県内の人気菓子店や菓子メーカーの取り組みを紹介していく本コーナー。3回目となる今回は、菓子製造・販売の柏屋(郡山市)を紹介する。薄皮饅頭で知られる老舗だが、若き六代目社長のもとで、コラボ商品の発売など新しい取り組みに挑み続けている。(志賀)
創菓 嘉永餅 4個入り 961円(税込み)
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子どものころ、当たり前のように食べていた地元の名産品の魅力にあらためて気付くときがある。
県外で生活していたとき、そのおいしさを実感したのが、柏屋の薄皮饅頭だ。黒糖入りの生地に北海道産小豆のあんがぎっしりと詰まっている。帰省時に何の気なしに口にしたら、しっとりとした食感と、後味すっきりの「上品な甘さ」に感動した。創業174年を迎える同社の看板商品で、いまも商品売り上げの半分近くを占めるというのも納得できる。
同商品以外にも、チーズタルト「檸檬」や「柏屋のどらやき 福どら」など、安定したラインアップを誇る同社。中でも近年人気を集めているのが、2014年発売の「創菓
嘉永餅」だ。ほんのりバター風味の粒あんと松の実を、もちもちとした食感の生地で包み、「鬼ザラ糖」により後味の良い甘さに仕上げた一品だ。
「次世代の薄皮饅頭になってほしいという思いが込められています」
こう語るのは、柏屋六代目社長に当たる本名創社長(45)だ。
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「開発のきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災により、郡山駅前大通りにある柏屋本店の建物が半壊し、取り壊しを余儀なくされたことです。3年後の再オープンに当たって、復興祈念とともに、『お菓子を通して〝心のなごみ〟をお客様にお届けする』という基本に立ち返る意味を込めて、本店限定商品として開発・発売しました」
新型コロナウイルスが流行した2020年には、「1日でも早く正常化することを願い、震災時に復興を願って開発したこの商品を多くの人に食べてもらおう」と考え、全店販売に踏み切った。その結果、多くの人に愛される定番商品となった。
2021年に本名社長が就任して以来、新海誠監督のアニメ映画『すずめの戸締まり』のオリジナルパッケージ商品販売、〝ふくしま応援ポケモン〟ラッキーとのコラボ商品・「福島桃まんじゅう」販売など、コラボ企画を積極的に展開している。
昨年には人気アーティスト「YOASOBI(ヨアソビ)」の全国ホールツアー福島公演が開催されるのに合わせて、開催記念コラボパッケージ商品を手掛けた。前述した嘉永餅もその一つで、ツアータイトルがあしらわれたオリジナル焼き印が押されていたため、SNSなどで「かわいい」と評判になった。
「先方からコラボ企画のお話をいただき、ライブ開催まであまり時間がありませんでしたが、ほぼ〝即答〟でお受けいたしました。もともと嘉永餅は、皮が厚いのを生かして、周年イベントなどの配布用にオリジナル焼き印を押すサービスも実施していたので、要望にもスムーズに対応できました。多くのファンの方に喜んでいただいたようでうれしく思っています」
同社がコラボ企画を積極的に展開する背景には、同社で語り継がれている「暖簾は革新」という教えがある。商売を続けるうえで顧客の信用に関わることなど、絶対に変えてはならないことがある。ただ、伝統は守るだけでなく、時代の空気や流行、顧客目線に合わせて自由に塗り替えていくべき――という考え方だ。
「例えば、薄皮饅頭はもともと白い生地でしたが、戦後の物資不足で白砂糖が入手できない時期、当時の社長が『黒糖の茶色い生地でもいいじゃないか』と切り替え、結果的に現在の商品を生み出した。『饅頭を食べて語り合い、ホッとできる〝心の縁側〟のような時間と空間を提供する』という創業者の理念の実現を第一に、変化を恐れず、常に新たな取り組みに挑戦し続けています」
挑戦を続けてきた歴史
同社は江戸時代後期の1852(嘉永5)年に創業。奥州街道・郡山宿の門前茶屋に婿入りした初代・本名善兵衛(※)が、修行先の京都で学んだ「こしあん」の饅頭を販売したところ、名物となった。1888(明治21)年開業の東北本線郡山駅で売られるようになり、高度経済成長期には「旅は磐梯、みやげは薄皮」のキャッチフレーズで全国に販路を広げた。
※同社では創業の精神を引き継いでいく「代々初代」という家訓に基づき、現社長を除く歴代社長は「善兵衛」を襲名している。
