パチンコ店「ビックつばめ会津若松店」で店員の男が犯行グループと内通して強盗被害を装い、現金約2700万円を盗んだ事件。首謀者とされる元店員と東京都の男2人の裁判が進む。元店員の男は「計画したのはもう1人の男」と裁判で主張。報酬の取り分で揉め、仲間割れしていた(敬称略)。
報酬巡り店員と指示役が仲違い

犯行はSNSを通じて集まる匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)によるものだった。13人が窃盗や建造物侵入、あるいは組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で逮捕され、うち10人が起訴されている。グループは指示役を中心に実行役、現金回収役、マネーロンダリング(資金洗浄)役からなる(相関図参照)。

計画を考えたのは東京都内で会社を営む佐々木綾哉(25)=秋田市出身、東京都豊島区在住=、そしてパチンコ店員で内通者だった真鍋一皐(24)=会津美里町文殊西甲=とみられる。佐々木は経営する合同会社エーシー(豊島区南大塚)に盗んだ現金を保管していた。同社は人気トレーディングカード「ポケモンカード」の転売事業も行っていた。
佐々木が知人に声を掛けたりSNSで告知するなどして仲間を集め、犯行の指示を出していた。実行役だった専門学生の男A(逮捕当時19)=桑折町=は少年法に守られ、少年院送致の処分で済んだ。
公判が福島地裁会津若松支部で進められており、送迎役と現金運搬役の3人には2月中に判決が言い渡される。この3人はパチンコ店の内通者である真鍋とは面識はなく、佐々木からは「あいつはIQが150ある」と吹き込まれていた。真鍋は会津美里町出身で、高校卒業後、職を転々とし、2024年5月からビックつばめ会津若松店で働いていた。町内の実家から通っていた。
1月23日は真鍋の被告人質問だった。真鍋は罪を認めつつも「計画したのは佐々木だ」と自身が中心人物であることを否定した。真鍋の主張を基に犯行の経緯を追う。
真鍋は2024年8月ごろにパチンコ愛好者の男性Mと知り合い、一緒に打ちに行く仲になる。Mは事件前に計画を聞かされていた。裁判では検察側の証人として出廷した。
Mは1万5000円を支払う代わりに真鍋に当たりやすい台を教えてもらう取引を結んでいた。Mは「真鍋はやってはいけないことに手を出す人物なので信用できないとの印象を持った」と証言したが、真鍋がMに抱いた印象も同様に悪い。
「Mは働いていないようだった。彼にはこき使われた。店の情報を教えるように迫られ、拒むと職場にいたずら電話を掛けてきた」
M自身は、「いたずら電話ではなく、真鍋に貸した5万円を催促する電話」と述べている。
真鍋によると、「MにLINEグループに強制的に入れられ、佐々木と連絡を取り合うようになった」。
Mは過去に佐々木が行うポケモンカード転売に従事した。Mがパチンコ店員と知り合いだと知った佐々木は、真鍋を紹介してほしいとMに頼む。
「佐々木は勝率の良い台を大人数で占拠して金を稼ぎたかったようだ。佐々木はそのための金や人員を用意していた」(真鍋)
Mの仲介で、真鍋と佐々木は昨年6月に会津若松市内のラーメン店で初対面した。真鍋はMから次のような逸話を聞かされた。
「佐々木は以前も当たる台を占拠して大金を稼いだ猛者だという。200~300人の手下がいるらしい。ポケモンカードは転売対策が厳しく、トイザらスでは専用のアプリでアカウントを登録し、1人1セットしか買えないように制限されている。佐々木は個人情報を偽装してアカウントを1000人分作れるやり方を熟知していると聞いた」(同)
「人を殺してほしい」
真鍋は2025年5~6月にかけて佐々木に4回にわたって台の情報を教え45万円の報酬をもらった。1カ月に20万円、得た利益がプラスになったらボーナスが出る取引だったが、わずか2カ月で終える。常連客に情報漏洩を疑われたからだ。
真鍋とMは一緒にパチンコを打ちに行く仲であり、この常連客は別の店に2人がいるのを目撃していた。挙動不審なMを見とがめた常連客は、不正を言い当てたのだ。取引が終わる6月下旬、佐々木は真鍋に「頼みたいことがある」と電話してきた。
「人を殺してほしい」
ターゲットは投資詐欺を専門に行っている人物。佐々木の恩人が6000万円を奪われたという。
「警察に行けば」と言うと、「借用書を巻いているし民事だから対応してくれない」と返してきた。
「詐欺で生計を立てている危ない人を殺せない」と断ると、佐々木は代わりに真鍋が勤めているパチンコ店の金を盗むことを持ち掛けた。
真鍋が佐々木に聞いたところによると、狂言強盗は佐々木の親しい友人から提案されたという。佐々木は謎の理屈で真鍋を説得にかかる。
