天栄村・羽鳥湖高原の別荘地に、「系統用蓄電所」の計画が浮上し、別荘オーナーが反対運動を展開する騒ぎになった。系統用蓄電所は、国の後押しもあって全国的に〝開発バブル〟が起きており、福島県は先進地となっている。それだけに他地域でも同様の問題が起こる可能性がある。
再エネ先進地に押し寄せる〝開発バブル〟

羽鳥湖高原と言えば、東西に広がる天栄村の中央部に位置し、別荘地やゴルフ場、キャンプ場、ホテルなどが立地するリゾート地だ。首都圏から比較的近い立地でありながら、観光客で混雑することがないため、根強い人気を誇り、中古の別荘を購入して定住する人もいる。
昨年秋、そんな別荘地の一角に、「系統用蓄電所」の開発計画が浮上した。系統用蓄電所とは電力会社(一般送配電事業者)が管理している電力供給のネットワーク「電力系統」に接続し、電気をためたり放出したりする施設だ。
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー電力システムは天候や時間帯によって出力が変動する。そのため電力系統内の需給バランスが課題となる。そうした中で、調整役として期待されているのが、この系統用蓄電所だ。電力需要が少ない時間帯に充電、電力需要が多い時間帯に放電することで電力系統の需給バランスが調整され、系統の安定性が保たれる。国もその役割を重視し、電気事業法を改正して1万㌔㍗以上の施設を発電事業と位置づけ、補助金による支援を行っている。
蓄電所事業者は、電力を日本卸電力取引所(JEPX)の電力市場などで売買し、時間帯ごとの価格差により収益を得る。JEPXの需給調整市場、容量市場などに参加し、電力系統の安定化に貢献すれば対価として収入が得られる。電力の買い手となるのは、「新電力」と呼ばれる登録小売電気事業者のほか、大手電力会社や商社、発電事業者などだ。
国の後押しもあり〝蓄電所バブル〟とも言えるほど開発が活発に進められている中で、その波が羽鳥湖高原にも押し寄せた格好だ。
蓄電所の開発予定地となったのは、道の駅羽鳥湖高原のすぐ西側に位置する別荘地の一角。人気飲食店「食事処空楽」の裏手に当たる。
開発事業者はスマートソーラー(千葉県木更津市、手塚博文代表取締役社長)。2007年設立、資本金9062万5000円。民間信用調査機関によると、2024年12月期売上高48億1700万円。手塚氏は京セラで取締役事業部長やソーラーエネルギー関連の子会社の社長を務めていた人物だ。
開発予定地近くの別荘で暮らす景山進さん(87)は昨年11月、別荘地を開発した平和観光開発(東京都台東区)の平田浩司社長から相談を受け、初めて蓄電所開発計画を知った。
「当初、平和観光開発では『蓄電所は景観に影響を与える施設』として管理規約を理由に断った。ところが、スマートソーラー社は土地を購入し、『蓄電所建設は法律的に何も違反していないはず。阻止されるのであれば法的に対抗する』と強気な態度を見せたというのです」(景山さん)

景山さんが蓄電池の基礎知識を専門家などに聞いたところ、蓄電池として使われているリチウムイオン電池には発火リスクがあると教えられた。燃焼すると内部で熱分解し酸素が放出されるので、一度消火しても再び発火・爆発する。水で消火しようとすると、水とリチウムイオンが反応して水素を発生し、かえって燃焼する危険性もある。
2024年3月、鹿児島県伊佐市の太陽光発電所に併設された大型蓄電池で火災が発生した際、こうした特性から消火に手間取り、鎮火まで20時間かかったとされている。
天栄村では昨年10月末に、エンゼルフォレスト白河高原のコテージで1人が死亡する火災が発生したばかり(本誌1月号既報)。樹木が生い茂る中で発火すれば、大規模な山火事に発展する恐れも否定できない。
景山さんはこのほか、騒音、振動、環境・景観破壊、電池から漏洩した化学物質が川を伝って羽鳥ダムに混入するリスクなど、あらゆる懸念点を洗い出した。
そうした中、12月12日にスマートソーラーが説明会を開くことが分かり、景山さんが周囲に声をかけたところ、別荘オーナーや施設関係者など約40人が出席した。
