2023年2月まで相馬市議を9期務めた女性が、自身が理事を務め会計を担っていた一般社団法人で不適切な管理をして財産を流出させたとして、同法人から使途不明金約1億7340万円の損害賠償を求める訴えを地裁相馬支部に起こされている。女性は健康上の理由で議員辞職後、県外のグループホームに入居。同法人は流出先として夫と息子にも賠償を求めているが、2人は流出への関与と責任を否定している。同法人の全容を知る立場にいながら、職員たちへの説明がないまま病床に伏した元共産市議の人物像に迫る。(小池航)
党員と施設同僚・部下が語る人物像
昨年12月6日付の福島民友に次のような記事が載った。
《障害福祉サービス事業などを展開している一般社団法人「ひまわりの家」(相馬市)で、約1億7340万円の使途不明金があることが5日、関係者への取材で分かった。同法人は、会計業務を担っていた元理事の女性(74)が不適切な管理で財産を流出させたとして、女性らに同額の損害賠償を求めて地裁相馬支部に訴えを起こした。提訴は9月27日付。
法人関係者によると、女性は2022年8月まで、会計業務を一手に引き受けていた。その後、女性から経理を引き継いだ担当者が、国民健康保険団体連合会から振り込まれた措置費を管理していた通帳を確かめると、各施設の運営に必要な金額より多くの額が引き出されていることが判明。16年4月~23年3月の7年分の決算書や帳簿類を確認すると、仮払金、立て替え金などの名目で計約1億7340万円が不明になっていた。
7年間に財産管理をしていたのは女性だけで、法人は女性側に説明を求めたが、納得できる回答を得られなかったという(以下略。年齢は当時)》
同記事では、女性と一緒に法人の理事を務めていた夫と息子も損害賠償を求められていると言及されていた。女性は相馬市議を9期務め、2023年2月に健康上の理由で辞職していたという。以上のことから、法人から使途不明金発生の責任を問われている元理事の女性は、前市議の村松恵美子氏(75)=共産党=であることが分かる。

1億円以上の使途不明金が見つかった一般社団法人「ひまわりの家」。その登記簿によると、法人は東日本大震災後の2012年に設立され、障害福祉サービス事業、地域生活支援事業、介護保険サービス事業、福祉有償運送事業、児童福祉法に基づく障害児通所支援事業などを行う。NPO法人「相馬市精神障害者の生活を支援する会」が前身で、2005年にNPO法人「ひまわりの家」、2012年に現在の一般社団法人へと発展してきた。
市内で居宅介護事業所「でんでん虫」や共生型福祉施設「どんぐり」、相談支援事業所「陽だまり」、共同生活援助事業所「プチトマト」などを運営する。現在の代表理事は漆山忍氏。登記簿によると、2023年6月16日に就任した。
法人が村松氏らを提訴してから半年が経った今年3月、相談支援事業所「陽だまり」に漆山氏を訪ねると「私です」と壮年の男性が出てきた。法人職員として働いており、2022年夏ごろに村松氏から会計業務を引き継いだという。
「会計を取り仕切っていた村松氏が健康上の理由から業務を離れ、引き継ぎました。その後、運営するグループホームの職員が施設利用者の財産を着服した問題が発覚し、対応に追われました。ひと段落してこれまでの会計を見直すと、額が合わない。弁護士も交え専門家の知見を借りて精査すると、多額の使途不明金が明らかになりました。数万円単位の話ではなく、1億円単位です。村松氏側に問い合わせたが説明も返金の意思も確認できなかったので、昨年9月に民事訴訟を提起し、損害賠償を求めています。刑事告訴も検討しています」(漆山氏)
職員が施設利用者の財産を着服した問題は、村松氏が責任を問われている使途不明金とは別件。2023年10月6日付の福島民友によると、相馬市の障害者向けグループホーム「プチトマト」の職員2人が2021~22年に知的障害のある施設利用者3人から現金計300万円以上を引き出し着服していた。職員2人は返金後に退職し、県は23年10月13日から3カ月間、同施設の新規利用者受け入れを停止する処分を科した。障害者への経済的虐待に対する措置だ。
社会福祉事業は、その公益性から多くは行政機関の補助金が充てられている。今回、発覚した使途不明金に補助金が含まれ、不正に使用された上、返還もされずにいれば、2年前と同じように行政処分を受けかねない。最悪、相馬地方で利用者の受け入れ先が減ることを意味し、使途不明金問題の行く末は地元の福祉問題に直結する。
