官製談合防止法違反と収賄罪などで有罪判決を受けた塩田金次郎・前石川町長(77)が判決確定後に心境を明かした地元財界誌の記事が話題だ。町内の土木建築業・志賀建設から贈られ、賄賂と認定された42万円相当のビールについて「酒屋が勝手に置いていった」と話すが、本誌が酒販店に確認したところ「勝手に置くわけがない」と否定。法廷では志賀建設にビールを催促したことを認めたが、誌面では「催促したことはない」と食い違いが生じている。町民からは「何を目的に雑誌で釈明したか真意が分からない。恥の上塗りなので大人しくしていてほしい」とため息が漏れる。
「恥の上塗りだから大人しくして」と町民


石川町内で話題を呼んでいるのは月刊誌『財界ふくしま』2月号の記事「石川町・官製談合事件の顛末 前町長逮捕は59市町村長への〝警鐘〟だった⁉」。昨年11月18日に地裁郡山支部で開かれた塩田金次郎・前石川町長の判決公判をリポートし、塩田氏にインタビューしている。
塩田氏は懲役2年6月(執行猶予5年)、追徴金約42万円の有罪判決が確定した。貴重な独占インタビューだが、問題はその内容で、罪は反省しつつも「賄賂だとは思わなかった」「他の首長への見せしめ」と主張し、町民の多くが「本当に反省しているのか」と呆れ返っている。
以下、本誌が傍聴した裁判で明らかにされた証拠・証言と照らし合わせて塩田氏の釈明を吟味する。裁判では、塩田氏は事実関係を争わず、取り調べの証拠が採用され、裁判所もそれを認定した。《》内は財界ふくしま2月号からの引用。
《――ただ一方で、今回の逮捕に至った金額が4年間で缶ビールやお茶など42万円相当だったことについては、町民の間から「本当にお金目的だったのか?」との声もある
塩田 お金は一切もらっていない。(落札額から)相応の金額をもらったというのであれば賄賂になるが、そういうことは一切なく意識も全くなかった。缶ビールをもらったのは新春の集いや陣中見舞い、当選のお祝い、それに盆暮れです。(志賀建設から頼まれた)酒屋が缶ビールを4、5箱置いていくわけです。それも、私が留守の時に自分の玄関脇や会社に置いていくわけですよ。それを4年間で合算すると、その金額(42万円)になるわけです。
相応の金を受け取れば明らかに「見返り」になるが、私自身はそういう(賄賂)意識は全くなかった》
見返りかどうか認識しなかったのは、本人の内心の問題だが、捜査機関は甘くはなく、外形的に罪に問える状況であれば容赦ない。
塩田氏は財界誌で「缶ビールをもらったのは、新春の集いや陣中見舞い、当選祝い、盆暮れ」と話しているが、取り調べで志賀建設の総務部長は、「志賀建設では中元や歳暮を一括注文し、塩田氏個人にも贈っていたが、それとは別に中元・歳暮を贈る慣習はない」と供述している。
贈収賄に問われたビールは、中元や歳暮とは別だったということだ。
《――4年間で受け取ったのは缶ビールやお茶42万円だけだったと。
塩田 お金は一切、受け取っていない。缶ビールにしても、私から「持ってこい」などと催促したことは一度もない。当然、「設計額を教えるから缶ビールを持ってこい」などと言うはずがない。1度に40万円以上のビールを受け取れば「アウト」だが、そうではなく4年間で40数万円です。留守の時に(酒屋が)勝手に置いていくのですよ》
塩田氏は「缶ビールを催促していない」と言うが、志賀建設は「塩田氏の要求に応じた」という認識だ。同社役員(当時)の添田保雄氏(63)は、2019年6月に当時町長だった塩田氏に非公開の設計金額を教えるよう依頼し、情報を得た。その後、2020年2月に塩田氏から「ビール5ケースを後援会の集いに差し入れしてほしい」と言われたという。「賄賂に当たるのではないか」と思った添田氏が顧問(当時)の関根徳夫氏(70)に相談すると、添田氏は「金額聞いてるからしょうがないべ。出しておけ」と答え、同社は交際費として支出した。
添田氏は自身が贈賄罪などに問われた裁判で、検察官から「塩田氏からビールの提供を依頼されたのか」と聞かれ、「言われた。塩田町長とは面識があり断れなかった。いつか世話になると思った」と答えた。「塩田氏からビールは設計金額を教えた見返りという話はあったか」という問いには「暗黙の了解。そういう意味を含めて贈っていた」とも言った。
塩田氏は「設計額を教えるから缶ビールを持ってこい」とは露骨に言っていないかもしれないが、設計額を教えた後に「ビールを差し入れしてほしい」と言い、教えてもらった手前、志賀建設が要求に応じたのが実態だ。法廷で、塩田氏は「協賛」という認識のもと、後援会の会合や塩田工業の社員旅行で消費したことを認めている。
「ビールを勝手に置いていくわけがない」
財界誌は続ける。
《――酒屋が勝手に置いていったのを使ってしまったと?
