• 【植松三十里】歴史小説家の講演会開催【矢祭町】

    【植松三十里】歴史小説家の講演会開催【矢祭町】

     7月23日、矢祭町のユーパル矢祭2階多目的ホールで、歴史小説家・植松三十里(みどり)氏の講演会が行われた。令和5年度矢祭町ふるさと創生事業の一環として実施された。 テーマは〝~近代日本の礎を築いた福島の男たち~〟。矢祭町出身で、幕末に活躍した吉岡艮太夫をはじめ、県内で活躍した偉人の功績について、植松氏が自身の作品をもとに紐解いた。 講演前に佐川正一郎町長が「日本の歴史の大切さ、そして日本の未来を考える大切さを、講演を通じて後世に伝えていきたい」とあいさつした。 講師の植松氏は静岡県生まれ。東京女子大文理学部史学科卒業後、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。7年間の米国暮らし、建築都市デザイン事務所での勤務を経て、フリーライターに転身した。 2003(平成15)年に発表した『桑港(サンフランシスコ)にて』で第27回歴史文学賞を受賞。2009(平成21)年には『群青 日本海軍の礎を築いた男』で第28回新田次郎文学賞、『彫残二人』で第15回中山義秀文学賞を受賞した。昨年11月に刊行された最新作『家康を愛した女たち』も話題を呼んでいる。 講演会で取り上げられた吉岡艮太夫は、一般的に吉岡勇平という名前で知られている。 17歳で故郷を離れた後、日本各地を巡って文武両道に励み、江戸の御家人・吉岡家の養子となった。数年後に養父の後を継いで幕府の表御台所人として出仕。その後、旅で身につけた地理学をもとに執筆した江戸湾防備策が認められ、当時海防に従事していた代官・江川太郎左衛門の塾に入門した。 29歳で幕府の軍艦取締役に登用され、その翌年、勝海舟やジョン万次郎、若かりし頃の福沢諭吉らとともに、軍艦・咸臨丸に公用方として乗船、37日間の航海を経てサンフランシスコへと渡った。 吉岡らが日本を離れている間に尊王攘夷運動が高まり、大政奉還や鳥羽・伏見の戦いにおける幕府軍の敗北など、明治維新への機運が高まった。だが、吉岡は、江戸城の無血開城によって徳川慶喜が江戸を追いやられる際に護衛の任に就き、幕府が解体されてもなお徳川家の行く末を幕臣として見届けた。その忠義は最後まで揺らぐことはなかったという。 このほか、常磐炭鉱の開祖である片寄平蔵、帝国ホテルのライト館を手掛けた建築家・遠藤新の足跡についての講演も行われた。後半では植松氏と佐川町長、咸臨丸子孫の会メンバーで、木村摂津守喜毅(軍艦奉行)の玄孫にあたる宗像氏、浜口興右衛門(運用方)の曾孫にあたる小林氏を交えたトークセッションも催された。 会場には町民など約200人が足を運び、幕末を駆け抜けた「福島の男たち」の活躍ぶりに思いを馳せた。 家康を愛した女たち posted with ヨメレバ 植松 三十里 集英社 2022年11月18日 楽天ブックス 楽天kobo Amazon   あわせて読みたい 「矢祭町刀剣展示会」開催-矢祭町・矢祭町教育委員会

  • 政経東北【2024年5月号】広告

    政経東北【2024年5月号】

    【政経東北 目次】西郷村の障害者支援施設で「虐待隠蔽」/【献上桃詐取事件】追加捜査を迫られた県警/事件屋に乗っ取られた鹿島ガーデンヴィラ/南相馬市青果団地「整備費71億円」の是非/逆境でも走り続けた「山の神」今井正人さんに聞く/矢吹町出身・野球スキルコーチ【菊池タクトさん】の挑戦/国見町「救急車問題」が町長選に波及 アマゾンで購入する BASEで購入する 西郷村の障害者支援施設で「虐待隠蔽」 激熱スプーン押し当て入所者火傷 【献上桃詐取事件】追加捜査を迫られた県警 裏付けられたニセ東大教授の「嘘」 事件屋に乗っ取られた鹿島ガーデンヴィラ 雇われ社長が内幕を暴露 南相馬市青果団地「整備費71億円」の是非 デキレースで施設運営者は決定済み 逆境でも走り続けた「山の神」 陸上長距離指導者・今井正人さんに聞く 矢吹町出身・野球スキルコーチ【菊池タクトさん】の挑戦 プロ選手も注目する指導法 【郡山大町土地区画整理事業】地権者の同意得られず停滞 テナントビル新設で風向き変わるか 塙厚生病院に「棚倉町移転説」 背景に旧棚倉高校跡地の利活用問題 いわき市の積算ミスで露呈した入札価格漏洩疑惑 過渡期を迎えた公設温浴施設(いわき編) 国見町「救急車問題」が町長選に波及 「温泉むすめ」人気に沸き立つ福島飯坂温泉 本誌記者「春の福島競馬」初体験レポート ニプロ「新工場建設断念」の余波 特定帰還居住区域の課題 会津バス支援で変貌遂げた【丸峰観光ホテル】 議会で二度否決された北塩原村【ラビスパ裏磐梯】廃止 市長・商議所会頭に聞く喜多方市の未来 塙町長選立候補予定者に聞く その他の特集 巻頭言 復興加速化提言を読み解く グラビア シーズン到来 春の福島競馬 今月のわだい 二本松市「ローソン」油井福岡店が謎の休業 暴行死発生の小野町特養施設で運営法人理事を刷新 「クマ空き家居座り」で見えた東山温泉の課題 会津坂下町議選トップ当選者に町長選出馬の噂 裏磐梯が一人勝ち!?の県内スキー場 南相馬市悪徳ブローカーと旧知の国会議員がコメント 寄付で「災害医療車」資金を調達した常磐病院 「いわきは温暖で住みよい」移住者が気温比較し本を出版 企業特集 新選挙区で躍動する根本匠衆院議員 国政インタビュー 菅家一郎・衆院議員 インフォメーション アクアマリンふくしま 特別インタビュー 竹之下誠一・県立医大理事長兼学長 菊地大介・須賀川商工会議所会頭 本田哲朗・福島成蹊学園理事長兼校長 市長インタビュー 内田広之・いわき市長 首長訪問 押山利一・大玉村長 添田勝幸・天栄村長 遠藤智・広野町長 連載 横田一の政界ウオッチ情報ファインダー耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録フクイチ核災害は継続中(春橋哲史)廃炉の流儀(尾松亮)高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁) 編集後記

  • 政経東北【2024年4月号】

    政経東北【2024年4月号】

    【政経東北 目次】県内自民「裏金議員」の言い分/【衆院新1区】亀岡氏と金子氏「県北・安達で〝因縁対決〞」/いわき・コンクリ撲殺男の虚しい「正当防衛」主張/南東北病院「新病院計画」に資材高騰の余波/猪苗代スキー場「観光施設計画」の光と影/風力発電基地と化す会津若松背炙山/郡山の特養施設に虐待・パワハラ疑惑 アマゾンで購入する BASEで購入する 猪苗代スキー場「観光施設計画」の光と影 事業者は複数企業を率いる地元出身・遠藤昭二氏 風力発電基地と化す【会津若松】背炙山 イヌワシ目撃情報で〝追認ムード〞一変 【会津若松市】県立病院跡地に熱視線 市民は映画館、商業施設を期待 福島県内自民「裏金議員」の言い分 個別質問をはぐらかした森、吉野、亀岡の3氏 【衆院新1区】亀岡氏と金子氏「県北・安達で〝因縁対決〞」 「どちらも反省が足りない」と批判されるワケ いわき・コンクリ撲殺男の虚しい「正当防衛」主張 借金癖と虚言癖が招いた惨劇 南東北病院「新病院計画」に資材高騰の余波 未だに見えない事業の全容 郡山の特養施設に虐待・パワハラ疑惑 相次ぐ告発メールに他人事の理事長 誰も責任を取らない【レゾナック】喜多方の周辺汚染 猪苗代町議選・〝よそ者〟が上位当選のワケ 【学法石川】が甲子園に刻んだ足跡 二本松・唯一無二の24時間ドライブイン レトロブームで脚光を浴びる【二本松バイパスドライブイン】 ハッキリしない郡山逢瀬ワイナリーの移管先 矢祭町「議員報酬日当制」は何をもたらしたのか 相馬地方森林組合で内部抗争 ニセ東大教授が白状した献上桃の行方 落日のヨーカドー 汚染処理水海洋放出の賠償は半年で41億円 燃料デブリ取り出しを中止せよ 「浪江町ADR訴訟」で和解が成立 理想のラーメン追い求める白河市・とら食堂 竹井和之さん その他の特集 巻頭言 トカゲの尾っぽ切り グラビア 2024せいけい観光ガイド 今月のわだい 過去最多を記録した昨年の外国人宿泊者数 違法薬物で有罪の元俳優 福島県警が逮捕のナゼ 伊達バイオマス発電所で運転要員が次々退職 議会で「周辺首長との不仲説」に言及した石川町長 無投票、投票率過去最低が多い県内議員選挙 人気ゲーム「ウマ娘」効果で注目高まる相馬野馬追 インフォメーション お菓子のみよし 首長訪問 引地真・国見町長 藤原一二・川俣町長 高橋廣志・西郷村長 宗田雅之・鮫川村長 古川庄平・会津坂下町長 吉田栄光・浪江町長 企画特集 泉崎村「住み良い村づくり」の成果 福島県が「医療費適正化計画」策定 連載 横田一の政界ウオッチ耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁) 編集後記

  • 【伊達市】須田博行市長インタビュー【2024.3】

    【伊達市】須田博行市長インタビュー【2024.3】

     すだ・ひろゆき 1958年生まれ。宇都宮大農学部卒。福島県に入庁後、県北農林事務所長などを歴任。2018年1月の伊達市長選で初当選、22年1月に再選。  ――2月で2期目の折り返しを迎えました。再選を果たした市長選で掲げた公約の進捗状況について。  「まずは『安全安心の確保』です。1月1日に能登半島地震が発生しましたが、改めて自然災害に対する常日頃の備えが重要と痛感しました。また、断水による生活困難をはじめ、能登半島の地形的な要因もあって被災した道路の再開通に時間を要し、復旧活動に支障をきたすなど道路の重要性も再認識したところです。  本市では水道の耐震化を鋭意進めており、200㍉以上の基幹管路の耐震適合率は90%以上、摺上川ダムから引く浄水における貯配水池の耐震化率は98%となっています。大地震が発生しても耐えられる構造となっていますが、100%を目指し今後も耐震化に取り組んでいきます。  令和元年東日本台風では梁川地域を中心に甚大な水害に見舞われました。市では、令和5(2023)年度から、国土交通省と民間事業者の協力を得て、『ワンコイン浸水センサ』を用いた実証実験に、県内で初めて参加しています。浸水が想定される市内14か所にセンサーを設置することで、豪雨の際の浸水状況をリアルタイムに把握ができ、災害対策の迅速化を図ることが可能となります。  また、センサーによって浸水を10㌢ごとに察知できるので、的確な道路の通行止めやアンダーパス対策、危険を伴う夜間の職員出動回避にもつながります。安心・安全の確保には道路整備も不可欠です。本市は相馬福島道路をはじめ、国道4号、同349号、同399号と道路網が東西南北に充実しています。同349号の整備は宮城県側から進んでおり、本県側も国や県に要望しながら速やかな整備の実現に努めます」  ――雇用・子育て環境の充実についても公約として掲げていました。  「若者の定住につながる『雇用の場の確保』については、伊達市新工業団地の造成が完了し、8区画を売り出したところ、6社により全区画売約済みとなりました。1社については2月に開業を迎え、令和6年度中には2社が稼働する見通しです。  堂ノ内地区の大型商業施設については、現在、土地区画整理事業の工事と大型商業施設イオンモール北福島(仮称)の造成工事が鋭意進行中であり、間もなく完成を迎えます。今後は大型商業施設の本体建築工事の着手に向けて準備が着々と進められるとのことで、1日も早く開業することを期待しています。  街中のにぎわいづくりについては、『若者が楽しめる場』として気軽に集まって楽しんでもらえる施設の整備、商店街の魅力向上などを目指し、若手商店主等の意見を伺い、実証事業を進めているところです。  『子育て・教育の充実』については、若い世代にとって定住の重要な条件でもあります。子どもたちを安心して預けられ、子どもたち自身も安全に過ごせる居場所が重要になると考え、本市では3つの認定こども園の整備を進めてきました。  伊達・ひかり認定こども園、保原認定こども園は4月に開園の運びとなります。また、阿武隈急行高子駅北地区の住宅団地内で高子北認定こども園(仮称)の建設が始まり、令和7年4月の開園に向け整備が進められています。そのほか、かみほばら放課後児童クラブ館を新築し、今年4月から開所予定です。  本市ではすべての妊婦、18歳までの子どもとその家族を対象に、相談体制を充実させた『伊達市版ネウボラ事業』を展開しています。今後もネウボラ保健師を中心とした、妊娠期から切れ目のない保健・福祉・教育の三位一体となった子育て支援に一層取り組んでまいります。  市民の健康寿命の延伸を目指す『健幸・福祉のまちづくり』も公約として掲げました。本市では、運動習慣化支援事業として、地区集会所を拠点に参加者同士が交流を図りながら気軽に楽しく運動を行う『元気づくり会』事業を推進しており、現在は146団体が参加しています。コロナ禍で一時活動が制限されましたが、会員の皆さんの強い思いにより、コロナ禍以前の取組が復活しています。昨年5月には、本市の基幹産業である農業と福祉の連携を目指し、障害福祉施設として多機能型事業所『インクルーシブたかこ』が開所しました。〝明るく楽しく健康に〟をモットーに、農業生産活動や就労知識及び能力向上のための訓練などを行っており、障害の有無にかかわらず、さまざまな交流・学びの場として利用されています」  ――新型コロナの影響について。  「感染拡大防止のため、これまでさまざまな行動制限を強いられるなど、市民の皆さまにとって、まさに辛抱の3年間だったと感じます。その思いが昨年5月8日の5類引き下げ以降は、一気に市民の活力となって市内各地に「にぎわい」が戻ったと実感しています。現在、イベントやお祭りなどが通常通りに開催されていますが、特に参加する子どもたちの笑顔が印象的で、対面でのふれあいや繋がりの重要性を感じました」  ――伊達小学校校舎改築工事が竣工しました。  「旧伊達小学校は建築から50年が経過しており、耐震診断の結果からも校舎改築は待ったなしの状況でした。平成28年から学校、保護者、地元住民で構成された検討委員会で議論を重ね、『子どもたちが安心・安全に学べる校舎』、『地域住民のコミュニティの核』との意見集約が成され、『地域と一体となった学校づくり』を目指すこととなりました。  これらを踏まえ、同校は吹奏楽が非常に盛んなことから、校内に講堂を整備し、講堂と音楽室を隣接させ、練習、発表を問わず使い勝手の良い配置としました。校内イベントはもちろん地域住民の各種発表会の場としても活用していきます。  校内はバリアフリー仕様で、ICT教育の充実を図るため、各教室に大型提示装置(ディスプレイ)を設置し、児童のタブレットと連携して授業が行える教育環境を提供しています。地域の皆さまや施工業者のご尽力により、昨年12月末に校舎改築工事が竣工し、引っ越しや備品搬入を経て、1月9日から新校舎での学びがスタートしました。子どもたちからは『ホテルみたい』、『廊下が広くてきれい』と感動や喜びの声が寄せられています」  ――今後の抱負について。  「昨年策定した伊達市第3次総合計画では①安心・安全できれいなまち、②健やかでやさしい健康・福祉のまち、③未来を拓く人を育む教育・文化のまち、④活力とにぎわいあふれる産業のまち、⑤便利で快適に暮らせるまち、⑥みんなでつくる協働のまち――という6つの基本目標を掲げています。まずは前期基本計画に基づき、本市の将来像『人と緑と歴史が結び合うひかり輝く田園空間・伊達市』の実現に向け積極的に市政運営を進めていきます」

  • 政経東北【2024年3月号】

    政経東北【2024年3月号】

    【政経東北 目次】県内元信者が明かす旧統一教会の手口/【衆院選新3区】未知の県南で奮闘する会津の与野党現職/【白河】旧鹿島ガーデンヴィラ「奇妙なM&A」の顛末/【センバツ出場】学法石川の軌跡/安田秀一いわきFCオーナーに聞く/【特集・原発事故から13年】/福島駅東口再開発に暗雲 アマゾンで購入する BASEで購入する 県内元信者が明かす旧統一教会の手口 新法では救われない「宗教2世」 【衆院選新3区】未知の県南で奮闘する会津の与野党現職 上杉支持者に敬遠される菅家氏、玄葉票取り込みが課題の小熊氏 【白河】旧鹿島ガーデンヴィラ「奇妙なM&A」の顛末 不動産を市内外の4社が競売で取得 【棚倉町議会】議長2年交代めぐるガチンコ対決 議員グループ分裂で9月町長選への影響必至!? 問われるあぶくま高原道路の意義 利用促進を妨げる有料区間 【センバツ出場】学法石川の軌跡 佐々木順一朗監督のチームづくりに迫る 【スポーツインタビュー】安田秀一いわきFCオーナーに聞く 「君が来れば、スタジアムができる」 過渡期を迎えた公設温浴施設【会津編】 会津美里町は民間譲渡で存続 【特集・原発事故から13年】 ①県内復興公営住宅・仮設住宅のいま ②復興事業で変わる双葉郡の居住者構成 ③追加原発賠償の課題 ④復興イノベーションは実現できるのか ⑤原発集団訴訟 6・17最高裁判決は絶対なのか(牧内昇平) ⑥フクイチ核災害は継続中(春橋哲史) ⑦廃炉の流儀 拡大版(尾松亮) 県職員・教員の不祥事が減らないワケ 横領金回収が絶望的な会津若松市と楢葉町 国見町議会には荷が重い救急車事業検証 福島駅東口再開発に暗雲 福島駅「東西口再編」に必要な本音の議論 その他の特集 巻頭言 復興まちづくりの在り方 グラビア 旧避難区域の〝いま〟 今月のわだい 維新の会県総支部「郡山移転」の狙い 南相馬木刀傷害男の被害者が心境吐露 矢吹町「ホテルニュー日活」破産の背景 桐島聡に影響与えた⁉福島医大の爆弾魔 特別インタビュー 小櫻輝・県交通安全協会長 管野啓二・JA福島五連会長 企画特集 地域資源を生かした田村市のまちづくり 挑戦とシン化を続けるいわき商工会議所 市長インタビュー 木幡浩・福島市長 須田博行・伊達市長 高松義行・本宮市長 首長新任期の抱負 星學・下郷町長 インフォメーション 新常磐交通 福島観光自動車 陽日の郷あづま館 矢祭町・矢祭町教育委員会 連載 横田一の政界ウオッチ耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁)ふくしまに生きる 編集後記

