政経東北|多様化時代の福島を読み解く

【第5弾】土壌汚染の矮小化を図る昭和電工【喜多方市】

 土壌・地下水汚染を引き起こしている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所が、土壌汚染対策法に基づき敷地内の土壌汚染原因とみなしている8物質のうち、4物質しか住民に報告していないことが分かった。同社が県に提出した文書と住民への説明の食い違いから判明。「住民に知らせなかったということか」という本誌の問いに同社は明確に答えていない。住民に知らせなかった4物質は、事業所敷地内でも周辺でも未検出か基準値内に収まり、深刻な汚染には発展していないが、住民は「隠蔽を図ったのではないか」と不信感を強めている。

※昭和電工は1月からレゾナックに社名を変えたが、過去に喜多方事業所内に埋めた廃棄物が土壌・地下水汚染を引き起こし、昭和電工時代の問題を清算していない。社名変更で加害の連続性が断たれるのを防ぐため、記事中では「昭和電工」の表記を続ける。

住民にひた隠しにした4種類の有害物質

汚染を除去する工事が進められている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所

 喜多方事業所の敷地内で土壌汚染を引き起こしているとみなされている有害物質はで示した8物質。シアン、ヒ素、フッ素、ホウ素は2020年に計測し、基準値を超える汚染が判明。残りの六価クロム、水銀、セレン、鉛は、実際の分析では基準値超過はみられないが、使用履歴や過去の調査からいまだに汚染の恐れがある。敷地は土壌汚染対策法上、この8物質により「土壌汚染されている」とみなされており、土地の変更を伴う工事が制限される。

昭和電工喜多方事業所敷地内で土壌汚染の恐れがある8物質

基準値を超過基準値を下回るor未検出
シアン六価クロム
ヒ素水銀
フッ素セレン
ホウ素



 ここで土壌汚染対策法の説明が必要になる。同法が成立したのは2002年。工場跡地の再開発などに伴い、重金属や有機化合物などによる土壌汚染が判明する事例が増えてきたことを背景に、汚染を把握・防止して健康被害を防ぐために制定された。汚染が判明した場合、その土地の所有者は汚染状況を都道府県に届け出なければならない。

 汚染が分かった土地の所有者には調査義務が生じ、期限までに調査結果を都道府県に報告する必要がある。昭和電工喜多方事業所の場合、2020年に同社が行った調査で汚染が判明し、同11月に公表。公害対策のため、大規模な遮水壁工事や汚染土壌の運搬などを迫られた。

 土壌汚染調査は、土地の所有者が環境省から指定を受けた「指定調査機関」に依頼して行う。喜多方事業所の場合、土地調査に関するコンサルティング大手の国際航業㈱(東京都新宿区)に依頼している。

 土壌汚染対策法が定める特定有害物質は、揮発性有機化合物からなる第一種(11種類)、重金属などからなる第二種(9種類)、農薬などからなる第三種(5種類)に分かれる。全部で25種類になる。

 喜多方事業所で土壌汚染が認められる8物質は全て重金属由来のものだ。戦中から約40年間、アルミニウム製錬工場として稼働しており、その過程で発生した有害物質を敷地内に埋めていたことで汚染が発生している。工場の生産工程で使用していたジクロロメタン、ベンゼンの有機化合物は、2020年にそれぞれ敷地内で計測したが、いずれも不検出だった。

 基準に適合していない場合は、土地の所有者は「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」に指定するよう都道府県に申請する。都道府県は周辺の地下水までの波及を把握し、住民が生活に利用して健康被害のおそれがある時は要措置区域に指定、汚染の除去を指示し、土地の所有者は期限までに必要な措置を講じなければならない。

 健康被害のおそれがない場合は、制限の少ない形質変更時要届出区域の指定のみで済み、工事などで土地に変化がある際に計画を届け出すればよい。

公文書で判明

 喜多方事業所は所有地の一部をケミコン東日本マテリアル㈱に貸している。届け出は同事業所が使用している土地と貸している土地に分けて申請され、全敷地が要措置区域と形質変更時要届出区域に重複して指定されている。汚染公表の2020年11月から5カ月後の21年4月に県から指定を受けた後、汚染除去の工事が始まった。有害物質が流れ込んだ地下水が敷地外に拡散しないよう敷地を遮水壁で覆い、地下水を汲み上げる方法だ。地下水は有害物質を除去し、薄めたうえで喜多方市の下水道や会津北部土地改良区が管理する用水路に流している。汚染土壌の運搬も進めている。

 喜多方事業所以外にも汚染された土地はある。都道府県は指定した土壌汚染区域の範囲を台帳に記して公開しなければならず、福島県では台帳の概要をホームページで公表している。詳細を知りたければ、県庁や土壌汚染対象地を管轄する各振興局で台帳を閲覧できる。

 筆者が喜多方事業所による「有害物質のひた隠し」に気づいたのは、この台帳を見たからだった。県に提出した文書では、冒頭に述べた8種類の有害物質で土壌汚染されていることを認めているが、住民には、「汚染が見つかったのは4物質」と事実の一部のみを説明し、残り4物質については汚染の恐れがあることを伏せていたのだ。

