県議選「選挙漫遊」体験リポート

 〝選挙漫遊〟という言葉をご存知だろうか。本誌連載中の選挙ライター・畠山理仁さんが提唱する選挙ウオッチングのあり方で、各地の選挙戦の現場に足を運び、各陣営がどんな主張をするのか〝観戦〟するというものだ。11月に投開票が行われた県議選で、本誌も選挙漫遊にチャレンジしてみた。

4市39候補 直撃取材で見えたこと

 11月18日、選挙漫遊スタイルの取材を続ける畠山さんを追ったドキュメンタリー映画「NO 選挙,NO LIFE」が公開された。本誌11月号では、映画公開記念として畠山さん、前田亜紀監督、大島新プロデューサーへのインタビューを行ったが、選挙取材にかける畠山さんの情熱に触れ、居ても立っても居られなくなった。

 通常、本誌で選挙について取り上げる際は、各陣営の関係者や地元政治家、経済人に動向を聞き、候補者の人柄や選挙戦に至った背景、得票数の見通し、選挙後の見立てなどをリポートする。

 それに対し、選挙漫遊はとにかく全候補者の演説会場に足を運び、演説に耳を傾ける。できるならば演説終了後に直接会って、手ごたえを聞いたり演説の感想を伝える。

 候補者に先入観を持たずフラットに取材する機会があってもいいのではないか――。こう考えた本誌は、直近で予定されていた11月12日投開票の福島県議選で、選挙漫遊に挑戦してみることにした。

 といっても、県内全選挙区・全候補者の陣営を回りきれるほどの人員的・時間的余裕はないので、福島市、郡山市、会津若松市、いわき市各選挙区の立候補者39人に対象を絞り、手分けして演説現場に足を運んだ。

 本誌初の試みはどのような結果になったのか。各担当者のリポートを掲載する。

福島市選挙区(定数8―立候補者9) 

福島市選挙区の結果  投票率39.41%

14912半沢 雄助(37)立新
12007西山 尚利(58)自現
11597大場 秀樹(54)無現
10911宮本しづえ(71)共現
9909伊藤 達也(53)公現
8288佐藤 雅裕(57)自現
7949渡辺 哲也(47)自現
6901誉田 憲孝(48)自新
6330高橋 秀樹(58)立現

高橋氏の落選

高橋秀樹氏
高橋秀樹氏

 「決まった場所と時間の街頭演説をしない」と話していた高橋秀樹氏が落選した。「政策を訴えても誰も聞いていなければ届かないだろうな」と選挙漫遊をやっていて感じたので、落選の結果に納得感があった。一方で、西山尚利氏は立ち止まることすらせず、ただただ選挙カーを走らせるスタイルで2位当選となった。ここから導き出されるのは「どんな政策を訴えるか」は得票数に影響しない、という仮説だ。

 多くの候補が、実現すべき政策として、物価高や人口減少の対策を挙げていたが、その2つの問題は県議レベルで解決できることなのか、疑問に思うところもあった。主張する政策は投票結果に関係ないのではないかという思いは強まった。

トップ当選は37歳の新人

半沢雄助氏の個人演説会の様子
半沢雄助氏の個人演説会の様子

 もう一つ印象に残ったのは半沢雄助氏がトップ当選となったこと。いわき市選挙区の山口洋太氏も1位に1票差の2位当選となった。37歳という年齢が評価されたのか、現職への期待の薄さの表れか。

 そもそも県議選レベルで、有権者は党派によって投票先を決めるのかどうかも疑問を持っている。市議選では友達や知り合いなどに投票するだろう。では、県議選では誰に投票しようと考えるのだろうか。できるだけ近い地域の人なのか、自分が支持する党派の人なのか。

分かれた取材対応

 全陣営の選挙事務所に取材を申し込んだが、快く引き受けてもらったところとそうではないところに分かれた。こちらの都合でお願いしていることは重々承知しているが、「2、3分も時間が取れない」と話す様子には誠実さが感じられなかった。

 選挙スタッフの質にも言及しておく。取材の可否もそうだが、街頭演説の場所も正確に伝えられない人がいた。ボランティアでやっているのかもしれないが、せめて〝伝書鳩〟くらいの役割は果たしてほしかった。

「5人に2人」の投票率

 福島市選挙区の投票率は39・41%。投票に行ったのは5人に2人という計算だ。

 YouTubeライブをするから「暇なら見て」と2つのグループラインに送った。1つは有権者である地元の小学校時代の友人のグループ。もう1つは大学時代の東京の友人のグループ。当然ながら親密度はそれぞれ違うが、前者は同じ場所に住んでいるのに全く反応がなかった。一方で、東京の友人は、面白がってユーチューブを「全部見た」と言ってくれた。

 私自身への興味のなさか、政治に対する関心のなさかは分からない。政治に対する嫌悪感や感度のなさなのか。もしかしたら、特定の候補者への勧誘に思われた可能性もある。

 いずれにせよ、今後も選挙漫遊を定期的に行い、観察していく必要がある。(佐藤大)
 