  • 「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組み【JAグループ福島】

     JAグループ福島が「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みを始めて、まもなく2年を迎える。  「園芸ギガ団地」構想は令和3(2021)年11月に開催した第41回JA福島大会において、取り組むことが決議されたもの。  本県は全国でもコメの生産ウエイトが高い県の一つ(令和3年農業産出額1913億円、うちコメ574億円=30%)だが、近年の生産過剰基調によりコメの販売価格は低下・不安定化している。  そうした中で農業者所得の増大を図るため、国産需要が見込まれる園芸品目へ生産をシフトする取り組みとして、秋田県の取り組みを参考に同構想を進めている。  県としても、園芸振興の取り組みを後押ししており、園芸産地の生産振興をさらに進めるため、「園芸生産拠点育成支援事業」を創設。手厚い補助(事業費の6割を補助=※1)を行うことで、園芸振興に取り組みやすい環境づくりを進めている。  また、独自の支援策を打ち出している市町村もあり、JA、行政など関係機関が一体となって園芸振興の取り組みを進めている。  県内では、現在、全5JA12地区で「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みが進められている。品目は、きゅうり、ピーマン、アスパラガス、トマト、宿根かすみそうなどで、各JA管内の主要園芸品目を中心とした生産振興を行っている。  各JAの今年度の販売高をみると、JAふくしま未来の桃(73億円)、JA福島さくらのピーマン(約7・3億円)、JA会津よつばの南郷トマト(約12・3億円)、昭和かすみ草(約6・4億円)など、過去最高の販売高を計上している。  また、▽GI(地理的表示=※2)の取得(南郷トマト、阿久津曲がりねぎ、伊達のあんぽ柿、昭和かすみ草など)、▽記念日(ふくしま桃、伊達のあんぽ柿、昭和かすみ草、南郷トマト)の制定など、園芸振興の取り組みが県内各地で加速化している。  「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みが、福島県の園芸振興の起爆剤となり、農業者の所得増大へとつながっていくことに期待したい。 ※1 事業要件に合致するもの ※2 GI:Geographical Indication(地理的表示)。その地域ならではの自然や歴史の中で育まれてきた品質や社会的評価などの特性を有する農林水産物・食品を国が登録し、その名称を知的財産として保護しているもの。令和5(2023)年7月20日現在、全国で132産品が登録されており、福島県では6産品が登録されている。 昭和かすみ草の生産ハウス団地

  • 【会津土建】菅家忠洋社長インタビュー

    【会津土建】菅家忠洋社長インタビュー

    かんけ・ただひろ 1979年5月生まれ。東京の大学を卒業後、海外留学を経て会津土建へ入社。翌年、子会社の㈱エマキへ出向。10年間IT事業の社長を務める。その後、会津土建へ戻り、取締役、常務取締役、副社長を歴任し、昨年6月に代表取締役社長に就任。   会津若松市の会津土建は大正15(1926)年に創業し、会津地方に根ざした総合建設業として成長を続けてきた。建設業界全体がさまざまな課題を抱える中で、先進的な取り組みへの挑戦を続けている。昨年6月に代表取締役社長に就任した菅家忠洋氏(44)に建設業界の現状、今後の経営ビジョンについてインタビューした。 効率化と新たな挑戦を心がけ成長を続けていく。  ――昨年6月8日付で会津土建の代表取締役社長に就任されました。  「私の祖父と父が歴代の社長なので、幼い頃から会社を引き継ぐことに漠然としたイメージはありました。実際に社長となって、もちろん仕事の重みや責任は感じていますが、不安やプレッシャーにさいなまれることはなく、やりがいを感じながら充実した日々を過ごしています。さまざまな方々とお会いする機会に恵まれ、物事に対する見識や感性が膨らみ、人との結びつきやご縁の尊さを実感しています。建設業という仕事自体にとても魅力を感じますし、人のため、社会のために貢献すべく、地域が活性化できるよう情熱をもってまちづくりに努めていきたいと存じます」  ――老舗総合建設会社として地域社会にどう貢献していく考えですか。  「当社は大正15年創業、まもなく100周年を迎える老舗の建設会社です。会社の歴史を十分に理解しながら、新たな伝統を創っていく所存です。現在の会津地域における建設業界を取り巻く環境や政治経済の状況を俯瞰的に捉え、何を成すべきか、深く考えながらも瞬時に見極め、判断していく必要があります。また、今までお付き合いいただいたお客様はもちろんのこと、新たにご縁をいただいた方々、協力会社、職人さん方とより一層の誠心誠意を込めてお付き合いをさせていただきたく存じます。私たち建設会社のミッションは、お客様の満足いく建物を提供すること、そして、安心で安全に生活ができる豊かなインフラを整備し、地域社会に還元することが最重要項目です。社会情勢が目まぐるしく変化する中、安全、品質、コスト、デザイン、付加価値、SDGsなどへのより一層の対応が求められています。今後、PPP(官民のパートナーシップによる公共サービスの提供手法)やPFI(公共施設等の建設・維持管理・運営等を民間の資金、経営能力、技術的能力を活用する手法)事業が推進されると想定し、異業種の方々との交流や連携による柔軟な発想と対応が大事です。そのためにも、私たちも理論に基づいた提言をしながら、発注者、施工業者、設計、学識者、専門機関など、さまざまな意見をまとめながら、産学官による垣根を超えたデザインビルドに取り組むべきだと思います。将来を見通しながら地域の皆さまが納得し、喜ばれる仕事を完遂することが弊社の社会的な役割であるとあらためて認識しています」 ICTとアナログの融合  ――先進的な取り組みについて。  「建設業界では少子高齢化による人手不足が深刻です。そのため、国土交通省は、最先端工法やICT技術を導入することで建設生産システムを向上し効率を良くする『i―Construction』を推進しています。建設現場のみならず、総務や経理の事務的なバックオフィスでも生産性や効率性の向上が図られています。現在は3次元データの活用を深化させ、建設現場をデジタルツインで作業効率を高める取り組みにも着手しています。  スケールの大きい土木現場を施工管理する大々的な建設DXからスマートフォンのアプリケーションに至るまで、会社にとって効果があり、社員の仕事が楽に、スムーズになるのであれば積極的に導入する考えです。時代の潮流に乗り、今後も新しいテクノロジーや大手ゼネコンの取り組み、海外の事例を含め、導入検討や内製化の研究に励む所存です。 一方で、私は何よりも『アナログ』なお付き合いを大切にしようと思っています。人様との信頼関係の構築には対面が不可欠です。『温故知新』を座右の銘に、老若男女問わず、真心と礼儀を尽くしたいと存じます。『デジタル』と『アナログ』それぞれの利点を見極めながら新旧融合を図り、相乗効果が発揮できるよう『機を見るに敏』を意識した対応に徹したいと思います」  ――建設業界の今後の見通しは。  「全国的にみれば、先の東京五輪、リニア中央新幹線の整備、大阪万博、東京の再開発事業など建設需要が旺盛となっています。一方で、本県に目を移せば東日本大震災から12年が経過し、イノベーション・コースト構想や一部まちづくりを残し、復旧・復興事業も終わりを迎え、大型事業も少ない状況です。建設業界はすでに縮小・淘汰の時代が到来したといっても過言ではなく、大都市と地方都市を比較すると経済格差を著しく感じます。これからは新規でゼロから建設するというよりも、既存の建造物・構造物の維持管理やメンテナンスに軸足が移っており、それに応じて業務内容も変化させていく必要があります。  今後は、既存の建設会社だけではなくハウスメーカー、設備会社など関連業種も含めれば競争相手が多く、生き残りは容易ではありません。そうした中で、当社の位置付けを見つめ直しながら、新たなチャレンジを始動していく覚悟が問われます。先行きが見えないことも多々ございますが、私たちが抱く既成概念をリセットし、どん欲に挑戦しながら新たな領域を切り開くことが生き残るポイントだと考えます。厳しい経済状況でも成長している企業が存在するのも事実です。成功事例から学びを得て、業務に反映できるものはぜひ取り入れていきます。激烈な競争を勝ち抜くためにも『メイドイン会津』の地元建設会社として、プライドを大切にしながら企業価値をさらに高め、皆さまから認めていただけるよう、誠心誠意努めていきます」  ――結びに今後の抱負を。  「これから未来の福島を創るにあたり、私たち建設業界は真価を試される大切なターニングポイントにあると思います。故郷のため、そして子どもたちのため、日々技術を磨き、研鑽を積みながら、新しい事業スタイルを常に学び、もう一段上の高みに会社をもっていきたいと強く願っています。その実現に向け、『企業は人なり』の精神をモットーに、社員ファーストで生き生きと働ける環境を提供し、福利厚生を充実させながら、優秀な人材をリクルートしていきます。  また、健康経営優良法人の認証取得や女性活躍社会の推進をはじめ、企業価値の向上に着手していきます。今までの建設会社のイメージを覆し、新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)を実現し、魅力溢れる企業体質をもって、社会に貢献していきます。私自身、まだまだ若輩者ではありますが、夢と希望を持って成長していきます」

  • 【相馬商工会議所】草野清貴会頭インタビュー(2024.2)

    【相馬商工会議所】草野清貴会頭インタビュー(2024.2)

     くさの・きよたか 1946年生まれ。東京電機大学卒。草野建設代表取締役会長。2013年から相馬商工会議所常議員を務め、16年11月から会頭。現在3期目。  新型コロナウイルスは徐々に収まってきたが、円安、物価高、人手不足の影響は深刻さを増している。インバウンドで賑わう首都圏や有名観光地とは異なり、地方経済の回復はまだまだ遠い。加えて相馬市は、二度の福島県沖地震による被害からも完全に立ち直っていない。地元経済界の現状と今後を相馬商工会議所の草野清貴会頭に聞いた。 災い転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたい。  ――新型コロナウイルスが昨年5月に5類に移行しました。  「昨年から祭りやイベントなどを従来通り実施していますが、コロナ前と比べても大盛況でした。スポーツ合宿で市内を訪れる人の数も戻っています。  コロナの影響を大きく受けた飲食店や宿泊業などは回復傾向にあります。飲食店は店ごとに差はありますが、コロナ前の7~8割まで回復しています。ただ、昨今の物価高を価格転嫁できておらず、それが雇用に支障を及ぼしており、経営は未だ不安定です。宿泊業は、人流は回復しているものの地震被害の復旧が完了済みの所とこれから建て替えを行う所があり、格差が見られます。地域全体では回復に至っておらず、イベントが行われても市内に宿泊できる場所が少ないのが現状です」  ――2021、22年に発生した福島県沖地震の影響は。  「地震で半壊以上となった市内の建物は2621件、うち公費解体は1176件に上ります。会員事業所も多くが被災しましたが、国・県に要望してグループ補助金が適用され再開に至った所もあります。しかし比較的大規模な宿泊施設はこれから着工となる所もあり、全体的に回復したとは言えません。  地震被害からの回復を目的に県内一斉に行われた宿泊県民割では、管内の宿泊施設の復旧が遅れたため、県に要望し『県民割相馬版』を実施しました。ほかにも15%割増プレミアム商品券や飲食マップ作成、ほろ酔いスタンプラリーや推奨物産品発掘事業『相馬逸品』など、地域経済回復のための事業に取り組んできました。  今後も行政、観光協会、漁協、農協など各種団体と連携し、地域経済浮揚に向け努力していきたい。また事業所に寄り添い、それぞれが抱える課題には伴走型支援を行うなど経営改善普及事業を積極的に進めていきたいと思います」  ――円高・物価高が大きな問題となっています。人手不足や後継者不在も深刻です。  「8割を超える事業所が異口同音に『物価高に対する価格転嫁ができず利益を見いだせない』『賃上げの意思はあるが余力がない』と述べています。中には『高齢化で廃業を検討せざるを得ない』などの声もあります。建設業や運送業からも『人手不足と資材・燃料高騰で業績が低迷している』との声が聞かれる中、4月からは運送業で年間残業時間上限960時間の規制が始まるため、業界の縮小も懸念されます。ただ一方では、価格転嫁をできている事業所もあり『新たなサービスや付加価値を付けて対応している』という意見も少なからずあるので、全体に波及させていきたいと思います。  後継者問題は、特に小規模事業所では深刻に捉えており、事業継続を断念するケースが多い。会議所としては、そういった事業所に積極的に相談するよう呼びかけながら、経営アドバイザー的な役割を果たしていきたいと思います」  ――国・県に望むことは。  「原油、原材料、資材価格の急激な高騰に対応するため、経営環境が逼迫している中小企業・小規模事業所の実態に沿った事業コストの負担軽減支援策を求めたい。また、エネルギー価格高騰の影響を受ける中小企業・小規模事業所に対する総合的な支援および原油価格高騰の影響を抑えるための総合的な対策を迅速かつ的確に実施していただきたい。  また公共事業を受注する際、受注から納品までの期限が長い事業については、当初の見積もり額から値上がりすることが想定されるため再見積もりを認めるなど、受注側に配慮した負担軽減支援策を実施するようお願いしたい」  ――昨年、福島第一原発で処理水海洋放出が行われました。  「幸い、管内で大きな影響は出ていません。日本商工会議所の小林健会頭が全国に呼びかけた『常磐ものの活用促進』により各地から多くのアプローチがあります。当会議所でも水産加工事業者と連携し情報発信を行っており、今後も地元水産物のPRに努めていきます」 人気を集める「福とら」  ――相馬沖で捕れる天然トラフグ「福とら」が人気を集めています。  「『「福とら」泊まって、食べてキャンぺーン』を展開中ですが、お陰様で大変好調です。『福とら』を取り扱う店舗も11に増えていますが、さらなる拡充に努めていきたい。また『福とら』との相乗効果でカレイやヒラメの人気も高まっており、直売所・浜の駅松川浦には週末になると多くの観光客が訪れています。 一方、課題としては他県に比べて水産加工品が少ないので、以前からアオサの加工品などの開発に取り組んでいます。アオサは健康食品として注目されており、現在四つの加工品が発売されています。今後もさらなる加工品開発に取り組んでいきたいと思います」  ――今年度取り組んでいる事業について。  「この間、相馬駅東改札口設置をJR東日本に要望してきましたが、常磐線を管理する水戸支社からは前向きな回答をいただいています。東側には法務局があり、以前から開発のための土地もあって、ようやく東口開発が進むと思います。  東北中央自動車道の開通により中通り方面とのアクセスは格段に向上しましたが、県立医大附属病院への救急搬送には伊達桑折ICで下りなければならず、さらなるアクセス向上が求められます。そこで、国道115号の改良を県に要望していますが、当会議所だけでなく原町、福島、会津若松、会津喜多方の各商工会議所や各種商工団体も加わったことで県にも前向きに検討していただいているので、引き続き改良実現を目指していきます。  また、相馬野馬追の開催時期が今年から5月に変更されます。周知活動はもちろんのこと、これまで以上の誘客につなげられるよう取り組んでいきたい」  ――最後に、今後の抱負をお聞かせください。  「観光をさらなる産業の柱とすべく『福とら』を生かした『新たな食文化の創造』『豊かな海と城下町の歴史を生かした交流事業』『音楽によるマチ起こし事業』など、これまでの基幹事業に文化事業を幅広く加え、新たなアイデアを駆使しながら交流人口拡大に取り組んでいきたい。近年多くの災いに襲われていますが、転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたいです」

  • 【棚倉町】湯座一平町長インタビュー(2024.2)

    【棚倉町】湯座一平町長インタビュー(2024.2)

