会津若松市議会で、気になる動きが2つあった。その2つの事柄を追跡した。
アイクトの現状と議員請負状況公表
1つは、会津若松市議会6月定例会で、吉田恵三議員が「スマートシティAiCT(アイクト)」に関する質問を行ったこと。内容は「スマートシティAiCTの入居企業数と雇用効果について」というもの。
アイクトは2019年4月にオープンしたICT関連企業のオフィスビル。同施設の紹介では次のように記されている。
「本事業は、ICT専門大学である公立大学法人・会津大学が立地している優位性を生かし、アナリティクス人材などの育成や実証フィールドの整備に取り組んできたことを踏まえ、首都圏などのICT関連企業の本市への関心が高まったことから、働きやすいオフィス環境を整備し、ICT関連企業の集積により、首都圏からの新たな人の流れと雇用の場の創出、若年層の地元定着を図り、地域活力の維持発展を目指していくものです」
ICT関連産業を集積して転入者を増やす一方、これまで市内で就職先が少なかった会津大学の卒業生を受け入れ、定着を図る狙いで整備されたのである。
一方で、アイクト整備に関しては①市の財政負担が大きい(土地取得費など10億円を支出)、②建設地が旧JT跡地では手狭、③施設をつくっても入居者が現れるか不安視される、④事業計画を策定したアクセンチュア福島イノベーションセンター長(当時)の中村彰二朗氏と、室井照平市長の関係性が必要以上に近すぎる――等々の理由から、市議会が一度は事業計画に反対した経緯がある。特に、ここで挙げた④については、過去に本誌でも何度か取り上げたことがある。
そんな経緯がありつつ整備され開所したアイクトだが、最近になり本誌には「オープンから数年が経ち、アイクトにはだいぶ空きが出てきているようだね」といった情報が寄せられていた。
そうした中で、吉田議員が関連の一般質問を行ったため、注目したのである。
吉田議員は質問の中で、「アイクトの入居企業は2024年2月時点で43社、在籍社員は約240人だったが、今年2月時点では36社、在籍社員は約250人となっている」と明かした。
在籍社員数は増えているが、入居企業は減っている。
そうした数字を踏まえたうえで、吉田議員は「当初掲げていた目標値に届いていない。入居企業が減少した主な要因と、会津大学を中心とした若者の雇用についての認識を教えてほしい」と質問した。
これに対し、室井市長、市当局の答弁は、整理すると以下のようなものだった。
○2021年9月、2024年5月時点では満室になっていた。事業戦略、経営判断により、退去する企業も出てきた。賃貸オフィスなので一定数は入れ替わりがあることは織り込み済み。少なくとも、家賃収入が足らず、運営できないほどではない。ただ、これ以上減るのは避けたい。首都圏のICT関連企業を訪問するなどしてPRし、新たな誘致に注力したい。
○地元雇用は約60人で、このうち約40人が会津大学の卒業生となっている。若年層の地元定着に貢献していると考えている。
○市としてのスマートシティの取り組みについては、「会津コイン」や「ジモノミッケ!」などのサービスが実装されたほか、地域との連携も促進されており、今後もこのような取り組みが継続されていく予定。入居企業が減少したことでのスマートシティの取り組みに支障はない。
本誌があらためて市企業立地課に問い合わせたところ、現在の入居企業は35社で、吉田議員の質問にあった36社(今年2月時点)からさらに1社減っていた。アイクトには個室とシェアスペースがあり、シェアスペースは仕切りの設置具合で、広く取ったり、小さく取ったりすることができるという。そのため、空きは何社分というのは明確にはできないようだ。
企業立地課の担当者は、議会での答弁と同様「ある程度の入れ替わりがあることは想定しており、いまのところはその範囲内です」とのことだった。一方で、空きについては「最近、施設を見学した方(企業)もいる」(同)とのことで、そういったところから空きスペース解消に努めたい考え。
整備までさまざまな議論があったアイクト。現状は、上手くいっているのか、そうでもないのか判断が難しいが、少なくともここに記したのがいまの現状である。
「議員請負状況」の申告制度
もう1つは「会津若松市議会議員の請負の状況の公表に関する条例」、「会津若松市議会議員の請負の状況の公表に関する条例施行規程」に基づく議員の請負状況が公表されたこと。
