JAふくしま未来の石神カントリーエレベーター(南相馬市)に勤務していた女性が今年2月、自ら命を絶った。残された遺書には、職場でのトラブルと、その後に見舞われた法的手続きへの絶望がつづられていた。一体、女性の身に何が起きていたのか。遺族の証言と女性が遺した記録から、その背景に迫る。
「殺してやりたい程憎い」遺書につづった怨嗟
亡くなった女性を、ここではAさん(30代)とする。AさんはJAふくしま未来の石神カントリーエレベーター(南相馬市)に、2024年1月から臨時職員として勤務していた。遺族によると、そこでベテラン職員から厳しく接せられたことがすべての発端という。

Aさんは当時の思いを、最初は手書きメモで、途中からはスマホに記録していた。遺族に見せてもらったその記録を基に経緯を振り返る。
最初の手書きメモには日付はないが、2枚目のメモは「(※昨年)6月10日」、3枚目は「6月11日」とあるから、昨年6月9日か、その少し前と推察される。中身は次のとおり(一部リライトあり、以下同)。
《(※昨年)4月上旬(○○さんが辞めた後)までは1日に数回とか叩くそぶりでその度にガードしていた。実際に分からないことだったり、機械がおかしくなったりとかで見てもらったり、直してもらっていたから自分自身が我慢すればいいと思った。でも、4月中旬(○○さんが辞めた後)から回数も多くなり、1日5、6回叩くそぶりをされ、最近では自分がガードしてさらに横から軽く叩かれるようになった。何かあった時のためにメモを残すようにした》
昨年4月ごろから、ベテラン職員から叩くふりをされたり、ガードしたところを横から軽く叩かれるようになったと記されている。このベテラン職員の立場・役職等は不明。昨年4月というと、勤務して1年3カ月ほどが経った時期だ。その時点で、ベテラン職員とどのような信頼関係が築けていたかは分からない。ひょっとしたら、ベテラン職員の方は「おふざけ」のつもりだったのかもしれないが、少なくとも、Aさんは不快に思っていたことがうかがえる。また、メモには「○○さんが辞めた後」とあり、別の職員が辞めたことで、標的がAさんに変わったと見ることもできる。
次は6月10日のメモ。手書きのほか、スマホにも記録があった。以下はスマホの記録より。
《仕事にある程度慣れてきた頃に、石神カントリー専任のBさん(※ベテラン職員のこと、メモでは実名)に叩くふりをされるようになった。「え? なんで?」と思いすごく不愉快だった。当初は1週間に数回程度だった。「やめてください」と言えば良かったけど、なかなか言えなかった。Bさんは10年以上もカントリー内にいて、ある意味主だったし、センター内では言いたい放題言えて大声で怒鳴ることもあった。この人の機嫌を損ねてしまったらまずいという思いもあって、それならば私が我慢すればいい、と自分に言い聞かせて普通に振る舞っていた。しかし、(※昨年)4月ごろからエスカレートし始めた。叩くふりだったのが軽く頭を叩かれるようになった。時には色選(※色彩選別機)のライト交換をお願いしたら、思うように外れなくて、「外れねぇー」というから、「難しそうですね」と答えたら、持っていた工具で笑いながら叩くふり。ぬかを詰まらせてBさんにお願いした時も軍手で笑いながら頭を叩かれた。とりあえず、Bさんと話すと、手に持っているものか、パーでどこかしら叩く。頻度もほぼ毎日で回数も1日に3回以上とか。避けようにも、Bさんから寄ってくるから避けようにない。ストレスなのか夜眠れない。物を食べると、お腹が痛くなって下痢》
叩くふりをされる、軽く叩かれるといった行為が日常的に行われていたことをうかがわせる内容だ。それにより、夜は眠れず、食事をしても腹痛・下痢に見舞われるようになったことが記されている。
遺族によると「メンタルクリニックに通院していた」という。
被害届を提出
翌6月11日の記録には、同僚とともに、現場責任者に現状を訴えようとしていたことをうかがわせる記述がある。
《今日からカントリーに業者が入るから、平和な1日で終わると思っていた。16時36分、Bさんから「業者がまだ帰らないから、まっすぐ帰るってセンター長に伝えて」と言われたから「分かりました」って言ったら、急に笑いながら右ほっぺをパーで軽く叩かれた。事務所に戻って××さんに相談した。(□□くん、△△くん、☆☆くん、●●さん、■■さん、※いずれも実名、あるいは愛称)。センター長に抗議して、早く移動させようってみんなから言ってもらおうって》