郡山市選挙区(定数10―立候補者12) 

郡山市選挙区の結果  投票率32.37%

11526椎根 健雄(46)無現
10671神山 悦子(68)共現
10422今井 久敏(70)公現
9557鈴木 優樹(39)自現
7866佐藤 憲保(69)自現
7012長尾トモ子(75)自現
6684佐久間俊男(68)無現
5665佐藤 徹哉(55)自現
5516山田平四郎(70)自現
4886山口 信雄(57)自現
2776髙橋  翔(35)諸新
1544二瓶 陽一(71)無新

 11月3日夕方に全候補者(12人)の事務所に電話をかけ、「5、6日のいずれかで、街頭演説や個人集会などの予定があれば教えてほしい。その様子を取材させてもらったうえで、終了後に5分くらい、次の予定があるならもっと短くてもいいので、候補者への個別取材の時間を設けてほしい。両日に街頭演説や個人集会などの予定がなければ、事務所で取材させてほしい」と依頼した。

 その時点で、街頭演説や個人集会などの予定が把握できた、あるいは事務所での取材のアポイントが取れたのが10人。計ったように5日と6日で半々(5人ずつ)に分散した。もっとも、時間が被っていた人もいたので、その場合は手分けして取材に当たった。

 残りの2人は流動的だったが、どちらも「お昼(12時から13時)は一度事務所に戻ると思う」とのことだったので、「5日か6日のお昼を目安に事務所に行くか電話をする」旨を伝えた。

 こうして取材をスタート。1人目からちょっとしたトラブルが発生した。街頭演説の場所の近くにクルマを停められるところがなく、少し離れたところにクルマを停めなければならなかった。約1㌔のダッシュを余儀なくされたが、何とか街頭演説の様子を動画・写真に収めることができた。

 それ以外は、大きな問題もなく、2日間かけて、比較的スムーズに全候補者に会うことができた。

 郡山市は定数10に12人が立候補した。現職10人、新人2人が争う構図だったが、有権者は「どうせ、現職が安泰なんでしょ」といった感じで、さほど関心が高まらなかった。投票率32・37%がそれを物語っている。トップ当選者でも、有権者全体で見たら4%ほどの支持しか得ていない。

 ある候補者は「選挙戦を通して、自分に対してということではなく、政治というものに対して、有権者の目が厳しいと感じる。それだけ、政治(政治家)への信頼が薄いということで、それを是正しなければならない」と語っていた。これは政治家に問題があるのか、有権者の意識の問題なのか、それとも選挙のシステムに問題があるのか。おそらく、そのすべてだろう。(末永)

会津若松市選挙区(定数4―立候補者5)

会津若松市選挙区の結果  投票率40.74%

12044水野さち子(61)無元
6851佐藤 義憲(48)自現
6689佐藤 郁雄(60)自現
6604宮下 雅志(68)立現
6090渡部 優生(62)無現

 会津若松市選挙区(定数4)に立候補したのは5人。結果を見ると、元職の水野さち子氏が1人だけ大きく得票し(1万2044票)、他の4候補は6000票台の団子レースとなった。水野氏は7月の会津若松市長選で落選したとはいえ1万3000票以上得票しており、他の4候補より顔と名前が浸透していたことが奏功したようだ。

 筆者が見た街頭演説では国道49号の交差点で行われたこともあり足を止める市民は皆無だったが、車中から水野氏に手を振る人が結構いて、それに対し水野氏が「ありがとうございます!」と答えるシーンが何度もあった。別の交差点でもマイクを持ちながらドライバーに笑顔で手を振る水野氏の姿を見かけた。演説を直接聞いてもらうことはなくても、市民のリアクションの良さから「いける」という手ごたえを感じていたのではないか。

 これとは対照的に自民党候補の佐藤義憲氏と佐藤郁雄氏は、減税政策や政務三役の相次ぐ不祥事で内閣支持率が低迷していることもあり、強い危機感を持って選挙戦に突入したはずだ。事実、街頭演説後に申し込んだ候補者へのインタビューでは、佐藤憲氏は2、3分答えてくれたものの、佐藤郁氏は「当落線上にいる厳しい選挙戦で、今は5分でも10分でも時間が惜しい」とたった数分の取材でさえ「申し訳ないがお断りしたい」(選挙スタッフ)と悲壮感を漂わせていた。結果は3位当選だったが、落選した渡部優生氏とわずか600票差を考えると、陣営の情勢分析は的確だったことになる。

 その渡部氏と4位当選の宮下雅志氏は、いずれも立憲民主党の小熊慎司・馬場雄基両衆院議員が応援に駆け付けていたが、自民党に逆風が吹く中でも街頭演説や個人演説会では一定の熱量を感じるにとどまり、同党に取って代わるまでの勢いは見られなかった。立憲民主党への期待の薄さと「それだったら水野氏の方が期待できる」という市民が多かったことが結果からうかがえる。