地方自治法92条2項では、「普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない」と規定している。
要するに、会津若松市議は、会津若松市から仕事を受注している法人の役員などには就けないということ。なお、ここで言う「同一の行為をする法人」は、判例で当該自治体からの請負契約が、その法人の売上の半分以上を占める場合などが該当するとされている。
これに抵触した場合、地方自治法127条の規定により、議員職を失うこととされている。
こうした制度があるのは、議員は当該自治体の発注業務について、情報収集などの面で優位な面があるうえ、個人的な利益や特定の利害関係に影響され、公正性や公平性が保たれなくなるのを避けるため。
ただ、2022年12月に地方自治法改正案が成立し、ルールが緩和された(施行は2023年3月)。その内容は、年間取引額が300万円以下であれば、前述の兼業禁止には当たらないというもの。これによって、仕事を続けつつ議員に立候補しやすくなるというメリットがある。要は、議員のなり手不足解消が目的の法改正である。
この法改正を受け、透明性を確保するため、議員に請負状況の申告を求める自治体も増えており、会津若松市もその1つ。
議会事務局によると、「会津若松市議会では、請負状況の透明性を確保するため、『会津若松市議会議員の請負の状況の公表に関する条例』、『会津若松市議会議員の請負の状況の公表に関する条例施行規程』を制定し、議員が本市に対して地方自治法92条2項に規定する『請負』をする者やその支配人である場合に該当するときには、請負の状況を公表することとしました」とのこと。
条例の主な内容は、①議員は、毎年6月1日から6月30日までに前会計年度における本市に対する請負対象の役務・物件、契約金額等を議長に報告する、②議長は、報告の一覧を作成し公表する、③何人も議員からの報告内容について閲覧を請求することができる――というもの。
つまり、議員は市から仕事を受注した場合は、定められた期間内にその内容と金額を申告し、議長はそれを一覧化して公表する。その中身は誰でも閲覧できるということ。
2023年度の請負から公表が始まり、毎年6月末が締め切り。7月に入り、その結果が公表されたため確認したところ申告件数はゼロだった。なお、昨年もゼロだったため、申告制度がスタートしてから2年連続で該当なしという結果だった。
「申告件数ゼロ」であれば、それ以上のことはないが、本誌では以前から「地方議員の兼業禁止」にはグレーな部分があることを指摘してきた。
前述したように、地方議員が当該自治体から仕事(請負契約)を受注している業者や、その請負業務が売上の半分以上を占める法人の役員などに就くことはできないと定められている。ただ、実際は議員自身が役員でなくても、その配偶者や子どもが代表者となり、影響力を有しているケースも多々ある。つまり、実質的には議員が関与しているにもかかわらず、形式上、兼業禁止規定に抵触しないようにするということが起こり得るのだ。
これは、①兼業禁止の具体的な判断基準は曖昧な部分が多いこと、②議員一人ひとりの兼業状況を厳密に調査し、その実態を把握するのが難しいこと、③議員の無知や無知を装った倫理観の欠如――などが挙げられる。
加えて、地方自治法127条では次のように定められている。
「普通地方公共団体の議会の議員が被選挙権を有しない者であるとき、又は第92条の2の規定に該当するときは、その職を失う。その被選挙権の有無又は第92条の2の規定に該当するかどうかは、(中略)議会がこれを決定する。この場合においては、出席議員の3分の2以上の多数によりこれを決定しなければならない」
ここにある「第92条の2の規定」が「議員の兼業禁止」を定めたものであることは前段で述べたが、兼業禁止に該当するかどうかは議会が決定すると定められているのだ。つまり、議員が兼業禁止に当たるかどうかを検証し、出席議員の3分の2以上の賛成がなければ失職に追い込めないということ。
こうしたさまざまな事情から「議員の兼業禁止」のグレーゾーンが黙認されてきた実態がある。法改正による緩和、それに伴う申告制度が広がっていることは結構だが、判断基準を明確にし、雲隠れ策が通用しないような対策も必要だろう。