
武塙麻衣子 たけはな・まいこ
1980年神奈川県生まれ。作家。立教大文学部卒。2024年「酒場の君」(書肆侃侃房)で作家デビュー。「西高東低マンション」(講談社)発売中。短編連作小説「一角通り商店街のこと」(小学館)が7月16日に発売。
※photo by Yusuke Nakanishi
四皿め 福島市・パセオ通り「バン才」
「来福お待ちしています」というメールが政経東北のKさんから届いた。それにしても肉豆腐を食べるためだけに福島取材というのはちょっと贅沢すぎやしませんか、と思いつつ「楽しみです」と返信。せっかくなので政経東北で連載されている斎藤美幸さんにお会いしたいし金水晶の酒蔵見学も行きたい、と話すと斎藤さんと政経東北の方々のご厚意により連れて行ってもらえることになった。
出発前日、わくわく荷物を準備して八時半には寝てしまった。着信履歴とメールに気がついたのは、猫に起こされた夜中のことだ。なにごとだろう、と確認してみると、酒蔵見学の前に酒米の田植えを見ませんか、というお知らせだった。実際参加するかどうかはまだわかりません、とあり、服装や道具については今から斎藤さんに確認するわけにもいかないので(時計を見たら0時半だった)必要なものがあれば当日どうにかするのでとりあえずそのまま来てくださいとのこと。今年の二月、ある文芸誌の取材で佐賀に蓮根を掘りに行った。その時は、ゴム製のオーバーオールと長靴と長手袋をお借りして腰まで泥の中に埋まったのだが、いくらなんでもあれほどではないだろうと思いながら、起きていって膝までめくることのできるジャージと汚れてもよいウィンドブレーカーをとりあえずくるくる丸め、リュックサックの底にしまった。
新横浜駅から新幹線に乗る時、必ず売店で買うのは「そば屋の天むす」で東京駅を使って遠出する時に買うのは「国技館焼き鳥」。今回は、焼き鳥の他にさっと一本お茶割りも買った。予想に反して福島までの間、新幹線の席はほぼ満席。私の席にサラリーマンの男性がつかつか歩いてきて「席、確認させてもらえますか」と言われたので一瞬ぎょっとしたけれど、私のチケットは合っていた。親切な隣席の女性が「ほら、私たちのチケットは○○号って書いてあるでしょ」と一緒になって見せてくれた。恐らく彼が間違えて一本早い新幹線に乗ってしまったのだろう。車掌さんに連れられて後ろの方へ消えていった。
「(援護射撃を)ありがとうございました」
と頭を下げると、女性はにっこりして「良かったわね」と言ってくれた。本当に良かった。
福島駅で落ち合ったKさんが、私の行きたかった書店まで送ってくださるというので、お言葉に甘え、車に乗せてもらった。陽差しがかなり厳しく、バスと歩きでなんとかなるだろうと思っていた私はとても甘かったということがすぐにわかった。とても素敵なはなみずき書店については、別の著書で触れることとします。
さて図書館に用があるKさんとはここで別れ、私は街へ戻ることに。いったんホテルに行き、チェックインをすませ、預かっていてもらったリュックサックをしょって、十四階の部屋へ。荷物を整理して一息ついたら恒例の街散歩。この街になんの関係もない私が身軽にひとりでうろうろする。旅の中で、この時間が一番楽しい。西口から東口への地下通路を歩き、美術館のポスターを眺め、三人ぐらいの少年が大量の袋菓子が入ったビニール袋を持って前を行くのをゆっくり見ながら歩いた。まずはお菓子を買おうと思っていたので、中野屋菓子舗を目指す。豆大福とずんだ大福を買い、手前に並んだ巻きも香りもとてもよいクロワッサンを横目に店を出る。お次は太陽堂。お土産のむぎせんべいを買い「ご年配の方だとやはり(お煎餅を齧るのは)難しいでしょうか」と質問すると、笑顔の素敵な店員さんがさらりと答えてくださった。
「ゆっくりしゃぶっていると味が出るとか、噛めている内は元気! なんておっしゃってくださる方が多いんですよ」
やって来てまだほんの数時間だけれどなんだかここはすごくいい街な気がする。嬉しい気持ちで道路を渡ると目の前に「ふるよき」と白い字の看板がかかった角打ちを見つけた。中がよく見えなかったけれどとりあえず入ってみる。ひょいっと顔を覗かせた店員の女性は明るく、中で先に飲んでいた女性も気さくな人だった。せっかくなので福島のお酒を飲んでみよう、とあぶくまを一杯注文し、運ばれてきたお通しが梅干しなことに驚いた。へーと思いながらひとくち齧ってみれば、なるほど塩気と酸味でお酒が進む。楽しくなってきて、
「あの、この辺りで肉豆腐というとどこか思い浮かぶお店ありますか」と訊いてみた。二人は首を傾げ、それでも、あそこはどうかな、という一軒を教えてくれた。昼間Kさんに持たせてもらった地図を確認すると私が予約をしている店のそばに一軒肉すいとおいなりさんのお店がある。なるほど、とメモをとりつつ、東横インの朝食でおじさんがみんな列になってソーセージを待っている光景が面白いよという話に笑って梅干しをまたひと齧り。このお通しはとてもよい。
ついのんびりしてしまったけれど、時計を見ればもうバン才の予約時間が迫っていた。角打ちのお二人にお礼を伝えて、いよいよ今夜の肉豆腐の店へ。政経東北の方たちも、友人知人も「福島で肉豆腐?」と首を傾げていて、いやいや一杯もないってことはないでしょう、と思っていたらやっとのことで出会ったのがパセオ通りのバン才。名物のおばんざいの他に逸品「バン才名物! 国産牛すじ肉豆腐」を発見した。カウンターの一番奥に通されたので、店内の様子がよく見える。おしゃれな音楽、いい匂いのお手拭き。モデルのようにしゅっとした店員さん。テーブル席では歓送迎会だろうか、盛り上がる人々。はなみずき書店で購入した陳思宏『二階のいい人』を読み始めて少しすると、私の肉豆腐がやってきた。ほかほか湯気のたつかなりのこってりである。ほうじ茶ハイボールがさらりとその濃さを流してくれるので、また一口もう一口と進んでしまう。こんにゃくが入っていて美味しい。これはごはんかパンがほしいなあ、たれを全部拭うためのと思い始めたところで桜焼酎のサワーと季節野菜のピクルスを注文。セロリ、たけのこ、にんじん、スナップえんどう、またセロリ。さくさく無心で齧った。ごちそうさまでした。お辞儀してまだ少し明るい空の下、店を出る。程よい酔いと活気の出てきた街。暑くも寒くもなく、これは絶好の街散策時間。

