「闇バイトのタタキ(強盗)では人が死んだり怪我人が出るでしょ。一皐さん(真鍋)が協力することで同僚も怪我せず死人が出ない」
真鍋は一度断ったものの、「盗んだ金の半分渡す」「一皐さんが協力者ということは自分しか知らないので捕まらない」と誘われ応じた。
会津若松市内にあるMの自宅で佐々木は犯行計画書を見せて真鍋、Mに計画を話した。当初は佐々木が手配したホームレスを実行役に据え、Mの自宅に潜伏させる計画だったがMは拒否。代わりに郡山市にいるMの知人を勧誘しようと電話するが、その知人は加わらなかった。
犯行は7月末に予定されていたが延期になる。8月のシフトでは真鍋が1人で勤務する時間帯がない。それでも佐々木は「8月中に実行したい。勤務者が2人の時間帯でもいい」と迫った。客が多く、金庫に金が集まる盆休みの8月11日深夜に設定した。
犯行は初めから破綻していた。当日午後10時半ごろに警察から店に「爆破予告があったので巡回したい」との電話があった。巡回の間は実行役が立ち寄れず、真鍋は退勤時間を迎えてしまう。実際に爆破予告があったのか、それとも警察が警備を強めるための方便だったのかは不明。真鍋は「誰かがチンコロ(告げ口)したみたいだ」と佐々木に報告した。同時刻には送迎役を務める村山廉(22)=宮城県多賀城市=へ父親から「福島県警から連絡があった」と電話がきていた。
「こんな計画で大丈夫?」
リスクは相当高くなったが、警戒が解かれた後に決行することになった。真鍋が近くのコンビニに立ち寄っている時に実行役に脅され、再度店に戻って金庫の鍵を開けるという筋書きに変更した。真鍋は会津美里町の実家に帰ろうとするが、佐々木は「実行犯がコンビニに行くのと実家に行くのとどっちがいいですか」と迫ってきたという。
真鍋が自車で待っていると実行役のAが窓をエアガンでコツンと叩いてきた。犯行グループの車に乗り込むと、Aが「自分20歳だけどため口でいい?」となれなれしく話しかけてきた。設定上は、真鍋は何も知らないパチンコ店員で脅されただけであり、実行役も店員が内通者とは知らないことになっている。だから捕まることはないと佐々木に説得されてきた。実行役が警察の手を逃れるのはまず不可能。Aから真鍋の内通が露見するのは時間の問題だった。
「こんな計画で大丈夫と思う?」
真鍋の心中を代弁したかのようにAが言った。
店に戻り、金庫を開けて金を渡した後はAに手足を縛られて放置された。携帯電話を奪われたが、それは聞いていなかった。
真鍋は取り調べを受けた。最初は相談室に案内されたが、取調室に連れていかれ、刑事に「今から容疑者として取り調べる」と宣告された。襲われる前にLINE通話していた佐々木との関係を聞かれるが、「ただの知人です」とごまかす。疑いが晴れるわけもなく、自家用車と財布を「任意」で提出した。この時の真鍋はスマホも現金も持っていない無一文だった。
事件後の8月12日夜、真鍋は交際相手の携帯電話を借りて、自身のSNSアカウントでMに連絡した。「りょうさん(佐々木)と連絡が取りたい。報酬を持ち逃げされそうだ」。教えられた連絡先に電話すると、佐々木は他人事だった。真鍋が「最初から切り捨てるつもりだったのか」と聞くと、佐々木は「バイバイ。捕まると思うんで、せいぜい頑張ってください」と言ったという。
真鍋は逮捕を覚悟していたが、その日まで生活する金がない。報酬をもらおうと、「あんたの名前を警察に言ってしまった」と佐々木を脅した。高をくくっていた佐々木の声色が変わった。
「私が関わっている証拠ってあるんですか」
「状況証拠でも捕まりますよ」
焦り始めた佐々木は当初の約束通り報酬50%を渡すことを申し出る。盗んだ現金は2668万4000円。真鍋は半分近くの1047万5000円をもらうことになった。ただ、佐々木はすぐに渡すとは言わず、「自分の名前を明かさなければ出所後に全額渡す。それまでは端数の47万5000円を渡す」と提案した。
この期に及んで、真鍋は全額手にできると期待した。取り調べでは「ナカタの指示で動いていた」と佐々木の存在を隠したが、佐々木が捕まり真鍋に責任をなすりつけ、さらにMも佐々木と真鍋の関与を証言すると意味をなさなくなった。
8月15日、真鍋は47万5000円を受け取るため東京に向かった。佐々木がマクドナルドの袋に札束を詰め、真鍋はトートバッグを肩に下げ、渋谷のスクランブル交差点ですれ違いざまに受け取った。任意の取り調べを受け続けた真鍋は犯行から1週間後の同19日に逮捕された。
真鍋から見た犯行は、「佐々木が首謀者」との視点に立つ。今後予定される佐々木の被告人質問と照らし合わせることで真相が浮かび上がるだろう。

























