Uターンジャーナリストが見る福島 【第3回】日本酒

斎藤美幸 さいとう・みゆき
福島市唯一の造り酒屋金水晶酒造株式会社4代目蔵元取締役会長。Uターンジャーナリストとして内外の視点から情報発信している。元フジテレビ・福島テレビ記者。
福島県の日本酒は2年連続日本一

おかげさまで今年の全国新酒鑑評会で福島県内からは20蔵が金賞を受賞し、都道府県別金賞数で2年連続日本一となった。
私が4代目蔵元を務める金水晶酒造もその一つであり、福島市唯一の造り酒屋として安堵している。
柔らかな旨味と透明感ある香り、飲み干した後の綺麗な切れ味。福島の金賞酒をぜひ一度味わっていただきたい。
酒蔵は百年企業が9割
一般に企業や産業の寿命は30年ほどと言われる。しかし帝国データバンク調査によれば、100年以上続く企業の割合は全国平均約3%に対し、清酒製造業は約91%。酒蔵は他業種と比べ圧倒的に老舗が多い。
福島県内にも200年、300年続く蔵が珍しくない。
後述する今年金賞を受賞した女性蔵元・杜氏の蔵もそうだ。
金水晶酒造(1895年創業)は131年、笹の川酒造(1765年創業)は261年、喜多の華酒造場(1919創業)は107年、花春酒造(1718年創業)は308年、ほまれ酒造(1918年創業)は108年。享保年間から続く蔵が、今も福島で酒を造っている。
今年は昭和100年だそうだが、酒蔵の感覚では昭和すら最近である。
酒蔵では女性も活躍している
意外に思う人もいるかもしれないが、酒蔵では既に多くの女性が活躍している。
写真(下段)中央の喜多の華酒造場の星里英様は蔵元三姉妹の長女。大学を卒業し、東京の企業に就職した後、東京農業大学醸造学科短期大学部(当時)へ社会人入学した。当初は酒に詳しくなりたいだけで、蔵元の後継ぎまでは考えなかったが、熱心な同級生たちに刺激を受けて「自分も酒を造ろう」と喜多方へUターンした。今や蔵の中心の杜氏となり、妹さんたちも蔵を支え、三姉妹の酒が金賞酒となった。

写真一番右、金水晶酒造四代目蔵元の私自身も父に頼まれたから戻ったわけではなく、「地元には地酒があった方が良い」との思いで戻った。地酒とは単なる商品ではなく、その土地の記憶でもある。
「福島のこの酒を飲んだことがある」というだけで、人は福島とつながる。酒に限らず、店や食べ物、風景、祭り、教室など、懐かしいものは誰かが残そうとしなければ消えていく。
ほかにも県内には鶴乃江酒造、曙酒造、佐藤酒造店、小原酒造、大天狗酒造など、蔵元の娘が蔵を継いでいる酒蔵も多い。
写真右から二番目の笹の川酒造の山口敏子様と写真左端のほまれ酒造唐橋美由紀様は、結婚を機に蔵元となった。
山口様は郡山の老舗弁当店「福豆屋」のお嬢様で、嫁いだ後に杜氏となった。杜氏とは野球で言えば監督のような存在で、酒造計画から米や水の扱いまで全てを判断し、それによって酒の味も香りも変わる。金賞酒には金賞を造る杜氏が欠かせない。
唐橋様は県内でも規模の大きいほまれ酒造で人事と経理を担っている。人と金は会社の心臓部だ。さらに海外経験を活かし、日本酒輸出や観光を組み合わせた蔵づくりにも力を入れている。
左から二番目の花春酒造柏木純子様は、研究担当社員から蔵人を経て杜氏となった。入社当時は女性という理由で十年間も酒造りの現場に入れなかったそうだが、今では金賞連発の杜氏である。能力ある人材を性別だけで遠ざければ、結局会社が損をする。
社員の活躍は管理職次第
以前、我が社に同業他社から転職してきた女性社員が、「前の会社では頑張っても女性だから認めてもらえなかった」と話していた。
私が蔵元として行った男女平等策は男女のトイレを女性だけが掃除していたところを、男性用トイレは男性、女性用トイレは女性が掃除するようにしたくらいだが、そこに100年違和感を持たなかったことに驚く。
「女性も人間である」という当然のことを基本にしているだけだが、結局はそれが性別にかかわらず活躍できる土台であるように思う。
酒蔵の仕事は、酒造りだけではない。経理、人事、営業、配送、泊まり込み蔵人の三度の食事作りなどあらゆる仕事が支え合って初めて蔵は成り立つ。小さな蔵ではそれらを4~5人で回しているし、数十人で分担している大きな蔵もあるが、とにかくどの仕事も金賞に届くには欠かせない。
若者が就職する酒蔵
私の会社は長く勤める人が多く、前の杜氏は勤続55年だった。今も70代が活躍し、20代も増えている。突然履歴書を持って就職希望者が訪ねて来ることもある。
県内企業は人手不足で若者が来ないと言われるが、酒蔵には来る。もちろん獺祭のように大卒初任給34万のような高給は出せないが、それでも来る。その理由の一つは、各蔵が「なぜこの酒を造るのか」を真剣に考えているからだと思う。
県内約60の酒蔵は、それぞれ米、水、土地、歴史に意味を込めながら100年以上酒を造っている。その思いが、お客様だけでなく若者にも届いているのではないか。
日本酒という文化を誰が残すのか
日本酒は放っておけば残るものではない。
蔵元、杜氏、蔵人、営業、事務、配送、食事を作る人。誰かが強く「残したい」と思って初めて残る。
そしてその担い手は、今や男性だけではない。女性も、若者も、Uターンした人も、外から来た人も支えている。
人口減少が続く福島県で、どうすれば若者や女性が残っていくのか。そのヒントは日本酒業界にあるのではないかと思う。
自分の仕事が地域につながり、自分が地域を支えている実感を持てること。福島という大きく確かな時間の流れの中に自分がいることを感じてそれを大切にしようとする時、そこに人はUターン、Iターンするのではないか。
沈みゆく船の穴を誰が塞ぐのか。良い航海のため、伝統に革新を繋いできた福島の日本酒を飲みながら考えていただければ幸いである。

























