衆院選【選挙漫遊】リポート

衆院選【選挙漫遊】リポート

 選挙戦の現場に足を運び、候補者に会って生の言葉を聞く〝選挙漫遊〟。本誌では昨年11月の県議選、今年9月のいわき市議選で挑戦したが、第3弾として、10月27日投開票の衆院選で実施した様子をリポートする。

4小選挙区全11候補を直撃取材

4小選挙区全11候補を直撃取材
区割り改定により福島県は4小選挙区に再編された

 「選挙漫遊」とは本誌で「選挙古今東西」を連載するフリーライター・畠山理仁さんが提唱している選挙の楽しみ方。選挙期間中に全候補者に会いに行き、演説を聞いたり本人に直接話を聞く。選挙ポスターやインタビュー、切り抜き動画だけでは分からない魅力や個性、考えが見えてきて、誰に投票するかの比較もしやすくなる。

 通常、本誌で選挙関連取材をする際は各陣営の関係者や地元政治家、経済人に動向を聞き、候補者の人柄や選挙戦に至った経緯、得票数の見通しなどを投開票の2、3カ月前にリポートする。「選挙漫遊」は選挙期間中にとにかく全候補者を訪ね、その話を聞くだけだ。

 本誌はそのシンプルかつユニークな取り組みに魅了され、昨年11月の県議選では県内主要4市全39候補をスタッフ総出で取材した。選挙期間中、インタビュー動画と文面を本誌ホームページにアップした。

 第2弾となる今年9月のいわき市議選では市政の課題や選挙への意気込みを有権者に1分程度話してもらい、その動画を本誌ホームページに公開。全候補47人は、本誌だけで回りきれないので同市を拠点とする地元紙いわき民報と共同取材した。

 第3弾として取り組んだのが今回の衆院選だ。衆院選小選挙区の一票の格差是正に伴う区割り改定により、福島県が4小選挙区に再編されてから初めての選挙だ。

◆新1区
亀岡 偉民69自民
金子 恵美59立民
◆新2区
丸本由美子62共産
玄葉光一郎60立民
根本  拓38自民
◆新3区
小熊 慎司56立民
唐橋 則男63共産
上杉謙太郎49無所属
◆新4区
斎藤 裕喜45立民
熊谷  智44共産
坂本竜太郎44自民

 自民党では派閥裏金問題をめぐり、不記載額が1289万円に上った3区の菅家一郎氏が非公認とされ、直前で立候補を断念、同じく裏金問題をめぐり非公認となり比例東北ブロックからの立候補を断念していた上杉謙太郎氏が一転して立候補することになった。1区の亀岡偉民氏も比例重複が認められなかった。

 さらには2区の根本匠氏、4区の吉野正芳氏が直前に不出馬を表明し、それぞれ新人が立候補するなど、とにかく話題に事欠かなかった。

 そうした影響で各事務所とも混乱していたのか、演説スケジュールを問い合わせてもなかなか教えてもらえず、その後の連絡もないというところが少なくなかった。

 本誌は仕事ということもあって、しつこく電話したりアポ無し取材して対応したが、もし一有権者として問い合わせてこのような対応を取られたら、「こんな簡単なことでパニックになるような陣営では当選後の仕事ぶりも期待できなさそうだ」と判断し、その候補者から話を聞く気が失せていたのではないか。

 取材日は選挙戦中盤の平日に設定。県内4選挙区をスタッフ4人で手分けして回ったが、区割り改定の影響は大きかった。3区担当者は会津若松市や猪苗代町、白河市、4区担当者はいわき市、南相馬市、飯舘村と広大な選挙区内の移動を余儀なくされた。各候補者の負担も大きかったと思われる。

 相双地域のある有権者からは「人口規模からして4区の候補者は今後もいわきの人がなるだろうし、熱心に運動にも関われないから選挙情勢にも疎い」という冷めた意見も聞かれた。このあたりの検証は稿を改めて取り上げてみたい。

現場ならではの魅力

2区の自民党新人・根本拓氏
2区の自民党新人・根本拓氏

 演説を聞いていると、観衆の心を揺さぶるのが上手い人は、共感できるキーワードを散りばめ、聴衆に合わせて内容を変えていた。2区の自民党新人・根本拓氏が「今必要なのは政権交代ではなく世代交代だ」と言ったとき、観衆から自然と拍手が起こったのが印象的だった。一方でどこかで聞いた話ばかりで、中身がない演説と感じる候補者もいた。

 2区の玄葉光一郎氏陣営の応援演説では「選挙管理委員会の証紙が貼られていない根本氏の政党ポスターが何枚もある」という指摘があった。実際に街なかで該当するポスターがあることを確認したのでSNSに投稿したところ、その日の夜、根本氏陣営の関係者・支持者から「玄葉氏の政党ポスターにも証紙が貼られていないものがある」との情報が複数寄せられた。

 SNSでの投稿に過敏に反応するほど2区は激戦だったということだろう。こうした応酬をリアルタイムで体感できるのも選挙漫遊の魅力と言える。

 この稿を書いているのは投開票前で、どういう結果になったのかは分かっていないが、新人が多く立候補したこともあり、それぞれがどんなことを話すのか楽しむことができた選挙漫遊だったと言える。そもそも選挙漫遊が画期的な取り組みとして扱われていること自体、現行の選挙制度が機能していないことのあらわれでもあるのだが、いま一つ選挙に関心を持てないという人はぜひ挑戦してほしい。選挙や政治に対する解像度がぐっと上がるはずだ。

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