実質1人で法人の会計担当

訴状には、使途不明金発覚の経緯が詳細に書いてある。
原告の一般社団法人「ひまわりの家」によると、村松氏は前身のNPO時代から中心人物で、一般社団法人立ち上げの際も中心的な役割を果たし、理事を務めた。漆山氏が代表理事と経理を引き継ぐ以前は村松氏が全て1人で経理を担当し、「以前の経理のやり方は、村松氏以外では夫を除いて誰もその状況を知らなかった」という。村松氏の夫も理事を務めていた。
訴状によると、村松氏は国民健康保険団体連合会から支給される金銭を管理しており、法人の口座に振り込まれた措置費を、いったん全て現金で引き出し、各施設に手渡ししていた。「措置費をどのように振り分けていたのかは一切不明」という。経理を引き継いだ漆山氏が通帳の中身を確認すると、各施設の運営に必要な額としては過大な額が引き出されていると感じ、実際に施設に交付された額との間に差額があるのではないかと疑った。
同法人が2016年4月~23年3月までの過去7年分の総勘定元帳を確認したところ、仮払金等の勘定科目について別表のような残高になった。訴状は「仮払金や立替金の残高が存在するということは、通帳から引き出された現金がどこかに保管されているか、流出していることを意味するが、現在法人の財産管理を行っている漆山らにおいて、保管されている現金は発見されておらず、法人の財産がどこかに流出していると考えるのが自然である」と結論付ける。要するに、1億円を超える金額が何に使われたか分からず、事情を知るのは経理を1人で担当していた村松氏以外に考えられないので責任を取って返せということだ。
ひまわりの家(原告)が算定した使途不明金
勘定科目 | 金額(円) |
仮払金 | 8,960,930 |
他事業への振替額 | 50,095,063 |
本部への振替額 | 19,101,609 |
立替金 | 22,797,790 |
施設準備利用料等積立金 | 72,463,208 |
計 | 173,418,600 |
流出先の一つは元職員の証言から、県外に暮らす息子と考えられるという。理事を務めていた夫については、介護タクシーの運転手とその事業所長を担当していた。「送迎費」名目で従業員に数万円配布している領収書が事業所に存在していた点については、法人は「受領のサインが全て同じ筆跡に見え、実際に支払われているのか疑わしい」と主張。法人は村松氏に加え夫、息子に連帯して賠償請求した。
法人はいきなり村松氏たちを訴えたわけではない。2023年3月ごろに、漆山氏が村松氏に電話で説明を求めると、「頭に来て悪いことをしてしまった。金額が分かったら教えてほしい」と述べたという。訴状には「(村松氏が)別の機会では『2000万円を返さなければならない』などと他の職員が複数在籍する場で発言している」ともある。
法人は仙台市の弁護士を通して村松氏と夫、息子に昨年6月10日付で使途不明金の補填をするよう書面で求めた。その後、提訴に至る。
昨年12月26日に地裁相馬支部で開かれた第1回口頭弁論では、村松氏の夫と息子が請求棄却を求める答弁書を提出し、争う姿勢を示した。村松氏の訴訟は分離されることになった。村松氏は健康上の理由から2023年2月に市議を辞職した後、県外のグループホームに入居している。今年3月中旬時点で訴訟代理人を雇わず、使途不明金を生じさせた責任を認めるかどうかは法廷で明らかにしていない。
夫は書面で「恵美子(村松氏)の経理のやり方、財産管理状況等を知らなかった」と反論。「当時の税理士や代表理事は把握していたと思われる」と述べている。自身が所長を務めていた介護タクシー事業所に不明瞭な領収書があったことについては「領収書作成に関与した事実はない」「従業員への給与支払いは法人からの振り込みで現金手渡しはしない」と主張した。妻の村松氏が法人の財産を流用した疑惑については「恵美子は財産を流用するような者ではないと信じているが、恵美子は重い病気に罹患しており、意思確認ができないので知ることができない」という。
息子は書面で、村松氏から流用金を受け取った事実はないとした上で、法人の訴えには「使途不明金が発生し、法人に損害が発生したことを立証しているに過ぎない」「会計処理不備の可能性もある」と反論した。
夫が語る村松氏の様子
