さとう・じゅんいち 1961年9月、磐梯町生まれ。日大工学部卒。磐梯リゾート開発取締役総支配人を経て、2015年の磐梯町議選で初当選。19年6月の磐梯町長選に立候補し無投票で初当選。23年6月の町長選で再選。
――「町民の幸せプロジェクト」が2年目を迎えました。
「本町は『町民全員の幸せ~誰一人取り残さない共生社会の実現/誰もが自分らしく生きられる共生社会の共創~』をミッションに掲げています。従来のトップダウン行政では行政サービスの網の目が粗くなり、うまく対応できないことがありました。そのためボトムアップで町民の声を聞き、一人ひとりに合ったサービスを提供することを目指し、『町民の幸せプロジェクト』を実施しています。
実現するためにはまず職員自身が幸せでなければなりません。本町は小規模自治体で職員数が少ないため、1人がいくつもの業務を兼務しています。まずは各課の負担が高い業務に対して業務の見直しを行い、改善対象業務量の25%削減を目指しているところです。それを端緒に週5日勤務を週4日勤務に転換し、今年3月には町独自の複業条例も整備しました。複業を経験することで、職員の生きがいやモチベーションが上がり、視野も広がると思います。
併せて、現在の状況に合わず業務の妨げとなっていた古い条例についても、弁護士などの専門家の協力を得ながら見直しを進めています。これにより、職員の業務効率が向上し、誰もが業務を理解できる風通しの良い組織になっていくものと考えています。2~3年後には、町民の皆様が窓口で複数の用件を一度に済ませることができる仕組みを実現する予定です。例えば、転入に伴う住所登録の際に、お子様やご家族の状況を踏まえて、国民健康保険などの手続きや必要なサービスをワンストップでご案内できるような、利便性の高い窓口を目指しています」
――昨年9月に全国の自治体で初めて最高AI責任者(CAIO)を設置しました。狙いについて。
「AIはあくまでツールです。頼りすぎず、自分が何をしたいかを軸に使いこなすことが大事だと考えています。本町ではAI導入のロードマップとして、2025年度は『ふれる』、本年度は『つかう』、2027年度は『なれる』の3段階を掲げています。
DXが組織に大きな変革を伴うのに対し、AIは導入しやすくて学習コストも低い点にあります。AIを先に取り入れることでDXが進みやすくなり、両者は非常に結びつきが良い関係です。
業務面では、住民の方ご本人も把握しきれていないご事情を、AIを使って整理することで『こういう支援が考えられます』と提案できる可能性があります。例えば生活相談の場で、年金や資産、利用可能な制度を踏まえた選択肢は従来なら知識のある職員でなければ提示できませんでしたが、誰でも対応可能になり、一人ひとりに合った『One to One』の行政サービスが実現できます。AIの進化は本当に速い。変化を受け入れる柔軟性を持ち、職員一人ひとりが仕事にやりがいを感じ、主体的に業務に取り組める手段としてAIを活用していきます」
「愛着人口」増加を目指す
――年末にリリースされた「デジタル住民票アプリ」により、物理的な居住者を超えた「愛着人口」とのつながりが可視化されました。
「全国的に進む人口減少、少子高齢化を止めるのは難しいです。地方間で定住人口の取り合いをしても本質的な解決にならないと考え、本町では早くから『愛着人口』という考え方を掲げてきました。愛着人口とは本町を第二の故郷と感じてくださる方々のことです。政府が2027年に本格運用する『ふるさと住民登録制度』と連動させ、デジタル住民票で登録のハードルを下げ、本町の行政サービスや民間サービスを提供できる体制を整備します。大切なのは、地域住民との間に軋轢を生まないことです。事前の関わりがないまま急に移住してしまうと、関係性が築けていないために摩擦が起きがちです。まずは町に通いながら、草刈りや祭り、除雪といった地域の活動に参加・協力していただくことで、地域側も喜んで受け入れてくれます。そうした交流を積み重ね、徐々に滞在時間を延ばしながら、自然と移住につながる流れが理想的です。
現在の町民は約3000人ですが、1万人規模の愛着人口が呼び込めれば、『ばんだいコイン』など地域通貨と組み合わせて町内に経済循環が生まれます。今年4月には行政経営課内に『人口4000人戦略推進係』を新設し、住民4000人を目標とするプロジェクトを推進しています」
――町長自ら町長室を出て、職員と同じフリーアドレスのデスクで執務されています。
「町長は偉いわけではなく、たまたまその役割を担っているに過ぎません。『役職』ではなく『役割』を組織全体で共有することが大事で、フリーアドレスはその象徴です。町長の役割は限られた財政・人的資源をどこに集中投下するか、それに係るビジョン・ミッションを示すことです。それは課長も他の職員も同じで、それぞれが与えられた役割を果たしているだけです。
行政はどうしても縦割りで横のつながりが弱くなりがちですが、ボトムアップの課題は1つの課で完結しません。フリーアドレスで職員同士が自由に話せる環境を作ると、議論が活発になります。現在は総務課、教育委員会、行政経営課で実施しており、副町長や教育長を含む三役もフリーアドレスです。私自身も町長室にいるより、職員と直接話せる方が判断も早くなる。これが幸せプロジェクトの土台になっています」
――今年度の重点事業を。
「1つ目は教育です。来年4月に幼稚園・保育園・児童館を統合した認定こども園を開園予定です。今年度から始まった学校選択制も機能し始め、町外から本町の教育を選んで転校してくるお子さんも増えてきました。教育の質を高めることで、本町への移住につながる動きも出てきています。
2つ目は住宅施策です。住宅の確保が課題でしたが、ばんだい振興公社が中心となって空き家を買い取り、改修して貸し出す事業を始めました。すでに2軒でスタートし、今後数十軒規模に広げていきます。新築への補助制度の見直しも進めます。
3つ目はネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を食い止め、回復を目指す『自然再興』のこと)です。本町は『水』を起点にさまざまな産業・生活圏が成り立っており、その環境を守っていくという考えから、2024年に東北の自治体で初めてネイチャーポジティブを宣言しました。昨年12月には、地域生物多様性増進法に基づき認定された区域として、環境省の『自然共生サイト』に磐梯山慧日寺資料館が登録されました。今年10月にはネイチャーポジティブフェスを開催し、来年9月には全国名水サミットが本町で開催されます。本町ならではの取り組みを全国に発信していきます」

