     1961年生まれ。福島大経済学部卒。2012年9月の棚倉町長選で初当選。2020年8月の町長選で無投票での3選を果たした。 健康づくり、教育、観光・農業振興を推進する。  ――昨年5月8日から新型コロナウイルス感染症が2類相当から5類に引き下げとなりました。町内の状況はいかがでしょうか。  「5類感染症への移行後は、各種イベントやさまざまな活動が再開されるなど、ようやくコロナ禍前の日常生活に戻ってきたと実感しています。コロナ感染が落ち着きを見せる一方で、原油高、物価高騰による影響が地域経済に影を落としている現状です。本町ではこの間、町民の生活支援や経済対策の一環として、昨年8月と12月に『たなぐら応援クーポン券』を発行し、町内における消費喚起ならびに地域経済の活性化に努めました。  また、『一番お金がかかるのは高校生』との声を踏まえ、新たに『高校生等生活応援給付金』事業を展開し、1人当たり年6万円の給付を実施しながら支援に努めました」  ――2024年度の重点事業について。  「まずは健康づくりです。『健幸なまちづくり』をスローガンに老若男女が希望と生きがいを持ち、健康で活動的に暮らせるまちの実現に向け取り組みます。妊娠期から寄り添った伴走型支援に努め、子育て世帯の孤立・孤独化を防ぎ、子育てに寛容な育児リテラシーを醸成し、『産み育てやすい』『子育てが楽しい』と思えるまちづくりを目指します。また、健診受診率の向上をはじめ、『歩く』健康づくり事業を推進し、健康寿命の延伸を図ります。  次に教育です。引き続きキャリア教育を推進するとともに、タブレットを用いた学習教材の活用やICT環境の整備を行い、一人ひとりに合わせた学習を進めます。今年度は新たに、子どもの夢やチャレンジを支援する『こども未来応援事業』を実施していきます。  観光振興では、2025年度に棚倉城築城400年の節目を迎えるにあたり、プレイベントの実施をはじめ、さまざまな観光施策を展開し、交流人口の拡大を図ります。また、棚倉町歴史的風致維持向上計画に掲げる棚倉城跡周辺道路整備や棚倉城下道路整備、馬場都々古別神社門前環境整備を進め、観光資源の高質化に注力します。  農業振興では、推奨園芸作物推進事業として実施するイチゴ、トマト種子補助にキュウリを加え、農家の皆さまが安定的に経営できるよう県やJAなどと連携強化を図り経済的・技術的な支援を継続して実施します。また、農地利用地域計画を策定します」  ――新年の抱負を。  「本年は辰年です。龍が天に昇るような勢いのある1年となるよう、町民の皆さまとともに『チームたなぐら』をさらに上昇気流に乗せたいと考えますので、皆さまのお力添えを賜りますようお願いいたします」

  • 【白河商工会議所】鈴木俊雄会頭インタビュー(2024.2)

    【白河商工会議所】鈴木俊雄会頭インタビュー(2024.2)

    すずき・としお 1947年生まれ。国立平工業高等専門学校中退。アクティブワン代表取締役。2013年から白河商工会議所副会頭、22年11月から現職。  新型コロナウイルスの感染拡大はひと段落したものの、円安や原油価格・物価高騰、人手不足により、中小・小規模事業所は厳しい状況に置かれている。インボイス制度や電子帳簿保存法への対応にも追われている。白河商工会議所の鈴木俊雄会頭(アクティブワン代表取締役)に管内の現状と今後の展望について語ってもらった。 課題に直面する会員事業所の自己変革・生産性向上を支援。  ――新型コロナウイルスが5類に移行しましたが、管内の現状は。  「特に影響が大きかったのは飲食業ですが、コロナ前の水準に戻りつつあります。イベントに関しては、昨年から白河だるま市が通常開催となりましたが、大勢の人出でにぎわい、今年は昨年を上回る見込みです。  一方で、各事業所が営業時間やスタッフ配置を見直して生き残りを図っていたところに急激に客足が戻ってきたので、飲食店は人手不足となり、大人数での宴会を断っている店もあります。運転手不足で帰りのタクシーや代行業者を探すのも一苦労の状況で、飲酒運転増加につながることが懸念されています」  ――円安や燃料高・物価高も企業経営に大きな影響を与えています。  「ロシアのウクライナ侵攻など外的要因もあるので、ある程度やむを得ない面があります。政府では原油・物価高騰に対応した補助金を設けたほか、取引先との取引適正化を図る『パートナーシップ構築宣言』を推進しています。会員事業所の中にも大手企業とのパートナーシップ宣言に着手したところがありますが、経費増分をすべて吸収する取引金額に設定するのはなかなか難しいと思います。  1月1日からは電子帳簿保存法の猶予期間が終了し、電子データは保存要件に従った形で保存することが求められるようになりました。インボイス制度すら対応できていない会員事業所も多い中、本業以外に対応しなければならないことがありすぎて付いていくのは容易でありません。当会議所としても会員事業所に寄り添いながらサポートしています」  ――中小・小規模事業所にとっては人手不足も大きな課題です。  「当会議所の管内には大手企業の工場が多く進出していますが、それらの企業は政府が掲げる賃上げ政策、働き方改革を忠実に実行しており、人手不足の中でもそれなりに従業員を確保しているように見えます。  問題は、経営的にそうした対策を講じる余裕がなく、大手企業に求職者を取られてしまう中小・小規模事業所です。当会議所で会員事業所にアンケート調査を行ったところ、新入社員の定着率は5年間で53%でした。新入社員の半分が、より良い条件を求めて、5年以内に離職していることになります。  政府は『成長と分配の好循環』を掲げ、賃上げ政策や働き方改革を進めていますが、賃上げは売り上げが上がり、利益が確保されて初めて実行できるもの。政府が掲げている方針は順序が逆なのです。無理やり賃上げすることでデフレから脱却できる可能性は生まれるかもしれませんが〝痛み〟は伴うでしょう。  加えてコロナ禍前後で経済構造が大きく変わってしまい、ビジネス形態や社会環境も様変わりしました。だからこそ中小・小規模事業所は現状維持でなく、生産性向上や自己変革を必須の課題として取り組んでいく必要があります」 人手不足解消に注力  ――会員事業所の人手不足を解消するための施策は。  「人手不足対策に関しては、就職を希望する高校生を対象とした就職説明会を続けています。また、進学で市外に出て行った学生が就職活動する際、無料通信アプリ『LINE』を使って地元企業の就職情報、地元情報にアクセスできる仕組みを作りました。『LINE』アカウントに登録した人には地元産の生活用品を贈呈しています。最近は学生の家族が登録するケースも増えています。  管内には製造業が多いですが、市では今後、研究開発拠点の誘致を目指しています。当会議所としてもそうした拠点が増えていき、多様な人材が集まることを期待しています」  ――今後の重点事業について。  「本年4月1日から『中心市街地活性化基本計画』が第4期目に入ります。中心市街地には白河市立図書館や白河文化交流館コミネス、マンションなどが建設され、他自治体からの視察者も多いです。  一方で中心市街地の課題となっているのは駐車場不足です。車社会の地方において駐車場が整備されていなければ、顧客が足を運ぶことはありません。商店街に並ぶ空き家・空き店舗を駐車場にする方法も考えられますが、そうなると今度は駐車場しかないまちになってしまいます。  中心市街地はただ人が住める場所というだけではなく、歴史・伝統・文化が息づく環境での生活を通して、文化的な価値を共有できることが重要だと考えます。そのためにはただ活性化させるだけでなく、中心市街地が持つべき機能を一から考える必要があります。  観光拠点としては、今年から小峰城の清水門を復元するプロジェクトが本格的にスタートします。その一方で、市は南湖公園の活性化を進めており、昨今は宮城・仙台育英が夏の甲子園で優勝したのをきっかけに白河の関跡も脚光を浴びています。これら観光資源を生かして地域経済活性化につなげていきたいですね。  昨年、当会議所内に『道の駅検討特別委員会』を立ち上げました。詳細な整備計画などは決まっていませんが、実現するとなれば主力商品となる地場産品や地元農産物が必要になります。整備が決まってから準備し始めたのでは遅いので、6次化商品の開発などをこれから検討していきたいと考えています。  このほか、地域内のIT企業やシステムエンジニアとの連携を図る組織作りの準備を進め、会員事業所のデジタル化を応援する取り組みも併せて進めていきます」  ――今後の抱負。  「コロナ禍がひと段落し、経済は間違いなく好転していますが、先ほどもお話しした通り、中小・小規模事業所はさまざまな課題に直面しています。当会議所でも新しい制度への対応に追われていますが、それでも『できることは何でもやろう』という合言葉を掲げ、役職員一丸となってさまざまな事業に取り組んでいきたいと思います。  日経平均株価が33年ぶりに3万6000円台の高値となりましたが、かつての好景気とは異なり、中小・小規模事業所の厳しい経営環境は変わりません。しかしながら、愚痴ばかり言っていても始まりません。与えられた環境の中でも生き残りをかけて自己変革を果たし、生産性向上を目指し、従業員の働きがいや生きがいなどを大切にする企業へと変貌していかなければなりません。当会議所としてはそのために必要な支援を全力で進めていきます」

  • 政経東北【2024年2月号】

    政経東北【2024年2月号】

    【政経東北 目次】献上桃事件を起こした男の正体/【衆院選新2区最新事情】大物同士が激しい攻防/【会津若松市神明通り】廃墟ビルが放置されるワケ/議員定数議論で対応分かれた古殿町、玉川村、平田村/【大熊町】鉄くず窃盗で分かった原発被災地の「無法ぶり」/聖光学院野球部・斎藤智也監督に聞く/投書で露呈した双葉地方広域消防の混乱 アマゾンで購入する BASEで購入する 献上桃事件を起こした男の正体 「天皇に桃を勧める権限」を持つ!?ニセ東大教授 【須賀川市長選】無風ムードを一変させた【橋本市長】不出馬 候補者に名前が挙がる3氏の評判 【衆院選新2区最新事情】大物同士が激しい攻防 根本氏は予算確保で実績作り、玄葉氏は郡山で支持拡大 【会津若松市神明通り】廃墟ビルが放置されるワケ 近隣からアスベスト飛散を心配する声 議員定数議論で対応分かれた古殿町、玉川村、平田村 重要なのは住民にとって有益な存在かどうか 小野町議選「定数割れ」の背景 無関心を招いた議会の責任 恒例イベントとして定着した福島市「福男福女競走」 10回目の節目開催を前に振り返る 【大熊町】鉄くず窃盗で分かった原発被災地の「無法ぶり」 街なかに監視カメラが張り巡らされる未来 投書で露呈した双葉地方広域消防の混乱 今度はパワハラと手当不正告発 他人事ではない能登半島地震 専門家に聞く〝福島県のリスク〟 能登の反原発リーダーが警鐘【牧内昇平】 【北野進】「次の大地震に備えて廃炉を」 災害時にデマに振り回されないための教訓 二人の元市長が明かす震災時の「負の連鎖」 伊達市民が憂える二つの出来事 【伊達市】利用者が少ないレンタサイクル事業 【伊達市】水不足が露見したバイオマス発電所 聖光学院野球部・斎藤智也監督に聞く プロの世界に巣立った教え子たち 震災直後より深刻な県内企業倒産件数 コロナ融資の返済スタートで顕在化 【福島市】厳冬の夜間ホームレス調査 全国に広がる「東京発住民調査」の輪 その他の特集 巻頭言 捜査関係者の守秘義務違反 グラビア 福島第一原発のいま 今月のわだい 田村市産業団地「予測不能の岩量」で工事費増 意見交換会で見えた本宮市子ども食堂の現状 石川郡5町村長の「表と裏」の関係 いわき市職員と会社役員が交通事故トラブル 特別インタビュー 鈴木裕一・福島県木材協同組合連合会長 鈴木俊雄・白河商工会議所会頭 草野清貴・相馬商工会議所会頭 丸山和基・福島河川国道事務所長 中村謙信・福島県石油商業組合理事長 企画特集 低炭素社会に貢献する福島県WOOD.ALC推進協議会 トップに聞く経済展望 齋藤記子・福島県中小企業家同友会長 轡田倉治・福島県商工会連合会長 本宮市商工会が新年賀詞交歓会を開催 国政インタビュー 亀岡偉民・衆院議員 星北斗・参院議員 建設業界インタビュー 長谷川浩一・県建設業協会長 首長訪問 木賊正男・鏡石町長 湯座一平・棚倉町長 村上昭正・小野町長 連載 フクイチ核災害は継続中(春橋哲史)横田一の政界ウオッチ耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)情報ファインダー熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁)ふくしまに生きる 編集後記

  • 【会津磐梯】スノーリゾート形成事業の課題

    【会津磐梯】スノーリゾート形成事業の課題

     観光庁が実施している「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」という補助制度がある。2020年から毎年実施(募集)しており、2023年度は、会津磐梯地域が県内で唯一、事業採択された。それによって何が変わるのか。 インバウンドの足かせになる処理水放出 アルツ磐梯  「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の事業概要はこうだ。観光地域づくり法人(DMO)や観光関連協議会などが主体となり、スキー場やその周辺の観光施設、宿泊施設などが共同で「国際競争力の高いスノーリゾート形成計画」を策定し、観光庁に応募する。それが採択されれば、同計画に基づき、アフタースキーのコンテンツ造成、受け入れ環境の整備、スキー場のインフラ整備などの費用について国から補助が受けられる。これにより、インバウンド需要を取り込む意欲がある地域やポテンシャルが高い地域で、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することを目的としている。同事業の応募要件、補助対象などは別表の通り。  2023年度事業は2月から3月にかけて募集があり、県内では会津若松市、磐梯町、北塩原村の「会津磐梯地域」が応募し、事業採択された。計画の名称は「The authentic Japan in powder snow resort AIZU 〜歴史、文化、伝統、自然が織りなす會津の雪旅〜」。  計画策定者は会津若松観光ビューローで、同団体が事務局のような役割を担う。歴史・文化に特化した観光施設や温泉地などがあり、宿泊施設や飲食店なども多い会津若松市がベースタウンとなり、スキー客の呼び込みが期待できる磐梯町・北塩原村と連携して、長期滞在型の冬季観光を目指す。  観光庁によると、同事業は単年度事業だが、公募の際は向こう3年くらいのスパンで計画を策定・提出してもらうという。計画には全体計画と個別計画があり、それを実践していくわけだが、全体計画はそのままに、個別計画をブラッシュアップして、翌年、継続して事業採択されるケースもあるようだ。毎年の事業について、観光庁の「国際競争力の高いスノーリゾート形成の促進に向けた検討委員会」では、成果や課題などが検証される。事業採択された地域ごとに成果や課題などの発表会も行われるという。そうした中で、一定程度の成果が見られなければ、翌年度に再度応募しても、採択されないということもあり得るだろう。  今年度の事業採択は会津磐梯を含めて14地域。このうち、9地域が前年度も選定されている継続地域。これに対し、会津磐梯地域は今年度が新規だから、ライバルは一歩、二歩、先に進んでいると言っていい。  もっと言うと、事業名に「国際競争力の高い」という冠が付いていることからも分かるように、インバウンド需要の取り込みが目的の1つ。福島県は、原発事故の影響が残っているほか、最近では処理水海洋放出があり、隣国から非難された。その点でも、福島県はあまり有利な条件とは言えない。  「スノーリゾート形成事業」だから、当然、事業採択地域は雪国。八幡平(岩手県)、夏油高原(同)、蔵王(山形県)、那須塩原(栃木県)、越後湯沢(新潟県)、妙高(同)など近県が多い。近くでもスノーリゾート事業を促進しているところがある中で、どうやって福島県に来てもらうかが問われる。 処理水放出の影響  そもそも、処理水海洋放出の影響はどうなのか。会津若松市の観光関係事業者はこう話す。  「海洋放出直後は、イタズラ電話がひどくて電話線を抜いていたほどですが、しばらくすると落ち着きました。あるエージェントによると、中国、韓国などでは20代、30代くらいの若い世代はあまり気にしていないそうです。ただ、その親世代に『日本に観光に行く』と言うと、あまりいい顔をされなかったり、明確に止められたり、ということがあると話していました」  一方、会津地方の外国人観光客ツアーガイドは次のように明かした。  「私のところでは、台湾からの観光客が最も多く次いで中国です。中国人観光客については、嫌がらせの電話が問題になった時期は予約キャンセル等がありましたが、少しするとだいぶ落ち着きました。紅葉シーズンは例年並み、スキーシーズンも例年並みになるのではないかと思います。中国では昨年、冬季北京オリンピックがあり、その開催が決まった2015年ごろから、ウインタースポーツ、特にスキーブームがきているんです。日本では80年代後半から90年代初めにかけてスキーブームが起きましたが、(中国のスキーブームでは)純粋にその10倍の人がスキーを求めていると思っていい。一方で、中国ではまだまだスキー場が十分ではなく、いま盛んに開発が行われていますが、どうしても時間がかかります。ですから、中国からスキー客を呼び込むチャンスであるのは間違いありません」  一方で、このツアーガイドは「どこまで言っても来ない人は来ない。そういう人に来てもらおうと、例えば『会津地方は原発から離れている』ということを情報発信したとしても意味がないんです。ですから、来てくれる可能性がある人に向けて、気を引くようなコンテンツを用意したり、営業をかけるということに尽きると思います」とも話した。  スノーリゾート形成事業に話を戻す。計画を策定し、事業事務局の役割を担う会津若松観光ビューローによると、今年度は外国人観光客のための多言語の看板や、スキー場内でのWi―Fi整備、バスやタクシーなどの交通整備を行うという。具体的には、以前からJR会津若松駅とアルツ磐梯を結ぶ冬季限定の直通バスがあるが、それを市内の宿泊施設にも乗り入れるようにするほか、東山温泉街からの直通バスを新設する。  「初年度ということもあり、手探りの部分はありますが、今後はエリア内のスキー場の共通パスの発行や、さらなる交通整備、ペンションなどではキャッシュレスに対応していないところも多いので、その整備、エリアの拡大など、やれることはまだまだあると思います。今年度はスタートの年で、そのための意識合わせが軸になると思います」(会津若松観光ビューローの担当者)  ここで2つ疑問が浮かぶ。  1つは、磐梯町・北塩原村のスキー場と会津若松市の宿泊施設、温泉宿などをつなげるにしても、スキー場によっては自前のホテルを有しているところもある。さらに、磐梯町・北塩原村にはペンションが多数存在している。自前のホテルを有しているスキー場の営業マンや、磐梯町・北塩原村の観光協会関係者などが外国人観光客(スキー客)を呼び込む際、「宿泊には会津若松市の温泉宿がおすすめです」ということになるだろうか。「宿泊は自前のホテル、町内・村内の宿泊施設に」となるのが普通ではないか。  この疑問に対して、会津若松観光ビューローの担当者は次のように説明した。  「外国人観光客は1週間とか、ある程度の期間、滞在するケースが多い。当然、毎日スキーをするわけではなく、滑らない日もあるので、その日は会津若松市内の歴史・文化などの観光施設を回ってもらう、と。スキー場が近くて、これだけの観光施設を備えているところはなかなかありませんから、スキーと歴史・文化、温泉などをセットにして売り込んでいこうというのが、この計画の1つです」 猪苗代町は独自路線!?  もう1つの疑問は、会津磐梯山地域の周辺エリアでは、猪苗代町にもスキー場があるが、同町は同計画のメンバーに入っていない。これはなぜなのか。  「その辺はよく分かりませんが、宿泊施設や飲食店など、ベースタウンとしての機能が十分でない、ということではないでしょうか。ただ、先ほども話したように、いずれはエリアを拡大できればと思っています。それこそ、猪苗代町もそうですし、喜多方市も『食』(ラーメン)の点で強いコンテンツがありますから、一体となって売り込み、誘客につなげられればと思います」(同)  猪苗代町の関係者によると、「私の知る限りでは、今回の件(スノーリゾート形成事業)で話(誘い)はなかった」という。  一方、北塩原村の観光事業関係者はこう話す。  「猪苗代町は独自路線ということでしょう。遠藤さんのところは資金力もあるでしょうから」  この関係者が言う「遠藤さん」とは、ISグループ代表の遠藤昭二氏のこと。会津地方の住民によると、「遠藤氏は猪苗代町出身で会津工業高校を卒業後、東京でビジネスに成功し、近年は地元に寄付をしたり、さまざまなビジネス上のプロジェクトを立案・実施しています。それだけ地元に貢献しているのだから、すごいですよね」という。  ちなみに、本誌は過去に遠藤氏への取材を試みたが、同社広報担当者は「基本的に、当社・遠藤個人へのメディア取材はお断りさせてもらっています」とのことだった。  猪苗代町にISグループの関連会社「DMC aizu」があり、同社は猪苗代スキー場などを運営しているが、前出・北塩原村の観光事業関係者は、そうした背景から「DMC aizu(猪苗代スキー場)は資金力があるから、独自路線なのだろう」との見解を示したわけ。 アルツ・猫魔が連結 「ネコマ マウンテン」のイメージ(HP掲載イメージを本誌が一部改変)  ところで、今回のスノーリゾート形成事業で、1つ目玉となっているのが、磐梯町のアルツ磐梯と北塩原村の猫魔スキー場の連結だ。両スキー場はともに、星野リゾート(本社・長野県軽井沢町)が運営している。同社は2003年からアルツ磐梯を運営しており、2008年に猫魔スキー場を取得した際、両スキー場を尾根をまたいでリフトでつなぐ構想を持っていた。  ただ、当時の地元住民などの反応は「この地域は国立公園だから規制が厳しい。新たに建造物(リフト)をつくって山をまたいで連結させるなんて本当にできるのか」というものだった。  夢物語のように見られていたわけだが、ようやく許可が下り、リフトが建設できるようになった。連結計画が浮上してから約15年かかったことになるが、これは今回のスノーリゾート形成事業に選定されたことと関係しているのか。  アルツ磐梯の広報担当者によると、「許可自体はスノーリゾート形成事業に選ばれる前に下りていた」とのこと。  ただ、タイミングを考えると、「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進」のために、許可された可能性もあるのではないか。だとするならば、同事業採択はすでに大きな意味を持つことになる。  アルツ磐梯はコースが豊富、猫魔スキー場は営業期間が長いといったそれぞれの利点があり、同社ではこれまでもアルツ磐梯と猫魔スキー場の共通リフト券を発行するなど、同地域内に2つのスキー場を有する強みを生かしてきた。ただ、両スキー場の行き来には、山を迂回しなければならないため、クルマで1時間ほどかかっていた。冬季の路面状況を考えると、もっと時間を要することもあっただろう。  それが、山の頂上をリフトで数分で行き来できるようになる。これに伴い、アルツ磐梯と猫魔スキー場という2つのスキー場ではなく、「ネコマ マウンテン」という1つのスキー場になる。かつてのアルツ磐梯は「ネコマ マウンテン 南ゲート」、猫魔スキー場は「北ゲート」という名称になる。2つのスキー場が一体化したことで、33コース、総滑走距離39㌔、ペアリフト11基、クワッド2基、スノーエスカレーター1基を備える国内最大規模になるという。  「予約等が大きく動くのは12月に入ってからですが、現在(本誌取材時の11月中旬時点)のところ、出足としては良好です。今シーズンはコロナ前の水準に戻るのではないかと予測しています。未だに(原発事故関連の)風評被害の影響はありますが、(スノーリゾート形成事業の)エリアとして誘客できればと思っています」(前出・アルツ磐梯の広報担当者)  前段でも述べたように、今回の事業はインバウンドを取り込み、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することが目的。そんな中、福島県は、処理水海洋放出を含めた原発事故の影響があり、決して有利な条件とは言えない。加えて、近県でもスノーリゾート形成事業の採択地域が複数ありライバルとなる。国内最大級のスキー場や、歴史的・文化的な観光施設、温泉地といったハードは整っているが、難しい条件の中で、どうやって観光客を呼び込むかが問われている。

