福島市鎌田の路上で昨年7月、70代男性を鈍器で殴り殺害しようとしたとして殺人未遂罪に問われた男の裁判員裁判で、福島地裁は3月12日、求刑通り懲役15年を言い渡した。男は方々で借金を重ね、福島市で解体業を営む男性社長(80代)から借りた50万円を代理で催促に来た従業員を鉄パイプで殴打。罪名は殺人未遂だが、被害者は意識が戻らず、医師は「二度と目を覚ますことはない」と診断。催促を依頼した社長も気持ちが整理できず、「亡くなるまで机と仕事道具は残している」と法廷で語った。
「殺人」よりもむごい被害者の容体
被告人は福島市の高橋一男(47)。事件当時は市内の運送会社でトラック運転手をしていた。金を借りていた社長とのつながりは、高橋被告の父親にさかのぼる。
社長によると、二十数年前に高橋被告の父親を雇っていたが労災事故で死亡してしまう。雇用者として葬式代を出し、示談金1000万円を支払った。その後も墓参りを続け、法事にも参列した。高橋被告とは法事で顔を合わせていたという。
高橋被告は離婚後、元妻に養育費を支払っていたが2023年7月を最後に途絶えた。同年8月に社長に50万円を無利息で借り、翌24年8月10日を期限に返済する約束をした。高橋被告は別の債権者6者からも金を借りていたが、同年5月に自己破産し債務は消滅した。ただ、社長から借りた50万円の債務は残っていた。
返せる当てはなさそうな高橋被告だが、なぜ社長は貸したのか。
「『離婚して養育費を払う必要がある』と言っていたので助けてやろうと自己資金から貸した。親父さんに迷惑をかけた」と理由を話した。
社長は「コツコツとためて1年後にまとめて返してくれればいい」との思いだったが、2024年6月に急きょ金が必要になった。50万円のうち先に20万円を返すよう電話で求めた。折悪く社長は入院していたため、ベテラン従業員のXさんに代わりに借金を回収してほしいと依頼した。
Xさんは高橋被告に電話で催促し、7月23日に20万円を先に返済することで合意したが、用意できず翌24日の昼に延長。高橋被告は再度その日の夜に期限を延ばし、福島市鎌田の一本松公園前の路上で渡すと約束した。その裏ではXさんを暴行するためトラロープや鉄パイプを用意していた。
凶器を用意した時点で悲惨な結果が待っていた。高橋被告は法廷で「Xさんに暴言を吐かれ腹を立てた」と犯行のきっかけを述べたが、裁判所は「Xさんに落ち度はなく、身勝手な動機や経緯に酌むべき事情は一切ない」とした。
「もう目を覚ますことはない」と診断されたXさん。罪名は殺人未遂だが、結果はともすると殺人と同等か、それ以上にむごい。