
「物珍しさ」の先に
『政経東北』をご愛読のみなさま、はじめまして。幻冬舎という東京都にある中堅の出版社で編集者をしている、藤澤と申します。この度、『政経東北』の記者さんと一緒に本を作ることになりました。骨太なノンフィクションになる予定です。そこで、本誌の記者さんが本の執筆にかかりきりになってしまうということで、社長さんからその分を私の寄稿で埋めてくれないか、というユニークなご提案を頂きました。私が福島県の経済誌で何を書けるのか見当もつかなかったのですが、めったにない機会だと思い、上司の許可を得て筆をとりました。
当初ご提案いただいたのは「地方の女性がなぜ東京に行くのか」というテーマでした。私は確かに宮城県塩釜市の生まれです。なぜいま東京で働いているかというと、2歳の時に親の会社の都合で埼玉に引っ越してきたからです。埼玉の実家は東京まで電車で片道1・5時間ほど。東京のベッドタウンとして機能している町なので、自然、私の経済圏は東京に吸い込まれていくことになりました。私自身の意思で地方から東京に出てきたわけではありません。
次にご提案いただいたのは、「女性編集者と言われても」というテーマでした。やはり「女性が働く」ということについて関心が持たれているのだろうと思います。確かに令和2年度の国勢調査を見ると、男性就業率の全国平均が72・4%であるのに対し、女性の就業率は54・2%と20%弱の開きがあります。都道府県別に見ると、福島県の女性就業率が52・4%であるのに対し、東京都の女性就業率は60・1%で、わずかに東京都の女性のほうが「働いている」といえます[*1]。
一方で、大都市圏の女性は地方より働きまくっている!
といえるかというと微妙なようです。ほかの都道府県に目をやると、大阪府(53・6%)や神奈川県(54・4%)は女性就業率のトップ10には入ってきません。むしろ沖縄県(57・5%)や福井県(57・0%)、石川県(55・8%)など地方のほうが女性就業率は高い傾向にあります。大都市圏には専業主婦が多いようです。専業主婦は夫の稼ぎが良くないと成立しません。高所得の男性は大都市に多いのでその郊外に専業主婦が多くなる、というのが、その理由のようです[*2]。
女性の就業率は「M字カーブ」を描くといわれます。出産・育児が立て込む30代に就業率が落ち込み、それらが落ち着く40代以降に就業率が再上昇します。大都市圏の女性は結婚・出産・育児を契機に労働から排除されやすく、一方で地方の女性は、就業率は高いけれど管理職や地方議員に占める割合は都市圏よりも低い傾向にあります[*2]。
日本の女性が「働く」ということだけを考えるならば、東京で独身でいること、これが最強、ということになります。まさに私がそれです。福島県の女性の生涯未婚率が14・5%であるのに対し、東京都の女性の生涯未婚率は20・0%です。
東京は女性が独身で働き続けることが楽な地域だとは言いません。福島県の女性の平均年収が267・9万円であるのに対し東京都の女性の平均年収は375・5万円ですが[*3]、東京は生活コストも高いです。例えば私が『政経東北』の記者として働くとすると、福島駅徒歩10分圏内、会社までドアtoドア20分ほどのエリアに7万円程で住むことができます(風呂トイレ別、室内洗濯機置き場、二口コンロ、ウォシュレット、追い炊き機能付き、居室8畳)。しかし、都内で似たような条件で物件を探そうとすると、10万円くらいかかります。今の私は立川という会社まで片道1時間かかる場所に、8・5万円で住んでいます。往復の満員電車は本当につらいです。
ただそれでも東京は「独身で働き続けている」女性が他の地域よりもやや発生しやすい傾向にあります。そして私は奇しくも「出版」という極端な東京一極集中型産業に従事しています[*4]。その中でも特にジェンダーやフェミニズムをテーマにした書籍の担当編集をしてきました。『射精責任』というタイトルの本は、NHKや毎日新聞をはじめ様々なメディアに取り上げていただいて、私自身が「女性論客」的な振る舞いを求められることもありました。
出版不況と言われて久しく、書店の閉店や雑誌の廃刊、印刷所や製本所の廃業が相次いでいます。編集者の待遇も緩やかに下がり続けています。それでもなお編集者は不思議と「憧れ」の仕事とされます。本が読まれなくなっているとはいえ、みなさんの中に何かしらの作品が深い印象を与えているからでしょう。絵本、漫画、小説、報道。それらのすべてに「編集者」が関わっています。
では、編集者とは具体的に何をしているのか。主には企画、著者への提案(営業)、進行管理、校正・校閲、広報PR、関係各所の調整になります。会社によって専門の部署などがなければ、それらもすべて編集者が担うことになりますし、逆に専門の部署や人があれば、その分の仕事は肩代わりしてもらえます。私は前職では予算管理や印刷所との交渉などもこなしていました。組版やデザインをやる編集者もいます。私はよく「その他すべての雑用」、これを担うのが編集者だと説明しています。
私が「女性論客」としての役割を求められておずおずとでも引き受けざるをえないのは、誰も拾わないボールは編集者が拾う、という暗黙のルールがあるからです。『射精責任』という本は話題になりましたが、翻訳書で、著者がフランス在住の方でした。外国の専門家をテレビや雑誌に呼ぼうとすると通訳を用意しなければいけませんし、ギャラも日本の有識者よりはるかに高額です。その点、編集者は本の宣伝のためなら平日の昼間でもさくっと稼働できます。逆に言えば、編集者は常にそういうフットワークの軽い状態にしておかなければいけないと、私は考えています。いつどこからボールが飛んできてもいいように、誰からの緊急の相談にも乗れるように、手を空けておかなければなりません(実際、なかなかそううまくはいかないんですけどね……(笑))
ただ、数ある雑用のなかでもいくつかは「確かにこれは編集者にしかできないな」という仕事があります。そしてその中には「女性であること」が存分に生かされる、あるいはハンディになるものがあります。みなさんにとって「物珍しい」女性がどういう生活をして、どういうことを考えているのか。本連載を通じて、やや風変わりな景色をお届けできればと思います。
[*1]令和2年国勢調査 就業状態等基本集計結果 男女別労働力率-都道府県(2015年~2020年)https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka/pdf/outline_02.pdf#page=9
[*2]「高学歴の女性多いと専業主婦が増える? 各県で異なる男女格差のわけ」(牛尾梓、朝日新聞 2022年5月2日)https://digital.asahi.com/articles/ASQ4W4V1XQ4DULEI00T.html?iref=subscribe_done
[*3]厚生労働省「都道府県別賃金(令和4年)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/dl/10.pdf
[*4]「帝国データバンク 出版関連業者4734社の経営実態調査」(帝国データバンク、2019年10月9日)https://www.bunkanews.jp/article/209008/

























