空前のバブルに沸くM&A業界の暗部を描いたルポルタージュ『社喰い』(片田江康男、ダイヤモンド社)が7月に発売されてから話題を集めている。本書第三章では白河市の結婚式場「鹿島ガーデンヴィラ」をはじめ多数の企業を買収したルシアンホールディングスの素顔を追う。さらに経営悪化で閉院したなこそ病院(いわき市)の元事務長兼理事も末期状態の船井電機の買い手として登場。関連する本誌の過去記事と共に読んでほしい。
白河市・鹿島ガーデンヴィラも被害
7月15日発売の『社喰い』は、事業承継の解決策として注目されるM&Aの闇を暴いたルポルタージュだ。前半ではAV機器で名を馳せた船井電機の破産劇や一時その傘下にあった脱毛サロン・ミュゼプラチナムの社内クーデターの実態を証言で明らかにしていく。ちなみにミュゼの1号店は2003年に郡山市でオープンした。
船井電機にしてもミュゼにしても再建の主導権を巡り曲者同士が争った。関係者は、口々に「自分は騙された」と訴えるが、著者は額面通りには受け取らない。金銭欲、支配欲、名誉欲と各々が欲望を抱いて火中の栗を拾おうとしたが投げ出していった。「全員、欲の皮が突っ張っている――」(船井電機を扱った第一章「難破船」より)
後半では、買い手、売り手、M&A仲介会社の3者からなる共犯構造を提示する(第五章「共犯者」)。トラブルの背景には3者の思惑があるという。
〝カネを吸い上げたい〟不適切な買い手企業
〝売り抜けて逃げ切りたい〟売り手企業のオーナー
〝手数料第一主義〟M&A仲介会社
不適切な買い手企業として登場するのは、全国で中小企業の買収を繰り返したルシアンホールディングスだ。県内では白河市の老舗結婚式場「鹿島ガーデンヴィラ」を買収して資産を吸い上げた後、給料遅配となり営業を停止した(本誌2022年5月号で初報)。鹿島ガーデンの事例は本書には登場しないが、東京の老舗建設会社が同様の被害に遭ったことが紹介されている。著者は本誌が追えなかったルシアンの中心人物2人に接触して実像に迫った(第三章「無責任」)。
著者は不適切な買い手や手数料目当ての仲介者に最大の怒りを向けつつも、「“売り抜けて逃げ切りたい”売り手企業のオーナー」にある欲も指摘する。
《引退の際にそれまでの苦労をカネに変え、節税も目論む。事業承継といえば聞こえはいいが、面倒な経営から逃れたい本心もあるやなしや……。M&A仲介会社は、二束三文の自社株の買い手を探してくれ、買い手企業は会社のカネを払いだしてくれる存在》
売り手は往々にして個人に課せられた債務保証から解放されたいがために、売却に浮足立つ。そして、買い手に不適切な買い手にすがった結果、債務保証を外す約束を反故にされる。
本書にはルシアンの他にも福島県との関わりが深い人物が登場する。破産間近の船井電機買収に手を挙げた4人のうちの1人にして、なこそ病院(いわき市・現在閉院)事務長兼理事を務めていた福井啓介氏だ。同院は2014年に新築開院し、23年から休眠状態となり翌24年に建物ごと解体された。病院を運営していた医療法人社団「栄央会」は県からの補助金約7億5000万円を受けたまま解体。県との協議がないまま財産処分(解体)し活動を休止したため県の担当者は「甚だ遺憾」と怒りを隠さなかった(本誌2024年12月号で初報)。
船井電機買収に動くなこそ病院元事務長
福井氏は21~23年に栄央会の事務長兼理事を務めていた。本書によると、栄央会(なこそ病院)在職中に会長の紹介で知り合った人物と一緒に24年夏ごろに船井電機買収に動き出したという。鹿島ガーデンにせよ、なこそ病院にせよ、彼らは腰を据えて再建に臨まずに、別企業の買収に乗り出した。結末は本書の通りだ。
【インタビュー】「何のための会社なのか」〝上がり〟の欲に抗う問い【著者・片田江康男さん】
かたたえ・やすお 1979年東京生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。これまでに東日本大震災後の東電問題やM&A業界を取材。
――船井電機をはじめ買い手の人物は本当に再建を考えていたとは思えません。どのような人が何を目的にしていると思いますか。
「役員報酬といったお金だけではない気がします。事業家として認められる名誉欲や思い通りの事業をしたい欲が大きいと思います」
「2006年に週刊経済誌『週刊ダイヤモンド』で記者のキャリアをスタートしました。2008年ごろに配属されたのがエレクトロニクス業界のチームでした。中国メーカーの台頭でソニーやパナソニック、シャープといったグローバル企業の経営が傾いていました。錚々たる経営者がエレクトロニクス業界を立て直そうと奮闘していましたが惨敗でした。黒字化が難しいエレクトロニクス事業を新参者が再建できるのか、20年前の不況を目の当たりにしていた私は冷静に見ていきたいという思いが強かったです」
――福島県の読者に伝えたいことはありますか。
「人口減少で市場が縮小する中、地方で会社を営んでいくことは特に厳しいです。“売り抜けたい”と思うのは自然な発想で魅力的に感じる方が多いのは事実としてあります。ただ取材を続けると、自分たちが携わってきた事業に並々ならぬ思いがあり、責任感を持っている人の方が圧倒的に多いと実感します。地域への影響を考えて、悪質なM&Aで事業が途絶えてしまうのは避けたいと思うでしょう」
「買い手企業にしてもM&A仲介会社にしても大半は本社が東京にあります。怒涛の勢いで売却を提案してくる印象を持つかもしれませんが、彼らはM&Aで地元経済や地域がどうなるかにはあまり考えが及びません。特に仲介会社はその傾向は強いです。
すべてに言えるかもしれませんが、自分の会社として大切にしたいものを忘れないことが重要です。東京を拠点に置く仲介業者の思惑と地域に根付いて事業を行っている企業の思惑は違います。会社がよりよい選択をするのに必要なのは、M&Aは一つの選択肢とした上で、『なんのために事業を行っているか』を問い続けることではないでしょうか」

