同僚数人でB氏の行為をセンター長に言って何とかしてもらおうと考えていた形跡がうかがえる。ただ、実際に行動に移したかどうかは分からない。
6月13日の記録は意味が分かりにくいところもあるが、重要な部分なので紹介する。
《▲▲さんのお手伝いになるかと、って言ったら、少し怒って「なーにー?」って言いながら近寄ってきて右腕(二の腕)をつかまれ(今回力が強かった)そのまま押された》
この記録は、業務の中でB氏に「▲▲さんの手伝いに回ってほしい」旨を伝えたところ、それが気に入らなかったのか、それまでより強い力でつかまれ、押されたという意味だと思われる。
同日の記録には続きがある。
《15時頃、精米所を閉めて、早々に事務所に戻った。怖いっていうのもあったし、腕がなんか変な感じだった。16時前に事後報告になってしまったが、簡単に今までのことや今日のことだったり、事務所や精米所に来ると頭が痛くなるし、物を食べるとお腹が痛くなって下すし、夜眠れないし、眠れても数時間おきに目が覚める。センター長は本人に話を聞くってなったけど、それはやめてほしいって言った。だって、本人に知られたら何が起こるか分からない。詳しいことは月曜日(※同日は金曜日)に話すことにして、今日は体調も考えて早退していいよって言われたから16時に早退。帰ってから右腕の痛みが強くなりはじめて、上がらないし、力が入らない。17時を過ぎていたから、明日朝イチで病院に行く》
これまでのことを現場責任者(センター長)に相談したことが分かる記録になっている。同時に、強くつかまれたとされる右腕の痛みが強くなり、翌日に病院に行くということが記されている。
実際、Aさんは翌6月14日に南相馬市内の整形外科で受診した。診断結果は「右肩、右上腕部挫傷」で、「全治、約2週間の加療を要する見込み」とされた。同時に、医師に事情を話したところ、「傷害に当たるのではないか」ということを言われたようだ。
当初、Aさんは被害届を出す考えはなかったようだが、翌6月15日、診断書を持って南相馬警察署に行き、被害届を提出した(同日に被害届を出したのか、その日は相談で、後に被害届を出したのかは不明)。その際、右腕の写真を撮られたということが記録に残っている。
B氏代理人から「通告書」
そこから事態は思わぬ方向へと動く。昨年7月上旬、B氏の代理人からAさんに「通告書」が届いたのである。
その内容は「B氏がAさんにケガを負わせた事実はない。勤務先への虚偽の申告、警察への虚偽の告訴などにより、B氏は勤務先から出勤を停止され、南相馬警察署から複数回にわたり事情聴取を受けるなど精神的苦痛を受けた。よって、損害賠償として200万円を請求するほか、B氏への謝罪、職場への説明を求める」というものだった。
法的恫喝とも言えるような内容である。これを受け、Aさんは無料法律相談に行って相談した。そのうえで、以下のような文書を、弁護士からB氏代理人に送付してもらった。
「B氏代理人の書面によれば、B氏としては、Aさんが、①勤務先であるふくしま未来農業協同組合に対し本件の被害申告をした行為、②南相馬警察署に対し本件の被害届を提出した行為が、いずれもB氏に対する不法行為に当たり、②については虚偽告訴等罪(刑法第172条)の構成要件に該当するとして、Aさんに対し、慰謝料等の支払のほか、Bさんへの謝罪、関係各所への説明を求めるとのことです。Aさんは、勤務先、警察に対し、B氏から受けた本件の被害事実を真摯に申告したもので『虚偽申告』にあたりませんので、B氏からの請求には一切応じられません」
それからしばらくは動きがなかったようだが、昨年12月、Aさんが被害届を出していた件が嫌疑不十分により不起訴処分になった。
これを受け、今年1月、B氏の代理人からAさんに再度「通告書」が届いた。そこには、「今回の不起訴処分によって、Aさんの申告が虚偽であったことが証明された」として、前回の200万円にさらに上乗せして500万円を請求するほか、B氏への謝罪、職場への説明を求めるというものだった。
刑事事件の嫌疑不十分は、「公判で有罪を100%立証できるだけの証拠が不足している」という手続き上の判断に過ぎない。決して「被害が虚偽だった」と認定されたわけではない。
それでもAさんは精神的に追い詰められ、今年2月に自ら命を絶った。Aさんは独身で20歳に満たない3人の子どもが残されるという何とも悲しい結末を迎えてしまった。
Aさんは亡くなる直前に遺書を書いていた。そこには次のように記されている。
《私は何もウソをついていない。なのになんで500万円の請求をされなくちゃいけないの?
なんでこんな思いをしなくちゃいけないの?
