減税制度だ。認定取り消しを受け、今後は企業側の「課税逃れ」を調査しようと国税庁が動くことになるだろう。

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