Uターンジャーナリストが見る福島 【第1回】就職

斎藤美幸 さいとう・みゆき
福島市唯一の造り酒屋金水晶酒造株式会社4代目蔵元取締役会長。Uターンジャーナリストとして内外の視点から情報発信している。元フジテレビ・福島テレビ記者。
戻るのはいつも福島
肩書きに「ジャーナリスト」を使うのは久しぶりだ。福島へのUターン者が増えてほしいので「Uターンジャーナリスト」を名乗ることにする。福島に生まれ育った私は、一度目は報道記者として働き続けるため、二度目は1年間のアメリカ滞在を終え3人の子を前の小学校や保育園に戻すため、そして三度目の今は実家の造り酒屋を継ぐため戻ってきた。
しかし、私が最初のUターンをした30年前に210万人を超えていた福島県の人口が今では180万人を下回り、金水晶酒造がある福島市も少子化が続くと予測されている。一人娘の自分が継がなくては福島市唯一の造り酒屋が消えてしまうと10年間がんばってきたが、いくら良い酒を造っても、地元から店が消え、飲む人がいなくなっては地酒の意味が無い。
4代目蔵元という本業のほかに「Uターンジャーナリスト」を名乗ることを決めたもう一つの理由は、記者を途中で辞めた苦い後悔である。フジテレビの厚生省担当記者として33年前から現在の人口減少を聞いていたのに、渡米のため福島テレビを途中で辞めてしまい、ニュースを十分伝えられなかった。私の代わりなどいくらでもいると思って記者を辞めたが、アナウンサーではない均等法世代の女性記者は実は少数だった。今となっては妄想に過ぎないが、あのまま子育ての大変さとか墓守りの減少などを伝え続けていれば、令和時代の今なお若い女性から昔と同じ嘆きを聞くこともなかったように思う。
県外脱出の物理的理由
福島県の2025年出生数は8252人と30年前1995年2万1306人の4割になってしまった。これを受けて「若い女性の流出対策が必要」「地元に残れる工夫を」などの文字を見かけるが、県内外への人口の出入りを男女別や年齢別に丁寧に見てみよう。
文科省の学校基本調査によると、近年の福島県の高校卒業者数は約1万4000人。18歳で県外に移住する男女は約4500人と推計されており「若者はキラキラした東京に憧れるから仕方ないよね」と言われるがそれだけだろうか。
実は福島県の18歳人口に対し、県内の4年制大学の定員はわずか約3400人分しかない。対して大学進学を希望する生徒は約7000人。つまり本人が県内の大学で学びたいと思っても半数はそもそも福島で学ぶ椅子が無い。それでも進学したければ強制的に県外に行くしかなく、当然、学びたい分野などの学校が県内に無い人から県外に行くことになる。
私の場合は高校だったが、大学進学を見据えれば理由は同じだ。もし福島の親元から通える選択肢があれば、高い家賃を払ってまで外へ出る必要はなかった。自分でアイロンをかけたり弁当を作ったりすることもなく、家族に囲まれ内部からの友達も多い都会の同級生がどれほどうらやましかったことだろう。それでも東京に出たのは進学先の数も選択肢も多いからであり、福島に居場所がなかったからである。
本当に流出は女性が多いのか
そもそも「行きたい人が行くのは自由」だから若い世代の人口移動そのものを止める理由は無い。にもかかわらず「若い女性の流出を止めろ」という声を聴くことがある。
しかし、詳細な数字を見ると、県外に出て行く「転出者数」そのものは、女性よりも男性の方が多い。最大の問題は、「男性はある程度戻ってくるが、女性で戻ってくる人は少ない」という点にある。
つまり、問題は「女性のUターンのしにくさ」である。地元に若い女性にいてほしければ「女性を出すな」ではなく「Uターンできる環境を用意する」方が大切だ。この対策を間違えて、地元の中高年が「絶対出るな」とトリモチみたいに迫ったら、居るつもりの人も逃げたくなるだろう。
今の福島では若い独身の女性100人に対して男性が136人という全国ワースト1位の極端な「男余り」県になっている。出生数が減るのも当然だ。
「先生か銀行員」以外に何があるのか
ある小さな自治体に転入した若い女性は「珍しい。ここに来るのは、学校の先生か銀行の人ぐらいですよ」と役場の窓口で言われたという。つまり、いかに過疎の町でも「やりがいがあり、正規雇用で、長く勤められる職場」を用意すれば若い女性が来るということだ。私も最初のUターンは福島テレビが記者職の正社員で採用したから戻った。非正規では将来が不安で戻れない。
統計を見れば明らかだが、県内で男性の正社員率は高く、女性は低い。製造業が多い産業構造の中で、女性がキャリアを積める事務職や幹部候補ポストは圧倒的に少なく、しかもその少ない椅子を男性に割り当ててしまえば、結局女性はUターンを諦め都会で就職せざるを得ない。
「風景が綺麗だから」「食べ物が美味しいから」と移住を呼びかける広報をよく見るが、そんな情緒的な呼びかけだけで、人生の決断ができるだろうか。都会も少子化で、至る所に好条件の求人を掲げている。
高校生時点の調査では「地元に戻りたい」と答える若者が多い。親も祖父母も友人もいる福島にUターンしたいと願う若い女性全員の希望は叶わないものか。
制度が変われば、人は変わる
私は「意識改革」よりも「制度設計」の方が早いと思う。平成初めの職場で禁煙を訴えても「タバコは嗜好品」として取り合ってもらえなかった。しかし、2003年に「健康増進法」という制度ができた途端、状況は一変した。国が決めたとなれば、あんなに頑固だった人たちがピタリとルールを守るようになったのだ。「やればできるじゃないか」と痛感した。制度が変われば行動が変わる。意識改革は必要だが2030年までが人口反転の最後のチャンスと言われる中、それだけではもう間に合わない。
数年間の期間限定でも女性の正社員雇用を増やす制度は作れないだろうか。都会の華やかさは、たまに遊びに行く程度で十分だ。故郷は家族や友人の温かさや物価の安さ、豊かな食、余裕のある保育環境など、生活のインフラとしては非常に魅力的な場所である。
人口減少の数字をもとにAIに対策を相談すると「沈みゆく船からは一刻も早く逃げろ」と言われてしまった。でも私は直ちに逃げることはしない。穴が見つかれば塞げば良いし、船自体を改造しても良い。自然の豊かさだけで移住を求めるのは「穴を塞がず内装の豪華さで船に誘うようなもの」と言われてしまった。「安定した職が無い」という船の穴が開いたままでは、男女を問わず安心して乗船できない。
そう言うと「女の人は仕事を問わず結婚で福島に来れば良い」という声も出そうだ。
残念ながら現代は結婚で船の穴を塞げない。その話はまた次回。

