  • 【牧内昇平】福島民報社が手掛けた県事業11件

     地元マスメディアの福島民報社が県庁から金をもらって県産水産物のPR事業を行っていたことは本誌7月号に書いた。権力の監視役としてふさわしくない行為だと指摘したが、実はこんな事例が山ほどある。2021年度に福島民報社が請け負った他の県事業を紹介しよう。 社説・一般記事を使ってPR  2021年、県庁の農林水産部は「オールメディアによる漁業の魅力発信業務」という事業を福島民報社に委託した。予算は約1億2000万円。同社を含めた県内の新聞、テレビ、ラジオの合計8社で県産水産物の風評払拭プロパガンダを行うという事業だった。同社は一般の新聞記事やテレビのニュース報道(たとえば県が県産トラフグや伊勢エビのブランド化に乗り出した、といった内容)を「プロモーション実績」として県に報告していた。   この事業について、筆者は本誌7月号でこう指摘した。  《オールメディア風評払拭事業が「聖域」であるべき報道の分野まで入り込んでいる(中略)権力とは一線を画すのが、権力を監視するウォッチドッグ(番犬)たる報道機関としての信頼を保つためのルールである》  地元マスメディアが県の広報担当に成り下がっているのではないか、というのが筆者の問題意識だった。  これは一種の例外的事象だ、と思いたいところだが、実はこうした例が山ほどあるのだ。「オールメディア事業」の番頭役を務めた福島民報社について調べてみると、21年度だけで少なくとも11件の県事業を受託していることが確認された(別表)。1億円を超える予算がついた「オールメディア事業」を除いても、受託額の合計は6000万円にのぼる。(表に掲げたのは筆者の乏しい取材力で把握できたものだけだ。実際の受託事業数はもっと多い可能性もある) 2021年度に福島民報社が受託した県事業 事業名発注元金額事業目的・内容テレワークタウンしらかわ推進事業県南地方振興局968万円新白河駅を起点とした「テレワークタウン」構想を進め、首都圏からテレワーカーを呼び込むふくしまチャレンジライフ推進調査事業(県中地域)県中地方振興局547万円県中地域のふくしまチャレンジライフプログラム(短期滞在型仕事・生活体験)の企画・運営、広報ふくしまチャレンジライフ推進事業(県南地方)県南地方振興局492万円県南地方のふくしまチャレンジライフプログラム(短期滞在型仕事・生活体験)の企画・運営、広報魅力体感!そうそう体験型観光振興事業相双地方振興局499万円相双の地域資源を発掘する体験型観光バスツアーを実施ふくしまのプロスポーツ魅力向上事業企画調整部545万円県内プロスポーツチームの魅力を発信し、ファン拡大、試合観戦者増につなげる市町村と連携した移住促進交流イベント等実施事業企画調整部309万円「起業」「子育て」などをテーマに県内への移住に関する交流イベントを開催国際交流員による「ふくしまの今」発信事業生活環境部695万円県の国際交流員が県内の観光地などを取材し、SNSなどで国内外に向けて発信する東京2020ふくしまフード・クラフト発信事業観光交流局249万円東京オリンピック・パラリンピック関連イベントで日本酒をはじめとする県産品のPR・販売を行うアフターコロナを見据えた地域づくり推進事業いわき地方振興局977万円中山間地域にサイクリングモデルコースを造成。地域の魅力を発信する「アンバサダー」を育成するアフターコロナを見据えた食の担い手応援事業いわき地方振興局720万円いわき市の「食の魅力」を学び、伝える人材を育てる現地視察会やワークショップの開催ふくしまの漁業の魅力体感・発信事業(オールメディアによる漁業の魅力発信業務)農林水産部1億1999万円福島民報など地元メディア8社が自社の媒体を通じて県産水産物のPRを行う※県への情報開示請求で入手した資料を基に筆者作成。金額は1万円未満を切り捨てた。 受託した県事業を新聞記事で周知  筆者は福島県に対して情報開示請求を行い、これらの事業について福島民報社が提出した実績報告書などを入手した。その結果言えるのは、同社が自らの新聞を利用して当該事業のPRを行っていたことだ。  たとえば県南地方振興局から約970万円で受注した「テレワークタウンしらかわ推進事業」については、21年10月7日付福島民報4面に以下の紹介記事が載っている。  《ゴルフ場でワーケーション 関係人口拡大 3カ所で専用プラン   県県南地方振興局は、ゴルフ場に宿泊してテレワークを行い、就業時間前後や休憩中にプレーを楽しむワーケーションを推進する取り組みを始めた。「ゴルファーケーション」と名付け…(以下略)》  この記事が載った4面はいわゆる「経済面」だ。ゴルファーケーションの記事の下には「イオンの売上高が過去最高」とか、「財務省が日本郵政株を追加売却」などといった経済ニュースが掲載されていた。読者は当然、ゴルファーケーションの記事も一般的な地域の経済ニュースとして受け取ったことだろう。  そして同年12月中旬には新聞中程の地域面に「テレワークタウンしらかわ」と題した5回シリーズの連載が組まれた。内容は、県南地方振興局長へのインタビューやテレワーク対応の仕事場の紹介などだ。ゴルファーケーションの課題や事業効果などを批判的に検証しているかと問われれば、疑問符がつく内容だろう。結局これらの記事は「報道」の体裁を取りつつ、県の事業をPRしているに過ぎないのではなかろうか。  自社の受託事業であることが紙面上で明らかになっていないのも問題だ。紹介した新聞記事は主語が「福島県」になっている。(「県南地方振興局はワーケーションを推進する取り組みを始めた」など)。福島民報社がこの事業を受託していること、1000万円近い予算がついていることなどは記事を読んだだけでは分からない。これは読者からしてみればアンフェアだろう。  新聞記事による事業PRは多くの案件で行われていた。  相双地域の観光バスツアーを実施する「魅力体感! そうそう体験型観光振興事業」の場合、同社は受注前の企画提案の段階で《新聞社機能を最大限に生かし、紙面はもちろん、様々なデジタルメディア、SNSを駆使し、相双地域の魅力を県内に広く発信します》とアピールしていた。  そして約束通り、ツアー開始前の同年7月6日付福島民報3面に「相双観光親子で楽しんで きょうから参加募る」というPR記事を掲載。数日後から「行こう! 相双の夏」というタイトルの特集記事を随時紙面化した。  11月20・21日に行われた女性向けツアーに関しては、同月3日に「女性限定相双楽しんで 参加者募集」という記事を出し、さらに開催後の22日にも「女子旅で相双満喫」という結果報告記事が出ている。自らが受託した県事業を手厚くPRしたのである。繰り返しになるが、紹介したのは広告ではなく、通常の記事だ。そして同社がこの事業を受託していることは記事に書かれていない。  福島ファイヤーボンズなど県内のプロチームをPRする「ふくしまのプロスポーツ魅力向上事業」も同様だ。同社は提案書で《これまで各球団の取材・報道をはじめ、イベント事業など積極的に連携・展開しております。その経験と知見を活かし、県内プロスポーツの魅力を発信できるのは弊社しかいないという強い思いで本事業に参加させていただくことにしました》と熱く(!)アピール。実績報告書の中では、ファン拡大のためのイベント実施などと共に、《スポーツ担当記者が取材し、福島民報朝刊で県内3プロスポーツの動向、試合結果等毎回記事掲載》と書いた。民報のスポーツ記事は県のPR事業の一環だったということになる。 社説まで利用していいのか? 福島民報社  驚いてしまったのは、いわき地方振興局が発注した「アフターコロナを見据えた地域づくり推進事業」である。市内の山間部にサイクリングのモデルコースを作ったり、地域の観光スポットを紹介するフォトコンテストを実施したりする事業だ。これを福島民報社が受託し、例によって事業のPRやコンテストの結果紹介記事を紙面に掲載したのだが、実は「新聞の顔」とも言うべき社説(福島民報の場合は「論説」)にも同種の記事が載っていた。  《阿武隈山地の観光振興を目指す取り組みが、いわき市で始まった。自然景観、歴史遺産、特色ある食文化を掘り起こし、サイクリングルートをつくる。海産物や沿岸部の観光施設などを主力としてきた市内の観光に新たな魅力を加え、疲弊する山間部の地域づくりにつなげる試みとして注目したい》(21年10月13日付福島民報「論説」)  新聞の社説は「世の中がどんな方向に進んでいくべきか」を書く欄だ。そこに単なる県事業のヨイショが載るのはお粗末だし、ましてやその事業を自社が受託しているというのでは論外だ。ちなみにこの社説(論説)の筆者は、当該の「アフターコロナ事業」の統括責任者(いわき支社長)として同社の企画提案書に名前が載っている人物と同姓同名だった。  前にも書いたが、権力と報道機関の間には一定の距離感が欠かせない。県の事業を受託してしまったら、少なくともその分野について批判的な検証を加えるのは困難だろう。世の中から期待されている「番犬」の役割を放棄していることにならないか。  福島民報社の担当者は筆者の取材に対して、「福島県の県紙として、福島復興の支援などに役割を果たしてまいります」としている。 あわせて読みたい 【牧内昇平】「食べて応援」国民運動にだまされるな【原発事故「汚染水」海洋放出】 【汚染水海洋放出】ついに始まった法廷闘争【牧内昇平】 大義なき海洋放出【牧内昇平】 【汚染水海洋放出】意見交換会リポート【牧内昇平】 県庁と癒着する地元「オール」メディア【牧内昇平】 汚染水海洋放出に世界から反対の声【牧内昇平】 違和感だらけの政府海洋放出PR授業【牧内昇平】 経産省「海洋放出」PR事業の実態【牧内昇平】 【汚染水海洋放出】怒涛のPRが始まった【電通】 【地震学者が告発】話題の原発事故本【3・11 大津波の対策を邪魔した男たち】 まきうち・しょうへい。東京大学教育学部卒。元朝日新聞経済部記者。現在はフリー記者として福島を拠点に取材・執筆中。著書に『過労死 その仕事、命より大切ですか』、『「れいわ現象」の正体』(ともにポプラ社)。 公式サイト「ウネリウネラ」