業容拡大に合わせて機械化を導入し、レオン自動機(宇都宮市)創業者の林虎彦氏とともに、世界初の饅頭製造ロボット「自動包あん機」を開発・導入。さらなる品質向上を目指して新たな製造ライン「カシワヤ・ドリーム・システム(KDS)」プロジェクトを実現させた。
2016年には、五代目・本名善兵衛社長(=当時、現会長)の提案で、収穫直後のみずみずしい小豆を使った商品を販売する「新あずき収穫感謝祭」をスタートし、2020年には抹茶味の薄皮饅頭を発売するなど、歴代社長がさまざまな視点で挑戦を続けてきた。
六代目に当たる本名社長は東京農業大学中退。バンド活動などを経て、2006年に入社した。商事課長、企画部次長、子会社である㈱旬果工房(現在は柏屋に吸収合併)常務取締役工房長、柏屋専務取締役を歴任。2021年に社長に就任してから早速商品改善に挑戦した。
「薄皮饅頭の包装形態を見直し、賞味期限を従来の8日から30日に延ばすことに成功しました。長い期間食べられるという販促効果に加え、店舗側は売れ残りを怖がらず発注でき、フードロスが減らせるというメリットがあります。海外を含めより遠くに届けられるようになったという点でも効果は大きいです」
柏屋といえば県内では圧倒的な知名度を誇る企業だが、本名社長によると、この間、経営が順調だったわけではない。戦後の原料不足、1986(昭和61)年の8・5水害、東日本大震災、コロナ禍による需要の消失など、幾度も苦境に直面してきた。外注化政策の見直し、ブライダル市場からの撤退など挑戦が実らなかったことも少なくない。
だが、同社にはそれらの経験を糧にして、さらに顧客満足度を高めようと前を向く風土がある。それこそが、同社の菓子が170年以上にわたり愛されてきた理由と言えよう。
本業以外に、地域密着イベント・文化活動に積極的に取り組んでいるのも同社の特徴だ。
象徴的なのは、毎月1日の朝6~8時に開催される「朝茶会」だ。薄皮饅頭や季節のお菓子、お茶を味わいながら会話を楽しむ無料イベントで、毎月、多くの家族連れや学生が足を運んでいる。
郡山市朝日の開成柏屋店舗敷地内には、奈良の「林神社」から分社する形で「菓祖神萬寿神社」を設け、饅頭や菓子にゆかりのある三柱の菓祖神を祭っている。毎年4月に開催される「まんじゅう祭り」では「縁結び大萬寿」が奉納されるほか、饅頭のお福分け、子ども向け体験イベント、限定商品販売などが行われ、地域住民や全国の柏屋ファンが集うイベントとして定着している。
文化活動としては、子どもが自由な発想と言葉で表現できる場を作りたいという思いで、四代目・本名善兵衛社長が全盲の詩人・佐藤浩さんらと1958(昭和33)年に児童詩集『青い窓』を創刊。今年1月の発刊号で通算621号に達した。現在も柏屋店舗や郡山市内の公共施設でパネルを展示している。
〝心の縁側〟を提供する
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『青い窓』に掲載された作品の中に「みんなのポケット」という詩がある。子どもの顔を拭うハンカチやティッシュなどを入れた「おかあさんのポケット」を「みんなのポケットのようだ」と表現したものだが、同社ではその一篇の詩を企業姿勢のよりどころにしており、多くの人に役立つ「みんなのポケット」となることを目標としている。
気さくな性格で、青年会議所などで交流を続けてきた本名社長が経営のかじ取り役となってからは、その理念を体現するように、他社と連携した企画が目立つようになった。
前述したオリジナル焼き印の嘉永餅は商品料金プラス3万円程度で注文できるため、県内外の企業や団体から注文が入っている。このほか、ジェラート店「ジェラテリオ・マッテオ」で薄皮饅頭味のジェラートを販売したり、福島県カプセルトイ協会とコラボしてオリジナルマスキングテープを販売するなど、新たな取り組みに挑戦し続けている。
「旧知の経営者から『こんなイベントでお菓子を配布したいんだけど何とかならない?』と気さくに相談されて、注文を受け付けることも多いです」と本名社長は笑う。菓子をきっかけにさまざまな人とつながる姿は、まさに〝心の縁側〟のような場所を提供しているように見える。
4月には、生キャラメルや生バターサンドなどで人気の向山製作所(大玉村)のフード事業部が分社化され、柏屋傘下に入ることが明らかになった(本誌6月号参照)。薄皮饅頭をはじめ和菓子のイメージが強い柏屋の子会社に、洋スイーツを扱う向山製作所が加わることで、どのように進化するのか。
復興への願いから生まれた嘉永餅は柏屋が受け継いできた「革新」の象徴ともいえる存在。同社はこれからも菓子を通して〝心の縁側〟を提供し続けていくのだろう。

