塩田 そうです。返せば良かったのかもしれないが、忙しさもあってそのままにしてしまった。でも、もらったのは事実だから仕方がない。(酒屋が)置いていった缶ビールは、私は家族が2人ですから自分のところで飲むわけではない。返すわけにもいかないので会社の行事や後援会の集まりなどに使っていた。
4年間で40万円ほどですが、「もらっただろう」と言われれば確かに「もらいました」と。「それはダメなんだ」と言われれば、その通りなので仕方がない》
裁判では、志賀建設は塩田氏の依頼を受けてビールなどを塩田氏の自宅や会合の会場に配送するよう町内の酒販店2軒やギフト店に依頼し、費用は会社の交際費として支出していたことが明らかになった。塩田氏が言うように「酒屋が勝手に置いていった」ならば、塩田氏があずかり知らないところで同社と店舗が契約し、塩田氏の許可を得ずに置いていったことになる。
本誌はくだんの酒販店を訪ね、財界誌の記事を示して、塩田氏の自宅に「勝手に置いていった」のは本当かどうか確認した。
1軒目の酒販店は「今は忙しい」「何のことか分からない」と答えた。もう1軒の酒販店は「前町長の自宅に勝手に置いていくなんてことはない」と否定。「前町長がそんなことを言っているのか」と憮然とした。
塩田氏が述べるように「酒屋が勝手に置いていった」のが仮に事実だとしても、塩田氏は意図が分からない贈り物を不審に思わず、自社や後援会で消費してしまう人物、という評価は残る。
《――取り調べでは、どんなことを言われたのか。
塩田 詳しくは言えないが、「見せしめ」だと。町村長への「みせしめ、警鐘」だと。受け取ったことは悪いことで、(設計額を)教えてしまったのは事実なので反省している》
現職町長の逮捕に「見せしめの効果」が相当あったのは間違いないだろう。
《――設計額を教えた回数は?
塩田 (志賀建設に)3度だけです。それ以外にも教えたのではないかと(取り調べで)言われたが、一切、教えていない。ほかの業者にも一切、教えていないですよ》
これは誤解を与える説明だ。裁判で検察側は「少なくとも7回、塩田氏は志賀建設に設計金額を教示した」と入札日を特定して示した。塩田氏側はこの事実を争わず、反論していない。「塩田氏が設計額を教えたと警察・検察が特定した回数のうち、刑事上の罪に問われたのは3回」と答えるのが事実に即している。
設計金額漏洩は3回ではなく7回
裁判で塩田氏が志賀建設の添田氏に設計金額を教えたと認定されたのは次の日付に行われた入札。カッコ内はその日行われた入札件数。
①2019年6月27日(2件)
②2020年6月29日(4件)
③2021年10月25日(3件)
④2022年7月28日(1件)
⑤2022年9月26日(3件)
⑥2022年10月31日(2件)
⑦2023年2月27日(1件)
このうち、②、⑤、⑦の日に志賀建設が落札した工事3件が罪に問われた。
塩田氏は次の質問に答え、財界誌のインタビューは終わった。
《――缶ビール42万円で逮捕・立件されたわけだが、捜査は相当、徹底して行われたという噂だったが?
