南相馬市立総合病院(杉本浩一院長)で患者が死亡した事案をめぐり、遺族が「医療ミスだ」と訴えており、現在も係争が続いている。そうした中、写真週刊誌『FRIDAY(フライデー)』がこの問題を記事化し、全国的に注目を集めた。
裁判所に提出された手術中動画の中身

事の発端は2021年3月、南相馬市立総合病院で手術を受けた女性患者・Aさん(享年68)が、術後に死亡したことだ。手術はカテーテルで脳の動脈瘤内にコイルを詰め破裂を防ぐ「コイル塞栓術」で、「30分程度で終わる簡単な手術」と説明されていた。だが、執刀した脳神経外科主任科長の医師がカテーテルで血管を破ってしまい、くも膜下出血が発生。容体は回復せず、そのまま帰らぬ人となった。
夫のBさん(78)ら遺族は「医療ミスがあったのではないか」と主張し、2024年12月、同病院院長の及川友好氏(当時)と病院開設者である南相馬市(門馬和夫市長)を相手取って、約1億1700万円の損害賠償請求訴訟を提起した。

訴状では、▽手術中に誤って中大脳動脈に穴を開け、くも膜下出血を生じさせたが出血に気付くのが遅れた点、▽麻酔医不在により開頭手術への移行が2時間近く遅れたため、脳の一部を切り取らざるを得なくなった点、▽そもそもAさんの脳動脈瘤は手術のリスクが高く、本来であれば経過観察するのが一般的だった点――などを指摘している。
Bさんは、手術前のリスク説明が不十分だったうえ、術後の経過や処置内容についても納得できる説明がなされていないと主張している。
特に主治医だった及川氏は医療事故が発生した直後、「いやー旦那さん、ごめんねえ。くも膜下出血になっちゃった」と軽い感じで声をかけるなど不誠実な対応に終始。Aさんが亡くなった後、処置室で看護師が遺体を拭いていると、皮膚や肉がボロボロ崩れ落ちた。安置所で遺族が合掌していたところ、及川氏は「医療事故でした」と謝罪したという。
こうした経緯を踏まえ、Bさんは弁護士を通じて法的責任の追及に踏み切った。一方の病院側は「術中の出血は不慮の事故であり、対応は適切」との立場を示しており、「医療事故」の発言も否定するなど、双方の主張は真っ向から対立している。
一連の経緯は本誌2025年2月号でリポートし、県内では地元紙が後追いで短く報じていたが、『FRIDAY』2026年3月27日・4月3日合併号で「遺族が怒りの告発 『南相馬市立総合病院を私は許さない』」として大きく取り上げ、ネット転載も相まって反響が広まった。執筆者はノンフィクションライターの甚野博則氏。
フライデー記事では本誌が報じてきたBさんの主張やこれまでの経緯を紹介していたほか、病院側の主張の疑問点にも踏み込んでいた。
▽未破裂脳動脈瘤に関するガイドラインによると、Aさんのケースにおける手術中の破裂や出血性合併症のリスクは5%と、高危険群に位置していた。「簡単な手術」ではなかった可能性がある。
▽他の医師によると、Aさんのケースの動脈瘤の年間破裂率は多く見積もっても0・9%で、手術の必要性は限りなく低いため、「不要かつ危険性の高い手術」との見解だった。
現在、審理はどのような状況なのか。Bさんによると直近の準備書面では「手術途中で異変に気付き、状況確認して、カテーテル挿入を中止できなかったのか」がポイントになっているという。病院側は「手術中、強い抵抗を感じたり血管壁を押し出してしまいそうな透視画像は見られなかった」として、「カテーテルの挿入を中止したり、あらためて挿入し直すなどして術式を変更する必要はなかった」と主張している。
そこで焦点となっているのが、病院側が証拠として提出した、手術中のやり取りを記録した動画だ。動画には、医師らが異変を感じながらも、予定通り手術を続行したと推測されるやり取りが収められていた。
「執刀医が『えらい、ガビガビあたりながら』、『引っかかっていますね』と言いながらカテーテルを進め、その後『何か刺さっている感じ』と話している様子が映っていました。違和感を抱いた時点で出血の有無などを確認し、手術を続行するか慎重に判断すればよかったのに、そのまま進めてしまったのではないでしょうか」(Bさん)
同病院ではBさんの訴えをどのように受け止めているのか。裁判の進捗状況と主張を問い合わせたところ、次のようなコメントを寄せた。
《まず、亡くなられた患者様とそのご遺族の皆様に対し、心からお悔やみを申し上げます。
本件については、既に裁判審理が開始されており、次回の裁判期日は5月下旬に予定されております。
本事案につきましては、裁判の場で法的手続きを通じて誠実に対応しているところです。そのため、本件の診療内容等に関する具体的な事項につきましては、回答を控えさせていただきますことを、ご理解賜りますようお願い申し上げます。
なお、当院といたしましては、裁判の手続きにおいて必要な主張および立証を行い、ご遺族の方々をはじめ関係される皆様に対して誠意をもって対応するとともに、適切なご理解をいただけるよう引き続き努めてまいります》
複数のトラブルが表面化
同病院では、この件以外にも医療対応をめぐる訴訟やトラブルが表面化している。昨年11月には、40代男性が2022年10月に右手首の治療を受けた際、「脱臼していたことを見落とされ、重大な後遺症が残った」として、病院開設者である南相馬市と門馬市長を相手取り、福島地裁相馬支部に損害賠償請求訴訟を提起。入退院慰謝料や後遺症逸失利益など約3670万円の支払いを求めている(本誌昨年12月号参照)。
今年2月25日には、妊婦にとって禁忌薬とされる降圧薬・アジルサルタンを誤投与していたとして、慰謝料など86万8830円を支払ったことを発表した。2024年2月から1カ月間処方された後、病院側がミスに気付いて服用をストップしたものの、生まれた子に一時的な腎機能障害が発生して入院期間が延長したため、誤投与との関連性があると判断した。生まれた子の腎機能障害はその後正常化している。
同病院は以前から市民の信頼度が低く、「重い病気のときは市外の医療機関で治療してもらう」などと囁かれていた。本誌2019年4月号「瓦解する南相馬市『二つの公立病院』」という記事では、看護師の以下の発言を紹介している。
「ここの医師たちはスキルがないので簡単な手術も失敗するリスクがある。及川院長に『厳しい手術は避けるべきだ』と言っても『医師がやりたいんだから仕方ない』と聞く耳を持たない」
病院経営をめぐっても懸念の声が上がっている。同病院では病床数を230床から300床へ増やす計画を立てており、本誌でも門馬市長が実現に自信を見せていたが、コロナ禍などもあり見直しを余儀なくされた。最新の決算報告は次頁のグラフの通り。2024年度の純損益は8億5507万円の赤字で、病院側は「賃上げや物価高騰」を理由に挙げている。赤字になるたびに市の一般会計から穴埋め分を拠出してきた経緯がある。