  • 【生島淳】大学駅伝で福島出身者が活躍する理由

    【生島淳】大学駅伝で福島出身者が活躍する理由

     大学の陸上長距離界で福島県出身の指導者・選手の活躍が目立つ。その理由はどんな点にあるのか。スポーツジャーナリストの生島淳氏にリポートしてもらった。(文中一部敬称略) 「陸上王国ふくしま」が目指すべき未来 駒大の大八木弘明総監督(右)と藤田敦史監督(撮影:水上竣介、写真提供:駒澤大学)  大学駅伝シーズンの開幕戦、10月9日に行われた出雲駅伝では駒澤大学が連覇を達成した。これで去年の出雲、全日本、今年に入って箱根、そして今回の出雲と大学駅伝4連勝。「駒澤一強」の状態が続いている。このままの勢いが続けば、お正月の箱根駅伝でも優勝候補の最右翼となるだろう。  今年の出雲で、胴上げされた福島県人がふたりいた。ひとりは駒大の大八木弘明総監督(河沼郡河東町/現・会津若松市河東町出身)、そして最後に胴上げされたのは今年就任したばかりの藤田敦史監督(西白河郡東村/現・白河市出身)である。  大学長距離界で福島県出身者の存在感は高まり続けている。大八木総監督は還暦を過ぎてなお指導者として進化し、今年の箱根駅伝のあと、大学の監督を教え子でもある藤田氏に譲り、自らは総監督へ。  単なる名誉職ではなく、青森県出身で今年3月に駒大を卒業し、2年連続で世界陸上の代表に選ばれた田澤廉(トヨタ自動車)は練習拠点を駒大に残し、総監督の指導を受けている。大八木総監督は今後の指導プランをこう話す。  「田澤は2024年のパリ・オリンピックではトラックでの出場を目指しています。そのあとは25年に東京で世界陸上がありますし、28年のロサンゼルス・オリンピックではマラソンを狙っていきます」  大八木総監督は1958年、昭和33年生まれ。ちょうど70歳の年にロサンゼルス・オリンピックを迎えることになる。総監督は40代の時に駒大の黄金期を作ったが、ひょっとしたら60代から70代にかけて指導者として最良の時を迎えるかもしれない。  駒大の指導を引き継いだ藤田監督にも期待がかかる。三大駅伝初采配となった今年の出雲では1区から首位に立ち、それ以降は後続に影をも踏ませぬレース運びで、一度も首位を譲ることはなかった。しかも6区間中3区間で区間賞。監督が交代してもなお、駒大の強さが際立つ結果となった。  ただし、この強さを支えるための苦労は大きいと大八木総監督は話す。  「大学長距離界では、選手の勧誘は大きな意味を持ってます。田澤がウチに来てくれたからこそ、今の強さがあると思ってますから。それでも基本的には東京六大学の学校には知名度では負けますし、勧誘での苦労はあります。でも、私は自ら望んで駒大に入って来てくれる選手を求めてます。そういう選手は必ず伸びますから」 学石から東洋大監督に 東洋大の酒井俊幸監督(写真提供:東洋大学)  そして2010年代、駒大と激しい優勝争いを繰り広げたのが東洋大学だった。東洋大の酒井俊幸監督(石川郡石川町出身)は、学法石川高校卒業。東洋大から実業団に進み、選手を引退したあとに母校・学法石川の教員となって、高校生の指導にあたった。人生の転機となったのは2009年のことで、空席となっていた東洋大の監督に就任し、それから箱根駅伝優勝3回を飾っている。  特に「山の神」と呼ばれた柏原竜二(いわき市出身/いわき総合高卒)とは、柏原が大学2年の時から指導にあたっており、東洋大の黄金期を築いた。それ以降、東洋大からは東京オリンピックのマラソン代表の服部勇馬、1万㍍代表に相澤晃(須賀川市出身/学法石川高卒)を送り出すなど、日本の長距離界を代表する選手たちを育てている。また、長距離だけでなく、競歩では瑞穂夫人と共に選手の指導にあたり、オリンピック、世界陸上へと選手を輩出し続けている。  大八木総監督、酒井監督と、福島県出身の指導者が日本の陸上長距離界の屋台骨を支えていると言っても過言ではない。  それでも、酒井監督には大学の監督就任時には葛藤があったという。  「高校の生徒たちに、なんと話せばいいのか悩みました。高校生にとってみれば、私が生徒たちを見捨てて東洋大に行ってしまうわけですから。正直に話すしかありませんでしたが、最後は生徒たちから『先生、頑張ってください』と背中を後押ししてもらいました」  当時の酒井監督は33歳。当時の学生は「大学の監督というより、若いお兄さんが来たみたいな感じでした」と振り返るほど若かった。覚悟をもった監督就任だったのだ。  以前、タモリが彼の出身地である九州・福岡と東北の比較をしていた。  「九州の人たちは、東京に出ていく人たちを『失敗したら、いつでももどって来んしゃい』という感じで送り出すんだよ。でも、東北の人たちは違うね。出る方も、見送る方も『成功するまでは帰れねえ』という決死の思いで東京に出ていくし、送り出す。ぜんぜん違うんだよ」  この言葉は、宮城県気仙沼市出身の私にはよく分かる。とにかく、故郷を離れたら、もう帰ってくることはないという覚悟をもって上京する。だからこそ、地元を離れるのは重たい。  きっと、酒井監督も学法石川の教え子たちを残して東洋大の監督を引き受けることには、相当の覚悟が必要だったと思う。それが理解できるだけに、どうしても酒井監督には思い入れが湧いてしまう。  今年の出雲駅伝では、経験の浅い選手たちをメンバーに入れながら、8位に入った。優勝した駒澤からは水を開けられてしまったが、「常に優勝を狙える位置でレースを進めたいですね。それが学生たちの経験値を高め、自信にもつながっていくので」と酒井監督は話す。ぜひとも、箱根駅伝では「その1秒を削りだせ」というチームのスローガンそのままに、粘りの走りを見せて欲しいところだ。  このほかにも、早稲田大学の相楽豊前監督(安積高校卒)には幾度も取材をさせてもらった。相楽前監督は「福島県人には、粘り強い気質があると思います。その意味では長距離には向いているのかもしれません」と話していたのが印象深い。そういえば、大八木総監督もこんなことを話していた。  「私は会津の生まれですから……反骨精神もありますし、ねちっこくやるのが性に合ってるんです」 陸上を福島県の象徴的なスポーツに  これだけ指導者、そして選手に人材を輩出してきた背景には、やはり35回を迎えた「ふくしま駅伝」の存在が大きいと思う。市町村の対抗意識が才能の発掘につながっている。  たとえば柏原の場合、中学時代はソフトボール部に所属していたが、ふくしま駅伝を走ったことで長距離の適性に気づき、高校からは本格的に陸上競技を始めた。そして高校3年生の時には、都道府県対抗男子駅伝の1区で区間賞を獲得した。ふくしま駅伝というインフラが、「山の神」の生みの親といえる。  全県駅伝は全国各地で行われるようになったが、福島県には歴史があり、各自治体の熱意も、他の県とはレベルが違う。それは福島県人が誇っていいことだと思う。  どうだろう、これだけ陸上長距離に人材を輩出し、歴史ある大会が県民の共有財産になっているのだから、思い切って「陸上県・福島」という方向性を打ち出していくのは。私はそうした明確な方針が福島県のスポーツを土台にした「プライド」の醸成につながるのではないかと思っている。  今、私の故郷である宮城県は「野球の県」になりつつある。プロ野球の楽天が本拠地を置き、高校野球では仙台育英が夏の甲子園で優勝し、野球が県民の共有財産になっている。  こうした象徴的なスポーツがあることで、男女を問わずに子どもたちがスポーツに参加する機会が増える。それは家族、コミュニティーへと広がっていく力がある。  日本の特徴として、スポーツの選択肢が広いことが挙げられる。私の取材経験では中国、韓国では学校レベルでの部活動がない。すでに高校の段階からエリートだけのものになってしまうのだ。それに対し、日本は草の根からの活動が特徴だ。スポーツは自由意志で行われるべきものであり、その方が正しい。しかし、才能が分散するリスクがある。  今後、日本の少子化のスピードは止められそうにもない。私の生まれ故郷、宮城県気仙沼市の新生児の出生数は、ついに300人を切り、このままだと200人を割ってしまいそうだ。人口6万人規模の都市では、日本全国で同じような数字になると聞いた。私は昭和42年、1967年生まれだが、私が通った気仙沼高校は男子校一校だけで一学年360人がいた。雲泥の差である。  少子化が進めば、スポーツ人口もそれに比例して減っていく。高校野球では合同チームも珍しくなくなった。野球部が消えてしまった学校もある。  私は「県の象徴的なスポーツ」がひとつでもあることが、県を元気にすると思っている。もちろん、野球でもいい。いまだにグラウンドをはじめ、インフラが整っているから競技を始めやすい環境にある。  福島には陸上の財産がある。ふくしま駅伝、そして大八木総監督をはじめとした豪華な指導者たち。そして、1964年の東京オリンピックのマラソン銅メダリスト、円谷幸吉をはじめ、相澤晃にいたるまで日本を代表するランナーが育ってきた。コロナ禍を経て、須賀川市では「円谷幸吉メモリアルマラソン」が行われているのも福島のレガシーを伝える一助となっているだろう。  これだけのインフラがそろっているのだから、それを未来につなげなければもったいない。それは日本を代表するエリートを育てるというだけではなく、市民レベルでの活動にもつなげていけば、健康増進、そしてそれは医療費の抑制につながる可能性を秘めている。 次世代の動き  実際、そうした動きはある。学法石川高出身で、中央大学の主将を務めた田母神一喜は現在、郡山市でランニングイベントの企画運営、そしてジュニア陸上チームを運営する「合同会社ⅢF(スリーエフ)」の代表を務めつつ、自らも選手として走り続けている。  彼には「『陸上王国ふくしま』」を日本中に轟かせたい」という思いがあり、会社のホームページには「ふくしまってすごいんだぞと、胸を張って歩けるような居場所を作っていきます」と、福島への愛を前面に押し出したメッセージが記されている。  以前、彼に取材した時の話では、今後は部活動の外部指導など、教育現場との連携も模索していきたいという。部活動の外部委託化は国全体の動きである。どうだろう、福島がそのモデルになっていくというのもあり得るのではないか。  全国に先んじて官民が一体となって陸上の環境を整え、子どもたちの可能性を拡げていく。その発信者になっていけば自然と人が集まり、県民の新たなプライドも醸成されていくはずだ。それでも、こんな声が聞こえてくるかもしれない。  「陸上ばかり依怙贔屓するわけにはいかない」  他の競技団体にも歴史があり、言い分がある。それは理解できる。しかし、全体のバランスに配慮している限り、進歩、進化は遅くなる。  それを実感したのは、今年の9月から10月にかけてラグビーのワールドカップの取材でフランスに滞在したが、デジタル化の進歩に目を見張った。現金を使ったのは、40日間で数えるほどだけ。ほとんどが「クレジットカードは10ユーロ以上の場合のみ」と表示のあるお店ばかりだった。カード払いの場合、非接触型のカード読み取り機にかざすだけで良い。お店の人にカードを渡す必要もないし、暗証番号の入力も必要ない。「コロナ禍の間に一気に進んだ決済方法です」と話してくれたのは、フランスに向かう時の飛行機で隣り合った日本人ビジネスマン。  「いまだに現金決済が多いのは、日本とドイツです。おそらく、既存の仕組みがしっかりしているところほど、新しい変化に対応するのが遅くなる傾向があると思います」  なるほど。長い年月をかけて作り上げた仕組みが存在すると、その制度を守る力が働く。そうしていると、変化のスピードは遅くなる。今回のフランス滞在では、物価や賃金などの高さに驚きもした。その一方で、日本はコロナ禍の間に大きく取り残されてしまったとも感じた。  スポーツの世界も大きな変化に晒されている。既成の仕組み(育成や競技会の運営など)は、限界を迎えている。良質なものが生き残っていく時代だが、福島の陸上界には財産がある。そこで、保守的な方向に向かうことなく、攻めの姿勢で「福島モデル」を作り上げて欲しいのだ。  自由に、闊達に、そして強い選手が次々に生まれてくる仕組み。それは既存の体制を一度精査し、県民の幸福度がスポーツ、そして陸上によって上がるプランが生まれてきて欲しい。  若い世代の意欲と、経験を積んだ世代の知恵がうまく合体するといいのだが。福島出身の知恵者は、この原稿で紹介した通り、たくさんいるのだから。  いくしま・じゅん スポーツジャーナリスト。1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務しながら執筆を始め、1999年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る一方、歌舞伎、講談では神田伯山など、伝統芸能の原稿も手掛ける。  最新刊に『箱根駅伝に魅せられて』(角川新書)。また、『一軍監督の仕事』(高津臣吾・著)、『決めて断つ』(黒田博樹・著)など、野球人の著書のインタビュー、構成を手掛ける。 X(旧ツイッター)アカウント @meganedo

  • 【会津若松商工会議所】澁川惠男会頭インタビュー(2024.1)

    【会津若松商工会議所】澁川惠男会頭インタビュー(2024.1)

     しぶかわ・ともお 1947年生まれ。会津高、日大商学部卒。澁川問屋会長。会津若松商工会議所副会頭などを経て、2016年から現職。現在3期目。  会津若松市は城下町の強みをインバウンドにつなげる一方、小中学校と地元企業をつなぐマッチングサービスや地域発キャッシュレス決済の導入でデジタル技術の恩恵を地方に還元するなど歴史と進取を両立している。国際競争力の高いスノーリゾートにも選定され、宿泊拠点の役割も期待されている。会津若松商工会議所の澁川惠男会頭に経済飛躍の鍵を聞いた。 民間の力こそが地域の未来を拓く。  ――新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが引き下げられて7カ月以上になりました。  「コロナ禍により老舗料亭や観光ホテルの経営破綻があり、管内はダメージを受けました。感染収束後の消費回復を期待していましたが、物価高の影響は大きいです。当商工会議所の退会理由のトップは『廃業』です。中小企業の経営者は高齢の方も多く、後継者がいないというのが主な理由です。コロナ禍からの回復が十分でないうちに物価高が追い打ちをかけて廃業が加速していくのを懸念しています。  明るい兆しはあります。行動制限のない忘新年会シーズンを迎え、飲食業界は予約が相次いでいるようです。感染拡大前の水準に戻りつつある事業所もあります」  ――昨年7月から市内の小中学校と企業をつなぐマッチングサービス「まちスク会津」を用いた実証実験が始まっています。  「まちスク会津は教育支援と地域活性化を両立します。子どもたちにとっては、地域企業・人材と触れ合う機会を増やすことで、企業の認知度向上や地域への理解、魅力発見などにつながります。教育支援を希望する登録企業が増え、本サービスを通して学校と企業の新たなマッチングが生まれており好評です。  今後は当商工会議所で実施している『ジュニアインターンシップ(職場体験)』との連携に加え、サービス充実のために、地域企業・人材の参画を広く呼び掛けます。会津の次代を担う子どもたちが地域を深く知り、将来は地元への就職やUターンにつながってほしいです」  ――観光庁の「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」に会津若松市、磐梯町、北塩原村が会津磐梯地域として県内で唯一選ばれました。  「冬季の誘客は会津地方の長年の課題でした。今シーズンは磐梯町と北塩原村のスキー場が連結し、国内最大級のスノーリゾートが誕生しました。南半球のスキーヤー・スノーボーダーが良質な雪を求めて裏磐梯を訪れてきましたが、この流れが会津地方に波及するでしょう。  インバウンドが集中する東京・京阪神間を『ゴールデンルート』と呼びます。東北は対抗軸の『ダイヤモンドルート』を掲げ各自治体や経済団体が盛り上げてきました。今こそ、それを再燃させる時です。  スノーリゾートでは、会津若松は魅力ある宿泊や飲食を提供するベースタウンの役割があります。観光客は国・地域によって食事や宗教、生活様式がさまざまです。違いに対応し、受け入れのレベルを上げる必要があります。当商工会議所はこれまでにも訪日客への対応を学ぶ各種セミナーを開いてきました。会員事業所には観光、旅客、宿泊の事業者がいます。意見を聞きながら今後は業種に特化したセミナーにするなどしてより充実させます。  今年度、会津大学の留学生を対象に市内の観光スポットを巡るモニターツアーを実施しました。鶴ヶ城登閣、弓道や抹茶、赤べこの絵付けなどの体験型コンテンツを通じて会津の魅力を聞きました。素材は十分に魅力的ですが、多言語表記が少ないなどの課題が浮き彫りになりました。改善策を行政に提案し、訪れる全ての方に優しい環境につなげます」  ――「会津コイン」を用いたデジタル商品券事業が始まりました。  「会津コインは会津若松市が進める『スマートシティ』の取り組みの一環です。国は2025年6月までにキャッシュレス決済比率を4割程度にする目標を掲げています。キャッシュレスは増加傾向ですが、既存のキャッシュレス決済はお金の他、マーケティングに活用できる利用者情報などが地域を出てしまうのが課題でした。そこで地域のみで流通する通貨を導入して情報が地域に残るようにしたのが会津コインです。  商品券はこれまで紙ベースでしたが、今回初めてスマホを使ったデジタル形式にしています。当商工会議所やスマートシティAiCTに入居する企業でつくる『AiCTコンソーシアム』などで構成する実行委員会が事業を行っています。当初会津コインが使えるのは6店舗だけでしたが、プレミアムポイント事業の実施で400店舗を超えました。ただ、店舗の加盟申請や消費者の利用設定の手順が複雑な点は否めず、特に高齢の方からさまざまな意見を頂戴しました。市と決済事業者と共に対応を検討したいです。  プレミアム事業が終了した後、どこまで会津コインを利用してもらえるか、事業所に継続していただけるか不安な点はあります。利用者情報を個人が特定されない形に処理して会津コイン参加店舗に提供し、経営に生かしてもらうなどの仕組みづくりが急務です。再生可能エネルギーへのポイント付与構想など、持続可能な開発を進めるインセンティブも有効でしょう。商店街や飲食店業種単位でイベントに活用するなど様々なアイデアに挑戦することで利用が増えていくと思います」 急務の再開発  ――市街地の再開発について。  「中心市街地から大型店が撤退したままの現状に非常に危機感を持っています。都市の活況のバロメーターと言える地価公示や路線価は、昨年は福島、郡山、いわきの県内主要都市の商業地は軒並み前年比プラスになっている一方、会津若松はマイナスに沈んでいます。  当商工会議所は昨年度、再開発に向けた意見を取りまとめ、神明通りや駅前周辺、旧県立病院跡地などの利活用について市に提言しました。多くの利害関係があること、市の財政的な課題もあり、一足飛びに実現しない現状は理解しています。ただ、その中でも中心市街地の再開発は早急に取り組むべきです。まちのシンボルである神明通りはその最たるもの。個性豊かな店を集積したり、インフラなど不足する要素を分析して早めに手立てを考えていきたいです」  ――抱負を教えてください。  「地方は人口減少に伴う縮む経済に直面しています。地域の活力を維持し、若者が住み続けたい、また多くの観光客が訪れたいまちにできるかどうかはここ数年で決まってしまうのではないかと危機感を持っています。会頭就任以来、民間の挑戦こそが地域の未来を切り拓いていく大きな力になると訴えています。危機的な状況だからこそ、この思いを新たにし、徹底した事業所支援を通じて足腰の強い会津若松経済の実現に向けて取り組んでいきます」

