さとう・かつひこ 1956年12月生まれ。南相馬市出身。福島県立医大医学部卒。県立医大整形外科助教授、県立会津総合病院院長、大原綜合病院院長などを歴任し、2019年から大原記念財団理事長、2020年から県病院協会会長。
福島県病院協会は5月の役員改選で佐藤勝彦氏(大原記念財団大原綜合病院理事長兼統括院長)を会長に再任し、4期目に入った。物価高騰と人件費上昇で県内の急性期病院は軒並み赤字に陥り、医療用手袋の不足や看護師確保難など現場の課題が山積する。来年は福島で第77回日本病院学会開催を控える。佐藤会長に展望を聞いた。
地域医療維持は深刻な状況、国は人材確保の課題是正を。
――役員改選が行われ、会長に再任されました。率直な感想は。
「今回で4期目となります。来年、第77回日本病院学会を福島県で開催することが決まり、私が会長を引き受けたため、母体となる県病院協会の役員に学会の組織委員にもなっていただいています。ここで降りるわけにはいかず、ご了解を得て継続を決めました。県病院協会は113の病院が加盟し、組織率は9割を超え、ほぼ県内全病院を網羅しています。当初2020年に就任した時はコロナ禍の真っ只中でした。コロナ収束を経て、今度は物価高騰という新たな厄介な事情が重なりました。昨年は本県でもほとんどの急性期病院が赤字決算に陥り、国や県に支援を要望してきました。本年6月から始まった診療報酬改定は約3・06%のプラス改定となり、新しい地域医療構想の策定に各病院が連携して取り組む転換点でもあります。県とのつながりを生かして超高齢社会に伴う2040年問題への道筋をなんとかつけたいです」
――中東情勢悪化に伴う原油価格の高騰を受け、全国的に医療用手袋など医療物資の不足が続いていると言われます。県内の状況は。
「手袋の不足が懸念されています。大きな病院はまだ確保できますが、規模の小さな病院やクリニックでは入荷しづらい状況が出ています。商社に確認すると新規受付は停止し、継続契約のあるところに限って確保している段階です。手袋以外でもゴミ袋など、ちょっとした医療資材で不足が出始めています。医療廃棄物用の袋が足りず、以前は二重にしていたものを一重にして消費量を抑えるなど工夫しながら対応しています。政府からの放出という話もありましたが、現場まで届いている状況ではありません。全国的な影響ですが、半年単位で考えると心配は尽きません。県医師会と共同で県に要望書を提出しました」
――物価高騰や人件費上昇の影響もあり、全国7割の病院が赤字に陥っています。県内の状況は。
「県内の急性期病院はほぼ赤字です。他業種が人件費を上げる中で病院も追随せざるを得ませんが、病院収入は診療報酬で決まるため自由に上げられません。国はベースアップ評価料という仕組みで人件費を支給していますが、事務職員や看護学校・保育所の職員など医療系以外の職種は対象外で、当院を運営する大原記念財団としては持ち出しになります。今回の改定で事務職員も一部対象に加わり、職種ごとに上げ幅も変えてきましたが、本質的な解決にはほど遠い状況です。加えて看護師確保も深刻で、県内の看護養成機関は軒並み定員割れとなり、3年後の就職者が確実に減る見通しです。看護補助者も慢性的に不足し、業者を介する病院が増えています。さらに転職サイトを通じた紹介料が高騰し、診療報酬から得た収入が民間業者に流れる構造になっています。本来は社会保障費で賄うべき人件費が業者に消える状況は早急に是正すべきです」
――昨年も中山間地域への修学資金貸与者の赴任を促す提言をされていました。地方の医師偏在の標準化を実効性のあるものにするには。
「難しい問題です。若手医師は子育て世代で、自身のキャリアアップだけでなく家庭や子どもの教育環境を考えると、中山間地に赴任しづらい状況があります。働き方改革の影響もあり、24時間拘束されることへの抵抗感も強まっています。それでも地域医療を担う医師は必要で、住民が安心して頼れる医療体制と、医師を温かく迎え入れる地域の受け皿づくりが欠かせません。県立医大が主体となって配置の平準化に取り組んでいます。本県の場合は県立医大があるため他県より調整が利く面もあります。県病院協会としては初期研修からとにかく県内に残ってもらい、専門研修で県立医大に入っていただくルートを確立することが解決の道です。研修の質を上げれば、優秀な医学生も集まってきます。福島市医師会の『福島市臨床研修NOWプロジェクト』には済生会福島総合病院も加わり4病院体制となり、指導医の下、ドクターG形式の症例検討の場が育っています」
――東日本大震災から15年。相双地域では医療機関の再建が進んでいますが、医療従事者の定着が課題です。
「双葉地域では県立大野病院に代わる新病院の整備が進んでいます。地域の自治体だけで議論するのではなく、相馬やいわきも含めた医療関係者の意見をしっかり入れて拠点となる病院を一つ構えるべきです。県立医大との関連で医師の派遣はある程度できますが、本当の課題は看護師・検査技師・放射線技師・リハビリスタッフの確保です。震災で避難したスタッフは戻らず、いま現役の方も定年を迎える時期に差し掛かっています。新規卒業者がいきなり赴任することは現実的でないため、県内の医療従事者にインセンティブをつけて期間限定で動いていただくなど、ローテーション型の仕組みも検討する必要があります。子育て世代の医療従事者にとっては住環境や教育環境の整備も欠かせません」
看護師紹介料が経営圧迫
――国・県に要望したいことは。
「診療報酬のさらなる引き上げと物価高騰対応の補填を強く要望します。看護師紹介サイトへの紹介料が病院経営を圧迫している実態を国にも理解してほしい。診療報酬で稼いだ社会保障費が民間業者に流れる構造は、規制を含めた抜本的な見直しが必要です」
――今後の抱負を。
「まずは来年7月に郡山市のビッグパレットふくしまで開催する第77回日本病院学会の成功です。事務職員も含めた病院全職種が対象で、全国から2000人規模の参加を見込んでいます。医療関連企業による80〜100のブース展示も予定し、医療DXやAIを含む最新動向に触れる場にしたいです。大原記念財団はAWS(アマゾンウェブサービス)ジャパンとスマートホスピタル実現に向けた包括連携協定を結び、生成AIなどを組み合わせた退院サマリーの自動作成などを進めています。患者と向き合う時間を増やすことが本来の質の高い医療につながります。フェイス・トゥ・フェイスの原点は崩さず、効率化と質を両立させます。新しい地域医療構想の策定もこれからの1年で進めます。県病院協会長として、地域の医療提供体制をしっかり構築していく所存です」

