塩田 そうです。先ほども話したが、「設計額を教えるから缶ビールを持ってこい」という首長などいない。でも、結果として缶ビールを受け取ったのは事実です。私自身、脇が甘かった。緩みもあったと思います。温情に駆られて話してはいけないことを話してしまった。何があっても言ってはいけないことだった。進んでやったことではないのですが深く反省しています》
塩田氏は、裁判での供述と財界誌での発言に食い違いが生じている。塩田氏が言う「酒屋が勝手に置いていった」とはどのような意味なのか判然としない。志賀建設と酒販店が塩田氏の了解を得ずビールを届けたことを意味するのか、それとも、単に塩田氏が留守中に置いていったことを指しているのか。
真意を確かめるため、1月中旬に塩田氏の自宅を訪ねると不在だった。仕方なく、用意していた質問状を自宅ポストに投函した。質問は3点。
①裁判では、志賀建設の取締役が設計金額を教えてからしばらく後に、塩田氏からビール提供を頼まれたと証言しています。塩田氏は「設計額を教えるから缶ビールを持ってこい」とは言っていないとのことですが、設計金額を志賀建設に教えてしばらくしてから、「缶ビールを持ってきてほしい」と志賀建設に頼んだのは事実か。
②塩田氏は、酒屋が勝手に自宅に置いたビールを志賀建設にも酒屋にも問い合わせず塩田工業や後援会で消費したということでよいか。
③勝手に置かれたビールを不審に思わなかったのはなぜか。
念のため塩田氏が取締役を務める塩田工業㈱も訪ね、従業員に質問状を託した。1週間の回答期限を設けたが、期限までに返答はなかった。
町内で財界誌記事の反響を聞いた。ある経営者は「塩田氏は何がしたかったのか分からない」と首をかしげる。
「恥の上塗りだ。『見せしめだった』と言っているが、それならば他の市町村長も塩田氏と同じように設計金額を教えてビールをもらっているのか。副町長を辞め、初当選した首藤剛太郎町長は町政の信頼回復に努めている最中だが、塩田氏が不用意に発言することでボロが出て、また汚職事件が注目を浴びている。これ以上余計なことを言って町の評判を貶めないでほしい」
ただ、塩田氏本人に直接話を聞くことは意義があり、本誌スタッフは財界誌記事を興味深く読んだ。ただし、石川郡内の事情通は、
「今回記事を書いた記者と塩田氏は学法石川高校卒の後輩と先輩の関係。そのつながりからインタビューに漕ぎつけたのだろうが、町民からしたら後味が悪かった。塩田氏を取り調べた警察・検察もおもしろくないだろう。余計な刺激を与えなければいいが」
と塩田氏の今後と町の将来を案じる。
塩田氏「月刊雑誌はオーバーに書く」
2024年3月、塩田氏が町長として出席した最後の定例会の一般質問で、塩田氏は角田保寿議員から本誌同年2月号記事「石川郡5町村長の『表と裏』の関係性」に絡めて、石川郡内の町村長との関係性について問われた。
角田議員 これは石川郡の心配だと私は思うんです。私個人だけが心配しているわけではないんです。なぜかといいますと、私も、あの月刊誌であります政経東北と財界ふくしま、これは興味がありますので、興味があるときは買って読んでいます。それで、たまたま2月の月刊誌の政経東北のほうに、やはり私と同じような、この質問しようと同じようなことが書いてあったもんですから、これはちょっとやはり町長個人的にもちょっと聞いてみたいなと思ったもんで今回質問いたしました。
政経東北の内容をちょっと読ませていただきますと、役場、これは郡内の役場の関係者も話しているというようなことが書いてあるんです。そして、それ以外でも、石川郡の役場内、石川郡の議員も、やはり5首長が、まだ連携がいろいろとあってよくないんじゃないのという話は私も聞いています。ですから、私も実際にこのような、先ほどお話ししましたところに出向いたりしているときに、やはり塩田金次郎町長は何か自分で孤立をしているように私は見えるんですけれども、それは私が個人的に思っているだけですか。塩田町長、ひとつお願いします。
塩田町長 月刊雑誌というのはオーバーに書きますから、月刊雑誌が町村会の会議に一回も来たことがありませんし、仄聞して書くのはちょっと私も不公平かなと思いますが、町村会議でいろいろありますけれども、本当に協力して、とにかく各町村、5町村ありますけれども、何かけんか腰でしゃべったこともありませんし、そういう違和感は全くありません。お互いに協力して、そして石川5町村まとまって頑張っていこうということで、これは元旦早々から、出先機関から県、みんな回っておりますし、責められるようなことは私はないと思うんです。それではいい仕事はできませんから。ただ、週刊誌というのは面白おかしく書くのがやっぱり仕事ですから、そういうことを今連携して、協力して、協調してしっかりやっておりますので、御心配はないと思っておりますのでよろしくお願いします。
塩田氏の認識は「月刊雑誌というのはオーバーに書く」だそうだ。財界誌の釈明記事もオーバーだったのだろうか。