  • 政経東北【2024年1月号】

    政経東北【2024年1月号】

    【政経東北 目次】「自民党裏金疑惑」県政界への影響/選挙資金源をひた隠す【内堀知事】/陸自郡山駐屯地「強制わいせつ」有罪判決の意義/『五ノ井里奈さん』に届けたパンプス/巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額/北塩原村【ラビスパ裏磐梯】廃止の裏事情/反対一色の松川浦自然公園「湿地埋め立て」 アマゾンで購入する BASEで購入する 【自民党裏金疑惑】県政界への影響 河村和徳・東北大准教授に聞く 選挙資金源をひた隠す内堀知事 パー券・会費収入を迂回寄付のカラクリ 陸自郡山駐屯地「強制わいせつ」有罪判決の意義 本誌が報じてきた性被害告発 五ノ井里奈さんに届けたパンプス ノンフィクション作家・岩下明日香 巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額 議会が市長、業者を追及しないワケ 北塩原村ラビスパ裏磐梯廃止の裏事情 不採算施設を切り捨て「村の駅」を整備!? 反対一色の松川浦自然公園「湿地埋め立て」 〝騒いでいるのは一部〞とうそぶく事業者 ALPS作業員被曝事故をスルーするな ジャーナリスト・牧内昇平 環境省「ごみ屋敷調査」を読み解く 郡山市・広野町が関連条例を制定したわけ 南相馬闇バイト強盗が招いた住民不和 強盗被害者に殴られた男性が真相を語る クマの市街地出没に脅かされる福島 専門家とマタギに聞く根本解決策 呼んでも来ないタクシー・運転代行 ドライバー不足が社会に及ぼす痛手 鏡石町・議員同士の〝場外バトル〟 議長落選者が同僚に質問状送付 双葉町で不適切巡回横行の背景 巡回員のレベルの低さが露呈 会津若松「立ち退き脅迫男」に提訴された高齢者 無理筋な「不法入居」立証 デタラメだらけの県人事委勧告 〝優良企業準拠〟を改めよ!! 玉川村職員「住居手当不適切受給」の背景 矢吹町でも同様の事例発覚 津波被災地のいまを描いた映画『水平線』 ピエール瀧さん&小林且弥監督にインタビュー その他の特集 巻頭言 投票で「文句を言う権利」を得よう グラビア 福島県ゆかりの著名人に聞く2024年の抱負 ▽JAリポート2024「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組み▽せいけい投稿ポスト 今月のわだい 郡山市が逢瀬ワイナリーの事業譲受を決断⁉ 郡山市フェスタ建て替えで膨らむシネコン待望論 再開発見直しで福島駅東西一体化議論が急浮上 薬剤師法違反を誤解された南相馬市の薬局 国見町百条委の焦点は町職員に対する刑事告発の有無 運営法人の怠慢が招いた小野町特養暴行死 今度は矢吹町長選に立候補した小西彦治氏 浪江町が特定帰還居住区域の復興再生計画を策定 泥沼化する大熊町議と住民のトラブル 首都圏工事の残土捨て場となる福島県 特別インタビュー 澁川惠男・会津若松商工会議所会頭 菅家忠洋・会津土建社長 伊藤平男・須賀川信用金庫理事長 町村長に聞く 吉田淳・大熊町長 首長訪問 佐野盛至・湯川村長 連載 フクイチ核災害は継続中(春橋哲史)【脱水したスラリーの固化処理開始は2030年代】横田一の政界ウオッチ【マイナ保険証一本化を強行する岸田政権】廃炉の流儀【私たちは法的な抵抗を十分にやってきたか】耳寄り健康講座(ときわ会グループ)【胸焼けは消化器疾患の前兆】ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)【吉良貞家の逆襲】情報ファインダー熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席【真剣交際〟を主張した性犯罪教師】選挙古今東西(畠山理仁)【福島の人は優しかった】ふくしまに生きる 編集後記

  • 10年足踏み【郡山旧豊田貯水池】の利活用

    10年足踏み【郡山旧豊田貯水池】の利活用

     郡山市の旧豊田貯水池跡地が利活用されないままの状態が長年続いている。この間、議会や民間からはさまざまな提言が行われているが、市は検討中と繰り返すばかり。郡山市政にとって、同跡地の利活用は残された重要課題になりつつある。 具体策は「次の市長」の政治課題に  旧豊田貯水池は郡山市役所から南東に0・7㌔、郡山総合体育館や商業施設(ザ・モール郡山)などに隣接する市街地にある。面積8万8000平方㍍。稼働時は水面積6万7000平方㍍、貯留水量12万立方㍍を誇ったが、現在は辺り一面に雑草が生い茂る。  旧豊田貯水池が完成したのは今から360年以上前の明暦2(1656)年。農業用ため池と水道用貯水池として長く機能し、明治45(1912)年には安積疏水の水を利用した豊田浄水場が建設されたが、給水100年を迎えて老朽化が進んでいたことから、市は同浄水場の機能を堀口浄水場に統合。豊田浄水場は平成25(2013)年に廃止された。  これを受け、当時の原正夫市長は旧豊田貯水池の水抜きを進めたが、同年4月の市長選で初当選した品川萬里氏は水抜きを停止。「水害対策や歴史的役割を踏まえた学習への活用を検討する」として市役所8部局からなる研究会を設置した。しかし、水抜き停止は市民や議会に意見を聞かずに行われただけでなく、貯水池内の水の流れが止まったことで水質が悪化。辺りには悪臭が漂うようになり、蚊や水草が大量発生した。  結局、水抜きは再開されたが、市はこの問題をめぐり定例会や委員会で議員から厳しい追及を受けた。以来、品川市長は同貯水池跡地の利活用に及び腰の感がある。  「品川市長は局地的な豪雨が増えていることを踏まえ、旧豊田貯水池に雨水を溜め、緩やかに流すことで下流域の負担軽減を図ろうと調整池としての利活用を考えた。その考え自体はよかったが、独断で水抜きを止めたことでつまずき、同貯水池内にある第5配水池を利用した暫定的な雨水貯留施設を整備した後は具体策を示してこなかった」(事情通)  議会では利活用に関してもさまざまな質問が行われ、議員からは室内50㍍プール、全天候型ドーム、水害対策機能を備えた都市公園などの整備を求める声や「福島大学農学部の移転先になり得るのではないか」といった提案が出された。しかし、市は「総合的に検討していく」との答弁を繰り返すばかりだった。  停滞する状況を動かそうと、2017年6月には議会内に設置された公有資産活用検討委員会からこんな提言が行われた。  《市役所や文化・スポーツ施設が集中する麓山・開成山地区においては、施設利用者の駐車場が不足しているという市民の意見が多いことから、旧豊田浄水場跡地の一部について、当面、安全性を確保のうえ、駐車場や自由広場等として暫定利用できるよう、必要最低限の整備に向け対応すること》  ある議員はこう話す。  「旧豊田貯水池跡地に隣接する郡山総合体育館は福島ファイヤーボンズ(バスケット)やデンソーエアリービーズ(女子バレーボール)がホームゲームを行っているが、駐車場が圧倒的に足りない。そこで議会としては、暫定的な使い方として一部に砂利を敷いて駐車場としつつ、具体的な利活用策を早急に示すべきと提言したのです」  同検討委員会が提言に当たり行ったアンケート調査で市民に旧豊田貯水池跡地の最終的な利用方法を尋ねたところ、「開成山・麓山地区における公共施設等の駐車場として整備」が32・2%、「新たな公共施設と駐車場を整備」が27・5%「浸水対策や水辺空間を生かした公園等として整備」が16・9%、「民間へ売却」が11・1%という結果になった。開成山・麓山地区は公園、体育館、図書館などの公共施設が集中しているが、駐車場が少なくて不便なため駐車場整備を求める声が多かった。  民間からも利活用に関する提言が行われた。郡山商工会議所内に設置された郡山の未来像を考える若手組織・グランドデザインプロジェクト会議が2018年11月に▽パークアンドライドを意識した地下駐車場、▽バス、モノレール、LRT(ライトレールトランジット)や2020年代に実用化を目指す空飛ぶクルマなどのターミナル、▽ライブ、シネマシアター、マルシェ等に利用できるイベント基地の整備を提案した。  こうした議会や民間による動きを受け、市は2019年度に副市長をトップとする旧豊田貯水池利活用検討推進本部や有識者懇談会を設置。同年度末には利活用方針案の中間とりまとめを発表し、緑を生かした①体験重視案、②保全重視案、③歴史重視案の3案が示された。しかし、翌年度に行われたパブリックコメントで市民から寄せられた意見は「3案とも検討するに値しない」と手厳しいものだった。  「市街地にはたくさんの公園があるのに、今さら緑を生かした場所が必要なのか、もっと有効な使い方があるのではないかと考える市民が多かったようです」(前出・事情通)  2021年6月には、議会内に設置された旧豊田貯水池利活用特別委員会での議論をもとに、議会から二度目の提言が行われた。  《具体的な整備にあたっては音楽都市、スポーツ、交流人口の拡大、防災・減災、リスクマネジメント、駐車場確保の観点を重視するとともに参考人(※市内15団体の役職者)からの意見に配慮し、市民が納得する活用方法となるよう検討していくこと。また、周辺地区との一体的利用の観点から、宝来屋郡山総合体育館と開成山公園を容易に移動できる動線の確保について検討すること。(中略)なお、具体的な利活用方針が決定するまでの間、旧豊田貯水池の暫定的な利活用を図ること》 定まらない方向性 一面雑草だらけの旧豊田貯水池跡地  その後、市では同年10月から翌22年5月にかけて市民との意見交換会を開催したが、そこで掲げられた利活用コンセプトは「全ての世代が安心・安全で元気に過ごせるみどりのまち SDGs体感未来都市」という非常に漠然としたものだった。  独断で水抜きを止めた反省から、さまざまな組織を立ち上げ、議会や民間、市民の意見に耳を傾けようとしている姿勢は評価できる。ただ、議論を深めれば深めるほど中身が抽象的になり、方向性が定まらなくなっている印象を受ける。  市の窓口である公有資産マネジメント課は「市民の中には旧豊田貯水池の存在すら知らない人がかなりいる。そこで市民に現地を見てもらい広く意見を募るため、現在、一般開放に向けた準備を進めている。いつまでにこうするという期限は定めていない」と話すが、浄水場廃止から10年経っても前進する気配が見られないのだから、状況が変わることはしばらくなさそう。  「この間の具体的な動きと言えば令和元年東日本台風の翌年、市民から議会に水害対策機能を意識した利活用を求める請願が出されたことくらい。品川市長の3期目は2025年4月まで。任期が残り1年半しかない中、自分が手掛ける可能性がない施策を打ち出すとは思えない。4期目も目指すなら話は別だが、現状では次の市長に持ち越しと考えるのが自然だ」(前出の議員)  そのまま水抜きを進め、最初から市民や議会と相談して事を進めていれば、状況は今とは違っていたかもしれない。

