スマートフォンを縦に持ったまま、手軽に短編ドラマを楽しめる「縦型ショートドラマ」。人気作を量産して注目を集めるクリエーター集団に、いわき市出身の若者が名を連ねていることをご存じだろうか。俳優・早坂架威さん(29)にこれまでの経緯や今後の展望を聞いた。
いわき出身・早坂架威さんの〝挑戦〟
「TikTok(ティックトック)」、「Instagram(インスタグラム)」のリール動画、「YouTube(ユーチューブ)」のショート動画。かつてSNSはテキストと静止画が中心だったが、ここ数年で縦型ショート動画が主流となりつつある。
テレビや人気ユーチューブ動画の切り抜き、ダンス、料理動画などさまざまなジャンルが投稿され、若年層を中心に見られている。視聴者の関心に合わせた数十秒程度の動画が次々と再生されるのが魅力だ。
そうした中、縦型ショート動画の枠組みで楽しめるドラマ番組を量産し、多くのファンを獲得しているのが、クリエーター集団「ごっこ倶楽部」だ。2021年5月、俳優・多田智さんの呼びかけにより、俳優5人と1人のカメラマンで結成された。
「縦型ショートドラマ」はもともと中国で流行していたものだが、課金やクリック数を増やすため、復讐・溺愛・裏切りなど続きが気になる過激なテーマが多かった。だが、ごっこ倶楽部では、デジタル化が進む時代だからこそ、あえて「日常で忘れがちな小さな愛」というテーマを掲げ、恋愛・家族愛・友情などを描いたドラマを制作している。
そうしたスタイルは視聴者に支持されており、昨年9月時点でのSNSの総フォロワー数は合計560万人に上る。公開される多くの作品が100万回再生を超え、動画の総再生数は100億回を突破した。
そんな同集団の創設メンバーで、俳優、監督、脚本とマルチに活躍しているのが、いわき市出身の早坂架威さんだ。

湯本高、城西国際大学映像芸術コースを卒業し、演技の世界に飛び込んだ。事務所を移り替わりながら、今後の道を模索する中でコロナ禍が襲来。フリーの俳優となったが、演劇公演も減り、バイト漬けの日々を過ごした。「25歳まで芽が出なかったらいわきに帰ろう」という思いも生まれていた。そうした中で、役者仲間の先輩である多田智さんから「いま、ちょっとやりたいことがあるから協力してほしい」と誘われた。それが「ごっこ倶楽部」の始まりだったという。
「互いに面識がない俳優が4人集められ、当時中国で流行していた縦型ショートドラマを見よう見まねで制作してアップしました。いま見るとひどいクオリティーだったと思いますが、当時日本にはほぼ存在しないジャンルだったので、話題になるのではないかと感じていました。2本目の動画が少し反響を集め、3本目の動画で一気に100万回再生を達成しました。最初の1カ月で約16万人もフォロワーが増え、その勢いでこれまで動画を制作し続けている感じです」(早坂さん)
当初は早坂さんらメンバーが貯金を切り崩し、消費者金融で資金を借り入れて製作費に充てる状況にまで追い込まれた。だが、25歳目前で後がないと感じていた早坂さんにとって、動画が100万回再生されたのは、俳優の仕事で初めて手にしたビッグチャンス。縦型ショートドラマの可能性を信じ、活動を続けたところ、投稿が話題になり企業からの出資を受けることができた。
クラウドファンディングなどでの資金確保にも成功したことから、翌年の2022年2月に資本金1000万円で㈱GOKKO(=ごっこ、東京都、田中聡・多田智代表取締役)を設立。縦型ショートドラマが人気を集めるのに伴い規模拡大を続け、現在は正社員・業務委託・パートナーなどを含め約180人規模になっている。
縦型ショートドラマを制作してSNSで発信しているグループは複数あるが、ごっこ倶楽部が特徴的なのは、企画・脚本・撮影・編集、そして出演までを自社で完結させられることだ。それぞれの役割は決まっているが、完全分業制ではない。早坂さんをはじめとした所属メンバーは俳優、監督、脚本、撮影などマルチタスクで高品質の作品を作り上げていく。自由度の高い制作体制の中で、数々の〝バズ動画〟が生み出されてきた。
お台場に専用スタジオ
一方で、縦型ショートドラマを多くの人に見てもらうための工夫や研究は重ね続けているという。
「縦型ショートドラマはユーチューブなどのように検索して能動的に見に行くわけではなく、おすすめで表示されて見ていただくことが多いのです。興味がないとすぐ〝スキップ〟されるので、いかに飛ばされないように、長く視聴し続けてもらえるかが重要になります。そのため、人物設定や世界観を説明する描写は省き、起承転結の『転』の部分からストーリーを描くようにして、ワンカットを2秒以上使わないようにするなど、至る所で興味を持ってもらえる工夫を凝らしています。導入部分で2、3秒でも手を止めてもらえれば、僕らの中では〝勝ち〟と言っていい。それほど導入部分は大事にしています」
