飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」

飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」仙台高専5年生の高野結奈さん

 福島市の名湯・飯坂温泉をまちづくりの観点から研究した建築家の卵がいる。仙台高専5年生の高野結奈さん(20)=伊達市梁川町=は「魅力があるのに生かし切れていない」というもどかしさから同温泉を卒業研究の対象に選んだ。アンケート調査から見えてきたのは、訪問者の行き先が固定している、すなわち回遊性に乏しいという課題だった。

 高野さんが飯坂温泉に関心を寄せたきっかけは、高専4年生だった2021年9月に中学時代の友人と日帰り旅行で訪れた際、閑散とした温泉街にショックを受けたからだ。

 「摺上川沿いに廃業した旅館・ホテルが並んでいるのが目につきました。ネットで『飯坂温泉』と検索すると『怖い』『廃墟』という候補ワードが出てきます。昔からの建物や温泉がたくさんあって、私たちは十分散策を楽しめたのに、『怖い』という印象を持たれてしまうのはもったいないと思ったんです」(高野さん)

 高野さんは宮城県名取市にある仙台高専総合科学建築デザインコースで学んだ。都市計画に興味があり、建築士を目指している。

仙台高専5年生の高野結奈さん
旧堀切邸で研究を振り返る高野さん。「まちづくりに生かしてほしい」と話す。



 学んできたスキルを生かして、飯坂温泉のまちづくりに貢献できないかと卒業研究の対象に選んだ。文献を読む中で、温泉街を活性化させるには旅館・ホテルで朝夕食、土産販売、娯楽までを用意する従来の「囲い込み」から脱却し、「街の回遊性」をいかに高めるかが重要になっていることが分かった。

 飯坂温泉を訪れる人はどのようなスポットに魅力を感じて散策しているのだろうか。回遊性を数値に表そうと、高野さんは温泉街の5カ所にアンケート協力を求めるチラシを置き、2022年8月から10月までの期間、ネット上の投稿フォームに答えてもらった。有効回答数は29件。結果は図の通り。円が大きいほど訪問者が多い場所だ。

出典:高野結奈さんの卒業研究より「図31 来訪者が集中しているエリア」
出典:高野結奈さんの卒業研究より「図31 来訪者が集中しているエリア」



 豪農・豪商の旧家旧堀切邸と共同浴場波来湯の訪問者が多く、固定化している。つまり、この2カ所が回遊性のカギになっているということだ。一方、図の南西部は住宅地で観光スポットに乏しいことから、人の回遊は見られなかった。全4カ所ある足湯は男性より女性、高齢者より若者が利用することも分かった。

 飯坂温泉の現状がデータで露わになった意義は大きい。

 高野さんは飯坂温泉ならではの魅力をさらに見つけようと、別の温泉地に関する論文をあさった。小説家志賀直哉の『城の崎にて』で知られる城崎温泉(兵庫県豊岡市)を筆頭に秋保温泉(宮城県仙台市)、鳴子温泉(同大崎市)、野沢温泉(長野県野沢温泉村)の文献を読み込んだ。

 比較する中で気づいた飯坂温泉の魅力が次の3点だ。

 ①泉温が高く、湯量が豊富。源泉かけ流しの浴場が多い。

 ②低価格で入れる共同浴場が多く、九つもある。

 ③交通の便が良く、鉄道(福島交通飯坂線)が通っている。車でもJR福島駅から30分以内で着く。

 「この3点は城崎温泉と共通します。同温泉は外国人観光客を呼び寄せて成功した事例に挙げられています。多数の源泉かけ流しと共同浴場という温泉街の基本が備わっています。電車で来られることで風情も加わり、鉄道マニアも引き付けます。これらは新しい温泉街では真似できない優位な点と言えます」(同)

 魅力の一方で、高野さんが「飯坂温泉に足りないもの」として挙げるのが体験施設だ。

 「例えば野沢温泉では、湧き出る温泉で野沢菜を湯がいたり、卵をゆでたりする体験ができます。材料一式も売っていて、誰でも手軽にできます。飯坂温泉も温泉玉子『ラジウム玉子』が名物ですが、現状はお土産として買うことはできても、その場で作ることはできない。買うだけでなく作れる体験施設があったら観光客に喜ばれ、同温泉の魅力向上にもつながるのではないか」(同)

 魅力向上という意味では、川沿いの景観保持も欠かせないが、冒頭に述べた通り、飯坂温泉のネット上の評価は「怖い」というイメージが先行している。

 「元気のある温泉街の共通点は川沿いの景色がきれいなことに気づきました。整備が大変なのは分かりますが、雑草だらけで手の加わっていない岸辺は温泉街全体の魅力を損ね、悪いイメージのもとになっていると思います」(同)

 高野さんは2月、飯坂温泉街の都市計画を考えジオラマ(模型)にする卒業設計を提出した。ジオラマにはラジウム玉子作りを体験できる観光施設もある。

 高野さんは3月に仙台高専を卒業し、アパートの設計・施工や経営を行う大手企業の設計部で働くことが決まっている。卒業研究で縁ができた飯坂温泉とは今後も関わりを持てればいいと思っている。

 「新しい物を一から作るよりも、今ある物の良さを生かすリノベーションに興味があります。温泉街にあるアパートを改装し、湯治客向けの宿泊施設にするなどの動きが広まっていますが、そのような仕事で飯坂温泉に関わることができたらうれしいです」(同)

 高野さんの研究はこれで一区切りだが、今後大切になるのは、若者が調べ上げたデータを温泉街の活性化にどう生かすかだ。あとは地元住民と観光業界、飯坂温泉観光会館「パルセいいざか」や共同浴場などの管理運営に当たる第三セクター・福島市観光開発㈱の取り組み次第だ。

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