 総じて言えることは、地方の選挙では車を走らせながら候補者の名前を連呼するやり方が普通で、街頭演説に耳を傾ける有権者はほとんどいない。ただ候補者が話している内容は、なるほどと思わせるものも結構ある。「政治家はなっていない」と言うのは簡単だが、候補者を磨き上げるには、有権者自身が彼らの言動に注目し、実際の政治活動と齟齬があれば「言っていたこととやっていることが違う」と厳しく指摘する必要がある。その入口として、今までスルーしてきた候補者の街頭演説に注目してはどうだろうか。選挙漫遊を終えての感想である。(佐藤仁)

いわき市選挙区(定数10―立候補者13)

いわき市選挙区の結果  投票率39.54%

10278矢吹 貢一(68)自現
10277山口 洋太(33)無新
8350安田 成一(55)無新
8130真山 祐一(42)公現
7960木村謙一郎(48)自新
7894鳥居 作弥(49)維元
7884鈴木  智(50)自現
7812安部 泰男(66)公現
7629古市 三久(75)立現
7484宮川絵美子(77)共現
6533西丸 武進(79)無現
6066青木  稔(77)自現
5722吉田 英策(64)共現

 地元の選挙通でも「誰が落ちるのか分からない」と語るほどの激戦区となったいわき市選挙区。

 各候補の街頭演説はヨークベニマルやマルトといった市内各地の商業施設前で予定されていた。約1232平方㌔と広大な面積の選挙区ということもあり、手分けして市内を駆けずり回った。

 アポなし直撃取材だったにもかかわらず、各候補は快く応じてくれた。唯一対応してもらえなかったのが矢吹貢一氏。街頭演説・個人演説会を行わず、選挙カーを走らせるスタイルで、トップ当選を果たした。当選確実なので、自身の選挙活動を控えめにして、他の自民党候補のサポートに回っていたのかもしれない。結果的に自民党は議席を1つ減らした。

 演説で多かったテーマは水害対策と医師不足。各陣営を回り続けるうちに、いわき市の課題が自ずと見えてきた。これこそ選挙漫遊の魅力だ。

 手応えを尋ねると、「激戦だが、有権者の盛り上がりは感じられない」と話す候補者がほとんどだった。実際、いわき市選挙区の投票率は39・54%。前回の県議選は令和元年東日本台風の影響で投票率が落ち込んだとされるが、そこからわずか0・41ポイントの増加に留まった。

 街頭演説の聴衆も数人という陣営がほとんどだったが、公明党候補者の演説に関しては山口那津男代表が応援に駆けつけたこともあり、多くの支持者が集結していた。その結果、2議席を維持。固定票を持つ候補者(政党)の強さを実感した。

 れいわ新選組推薦の無所属・山口洋太氏はトップの矢吹氏に1票差に迫る1万0277票を獲得。日本維新の会から立候補した元職・鳥居作弥氏は6位当選を果たし、同党は県議選で初の議席を確保するなど、既存政党以外の勢いが感じられた。山口氏の演説会場には平日にもかかわらず聴衆が集まっていたのが印象的。「医師不足解消のため、医師が自ら立ち上がった」というインパクトが強かったのだろう。

 一方で、西丸武進氏、青木稔氏ら多選のベテラン議員は落選の憂き目を見た。両氏の個人演説会には応援弁士が駆けつけ、力強く支持を訴えていたが、危機感のあらわれだったのかもしれない。

 畠山さんからは事前に「過重労働にお気を付けください」と言われていた。取材中、特に疲れは感じなかったが、全候補者を取材し終えると一気に体が重くなり、数日間ぐったりしていた。〝選挙ハイ〟になっていたのかもしれない。 (志賀)

   ×  ×  ×  ×

 最後に触れておかなければならないのは、県議の役割と選挙の意義だ。国と市町村の間に位置し、「中二階」とも例えられる県議。与野党相乗りの「オール福島」体制で当選を重ねる内堀雅雄知事のもと、県議会は実質的に執行部の追認機関となっており、存在感は希薄だ。報酬は年間数十日勤務で約1400万円。議会出席や視察・調査時に支給される旅費、政務活動費、県の持ち株の関係で関係会社の役員に就いた際の報酬など、〝余禄〟がとにかく多い。

 その是非も含め問われる機会が県議選なのだが、関心は高まらず、それぞれがどのような主張をしている人なのか、把握もされていない。今回の県全体の投票率はわずか40・73%。約6割が有権者としての権利を行使していないと考えるとあまりにもったいない話だ。

 ふらっと選挙の現場に足を運び、演説に耳を傾けるだけで、その選挙区や各候補者に対する〝解像度〟が高まる。そうすることで、選挙区の課題や対立構図なども自ずと見えてきて、より選挙や政治を楽しめるようになる。もし近くで選挙が行われるときは、選挙漫遊に挑戦してみてはいかがだろうか。

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