地方アリーナ戦略で存在感増す【ゼビオ】

地方アリーナ戦略で存在感増す【ゼビオ】

国はスポーツを成長産業に据え、プロスポーツなどを観戦できるスタジアムやアリーナの整備を推進している。そうした中で注目を集めているのが、全国でスポーツ小売事業を展開するゼビオグループの取り組みだ。

仙台市・八戸市で独自の官民連携方式

昨年7月、仙台市で行われたアイスショーに、冬季五輪フィギュアスケート男子で2連覇を果たした羽生結弦さんが出演し、全国からファンが集結するなど話題を集めた(本誌2025年9月号参照)。

ゼビオアリーナ仙台(仙台市アリーナ)開館記念セレモニーの様子
ゼビオアリーナ仙台(仙台市アリーナ)開館記念セレモニーの様子
新アイスリンクに駆け付けた羽生結弦さん
新アイスリンクに駆け付けた羽生結弦さん

ショーの会場となったのは、「ゼビオアリーナ仙台(仙台市アリーナ)」。ゼビオホールディングス(HD)㈱が約30億円かけて建設し、2012年10月の開業以降、プロバスケットボールBリーグ1部「仙台89ERS」の試合やコンサートの会場として使われてきたが、新たにフィギュアスケートの国際規格を満たしたアイスリンクを設置するなどの改修が施された。それを記念したアイスショーに仙台市出身の羽生さんが駆け付けたのだ。

氷上に「アイスメイト」と呼ばれるパネル式の可動式断熱フロアを敷設することで、アイスリンクからバスケットボール仕様へ転換できる仕組みを導入した。そのためより幅広い需要に対応できるようになった。総座席数は4660席。巨大なセンターマルチディスプレイ、リボンビジョン、VIPルームなどの設備を備える。実際の管理運営はゼビオHD子会社のクロススポーツマーケティング㈱が担う。

ゼビオアリーナ仙台の施設責任者は次のように説明する。

「フロアのコンクリートを壊してアイスリンクの機能を新たに設けるとともに、(同アリーナをホームアリーナとする)『仙台89ERS』がBリーグ1部に相当する『Bプレミア』に参戦するということもあり、アリーナ基準を満たすために席数を増やしました」

これだけでも十分画期的な取り組みだが、特筆すべきユニークな点は、ゼビオHDが「指定管理を20年にわたって担い続けること」を条件に、アイスリンクを改修して、施設自体を市に寄付したことだ。

ゼビオアリーナ仙台の総工費は約30億円。改修費用は公表されていないが、2026年3月期決算短信によると、ゼビオアリーナ仙台の改修および建物寄付に伴う固定資産処分損として23億6600万円が計上されている。

ゼビオHDはどのような考えでこうした決断を下したのか。その背景にあったのが、東北6県の中でも宮城県にだけ公設アイスリンクがないという事情だ。

仙台市には日本フィギュアスケート発祥の地といわれる「五色沼」があり、羽生さんと、2006年トリノ五輪フィギュアスケート女子金メダリスト・荒川静香さんを輩出した都市だ。だが通年滑走できるリンクが少ないため、有力選手が市外に練習拠点を移すことが増えており、常設の公設リンク整備を求める声が多かった。

もっとも、建設費を考えると新しい施設を整備するのは行政にとっても民間事業者にとっても容易ではなく、既存の施設を改修してアイスリンクを整備するのもハードルが高い。ゼビオアリーナ仙台でも、今後控える大規模修繕費、さらには光熱費や固定資産税などのランニングコストの高さが運営面でのネックとなっており、単独でアイスリンクを整備するのは困難な状況だった。

こうした中、常設の公設アイスリンクを求める声にどう応えるか。2023年ごろからゼビオHDと仙台市が協議し、考え出されたのが、アイスリンクとアリーナを自由に転換できる仕組み、そして前述の「負担付き寄付」という仕組みだったのだ。

アイスリンクからアリーナへの転換は氷を溶かさず8~9時間程度で対応できるため、稼働率を向上させることにもつながった。

「Bリーグをはじめとした各種スポーツの試合のほか、就活イベントや大学の入学式などの会場としても使われています。アイスリンクとしては、1月に平昌五輪男子フィギュアスケート銀メダリスト・宇野昌磨さんのアイスショーが開催されたほか、宮城県スケート連盟が貸し切って、選手の練習が行われています。昨年までの年間利用者数は約35万人で、改修後の年間稼働目標日数は150日に設定していますが、いまのところ順調に進んでいます」(担当者)

市が1億円で利用枠購入

「FLAT HACHINOHE」
「FLAT HACHINOHE」

ゼビオグループがアイスリンクを備えたアリーナを建設するのはこれが初めてではない。2020年4月、青森県八戸市で開業したアリーナ「FLAT HACHINOHE(フラット八戸)」も通年型アイスリンクとアリーナを切り替えられる構造を採用している。ゼビオグループが出資するアイスホッケーチーム「東北フリーブレイズ」のホームアリーナ、Bリーグ「青森ワッツ」の試合や無料滑走イベントの会場として使われるなど、地域にとって貴重な施設となっている。