  • 「ギャンブル王国ふくしま」の収支決算

    「ギャンブル王国ふくしま」の収支決算

     かつて雨後の筍のごとく各地につくられた場外ギャンブル施設が今、青息吐息にある。インターネット投票への移行が年々進んでいたところに新型コロナが追い打ちをかけ、場外施設に足を運ぶ人が急速に減っている。客離れが進めば売上が減るのは言うまでもないが、公営競技自体はネット投票に支えられ好調。場外施設は時代の大きな変化により、役割を失いつつある。(佐藤仁) 県民の〝賭け金〟は少なくとも年100億円超  県内には福島市に福島競馬場、西郷村に場外馬券売場のウインズ新白河、いわき市にいわき平競輪場、郡山市に同競輪郡山場外車券売場がある。このほか場外車券売場として福島市にサテライト福島、二本松市にサテライトあだたら、喜多方市にサテライト会津、南相馬市にクラップかしま、場外馬券売場として磐梯町にオープス磐梯、場外舟券売場として玉川村にボートピア玉川がある。サテライト福島では車券だけでなく舟券と馬券も発売している。  かつては飯舘村にニュートラックいいたてという場外馬券売場もあったが、震災・原発事故で閉鎖。また実現はしなかったが、猪苗代町、会津美里町では舟券、白河市では舟券とオートレースの場外施設計画が浮上したこともあった。今から20年以上前の出来事だ。  そうした乱立模様を本誌は「ギャンブル王国ふくしま」と表して報じてきたが、それら場外施設は今どうなっているのか。まずは県内に本場があるウインズ新白河といわき平競輪郡山場外から見ていきたい。  ウインズ新白河は平成10年10月に東北地方初のJRA場外施設として西郷村にオープンした。  JRAは本場の年間売上と入場者数は公表しているが、ウインズの数値は公表していない。念のためJRA広報にも問い合わせたが「答えられない」とのことだった。  では、福島競馬場の売上と入場者数はどうなっているのか。表①を見ると、売上は横ばいから令和に入って増加。令和3年が落ち込んだのは2月に起きた福島県沖地震で施設が損傷し、開催が3回から2回に減ったことが原因だが、もし3回開催されていたら単純計算で1400億円を超えていたとみられる。一方、入場者数は23万人前後で推移していたのが令和2年以降激減。新型コロナで無観客や入場制限せざるを得なかったことが響いた。 表① 福島競馬場の売上と入場者数の推移 H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4売  上(円)1186億1216億1138億1203億1228億1210億1289億1331億960億1453億入場者数(人)24.2万26.6万23.3万23.6万23.0万24.1万23.6万0.6万3.3万12.0万※開催数は通常年3回だが、平成26年は4回、令和3年は2回だった     これを見て気付くのは、新型コロナで入場者数が減ったのに売上は伸びていることだ。背景にはインターネット投票の急速な拡大がある。  図①はJRAの売得金の推移だ。平成9年はJRAにとってピークの売上4兆円を記録したが、この時、売上に最も寄与したのはウインズ等の2兆0827億円で、電話・インターネット投票は9273億円だった。その後、ネット投票の割合が増え、新型コロナが発生した令和2年に急増すると、4年は売上3兆2700億円の8割超に当たる2兆8000億円を占めるまでになった。対するウインズは3054億円と1割にも満たない。 図①  JRAの売得金の推移  https://www.jra.go.jp/company/about/financial/pdf/houkoku04.pdf23ページ目  場外施設はネット投票とは無関係で、足を運んだ客が馬券を買わなければ売上に結び付かない。そう考えると、ウインズ新白河が好調とは考えにくく、売上、入場者数とも減少傾向にあると見ていい。  場外施設の売上を探るヒントに設置自治体に納める協力費がある。公営競技の施行者(自治体等)は、施設の売上に応じて施設が置かれている自治体に環境整備費などの名目で協力費を支払っている。金額は設置時に「年間売上の何%」と決められ、相場は0・5~1%。つまり協力費が1%なら、100倍すれば施設の売上が弾き出せる。売上は「地元住民から吸い上げた金」とも言い変えられる。  協力費についてはもう少し説明が必要だ。例えば〇〇場外施設でA競馬、B競馬、C競馬の馬券を発売しているとする。施設における各競馬の年間売上はA競馬1000万円、B競馬1200万円、C競馬1500万円、施設がある自治体への協力費が1%とするとA競馬10万円、B競馬12万円、C競馬15万円。これを各競馬の施行者が自治体に納め、その合計(37万円)が施設から支払われた協力費と解釈されるわけ。  ただしJRAには何%といった相場がなく、要綱にある計算手法に基づいて算出される。なお要綱は非公表のため、計算手法は不明。  福島競馬場は福島市に「競馬場周辺環境整備寄付金」という名称で毎年2億数千万円納めている。同寄付金は一般財源に入り、競馬場周辺などの環境整備費に充てられている。ウインズ新白河も西郷村に「JRA環境整備寄付金」という名称で毎年2300万円前後納めている。 本場の売上は全体の1% いわき平競輪郡山場外(郡山市)  いわき平競輪郡山場外の歴史は古い。設置されたのは平競輪場の開設から9カ月後の昭和26年11月。現在のJR郡山駅東口に新築移転したのは昭和58年。その後、マルチビジョンや特別観覧席が設置され、平成18年にリニューアルして今に至る。  いわき市公営競技事務所によると郡山場外の年間売上と入場者数は表②の通り。どちらも平成25年度をピークに減っているが、入場者数は令和3年度以降、新型コロナの影響から若干持ち直している。  これを本場のいわき平競輪場と対比すると、福島競馬場とウインズ新白河の関係とよく似ていることが分かる。同じく表②を見ると、売上が減少している郡山場外とは逆に、本場の売上は平成28年度を底に回復しているのだ。令和4年度は平成28年度の倍の売上を記録した。 表② いわき平競輪場と郡山場外の売上と入場者数の推移 H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4いわき売  上(円)191億152億158億147億207億203億152億218億244億289億入場者数(人)9.7万7.9万9.0万8.1万10.6万7.8万11.5万8.1万7.6万11.9万郡 山売  上(円)4.2億3.1億3.1億2.4億2.4億2.4億1.8億1.5億1.6億1.4億入場者数(人)3.9万3.2万3.4万2.9万2.9万2.8万1.9万1.7万1.8万1.9万※郡山場外の入場者数は本場開催時のもの  本場の売上が増えた要因はJRAと同じくネット投票の急拡大にある。図②は競輪施行者全体の売上額を示したものだが、2兆円近い売上があった平成3年度はネット投票の割合は1割にも満たず本場が8割を占めた。それが令和4年度には真逆になり、売上1兆0908億円のうち8割がネット投票で8551億円、本場はたった1%の148億円にとどまっている。 図2 競輪施行者全体の売上額の推移 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/sharyo_kyogi/pdf/018_01_00.pdf 2ページ目  ならば、ネット投票の恩恵にあずかれない郡山場外は今後どうなるのか。いわき平競輪場は売上から毎年4億円前後をいわき市に納めているのに対し、郡山場外(施行者のいわき市)が郡山市に納めている「郡山場外車券売場周辺環境整備負担金」は平成29年度2260万円から毎年度減り続け、令和4年度1030万円に落ち込んでいる。  郡山市財政課によると、同負担金は平成28年度まで定率制で2000万円納められていたが、いわき市と協議し29年度から「郡山場外における前々年度の売上の0・7%」に変更された。理由は売上が減る中で定率制の維持が困難になったため。ただ「最も多い時で7000万円とか4000万円の時代もあった」(郡山市財政課)というから、郡山場外のかつての好調と現在の凋落が見て取れる。  他の場外車券売場の現状も見ていこう。サテライト福島は平成18年4月にオープンした。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売。1日最大3場の車券が買える。開催スケジュールを見ると休館日はなく、毎日どこかの車券が発売されている。  施設の設置者は㈱サテライト福島(福島市瀬上町)。  10月某日の午後、施設をのぞいてみると、220ある観覧席に対し客は30人くらいしかいない。高齢者ばかりで、若者は皆無。 訪れる客は高齢者ばかり サテライト福島  サテライト福島が扱っているのは車券だけではない。同施設は3階建てで、1階で車券、2階で舟券、3階で馬券が発売されている。  2階は平成23年に舟券売場に改装してオープンした。ボートレース桐生をメーンに各地の舟券を発売。1日最大8場もの舟券が買える。開催スケジュールを見ると、こちらも休館日はゼロ。  観覧席は100席あるが、客は30人くらいで高齢者ばかりだった。  3階は平成26年に馬券売場に改装してオープンした。南関東公営競馬(大井、船橋、浦和、川崎競馬)、盛岡競馬の全競走と各地の一部馬券を発売。JRAのレースがある土日は休館している。  施設の設置者は㈱ニュートラックかみのやま(山形県上山市)。  観覧席は190席あるが客は40人くらいでこちらも高齢者が中心。  サテライト福島の売上(推計)は表③の通り。今回の取材で車券を発売する施設は売上の0・5%、馬券を発売する施設は同1%、舟券を発売する施設は同0・5~1%を協力費として地元自治体に納めていることが分かった。各施設は売上や入場者数を明かしていないが、各自治体は毎年度、施設(競技の施行者)から協力費がいくら納められているか公表している。  例えば、サテライト福島からは令和4年度、車券分として310万円(納入者はいわき平競輪の施行者のいわき市など)、舟券分として440万円(納入者はボートレース桐生の施行者の群馬県みどり市など)、馬券分として500万円(納入者は特別区競馬組合など)、計1250万円が福島市に「寄付金」という名目で納められた。これをもとに推計すると、同施設の同年度の売上は19億8000万円となる。福島市民を中心に、これほどの巨費がギャンブルに吸い上げられているのかと思うと暗澹たる気持ちになる。10年間の売上合計は275億5000万円。  平成18年6月にオープンしたサテライトあだたらは、いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。日中からナイターまで連日休みなく開館しているのはサテライト福島と同じだ。  施設の設置者は㈲本陣(茨城県八千代町)。  サテライトあだたら(施行者のいわき市など)から二本松市に納められている「環境整備費」は平成25年度1100万円、令和4年度530万円。協力費は売上の0・5%。これをもとに推計した売上は表③の通り。平成25年度は22億円、令和4年度は10億6000万円、10年間の合計161億円。10年経って売上が半減しており、経営はかなり厳しいのではないか。 表③ 県内場外施設の売上の推移(推計) (円) H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4サテライト福島27.0億35.1億36.4億33.4億29.8億25.9億22.5億19.2億23.4億19.8億サテライトあだたら22.0億22.0億21.6億19.6億17.0億13.4億12.6億10.8億11.4億10.6億サテライト会津14.4億13.6億13.4億11.8億11.2億10.6億9.8億8.2億9.2億8.6億クラップかしま19.6億23.4億22.6億22.8億19.0億17.6億15.4億12.4億9.0億7.8億オープス磐梯7.9億6.9億6.9億5.8億5.2億5.9億4.4億2.8億3.4億3.6億ボートピア玉川29.9億29.7億29.7億31.4億29.1億28.9億28.2億28.0億29.5億25.4億※車券を発売しているサテライト福島、あだたら、会津、クラップかしま、馬券を発売しているオープス磐梯は「売上の0.5%」を施設が置かれている自治体に協力費として納めている。※舟券を発売しているボートピア玉川は「売上の1%」を施設が置かれている玉川村に納めている。※サテライト福島では車券のほか馬券と舟券も発売。馬券分として「売上の1%」、舟券分として「同0.5%」を福島市に納めている。  サテライト会津のオープンは平成6年10月。新潟県弥彦村の弥彦競輪をメーンに各地の車券を発売している。通常は1日2場、月に数日あるナイター開催時は3場の車券が買える。休館は月に1、2日。 サテライト会津(喜多方市)  施設の設置者は㈱メイスイ(いわき市)だったが、現在の管理者は㈱サテライト会津(喜多方市)。  10月某日、施設を訪れると、1階の460ある観覧席に対し客は60人超、2階の特別観覧席はゼロ。椅子とテーブルには書きかけのマークカードや新聞が散乱していた。 サテライト会津はその立地から山形方面の来客も見込まれていたが、駐車場に止まっていた車六十数台を確認すると、ほとんどが会津ナンバー(そのうち3分の1が軽トラ)。山形ナンバーは2台しかなかった。  サテライト会津(施行者の弥彦村など)から喜多方市に納められている「周辺環境整備及び周辺対策に関する交付金」は平成25年度720万円、令和4年度430万円。協力費が減っているということは売上も減っているわけで(表③参照)、入場者数も「令和3年度は6万7000人、4年度は6万1000人と聞いている」(喜多方市財政課)というから、年300日稼働として1日二百数十人にとどまっている模様。10年間の売上合計110億8000万円。  最後はクラップかしま(旧サテライトかしま)。オープンは平成10年10月。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。休館日はなく1日最大6場の車券が買える。  施設の設置者はエヌエヌオー情報企画㈱(いわき市)だったが、平成19年に花月園観光㈱(神奈川県横浜市)に所有権が移った。震災・原発事故後は2年間休止していたが、25年6月に再開。令和3年7月からは㈱チャリ・ロト(東京都品川区)に運営が代わり、施設名も今のクラップかしまに変更された。  クラップかしま(施行者のいわき市など)から南相馬市鹿島区に納められている「周辺環境整備費」は平成26年度1170万円、令和4年度390万円。令和に入ってからは激減している。背景には新型コロナで客足が途絶えたことと、新しい購入システムであるチャリロトの導入でキャッシュレス化が進み、現金志向の高齢者が敬遠したことがある。令和3、4年の福島県沖地震で建物が損傷したことも影響した。 南相馬市鹿島区地域振興課によると協力費は当初売上の1%だったが、平成20年に0・8%、21年に0・7%、22年に0・5%に引き下げられた。これをもとに売上を推計すると、平成25年度19億6000万円、令和4年度7億8000万円。10年間の合計169億6000万円。一方、1日の入場者数は当初700人。その後、次第に減っていき現在180人前後。 売上絶好調の公営競技 オープス磐梯(磐梯町)  残る二つの場外施設は関係する競技の現状も交えて紹介したい。  オープス磐梯は新潟県競馬組合の場外馬券売場として平成12年12月にオープンしたが、14年に新潟県競馬が廃止され、その後は南関東公営競馬の馬券を発売している。  施設を所有するのはマルト不動産㈱(会津若松市)、同社から管理を任されているのは㈱オープス磐梯(磐梯町)、運営は特別区競馬組合(大井競馬を主催する特別地方公共団体)が100%出資する㈱ティーシーケイサービス(東京都品川区)。  オープス磐梯(施行者の特別区競馬組合など)から磐梯町に納められている「販売交付金」は平成25年度780万円、令和4年度360万円。協力費は売上の1%なので、これをもとに売上を推計すると平成25年度7億8000万円から令和4年度3億6000万円に半減している(表③参照)。10年間の合計52億8000万円。  このように場外施設は非常に苦戦しているが、実は地方競馬は今、過去最高の経営状況にある。令和4年度は地方競馬にとって初の売上1兆円超えを記録した。  興味深いのは、平成3年度に1500万人だった入場者数が年を追うごとに減り、新型コロナが拡大した令和2年度には74万人まで落ち込んだにもかかわらず、売上は平成23年度以降伸びていることだ。原因は前述しているように、ネット投票の急拡大にある。令和4年度の売上1兆0704億円のうち、ネット投票は9割に当たる9621億円を占めた。これに対し、場外施設は1割にも満たない817億円。オープス磐梯が苦戦するのは当然だ。  ボートピア玉川はボートレース浜名湖の舟券をメーンに発売する場外施設として平成10年10月にオープンした。地元住民によると「舟券を買うだけでなく、施設が綺麗で食堂も安いので、高齢女性の憩いの場になっている」というから他の場外施設とは少し趣きが異なるようだ。  施設の設置者は㈱エム・ビー玉川(群馬県高崎市)だったが、平成16年に浜名湖競艇企業団に売却。エム・ビー玉川は同年9月に解散した。  ボートピア玉川(施行者の浜名湖競艇企業団など)から玉川村に納められている「環境整備協力費」は平成25年度2990万円、令和4年度2540万円。他の場外施設より高額で推移している。協力費は売上の1%なので、これをもとに推計すると売上も毎年30億円前後で安定していることが分かる(表③参照)。10年間の売上合計290億円。  公営競技の売上が近年好調なのは前述したが、ボートレースは特に好調だ。一般社団法人全国モーターボート競走施行者協議会によると、売上は平成22年度に8434億円で底を打った後、翌年度から回復。令和3年度は2兆3900億円、4年度は2兆4100億円を記録した。地方競馬は1兆円超えで過去最高と書いたが、ボートレースはその2倍も売り上げている。  背景には、やはりネット投票の急拡大が影響している。令和4年度は全体の8割に当たる1兆8800億円がネット投票による売上だった。  ボートピア玉川は他の場外施設と違って好調をキープしているが、ネット投票の割合がさらに増えた時、売上にどのような変化が表れるのか注視する必要がある。 地元住民から吸い上げた金  設置当時、地域振興に寄与すると盛んに言われた場外施設だが、例えば雇用の面では設置業者のほとんどが「地元から100以上雇う」などと説明していた。しかし今回の取材で各施設をのぞいてみると、インフォメーション窓口に1、2人、食堂に1、2人、警備員3、4人、清掃員2、3人という具合。発売機や払戻機は自動だから人は不要。いわき平競輪場(郡山場外も含む)は65人を直接雇用し、警備や清掃などを地元業者に委託して計100人の雇用につなげ、福島競馬場もレースがある週末に多くの雇用を生み出しているが、場外施設が期待された雇用に寄与しているようには見えない。  協力費も設置当初は5000万~1億円などと言われていたが、現状は数百万円。これでどんな地域振興ができるというのか。本場近くの学校や場外施設周辺の道路が協力費によって綺麗になった事実はあるが、そもそも地元住民から吸い上げた金が回り回って自治体の財源になっていること自体、地域振興とは言い難い。かえってギャンブル依存症の人を増やした可能性があることを考えると、金額でははかれないマイナスの影響をもたらしたのではないか。内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部事務局が令和元年9月に公表した資料によると「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合は平成29年度全国調査で成人の0・8%(70万人)と推計されている。政府はギャンブル等依存症対策基本法を施行するなど対策に乗り出しているが、本場や場外施設にギャンブル依存症の相談ポスターが貼られているのは違和感を覚える。  場外施設の売上は「地元住民から吸い上げた金」と前述したが、ここまで取り上げた施設(ネット投票が含まれる福島競馬場、いわき平競輪場、売上不明のウインズ新白河は除く)の過去10年の売上合計は1080億6000万円。地域振興という名のもとに、少なくとも福島市の今年度一般計当初予算(1147億円)に匹敵する金がギャンブルに消えたことは異様と言うべきだろう。  しょせんギャンブルは、胴元が儲かる仕組みになっている。公営競技のいわゆる寺銭(施行者が賭ける者に配分せず自ら取得する割合=控除率)は25%。払戻率は75%。  窓口や発売機で買うのが当たり前だった時代から、ネット投票の拡大により場外施設の役割は終わりに近付いている。今、施設を訪れている客はネットに疎い高齢者ばかり。10年後、この高齢者たちが来なくなったら施設はガランとしているはずだ。 役割終えた場外施設  実際、全国では場外施設の閉鎖が相次いでいる。北海道白糠町のボートピア釧路は開業から5年後の平成11年6月に18億円の赤字を抱えて閉鎖。千葉県習志野市のボートピア習志野は新型コロナの影響で令和2年7月に閉鎖された。新潟県妙高市のサテライト妙高と宮城県大和町のサテライト大和も来年3月末で閉鎖することが決まった。  ボートピア釧路は見通しの甘さが引き金になったが、あとの3施設は新型コロナとネット投票による低迷が原因。年間売上は10億円未満だったようだ。県内の施設も状況は同じ。  こうした中、宮城県仙台市には新しい時代に入ったことを感じさせる施設がある。JRAが昨年11月にオープンした全国初の馬券を発売しない施設「ヴィエスタ」だ。若いライト層をターゲットにレースのライブ映像や過去の名馬・名レース、競馬関連情報などを大型ワイドスクリーンで放映。収容人数75人で、無料のエリアや有料のラウンジ席がある。馬券は発売していないがスマホは持ち込めるので、映像を見ながらネット投票することは可能。JRAは「競馬の魅力を感じてもらうための施設。ネット投票は想定していない」と言うが、そんなはずはないだろう。  ちなみにパチンコ業界は、ピーク時30兆円と言われた市場規模が2022年は14・6兆円と半減。内訳はパチンコ8・8兆円、パチスロ5・8兆円。ホールの売上が下がり、コロナ禍で閉店・廃業が相次いだだけでなく、有名メーカーの経営も立ち行かなくなっている。  昭和後半から平成にかけて公営競技の売上を支えたのは場外施設だった。本場の入場者が減る中、それをカバーするため施行者は各地に施設をつくった。中には強引なやり方で設置しようとして地元住民とトラブルに発展したケースもあり、大阪、名古屋、高松、新橋、沖縄では工事差し止め訴訟が起こされた。  それから30年余。場外施設は今、往時の勢いを失っている。閉鎖へと向かうのは避けられないだろう。

  • 【福島商工会議所】渡邊博美会頭インタビュー(2023.12)

    【福島商工会議所】渡邊博美会頭インタビュー(2023.12)

