ほし・けんいち 1969年2月生まれ。大原簿記学校卒。2018年、社会福祉法人桜ヶ岡福祉会に入職し、21年から特別養護老人ホーム絆(会津若松市)の施設長を務める。今年から現職。
震災・原発事故、コロナ禍を経て、福島県の老人福祉施設は深刻な人材不足と経営難に直面している。日本の高齢化がピークを迎える2040年を見据え、施設の役割にも変化が求められている。本県の介護業界を牽引する福島県老人福祉施設協議会の星健一会長(社会福祉法人桜ヶ岡福祉会特別養護老人ホーム絆施設長)に話を聞いた。
高齢化のピークに備えて介護業界の変革を進めていく。
――福島県老人福祉施設協議会とはどのような組織でしょうか。
「当協議会は、社会福祉法人などが運営する老人福祉施設で組織されている団体で、特別養護老人ホーム(特養)を中心に、軽費老人ホーム、養護老人ホーム、デイサービス、ケアハウスが会員になっています。一般社団法人化されて8年ほどですが、全国組織である全国老人福祉施設協議会は大正時代から続く歴史ある団体で、介護報酬改定などに関する要望活動を行っています。
会員の大半を占める特養は、要介護度(5段階)3以上の方がメーンで入所され、8~9割の方がここで最期を迎えます。介護老人保健施設(老健)が在宅復帰を目指すのに対し、特養は最期までその方の生活を支え、お看取りまで行います。利用者の方々が尊厳を保ちながら、『終の棲家』として安心して過ごせるよう支援しています」
――介護業界は全国的に深刻な人材不足となっています。
「本県も例外なく人材不足が深刻です。直近の統計では、介護分野の有効求人倍率は約4倍に達しており、求職者1人に対して4つの求人がある状況です。当協議会の調査でも7割以上の施設が人材不足を感じています。若手や男性職員の確保が難しい要因として、〝賃金〟の問題があります。他業界と比べ低賃金というイメージが根強くあり、家庭を持つ男性には足かせとなりがちと考えています。当協議会としては、まず介護の仕事の魅力を社会に発信し、イメージを刷新することに力を入れています。介護は『3K(きつい、汚い、危険など)』という古いイメージがまだ残っていますが、今はICT化が急速に進んでいます。音声を自動文字起こしして記録するシステム、見守りシステムなどが導入されることにより業務の効率化が進み、働き方についても週休3日制の導入など改善が図られつつあるので、そのことを示していく必要があります。これは他業界より進んでいる点だと自負しており、若い世代に『いま変わりつつある業界である』という点を積極的にアピールしていかなければなりません。
外国人材の受け入れも進んでいますが、同じ国の外国人の方の横のつながりで情報のやり取りがあり、都市部の施設に移ってしまうケースが多く見られるようになっています。単に受け入れるだけでなく、日本語の勉強会や悩み相談などのフォローを行い、定着しやすい環境づくりに取り組む必要があります」
災害時の連携体制を構築
――災害対応の取り組みについて。
「本県は、震災と原発事故に加え、毎年のように大雨、地震、大雪といった災害を経験している県です。特養をはじめとした老人福祉施設は、災害発生時に地域住民を受け入れる『福祉避難所』となる可能性が高いので、常に準備を進めています。
当協議会では2014年に『災害時施設相互応援協定』を締結しました。これは、県内を6ブロックに分け、災害時に物資や食料、職員を相互に支援する体制を構築するものです。一昨年には協定を改定し、感染症にも対応できるよう整備しました。
運用面では、LINEのオープンチャットを活用し、警報や地震発生時に事務局が情報収集し、状況に応じて施設間の応援派遣を調整する仕組みを構築しています。毎年1回、事務局が中心となり、被災を想定したシミュレーション訓練を担当となった支部で実施して、情報伝達や物資運搬の流れを確認し、実効性を高める努力も続けています」
――超高齢社会のピークを迎える2040年を見据え、老人福祉施設が目指すべき姿、協議会の長期的ビジョンについて。
「各方面の資料によると、2040年度には本県の高齢化率は約40%に達し、要介護者が大幅に増加すると試算されています。医療だけでなく介護の現場も厳しさが増す中、老人福祉施設が目指すのは、『地域包括ケアシステム』の中核を担うことです。すべての高齢者が尊厳を保ちながら、住み慣れた地域でその人らしく暮らせる環境を実現するべく、『地域の実情に合った介護サービス』を提供するための計画を練る必要があると考えています。
それに向けた先進的な取り組みとして、今年9月に全会津地区を対象とした意見交換会を実施しました。会津は特に人口減少と高齢化率が高く、他の地域の『10年後の姿』を示していると考えています。この会合には、県の社会福祉課、会津・南会津保健福祉事務所、ハローワーク会津若松の担当の方にも参加していただき、現場の危機感を共有しました。
行政が加わることでより具体的な地域課題の共有・解決につながるなど、多くの収穫がありました。県、市、ハローワーク、社協、当協議会が一体となり、地域の特性に合った介護サービスを提供する体制を構築していくことが、2040年を乗り切るための鍵だと確信しています。この会津の事例を県内の他地域にも展開していきたいと考えています」
――最後に、国や県に強く要望したいことについて。
「介護業界の存続にとって、最も切実な問題はやはり『介護報酬改定』です。当協議会が行ったアンケート調査によると、昨年度、介護報酬改定が行われましたが、特養では直近の3年間で約4割が赤字という非常に厳しい状況です。特にデイサービスに至っては、7割が赤字という深刻な事態です。この収支の悪化は、単なる経営問題にとどまりません。人材不足が加速し、国の配置基準を満たせず、受け入れ定員を減らさざるを得ない施設が県内には多く存在します。施設が存続できなくなったり、定員を減らしたりすれば、最終的に困るのは地域住民、つまり介護サービスを必要とする方々です。待機者が増え、安心して暮らせる場所が失われてしまうのです。
ですから、私たちは、介護報酬の抜本的な見直しや、地域の実情に合わせた財源の確保を強く要望しています。ただ、国や県にお任せするだけでは不十分です。私たち施設・事業所側も、行政に対し『こういう方法があるので一緒にやりませんか』と提案する姿勢で、そして危機感を持って自ら行動しなければ環境を変えることはできません。私は当協議会の使命は『支える人(=介護施設・介護従事者)を支える』ことだと考えています。福島の介護業界を崩壊させないという強い覚悟を持ち、行政と連携を図りながら、共に未来を切り拓いていきたいと考えています」
