社内に分析専門のチームを設けており、どの時間にどういう人が視聴しているのか、動画ごとの『いいね』率やコメント数、何秒で離脱しているのかなど、細かくデータを取り、「データドリブン」(収集したデータを活用して意思決定すること)型の映像制作を進めている。
このほか、例えばティックトックなどは「音楽を楽しむプラットフォームと言っても過言ではない。無音の動画が話題を集めることはほとんどない」(早坂さん)ことから、利用できる登録曲の中でもトレンドのものをチェックし、挿入歌として入れるようにしている。最近ではドラマに合わせた音楽を社内で制作できる体制を整えており、監督がどのような音楽を使いたいか、アーティストと打ち合わせを繰り返すなど、視聴継続率を高めるための工夫を徹底している。
法人化してしばらくはSNSアカウントの運用代行などを行っていたが、データ分析を基に話題作を安定して作り続ける姿が注目を集めるようになり、テレビ局とのショート動画共同制作のオファー、企業や自治体とのタイアップ・PR企画の話が寄せられるようになった。
SNSへの動画投稿も継続する一方で、昨年2月には自社制作による縦型ショートドラマ専用プラットフォーム「POPCORN(ポップコーン)」を立ち上げた。一部を無料公開しつつ、有料で動画を配信することで、SNS経由で興味を持ったファンの取り込みを図っている。
同月には、東京都港区内の同社オフィスに併設する形で、縦型ショートドラマ特化型スタジオ「studio505」を設立した。約505坪のスペースにアパートやバー、病院、学校などを再現した十数部屋のスタジオが設けられ、効率よく撮影を進めることができる。同社の業績は公表されていないが、相当な規模に成長していることがうかがえるし、さらなる成長を見据えた投資であるといえよう。
目標は福島観光大使

グループが圧倒的スピードで成長を続ける一方で、早坂さんは「とにかく福島が好き」と公言し、昨年からは福島中央テレビ「ゴジてれChu!」でぶらカメリポーターを務めるなど、福島県内での露出の機会を増やしている。
昨年には、ふくしまプレデスティネーションキャンペーンの一環で、いわき市などとタイアップし、同市の魅力をPRするショートドラマを制作し、早坂さんも出演した。今年制作の第2弾は倦怠期のカップルがいわき市内の観光名所をめぐりながら関係を修復するという物語で、早坂さんはゴリゴリのいわき訛りを披露した。
「実はうちの父は福島テレビのカメラマンを務めていて、自宅には常に巨大な業務用カメラがある環境で育ちました。映像やテレビが身近な存在だったので、いま福島県のテレビ局でさまざまな番組に出演させていただいているのは、不思議な縁を感じます」(早坂さん)
4月からは福島中央テレビで初の冠番組となる「早坂架威のごっこ倶楽部TV」(火曜22時54分~23時)がスタートした。縦型ショートドラマを横長のテレビでそのまま流すという大胆な試みとなっている。番組を企画した堀田泰裕プロデューサー(「サクマ&ピース」なども担当)はこう話す。
「人気番組『秘密のケンミンショー』のスピンオフ企画として放送されるショートドラマに直川貴博アナウンサーが出演するというので、密着取材した際、共演者として現場にいた早坂さんと初めて出会いました。いろいろ話す中で福島愛を感じたので、『ゴジてれChu!』のリポーターを打診し、その後、郡山市で一緒に食事したのですが、早坂さんと街なかを歩いていると、Z世代が振り返って『握手してください』、『サインください』と近寄るので驚きました。でも、上の年齢層の人は誰も振り返らない。そこが面白いと思って、『せっかくなら、その人気を地上波の力で全県民に広げたい』と考えました。それが番組を企画した一番のきっかけです」
堀田氏によると、年配層の視聴者モニターからの反応も上々だったとか。地上波との意外な親和性の高さも感じさせる。
早坂さんが演技の道に進もうと考えたきっかけは、地元いわき市の湯本高で野球部のキャプテンを務めていたころだったという。学校で「シアター2+1(ツープラスワン)」という劇団の演劇が行われ、普段の授業や講演会などでは居眠りしている同級生が夢中になって観劇していた。さまざまな役を演じられる俳優に憧れを抱いていたが、あらためてエンターテイメントの力に感動し、自分も演じる側になりたいと考えた。その情熱は10年以上経っても変わっていない。
早坂さんに今後の抱負を尋ねると次のように語った。
「ドラマやエンターテイメントを通じて、福島県の魅力、福島県が抱える社会課題が伝わるものを制作して、世界に発信していければと考えています。本当に福島県が好きなので、僕個人としてはもちろん、ごっこ倶楽部としても引き続き何かできたらと考えています。個人的な最終目標は番組などでもたびたび話している『福島観光大使』就任です」
全国的な人気を誇る俳優・クリエーターとなったいまも、早坂さんの根底には福島県への強い愛着がある。その思いを全国、そして世界に発信していくための挑戦はまだ始まったばかりだ。

