筆者は3月下旬に村松氏の夫に電話した。今は県外にいるという。法人の使途不明金を巡り訴えられていることについて聞くと、
「私は本当に会計のことは分かりません。訴訟対応は弁護士の先生に一任しています」
村松氏の様子を尋ねると、
「妻は大病を患い、終末を迎えており、私は傍にいます」
訴訟と看病を抱える夫の元には、知人から「大丈夫か」と気遣う声が寄せられているという。最後に伝えたいことはあるかと聞くと、
「裁判がどのような結果になろうとも、私は会計のことは分かりません。『お前が使っただろう』というような判決は出ないと思っています。『使っていない』と疑惑が晴れるような判決が出るのが一番です」
と答えた。
夫の主張通りなら、1・7億円の使途不明金発生の真相を知るのは病床に伏す村松氏しかいないと思われる。現代表理事の漆山氏や元職員らに聞くと、一様に「村松氏が会計を担っていた」と答えた。法人はどのような統治体制だったのか。前代表理事の般若よし子氏を訪ねた。
「前に代表理事を務めていたのは私ですが、運営を担っていたのは村松氏です。彼女は相馬市議を務めていたので、法人が市の補助金を受けて福祉事業をしている関係上、代表理事に就くのを避けました。代わりに長く職員として働いていた私が代表理事に就きました。ただ、通帳を管理していたのは彼女で、決定権もほとんど握っていました」(般若氏)
般若氏は使途不明金について、法人の運営から離れた後に法人側から報告を受けて初めて知ったという。
「村松氏が健康上の問題を抱え、理事を辞めるのと一緒に、私たち古株も退いて世代交代を図りました。会計の実態は私も知らないんです」(同)
ある元職員は、同法人の会計が村松氏任せになっていた背景を語る。
「村松氏は圧が強く、他人の意見に耳を傾けないきらいがあった。古参の職員が助言しても『何でアンタに言われなくちゃならないのよ』と言い放ち、パワハラと指摘されかねない言動もあった」
一方で、
「面倒見がとても良かった。困った人を見たら放っておけない性分だった。暮らしぶりも質素。2度に渡る福島県沖地震で施設の大半が被害を受け、修繕費がかさんだ。さらに被災した職員たちを援助したことで(使途不明金が)積もり積もったのではないかというのがもっぱらの噂だ。議員報酬も法人の会計に充て、自分でも訳が分からなくなっていたのではないか」(同)
仮に困っている他者の援助が目的だったとしても、正当な手続きを経ないで法人の財産を持ち出し、しかも法人に損失を与えていたら背任だ。法人が使途不明金を抱えて訴訟に踏み切り、県も補助金不正使用に伴う行政指導の可能性も視野に注視する事態にあっては、本末転倒と言える。
後継の共産市議から見た人物像
村松氏が議員を辞職した後、同じ共産党系の候補として2023年11月の相馬市議選に立候補し、トップの得票数(1367票)で初当選した中島孝氏(69)に村松氏の人物像を聞いた。
「私も折れないタチなので、村松氏とは、やり合うことが度々あった。『知的障害者を支援する施設がまだまだ足りない』と事業拡大に躍起だった。『職員の給料を市職員並みにしないと』とも言っていた。面倒見が良いこともあって、街を歩けば相談事に応じる。あれだけの施設を抱える法人の運営指揮は、議員をしながらできるような仕事ではない。会計がルーズになり、積もり積もったのではないか。使途不明金を自分の懐に入れていたわけではないと思う。自宅も数年前にようやくリフォームしたくらいで質素な暮らしだった。福島県沖地震では施設に被害が出て相当なショックを受けていた」
裁判での夫の準備書面によると、2021年、22年と2度に渡る福島県沖地震で村松氏の体調が悪化したという。大地震が施設に及ぼした被害にショックを受け、健康上の問題が生じたことがうかがえる。だとしても、後始末を丸投げされた形の職員たちには無責任に映る。ある職員は、22年3月16日に震度6強の地震が相馬市を襲った2度目の福島県沖地震の後に村松氏の吐いた言葉が忘れられない。
「彼女は私の目の前で『もうできない。ごめん、任せた。やめる』と言ったんです。議員は、その後も1年間は務めていました。私からすると『ひまわりの家』を捨てて逃げたんです。普通なら自分が中心になって立ち上げ、一生懸命働いてきた法人を取るじゃないですか。なんで、ひまわりの家じゃなくて議員だったんですか」
ワンマン経営や議員の兼業について考えさせられる出来事だ。