こうした中、同病院は2027年度から地方公営企業法の全部適用への移行を目指している。
地方公営企業法は、水道や病院など自治体の公営企業について、民間企業に近い形で運営するための法律。多くの公立病院は「一部適用」だが、より独立性が高い「全部適用」への移行が進んでいる。2024年度末現在、全国の公立病院844病院のうち、44・8%(378病院)が全部適用とのこと。
国は公立病院向けに策定した経営強化ガイドラインで、病院規模や地域の実情を踏まえて経営形態の在り方を検討することが求められるとしており、同病院も「南相馬市立病院経営強化プラン」を策定し、「全部適用」への移行を目指している。
ただ、これに関しても懸念の声が出ており、職員と思われる人物から以下の情報が本誌投稿フォームに寄せられた。
▽全部適用に関する職員向け説明会では経営不振に陥った場合の職員の待遇など、想定されるデメリット面の説明が十分になかった。赤字が続いており、厳しい経営になると想定される。全部適用の内容を十分理解していない職員も多い。
▽現場はひたすら「収益を上げろ」と言われ、疲弊して病休をとる職員もあとを絶たない。上層部は現場にも出ず責任を取ろうともしない。
要するに、全部適用になることで、赤字経営に見合った職員待遇に引き下げられ、収益アップを求める動きが強まるのではないか、と。
要職に就いた及川氏
同病院に地方公営企業法の全部適用に関しても問い合わせたところ、次のような回答が返ってきた。
《病院事業管理者を置き、病院で人事・予算をはじめとした権限が与えられ、経営上の裁量が大きくなることで、組織上の独立性が高まり、運営方針や人事などの意思決定が迅速化され、効率的な経営が可能となり、病院事業管理者のもとで経営改善を果たすことが期待されるところです。病院職員に対してはこれまで4回(2024年12月、25年3月、26年1月、同2月)勉強会を行ってきました。今後も職員の理解が得られるよう取り組んでまいります》
公立病院で働く職員は地方公務員に当たるので、全部適用になったからといって一気に待遇が変わるとは考えられないが、それだけ不安の声が広がっている表れであり、まずは職員への説明を尽くす必要があろう。関係者からは「医師や職員への収益確保に向けた圧力がさらに強まり、診療報酬評価が高く、難易度の高い手術に臨むようになるのではないか」と懸念する声も聞かれる。
病院事業管理者の人事はまだ発表されていないが、情報提供者によると、前述した前院長の及川氏も候補としてウワサされているようだ。及川氏は昨年3月末で院長を退任した後、顧問・脳神経外科長として病院に残り、市の地域医療政策監にも就いている。ただ、前述したトラブルは、いずれも及川氏が院長だった際に起きており、Aさんの裁判では被告にもなっている。
前出・Bさんはこのように語る。
「私はもう高齢で残された時間が少ない。審理がなかなか進まないのがもどかしいが、妻がなぜ命を落とさなければならなかったのか、病院側の責任を究明しなければ死んでも死にきれません」 裁判の口頭弁論が始まれば全国的に報じられるだろう。今後、司法の場で何が明らかになるのか。その行方を引き続き注視していきたい。






















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