Bが憎い。私のうでをつかんでケガさせたのに認めようともせず私をウソつき呼ばわり。加害者のくせに、何の責任もとらず普通に生活しているのが許せない。私は何もかもメチャクチャになったのに。最初から認めていれば私は死を選ぶことはなかった。私を追い込んだのはB自身。殺してやりたい程憎い。こんな形になってしまってごめんなさい。もう精神が限界でした。親不孝な娘でごめんなさい》
遺族は労災申請を視野
本誌は5月中旬、JAふくしま未来本店を直接訪ね、「南相馬市の石神カントリーエレベーターの職員が自死したことについて話を聞きたい。そうま地区本部、現場責任者の対応になるのか、(本店の)担当常務の対応になるのか分からないが、どういった形でもいいので、この件についての説明と組合としての見解を聞きたい」と取材依頼した。

後日、取材依頼について確認の電話をすると、担当者は「亡くなられた理由が明らかではないので」とのこと。記者が「(その前段で)警察も入ったと聞いているが」というと、「警察が入ったのは亡くなられたこととは別なので。あとはプライバシーの問題もあるので」との回答だった。
前段で、B氏代理人からAさんに通知書が届いたことを説明した。その際、宛先は「ふくしま未来農業協同組合 気付」となっていたという。そう考えると、この時点でJAは何かあったことを察知できる状況にあった。そもそも、Aさんの記録によれば、現場責任者に相談していたことがうかがえる。暴行や傷害に当たるような行為があったかどうかは抜きにしても、職場内でトラブルがあったこと自体は事実なのだから、どこかで事態解決に入れる余地はあった。そう考えると、救えた可能性は大いにあり、この件は組織の問題と言える。少なくとも、AさんとB氏による個人のトラブルだけでは済まされない。
同JAそうま地区(旧JAそうま)の元関係者はこう話す。
「いまも内部には知り合いが多数おり、そういうこと(Aさんが自死したこと)があったのは聞いているが、この事件を知っているのは石神カントリーエレベーターに勤務している一部だけだろう。それ以外は知らされていないと思う。とはいえ、こうした問題が役員間で共有されていないわけがない。それでも、そちら(本誌)の取材にそういう(多くを語らない)対応だったということは、組合の問題ではなく、個人間のトラブルということで済ませようとしているのでしょう」
遺族によると、Aさんの葬儀には、Aさんの上司に当たるJA関係者が数人参列していたので、「なぜ、ここまでの事態になるまで放っておいたのか」と詰め寄ったという。
一方で、遺族は「残された子どもたちに対する手続きでなかなか時間が取れない状況ですが、問題を明らかにするためには、労災申請するしかないと思っています」とも話した。
職場のトラブルや理不尽な事案に苦しんでいるあなたへ
職場で孤立したりすると、世界中から否定されたような絶望感を抱くかもしれない。でも、1人で抱え込まないでほしい。知っておくべき正しい知識と、自身を守るための具体的な対処法をお伝えしたい。
1、「刑事事件の不起訴」は、被害の否定ではない
今回のケースのように、警察に被害届や告訴状を出しても「嫌疑不十分」などで不起訴処分になることがある。しかし、本編でも触れたように、刑事事件の不起訴は「裁判で100%有罪にできるだけの証拠が足りなかった」という手続き上の判断に過ぎない。「被害が嘘だ」と認定されたわけでも、「相手の非が完全に否定された」わけでもない。自分を責めたり、絶望したりする必要はない。
2、「大金を請求された」からといって払う必要はない
相手や相手方弁護士などから「通知書」や「通告書」が届き、数百万円もの損害賠償や謝罪を要求されると、パニックになってしまいがち。しかし、「相手が請求してきた金額」をそのまま支払う義務はない。相手が一方的に言い値を付けているだけで、法的根拠が薄い「脅し(法的恫喝)」のケースも多々ある。まずは落ち着いて、相手の要求をそのままのまないようにする。
3、弁護士に相談すべきか
理不尽な要求に対抗するには専門家の力を借りることが最善だが、費用面の問題もある。それぞれの特徴を理解しておくことが大切になる。
○自分で対応する場合(本人訴訟など)
メリット:弁護士費用がかからない。
デメリット(リスク):相手、あるいは相手方代理人弁護士から、さらなる心理的圧迫を受ける可能性がある。書面の書き方や手続きのハードルが高く、精神的な消耗が大きい。
○弁護士に依頼する場合
メリット:相手方との交渉をすべて代行してもらえるため、相手と直接やり取りする怖さやストレスなどから解放される。法的に正しい反論をしてくれる。
デメリット:相談料(相場は30分5000円程度、初回無料の窓口もある)、着手金(10〜30万円)、成功報酬などが発生する。費用が払えない場合は、収入基準を満たせば「法テラス」の弁護士費用立て替え制度(分割払い可能)を利用できる。
4、ハラスメントを「労災」として認めさせるための基準
職場のハラスメント行為によって精神疾患を患ったり、追い詰められた場合、労災を申請して国に認めてもらう方法がある。主な基準は「業務による強い心理的負荷があった(暴行、嫌がらせ、理不尽な退職強要など)」、「精神疾患を発症している」、「業務以外の要因(個人の家庭環境やもともとの持病など)が主因ではない」――等々。
※万が一、最悪の事態に至ってしまった場合でも、遺族が労災を申請し、認定を勝ち取る道は残される。
5、事前にすべきこと
記録を残すのは非常に有効。しかし、相手方が「やっていない(言ってない)」と抵抗する可能性もあるため、「客観的な証拠」が、より重要になる。例:暴言・暴力などに対する録音・録画や、暴力によって生じたケガ・アザの写真を撮ったり、医師の診断を受け、「診断書」を書いてもらうなど。


)_eyecatch-185x130.jpg)






