フラット八戸の施設責任者はこのように語る。

「八戸市はスケートやアイスホッケーが盛んな地域で、学校の授業にもスケートが組み込まれています。市には年間1億円の利用料で時間(利用枠)を買い取っていただき、アイスリンクとして一般開放したり、アリーナを各種行事・式典の会場として使用していただいています。ただ、その利用料収入だけで運営していくのは容易でないので、SPC(特別目的会社)を立ち上げ、独自に興行を誘致すればSPCにそのまま売り上げが入る形を取っています」

JR八戸駅西口の再開発に伴い、八戸市が区画整理事業の保留地を無償で貸し付け、利用料は30年にわたり支払うスキームが採用されている。市が使用する時間内で学校のスケート授業やスポーツ大会が行われており、年間利用者数は約10万人に上る。民間施設でありながら、公共性の高い施設と言えよう。一方でゼビオアリーナ仙台を参考にしながらイベント・興行の開催を増やしているようで、7月には「ディズニー・オン・アイス」公演が行われる。

冒頭で述べた通り、国はスタジアム・アリーナ整備を推進しており、全国で数十カ所の建設・改修計画が浮上している。地域活性化につながることが期待される一方で、建設費高騰や運営ビジネスの脆弱さがネックとなるケースも多く聞かれる。プロスポーツは年間試合数が限られており、観戦需要だけでアリーナ運営を維持していくのは容易ではないからだ。そのため、計画見直しを余儀なくされるケースも多いが、ゼビオHDでは官民連携でそれぞれの負担を抑えつつ、持続可能性のある仕組みを構築してきたといえる。

今後のゼビオグループのアリーナ戦略について、同グループの「管理部門」に当たるゼビオコーポレート㈱のコーポレート室責任者は次のように説明する。

「ゼビオグループではスポーツによる地域振興を企業の存在意義として捉えています。スポーツ小売事業はもとより、プロスポーツチームの支援、マイナースポーツの普及などさまざまな角度で、スポーツの持続的発展に取り組むことが、社会貢献につながると考え、地域と一体となって取り組んでいます」

アリーナを整備して、スポーツ観戦・体験を通じて地域に人の流れを生み出し、スポーツ文化そのものを維持・拡大していく。そのことで、競技人口拡大やスポーツ・健康への関心向上が図れれば、スポーツ用品の売上向上にもつながる。アリーナ単体での収益以上にグループ全体の商圏やブランド価値を支える装置としての側面を重視しているため、ゼビオグループではリスクが小さくないアリーナ運営に取り組むのだろう。

まちづくり関与への期待

ゼビオの郡山本社
ゼビオの郡山本社

こうした中で注目されているのは、ゼビオグループがスポーツを通したまちづくり・地域振興にどのように関わっていくか、という点だ。

まちづくりの核となる複合的機能を備えたスタジアム・アリーナは「スマート・ベニュー」と呼ばれる。県内ではサッカーJ2いわきFC、J3福島ユナイテッドFCによるスタジアム建設構想が浮上しており、スマート・ベニュー型まちづくりの行く末が注目を集めている。

ゼビオグループは前述した通り、人口減少傾向にある東北地方の都市で、新たなスキームを取り入れ、アリーナ運営を軌道に乗せてきた実績がある。2023年3月には、ゼビオグループの中核企業・ゼビオ㈱の栃木県宇都宮市への本社移転を発表したものの、県内で創業した大企業ということもあり、「創業の地である福島県でも、アリーナを整備し、スマート・ベニュー型まちづくりを進めてほしい」と望む声が多いのだ。

現在、ゼビオグループとしては、ゼビオコーポレート㈱が郡山市の郡山ユラックス熱海、磐梯熱海スポーツパーク、磐梯熱海アイスアリーナの指定管理者となっている。

また、84頁からの記事でもリポートしている通り、2023年3月には、市が、市営の宝来屋郡山総合体育館、HRS開成山陸上競技場、ヨーク開成山スタジアムなどの「開成山地区体育施設」をPFI方式で改修するに当たり、ゼビオグループが設立した「開成山クロスフィールド郡山」が正式契約を結び、昨年4月にリニューアルオープンを果たした。PFI事業とは公共施設の建設・維持管理・運営を民間事業者の資金やノウハウを生かして行う制度のこと。

あらためてアリーナ建設を巡る今後の方針を尋ねると、前出・ゼビオコーポレート㈱のコーポレート室責任者はこのように話した。

「福島県内では引き続き磐梯熱海・開成山エリアの施設運営を通して、スポーツ振興・地域振興に取り組んでいく考えです。アリーナ事業に関しては、施設をアセット(資産)として所有し運営していく方法と、われわれの持っているノウハウを活用しながら地域貢献していく方法の両軸で進めていくことになるが、事業として成立させることも大事なので、事業計画に照らし合わせながら進めていきたいと考えています」

人口減少が進む東北地方でも、官民連携の工夫次第で、多目的な交流機能を備えたアリーナを成り立たせる余地はある。スポーツを切り口に「健康で豊かな地域社会」づくりに挑むゼビオグループにとって、地方でのアリーナ建設と運営の維持、まちづくりは新たな挑戦と言えよう。


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