【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

 総合南東北病院などを運営する一般財団法人脳神経疾患研究所(郡山市八山田七丁目115、渡辺一夫理事長)が移転・新築を目指す新病院の輪郭が、県から入手した公文書により薄っすらと見えてきた。


 県は昨年11月、郡山市富田町字若宮前の旧農業試験場跡地(15万4760平方㍍)を売却するため条件付き一般競争入札を行い、脳神経疾患研究所など5者でつくる共同事業者が最高額の74億7600万円で落札した。同研究所は南東北病院など複数の医療施設を同跡地に移転・新築する計画を立てている。

 同跡地はふくしま医療機器開発支援センターに隣接し、郡山市が医療関連産業の集積を目指すメディカルヒルズ郡山構想の対象地域になっている。そうした中、同研究所が2021年8月、同跡地に新病院を建設すると早々に発表したため、入札前から「落札者は同構想に合致する同研究所で決まり」という雰囲気が漂っていた。自民党の重鎮・佐藤憲保県議(7期)が裏でサポートしているというウワサも囁かれた(※本誌の取材に、佐藤県議は関与を否定している=昨年6月号参照)。

 ところが昨年夏ごろ、「ゼビオが入札に参加するようだ」という話が急浮上。予想外のライバル出現に、同研究所は慌てた。同社はかつて、同跡地にトレーニングセンターやグラウンド、研究施設などを整備する計画を水面下で練ったことがある。新しい本社の移転候補地に挙がったこともあった。

 ある事情通によると「ゼビオはメディカルヒルズ郡山構想に合致させるため、スポーツとリハビリを組み合わせた施設を考えていたようだ」とのこと。しかし、入札価格は51億5000万円で、同研究所を23億円余り下回る次点だった。ちなみに県が設定した最低落札価格は39億4000万円。同研究所としては、本当はもっと安く落札する予定が、同社の入札参加で想定外の出費を強いられた可能性がある。

 「ゼビオは同跡地にどうしても進出したいと、郡山市を〝仲介人〟に立て、同研究所に共同で事業をやらないかと打診したという話もある。しかし同研究所が断ったため、両者は入札で勝負することになったようです」(前出・事情通)

 この話が事実なら、ゼビオは同跡地に相当強い思い入れがあったことになる。

 それはともかく、本誌は同研究所の移転・新築計画を把握するため、県に情報開示請求を行い、同研究所が入札時に示した企画案を入手した。半分近くが黒塗り(非開示)になっていたため詳細は分からなかったが、新病院の輪郭は薄っすらと知ることができた。

 それによると、同研究所は医療法人社団新生会(郡山市)、㈱江東微生物研究所(東京都江戸川区)、クオール㈱(東京都港区)、㈱エヌジェイアイ(郡山市)と共同で、総合病院と医療関連産業の各種施設を一体的に整備し、県民の命と健康を守る医療体制を強化・拡充すると共に、隣接するふくしま医療機器開発支援センターと協力し、医療関連産業の振興を図るとしている。

 5者の具体的な計画内容は別掲の通りだが、県から開示された企画案は核心部分が黒塗りだった。ただ、企画案を見ていくと「新興感染症や災害への対応」という文言がしばしば出てくる。

5者の計画内容

脳神経疾患研究所総合南東北病院、南東北医療クリニック、南東 北眼科クリニック、南東北がん陽子線治療センター等を一体的に整備。
新生会 南東北第二病院を整備。脳神経疾患研究所と新生会は救急医療、一般医療、最先端医療を継ぎ目なく提供。また、ふくしま医療機器開発支援センターの研究設備を活用し、新たな基礎・臨床研究につなげる。同センターの手術支援設備や講義室等を活用し、医療者の教育と能力向上も目指す。
江東微生物研究所 生化学検査、血液検査、遺伝子検査、細菌・ウ イルス検査などに対応できる高度な検査機関を 整備。検査時間の迅速化や利便性を向上させ、県全体の検査体制充実に貢献する。
クオール     がん疾患などの専門的な薬学管理から在宅診療まで、地域のニーズに対応できる高機能な調剤薬局を設置・運営。併せて血液センターや医薬品卸配送センターなども整備する。
エヌジェイアイ  医療機器・システム開発等の拠点となる医療データセンターを整備。
※5者が県に示した企画案をもとに本誌が作成。



 新型コロナウイルスや震災・原発事故を経験したことで、新病院は未曽有の事態にも迅速に対応できる造り・体制にすることを強く意識しているのは間違いない。また、同研究所に足りない面を江東微生物研究所やクオールに補ってもらうことで、より高度な医療を提供する一方、ふくしま医療機器開発支援センターを上手に活用し、県が注力する医療関連産業の集積と医療人材の育成に寄与していく狙いがあるのではないか。

 事実、企画案には《高次な救急患者を感染症のパンデミック時でも受け入れ可能とする構造・設備・空間を実現》《がん陽子線治療をはじめとした、放射線治療やロボット手術を駆使し、低侵襲の最先端医療を福島県外や海外からの患者にも提供》と書かれている。

 一方、土地利用計画を見ると、医療関連施設以外の整備も検討していることが分かる。

 例えば、隣接するJR磐越西線・郡山富田駅を念頭に駅前広場、同広場から郡山インター線につなぐ構内道路、各種テナントを入れた商業施設、既存斜面林を生かした公園などを整備するとしている。また新病院と各種施設も、建て替え・増築時に医療機能がストップしないような配置にしていくという。

 開発スケジュールは黒塗りになっていて分からないが、同跡地の所有権が同研究所に移った後、2023~28年度までの期間で着工―開設を目指すとしている。

脳神経疾患研究所が落札した旧農業試験場跡地

 ここまでが県から開示された企画案で分かったことだが、新病院の輪郭をさらにハッキリさせるため同研究所の法人本部に問い合わせると、

 「現時点でお答えできる材料はありません。現在、設計を行っているところで、それが完成すると詳細な計画も明らかになり、会見も開けると思います」(広報担当者)

 とのことだった。

 気になる事業費、資金計画、収支見通しは5者ごとに示しているが、こちらも黒塗りになっていて不明。ただ「事業費は総額600億円と聞いており、同研究所内からも『そんな巨費を捻出できるのか』と不安が漏れている」(前出・事情通)。今後は自己資金、借り入れ、補助金などの割合が注目される。


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