説明会資料によると、開発予定地は敷地面積1012平方㍍。蓄電池の出力はPCS1999㌔㍗(kW)、蓄電池8146㌔㍗時(kWh)。2026年4月着工。同12月運転開始予定。事業期間は約20年間。事業目的は▽太陽光発電の出力制限を回避し、発電した電力を最大限活用、▽系統用蓄電池を活用し、全国的な電力需給バランスを最適化、▽電力市場での最適運用を通じて収益化し、持続可能なビジネスモデルを確立――というもの。蓄電池設備は建物内部に収容し、周囲と調和のとれた外観にするほか、防音材採用により騒音を抑え、造成工事を必要最小限に留めるなど周辺環境への配慮も打ち出した。
1月に計画撤回を表明

ただ、説明会ではこれらの方針が説明されることはなかった。というのも、冒頭から反対意見が飛び交う展開となり、資料通りにプレゼンテーションが進められないまま説明会は終了したからだ。
別荘オーナーの中年女性が当日の様子をこう振り返る。
「用意されていた資料や会場の椅子の数が10席程度と明らかに少なかった。40人もの人が押し寄せ、反対されるなどとは夢にも思わず、すんなり地元合意をもらって開発を始められると思っていたんじゃないでしょうか。出席したのはスマートソーラーの関連会社社長と現場担当者で、手塚社長が姿を現さなかったことも不誠実に映りました」
別荘地の近隣に住む村民男性はスマートソーラー社側の対応に疑問があったと語る。
「『火災になったらどうする』という質問に対し『消火器を置く』と答える一方で、『運営は人を配置せず遠隔で監視しながら行う』という。緊急事態に素早く対応できるのか。先入観があるかもしれませんが、説明会の段取りも悪く、どうも信用できないと感じました」
前出・景山さんもこの説明では受け入れることはできないと考え、説明会終了後、計画撤回を求める署名活動を展開。近隣施設の責任者など330人に協力してもらった。天栄村の添田勝幸村長とも面会し、理解を求めつつ、県中地方振興局など関係部局にも足を運んで関連する制度や法律について学んだ。
そうした中、スマートソーラーは1月中旬、近隣住民に文書で計画撤回を伝えてきたという。
《(前略)先日開催いたしました説明会での地域住民の皆様からのご意見を受け、総合的に検討を行った結果、今回の事案については見送らせていただくことといたしました。
本件は、関係法令上問題ない内容であることを確認のうえ進めておりましたが、地域の皆様との良好な関係を大切にしたいという考えから、最終的に事業実施を控える判断に至ったものでございます。
今後も、地域の皆様との対話を重ねながら、より良いかたちで社会に貢献できる事業に取り組んでまいります》
「実は最初、関連会社の担当者から平和観光開発宛てにメールで撤退を表明する連絡が届き、2回目は近隣住民宛てに社判捺印なしの文書が届いた。ただ、いずれの文書も企業の正式な見解とは認められない様式なので、再度文書を要求したところ、3回目にしてようやく文書実務的に十分な内容のものを受け取ることができました」(景山さん)
スマートソーラー社は広野町などでメガソーラー事業を展開しているほか、蓄電所事業も県内複数個所で実施しているという。そうした点を踏まえ、住民と徹底抗戦するのは得策でない、と考えたのかもしれない。
あらためてスマートソーラー社の見解を聞きたいと思い、1月19日、同社ウェブサイトの投稿フォームから取材依頼書を送ったが、期日までに返答はなかった。
別荘所有者が反対する理由
読者の中には「蓄電所であればそこまで強く反対する必要はないのではないか」と思う人もいるかもしれない。実際、前出・別荘地の近隣に住む村民男性も「地元民が多い地区だったらすんなり受け入れていた可能性が高い」と語る。一方で「豊かな自然環境が売りの別荘地なので、近くに系統用蓄電所ができるとなると、反対する人が多いのは納得できる」とも話す。
前出・平和観光開発が開発した別荘地は正式には平和郷(へいわごう)という名称で、約4000区画整備されている。1月1日時点の村人口は5083人なので、4000区画が全て売れていると仮定すると平和郷には村民の8割に当たる地権者がいる計算だ。
別荘地を管理する平和郷管理の担当者によると、現在の建物数は約650棟で、実際に稼働しているのは200~300棟。顧客は関東圏が8割を超える。現在は数百万円程度の中古物件の取り引きが主だが、バブル期は土地・建物含め数千万円で取り引きされた。近隣には、エンゼルフォレスト白河高原や太平洋クラブ白河リゾートの別荘地もある。
全国の数ある別荘地から羽鳥湖高原を選んだ人は自然環境や景観を魅力に感じて選ぶことが多い。そのため、平和郷管理(平和観光開発の関連会社)の担当者も「できるだけ自然景観に影響しないように、雑草駆除や樹木の伐採にまで気を遣っている」という。だからこそ、今回、蓄電所開発に対する反対運動が盛り上がり、異例の計画撤回という結果につながったと言える。