 「要措置区域台帳」を見ると、生産工程での使用や過去の調査の結果、汚染の恐れがあるとみなされたのは重金属由来の有害物質(第二種特定有害物質)のうち前述の8種類。試料採取等調査結果の欄は全て「調査省略」とある。しかし、結果は土壌溶出量、土壌含有量とも基準は「不適合」だった。

 調査省略なのに基準不適合とはどういうことか。それは、「土壌汚染状況調査の対象地における土壌の特定有害物質による汚染のおそれを推定するために有効な情報の把握を行わなかったときは、全ての特定有害物質について第二溶出量基準及び土壌含有量基準に適合しない汚染状態にある土地とみなす」(土壌汚染対策法規則第11条2項)との規定に基づく。喜多方事業所は、調査を省略したことで「汚染状態にある」とみなしているわけだ。

 さらに規則では、汚染のおそれのある物質を使用履歴などを調べ特定した場合はその物質の種類を都道府県に申請し、確定の通知を受けた物質のみを汚染状態にあるとみなすことができる。試料採取の調査を省略する場合は、本来は前述の規定に従い、土壌汚染対策法で定めた全25物質により汚染されていると認めなければならないのだが、喜多方事業所は工場での使用履歴や過去の調査から汚染の原因物質を特定したため、書類上は8物質のみによる汚染で済んだということだ。

 台帳には、喜多方事業所が調査を省略した理由は「措置の実施を優先するため」とある。時間をかけて調査するよりも、汚染状態にあることを受け入れて本来の目的である公害対策を優先するという意味だ。

 ある周辺住民は、

 「8物質による土壌汚染が認められているなんて初めて聞きました。住民に知らされているのは、そのうちフッ素などの4物質だけです。これら4物質は土壌を計測した結果、実際に基準値超えが出たにすぎません。私たちが知らされた4物質以外に六価クロム、水銀、セレン、鉛があるとは聞いていません」
 と話す。

「住民軽視の表れ」

 喜多方事業所にも住民に説明したかどうか確認しなければなるまい。同社は「書面でしか質問を受け付けない」というので、今回も期限を設けてファクスで質問状を送った。有害物質8種類に関する質問は以下の3項目。

 ①8物質で土壌汚染されていると自社でみなしている、という認識でいいのか。

 ②六価クロム、水銀、セレン、鉛について、土壌や水質における基準値超過があったか。

 ③「土壌汚染対策法上は事業所敷地内が六価クロム、水銀、セレン、鉛による土壌汚染状態にある」という事実を住民に伝えなかったという認識でいいのか。

 「事実」は県の公文書から判明している。喜多方事業所には本誌の認識に異議や反論がないか尋ねたつもりだったが、返答は「内容が関連しますのでまとめて回答させて頂きます」。筆者は総花的な答えを覚悟した。以下が回答だ。

 「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり、土壌汚染対策法に定められている土壌汚染状況調査の方法により、有害物質について使用履歴の確認および既往調査の記録の確認を行い、当該8物質を汚染のおそれのある物質として特定しております」

 土壌汚染対策法上、喜多方事業所が取った手続きを述べているに過ぎず、質問に正面から答えていない。①の有害物質8種類については「汚染のおそれのある物質」と認めている。ただし、同法施行規則に従うと「汚染状態にあるものとみなされる」の表現が正しい。

 ②の4有害物質については、これまで土壌や地下水を計測して基準値を超えたわけではないため、喜多方事業所は汚染原因として住民には知らせてこなかった。筆者が2022年9月時点までに同社が県に提出した文書を確認したところ、同社はこの4物質について汚染状況を計測・監視しているが、基準値超過はなかった。問題のない回答まで避けるということは、同社はもはや自社に都合の良い悪いにかかわらず何も情報を出すつもりがないのだろう。

 ③については、「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり」で済ませ、本誌の「住民に伝えたか伝えていないか」との問いに対する明言を避けている。前出の住民の話からするに、「有害物質8種類で土壌汚染の恐れがある」という事実は伝わっていない可能性が高い。

 本誌はさらに、「住民に伝えなかった」という認識に反する事実があれば、住民への説明資料と伝えた日時を示して教えてほしいと畳みかけたが、回答は

 「個別地区に向けた説明会の質疑応答を含め多岐にわたりますのでその日時や資料については回答を控えさせていただきます」

 「伝えた」と明言しない点、「伝えなかった」という認識に反する根拠を提示しない点から、喜多方事業所が土壌汚染の恐れがある有害物質の種類を住民に少なく報告し、汚染を矮小化している可能性が高い。 

 法律の定めに従い、県には汚染の恐れがある物質を全て知らせている一方、敷地周辺に波及した地下水汚染により実害を被っている周辺住民にはひた隠しにしてきたことを「ダブルスタンダードで、住民軽視の表れだ」と前出の住民は憤る。

 しかし、住民軽視は今に始まったことではない。開示請求で得た情報をもとに取材を進めると、より深刻な事実をひた隠しにしていることが分かった。

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