「以前、平和郷の中の一部の区画で太陽光発電所が開発されたことがあったのですが、別荘オーナーから『別荘地の景観を壊さないでくれ』と猛反発を受けたことがありました。別荘地と電力関連施設の相性はそれだけ悪いということです」(前出・別荘地の近隣に住む村民男性)
別荘地内に開発された太陽光発電所の中には、投資目的で転売され、いまや所有者と連絡が取れないところもあるという。こうした経緯があったことから、スマートソーラーに対し徹底抗戦せず、反対運動を住民任せにしている平和郷管理(平和観光開発)に対する不満の声も聞かれた。それはともかく、蓄電所に関しても、事前に対策を講じなければ同様の事態になる可能性はある。
「蓄電所の開発競争は激化しています。周辺にメガソーラーがあって需給調整のニーズが高く、区画が整備されているこの辺りは『開発適地』として狙われやすいのかもしれません。ただ、1つでも開発を受け入れたら一気に〝増殖〟する可能性がある。だからこそ、私たちは強く反対したのです」(景山さん)
今回の件について天栄村役場にも問い合わせたところ、添田勝幸村長が次のようにコメントした。
「事業者(スマートソーラー社)が役場にあいさつに訪れていたので計画自体は把握していました。実は今回の案件以外にも、『国道沿いに蓄電所向けの空いている土地はないか』と複数の方から問い合わせをいただいていました。そうした中、景山さんと面会したときに系統用蓄電所のリスクについて教えていただいたので、あらためて情報収集し勉強していかなければならない、と考えていたところでした」
蓄電所開発競争の縮図
資源エネルギー庁によると、事業者が電力会社などに接続できるか照会する「接続検討」の容量は、昨年6月末で約1億4300万㌔㍗と1年で2倍超に急増した。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の期間が、事業用太陽光発電の場合20年間で終了するのを見据え、FITに代わる投資策として大手企業が参入している。資産運用を目的とする顧客に接続権を転売する事業者も増えている(日経GX昨年12月6日配信記事より)。
全国でも接続検討が爆発的に増えているのが東北電力管内だ。昨年6月末時点の接続検討中の蓄電所は約5700万㌔㍗分で、他地区と比べて圧倒的に多い(グラフ参照)。

「関東に比べて地価が安く、広い土地が確保できる。大規模な容量の申し込みが多い」、「太陽光発電所の開発を断念した土地で、蓄電所として再挑戦している事業者がいる」。12月16日配信の日本経済新聞記事では、申請数増加の理由について、東北電力の送配電子会社・東北電力ネットワークの担当者がこう説明している。特に再生可能エネルギー先進地であり、需給調整ニーズが高い福島県で申し込みが殺到しているという。
さらに同記事では▽「国の補助金を使えば投資利回りは15〜20%になる」(福島県内で再エネ関連事業を手掛ける会社の関係者)といった発言、▽蓄電所物件情報サイトで西郷村の接続承認済みの用地に6億円を超える価格が付いていたこと――などを紹介していた。
興味深いのは実際に土地を所有していないのに、他人の土地で接続契約を申し込み、後から転売交渉する「空押さえ」が横行している点。電力系統に接続する際には変電所・電線の工事が必要となり、年単位で時間がかかるほか、変電所には容量があるので申請したからと言ってすぐ接続できるとは限らない。そうした事情もあり、少しでも早く適地を探そうとする中で空押さえが起きている。こうして見ると、今回の天栄村の事例は全国、特に福島県で活発に進む蓄電所開発競争の縮図とも言える。
押さえておきたいのは、蓄電所を経由する電気は地元で利用されるものではなく、地元住民が恩恵を受けられる類いの施設ではない、ということだ。もしお住まいの地域で開発計画が浮上したら、その点を踏まえたうえで、電力系統の需給バランス安定のために受け入れるのか、それとも、地域にとってデメリットが多いから反対するのか、地域住民間で議論する必要がある。
一方で、天栄村役場に問い合わせが複数きていることからもうかがえるように〝蓄電所バブル〟が過熱し、地元住民・自治体が翻弄されることがないよう、国などが規制していく必要があろう。

