     わたなべ・ひろみ 1946年生まれ。福島大経済学部卒業後、福島ヤクルト販売入社。2012年に福島商工会議所副会頭。13年11月に会頭就任。現在4期目を務める。  福島商工会議所は職員らの力を結集し、渡邊博美会頭の下、伴走型支援で会員事業所の経営環境の足腰強化に力を入れている。経済に打撃を与える慢性的な人手不足と資材高騰は福島駅前東口再開発に影響し、建設費用が増加。完成が1年延期され2027年度の予定になった。「福島駅東西エリア一体化推進協議会」会長も務める渡邊氏に再開発の行方などを聞いた。 足腰の強い経営環境を共に目指していく  ――新型コロナウイルスが感染症法上の5類に引き下げ後、福島わらじまつりが通常開催されるなど新型コロナ禍前の活気が戻ってきました。現況を教えてください。  「わらじまつりは今年、まず6月に青森市で行われた東北絆まつりに参加しました。賑わいを見て、福島のイベントも賑わうぞと期待が膨らみました。祭りは参加者が熱狂し、笑顔が観客に伝播します。その光景が復活したのは感慨深いものです。7月末に『ふくしま花火大会』があり、熱気が高まったまま、8月3、4日のわらじまつりで最高潮となりました。大相撲の福島巡業が4日に行われたため、福島市の夏は例年にない盛り上がりでした。  福島駅東口の再開発工事中は賑わい創出のため駅前通りやまちなか広場では週末に各種イベントが開かれて盛況です。県立医大保健科学部と福島学院大学の駅前キャンパスがあるため、多くの若者がイベントに関わっています。学生ならではの自由な視点には目を見張るものがあり、若手も参入しやすい雰囲気が生まれています。これらを起爆剤に、来年はもっと魅力のある街になるよう盛り上げていきます」  ――円安と物価高が深刻な問題となっています。人手不足や後継者問題も深刻です。会員事業所からはどのような声がありますか。  「人手不足は日本を覆う問題です。福島県は特に女性の生産年齢人口の流出が全国と比べて高いというデータがあります。要因は様々ですが、女性が魅力を感じる産業を用意できていないという点で、我々経営者にも責任があると感じています。働く場所としてもそうだし、結婚し子育てをする場として不安を感じ、学校を出ると福島を離れてしまう。  価格転嫁について会員事業所を調査していますが、問題なく行っているという事業所はまずありません。燃料費の高騰が特に打撃で、賃金を上げて今いる従業員を雇用し続けられるよう経営者は奮闘しています」  ――資材価格高騰で福島駅東口再開発が1年先送りとなりました。会頭自身も「福島駅東西エリア一体化推進協議会」の会長を務めていますが会議所ではどのような対応をしていきたいですか。  「百貨店の中合が閉店してから福島駅前の歴史あるランドマークが無くなってしまいました。特に私ども高齢者は駅前が一番賑わっていた時代が頭に残っていますから衝撃は大きかった。当会議所には往時の駅前の活気を知る方たちから、なぜ中合を閉めるのかと惜しむ声が聞こえてきました。地方都市では、駅前の活気は衰退し、賑わいは駅の中だけに収まってしまいました。  福島市は東北新幹線の駅があり、交通の便では恵まれています。行政施設とコンベンション施設が駅前に集まると都市機能が向上します。さらに大切なのは、医大保健科学部、福島学院大のキャンパスがあり、近くに大原綜合病院が位置している点です。再開発地区には既に暮らしに密接な教育機関や病院があります。東京や仙台などの大都市では地代が高い分、行政や教育、医療機関の集約は困難でしょう。その点で福島市は再開発で機能を集約しやすい強みがある。自家用車を持っていなくても誰もが暮らしやすい街になる可能性を秘めています。  ただ、資材価格高騰が建設に影響を与えています。完成後も維持費を考える必要があります。そして、暮らす人にとって一番良い方策を考えねばなりません。私は今、関係者に建設中の今こそ、腹を割って話そうと言っています。  資材価格高騰によるコスト上昇や地方の再開発事業の難しさをみると、予算や持続可能性に厳しい部分があるのであれば、福島に住む人にとって一番いいやり方を駅西口と一体化して考える必要があります。後世に悔いが残らぬように、知恵を絞るのは今しかできません。見栄や他の都市に負けたくないという発想ではなく、自分たちのためになる形を追求したいです。  東北中央道ができたことで、福島市には相馬市や山形県米沢市からも訪れるようになりました。福島の魅力は分析すればたくさんあるはずです。構造物だけどんどん造って、継続できませんでしたでは済みません。行政とまちづくりセンター、当会議所で連携を密にして取り組んでいきます」  ――福島市出身の作曲家、故・古関裕而さんが野球殿堂入りしました。街づくりにどうつなげますか。  「古関先生をモデルにしたテレビドラマで火が付き、記念の音楽祭や作曲賞の創設、夫人の金子さんの出身地である愛知県豊橋市とのつながりが生まれました。豊橋市の方たちには花火大会でも筒花火を披露していただきました。  野球のオール早慶戦を11月26日に行いました。早稲田大と慶応大の応援歌をどちらも古関先生が作曲している縁からです。現役生やOBが試合をし、市や当会議所も準備に関わりました。応援合戦は盛り上がりました。古関先生の縁で福島に若い人が来てくれた。試合後も果物や温泉を楽しんで、福島の魅力を知っていただいたようです。福島の魅力はたくさんありますが、古関先生はそれらをつなぐ要です」  ――今年度取り組んでいる重点施策について。  「激変する経営環境に対応できる、足腰の強い経営ができるよう企業や商店の伴走型支援に取り組んでいきます。具体的には人手不足や資材高騰、デジタル移行に対応します。セミナーで一方的に教えるだけではなく、職員が赴いて親身に対応できるよう、商工会議所では人づくりを進めています。来年のカレンダーを配る時期ですが、会員事業所には職員が直接回って配り、ネット環境の整備や人手の確保、新商品開発に使える便利な制度を紹介するなど対面であらゆる相談に乗っています。若手職員が出向くことで気兼ねなく相談できるとの声があります。  浮かび上がった課題は、当会議所の各種委員会で共有して解決策を編み出します。いくつかの委員会では女性や会議所議員になってから1年以内の若手メンバーを委員長に据え新しい風を取り込んでいます。多種多様な意見をまとめていくのは並大抵ではありませんが、その分チャレンジングな発想が生まれます。時代の変化に合わせて新たな経営視点を会員事業所と一緒に磨き上げていきたいです」

  • 【県南建設事務所】手塚孝良所長インタビュー

    【県南建設事務所】手塚孝良所長インタビュー

     てづか・たかよし 1967年生まれ。福島市出身。東北大工学部資源工学科卒。1989年福島県入庁。道路整備課主幹、下水道課長などを歴任。今年4月より現職。 県民が求める社会資本整備・管理に取り組む  ――4月に県南建設事務所長に就任されました。管轄地域の印象はいかがでしょうか。  「栃木・茨城両県と接し、東北新幹線、東北道、あぶくま高原道などの高速交通網が発達している一方で、美しく豊かな自然に囲まれた地域でもあります。白河関跡、小峰城跡、棚倉城跡など歴史的文化遺産や伝統文化も多く魅力溢れる地域です」  ――2月4日には国道294号白河バイパスが開通しました。  「市街地を通る現道はクランクが多く、十分な歩道幅も取れないことから、1995(平成7)年度に延長4120㍍のバイパス整備に着手しました。開通により安全・安心な通行が確保されるとともに、市街地を経由して白河中央スマートインターチェンジと国道289号が直結し、白河厚生病院等へのアクセスが向上しました。市の循環バス『こみねっと』が4月からバイパス経由の新規路線を開設したほか、バイパス周辺にある小峰城や南湖公園への観光客も増加しています」  ――建設業界の人材不足が課題となっていますが、県としての対策は。  「県土木・建築総合計画でも目標の一つに『持続可能な建設産業』を掲げています。当事務所では担い手確保として、小学生や高校生、一般の方向けの現場見学会を実施しており、関心を持っていただけるようにそれぞれ内容を工夫しています。  一般の方向けの現場見学会としては、昨年度に南湖トンネル、今年度に堀川ダムでキャンプを実施し、施設の役割や建設業の重要さを学んでいただきました。子どもからお年寄りまで多数の参加があり、建設業をアピールできたのではないかと思います。  トンネルキャンプは全国でも2例目、ダムキャンプは全国でも初の試みだと思われます。今後も、担い手確保に向け日々シンカ(新化)し、有効な取り組みを進めます」  ――結びに抱負を。  「県土木・建築総合計画の地域別計画で定められている『県を越えた広域連携の中心として、自然、歴史、伝統文化をいかしながら、持続的に発展する県南地域』の達成に向けて各種施策に取り組んでいきます。  道路事業では、国道289号、国道118号などの広域的な道路ネットワークの強化、幹線道路の整備を推進することで、地域の物流の円滑化、産業や観光の振興を支援し、活力あるまちづくりを目指します。  国が進める阿武隈川の遊水地群整備をはじめ、各水系の流域治水対策事業や砂防事業などの推進、県有施設の長寿命化事業などにも重点的に取り組み、災害に強く安全で安心なまちづくりに努めます。  安全・安心、豊かさを次代につなげられるよう、県民が求める真に必要な社会資本の整備、管理に取り組んでいきます」 県南建設事務所ホームページ

  • 【植松三十里】歴史小説家の講演会開催【矢祭町】

     7月23日、矢祭町のユーパル矢祭2階多目的ホールで、歴史小説家・植松三十里(みどり)氏の講演会が行われた。令和5年度矢祭町ふるさと創生事業の一環として実施された。 テーマは〝~近代日本の礎を築いた福島の男たち~〟。矢祭町出身で、幕末に活躍した吉岡艮太夫をはじめ、県内で活躍した偉人の功績について、植松氏が自身の作品をもとに紐解いた。 講演前に佐川正一郎町長が「日本の歴史の大切さ、そして日本の未来を考える大切さを、講演を通じて後世に伝えていきたい」とあいさつした。 講師の植松氏は静岡県生まれ。東京女子大文理学部史学科卒業後、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。7年間の米国暮らし、建築都市デザイン事務所での勤務を経て、フリーライターに転身した。 2003(平成15)年に発表した『桑港(サンフランシスコ)にて』で第27回歴史文学賞を受賞。2009(平成21)年には『群青 日本海軍の礎を築いた男』で第28回新田次郎文学賞、『彫残二人』で第15回中山義秀文学賞を受賞した。昨年11月に刊行された最新作『家康を愛した女たち』も話題を呼んでいる。 講演会で取り上げられた吉岡艮太夫は、一般的に吉岡勇平という名前で知られている。 17歳で故郷を離れた後、日本各地を巡って文武両道に励み、江戸の御家人・吉岡家の養子となった。数年後に養父の後を継いで幕府の表御台所人として出仕。その後、旅で身につけた地理学をもとに執筆した江戸湾防備策が認められ、当時海防に従事していた代官・江川太郎左衛門の塾に入門した。 29歳で幕府の軍艦取締役に登用され、その翌年、勝海舟やジョン万次郎、若かりし頃の福沢諭吉らとともに、軍艦・咸臨丸に公用方として乗船、37日間の航海を経てサンフランシスコへと渡った。 吉岡らが日本を離れている間に尊王攘夷運動が高まり、大政奉還や鳥羽・伏見の戦いにおける幕府軍の敗北など、明治維新への機運が高まった。だが、吉岡は、江戸城の無血開城によって徳川慶喜が江戸を追いやられる際に護衛の任に就き、幕府が解体されてもなお徳川家の行く末を幕臣として見届けた。その忠義は最後まで揺らぐことはなかったという。 このほか、常磐炭鉱の開祖である片寄平蔵、帝国ホテルのライト館を手掛けた建築家・遠藤新の足跡についての講演も行われた。後半では植松氏と佐川町長、咸臨丸子孫の会メンバーで、木村摂津守喜毅(軍艦奉行)の玄孫にあたる宗像氏、浜口興右衛門(運用方)の曾孫にあたる小林氏を交えたトークセッションも催された。 会場には町民など約200人が足を運び、幕末を駆け抜けた「福島の男たち」の活躍ぶりに思いを馳せた。 家康を愛した女たち posted with ヨメレバ 植松 三十里 集英社 2022年11月18日 楽天ブックス 楽天kobo Amazon   あわせて読みたい 「矢祭町刀剣展示会」開催-矢祭町・矢祭町教育委員会

  • 政経東北【2024年5月号】

    【政経東北 目次】西郷村の障害者支援施設で「虐待隠蔽」/【献上桃詐取事件】追加捜査を迫られた県警/事件屋に乗っ取られた鹿島ガーデンヴィラ/南相馬市青果団地「整備費71億円」の是非/逆境でも走り続けた「山の神」今井正人さんに聞く/矢吹町出身・野球スキルコーチ【菊池タクトさん】の挑戦/国見町「救急車問題」が町長選に波及 アマゾンで購入する BASEで購入する 西郷村の障害者支援施設で「虐待隠蔽」 激熱スプーン押し当て入所者火傷 【献上桃詐取事件】追加捜査を迫られた県警 裏付けられたニセ東大教授の「嘘」 事件屋に乗っ取られた鹿島ガーデンヴィラ 雇われ社長が内幕を暴露 南相馬市青果団地「整備費71億円」の是非 デキレースで施設運営者は決定済み 逆境でも走り続けた「山の神」 陸上長距離指導者・今井正人さんに聞く 矢吹町出身・野球スキルコーチ【菊池タクトさん】の挑戦 プロ選手も注目する指導法 【郡山大町土地区画整理事業】地権者の同意得られず停滞 テナントビル新設で風向き変わるか 塙厚生病院に「棚倉町移転説」 背景に旧棚倉高校跡地の利活用問題 いわき市の積算ミスで露呈した入札価格漏洩疑惑 過渡期を迎えた公設温浴施設(いわき編) 国見町「救急車問題」が町長選に波及 「温泉むすめ」人気に沸き立つ福島飯坂温泉 本誌記者「春の福島競馬」初体験レポート ニプロ「新工場建設断念」の余波 特定帰還居住区域の課題 会津バス支援で変貌遂げた【丸峰観光ホテル】 議会で二度否決された北塩原村【ラビスパ裏磐梯】廃止 市長・商議所会頭に聞く喜多方市の未来 塙町長選立候補予定者に聞く その他の特集 巻頭言 復興加速化提言を読み解く グラビア シーズン到来 春の福島競馬 今月のわだい 二本松市「ローソン」油井福岡店が謎の休業 暴行死発生の小野町特養施設で運営法人理事を刷新 「クマ空き家居座り」で見えた東山温泉の課題 会津坂下町議選トップ当選者に町長選出馬の噂 裏磐梯が一人勝ち!?の県内スキー場 南相馬市悪徳ブローカーと旧知の国会議員がコメント 寄付で「災害医療車」資金を調達した常磐病院 「いわきは温暖で住みよい」移住者が気温比較し本を出版 企業特集 新選挙区で躍動する根本匠衆院議員 国政インタビュー 菅家一郎・衆院議員 インフォメーション アクアマリンふくしま 特別インタビュー 竹之下誠一・県立医大理事長兼学長 菊地大介・須賀川商工会議所会頭 本田哲朗・福島成蹊学園理事長兼校長 市長インタビュー 内田広之・いわき市長 首長訪問 押山利一・大玉村長 添田勝幸・天栄村長 遠藤智・広野町長 連載 横田一の政界ウオッチ情報ファインダー耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録フクイチ核災害は継続中(春橋哲史)廃炉の流儀(尾松亮)高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁) 編集後記

  • 政経東北【2024年4月号】

    【政経東北 目次】県内自民「裏金議員」の言い分/【衆院新1区】亀岡氏と金子氏「県北・安達で〝因縁対決〞」/いわき・コンクリ撲殺男の虚しい「正当防衛」主張/南東北病院「新病院計画」に資材高騰の余波/猪苗代スキー場「観光施設計画」の光と影/風力発電基地と化す会津若松背炙山/郡山の特養施設に虐待・パワハラ疑惑 アマゾンで購入する BASEで購入する 猪苗代スキー場「観光施設計画」の光と影 事業者は複数企業を率いる地元出身・遠藤昭二氏 風力発電基地と化す【会津若松】背炙山 イヌワシ目撃情報で〝追認ムード〞一変 【会津若松市】県立病院跡地に熱視線 市民は映画館、商業施設を期待 福島県内自民「裏金議員」の言い分 個別質問をはぐらかした森、吉野、亀岡の3氏 【衆院新1区】亀岡氏と金子氏「県北・安達で〝因縁対決〞」 「どちらも反省が足りない」と批判されるワケ いわき・コンクリ撲殺男の虚しい「正当防衛」主張 借金癖と虚言癖が招いた惨劇 南東北病院「新病院計画」に資材高騰の余波 未だに見えない事業の全容 郡山の特養施設に虐待・パワハラ疑惑 相次ぐ告発メールに他人事の理事長 誰も責任を取らない【レゾナック】喜多方の周辺汚染 猪苗代町議選・〝よそ者〟が上位当選のワケ 【学法石川】が甲子園に刻んだ足跡 二本松・唯一無二の24時間ドライブイン レトロブームで脚光を浴びる【二本松バイパスドライブイン】 ハッキリしない郡山逢瀬ワイナリーの移管先 矢祭町「議員報酬日当制」は何をもたらしたのか 相馬地方森林組合で内部抗争 ニセ東大教授が白状した献上桃の行方 落日のヨーカドー 汚染処理水海洋放出の賠償は半年で41億円 燃料デブリ取り出しを中止せよ 「浪江町ADR訴訟」で和解が成立 理想のラーメン追い求める白河市・とら食堂 竹井和之さん その他の特集 巻頭言 トカゲの尾っぽ切り グラビア 2024せいけい観光ガイド 今月のわだい 過去最多を記録した昨年の外国人宿泊者数 違法薬物で有罪の元俳優 福島県警が逮捕のナゼ 伊達バイオマス発電所で運転要員が次々退職 議会で「周辺首長との不仲説」に言及した石川町長 無投票、投票率過去最低が多い県内議員選挙 人気ゲーム「ウマ娘」効果で注目高まる相馬野馬追 インフォメーション お菓子のみよし 首長訪問 引地真・国見町長 藤原一二・川俣町長 高橋廣志・西郷村長 宗田雅之・鮫川村長 古川庄平・会津坂下町長 吉田栄光・浪江町長 企画特集 泉崎村「住み良い村づくり」の成果 福島県が「医療費適正化計画」策定 連載 横田一の政界ウオッチ耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁) 編集後記

  • 【伊達市】須田博行市長インタビュー【2024.3】

     すだ・ひろゆき 1958年生まれ。宇都宮大農学部卒。福島県に入庁後、県北農林事務所長などを歴任。2018年1月の伊達市長選で初当選、22年1月に再選。  ――2月で2期目の折り返しを迎えました。再選を果たした市長選で掲げた公約の進捗状況について。  「まずは『安全安心の確保』です。1月1日に能登半島地震が発生しましたが、改めて自然災害に対する常日頃の備えが重要と痛感しました。また、断水による生活困難をはじめ、能登半島の地形的な要因もあって被災した道路の再開通に時間を要し、復旧活動に支障をきたすなど道路の重要性も再認識したところです。  本市では水道の耐震化を鋭意進めており、200㍉以上の基幹管路の耐震適合率は90%以上、摺上川ダムから引く浄水における貯配水池の耐震化率は98%となっています。大地震が発生しても耐えられる構造となっていますが、100%を目指し今後も耐震化に取り組んでいきます。  令和元年東日本台風では梁川地域を中心に甚大な水害に見舞われました。市では、令和5(2023)年度から、国土交通省と民間事業者の協力を得て、『ワンコイン浸水センサ』を用いた実証実験に、県内で初めて参加しています。浸水が想定される市内14か所にセンサーを設置することで、豪雨の際の浸水状況をリアルタイムに把握ができ、災害対策の迅速化を図ることが可能となります。  また、センサーによって浸水を10㌢ごとに察知できるので、的確な道路の通行止めやアンダーパス対策、危険を伴う夜間の職員出動回避にもつながります。安心・安全の確保には道路整備も不可欠です。本市は相馬福島道路をはじめ、国道4号、同349号、同399号と道路網が東西南北に充実しています。同349号の整備は宮城県側から進んでおり、本県側も国や県に要望しながら速やかな整備の実現に努めます」  ――雇用・子育て環境の充実についても公約として掲げていました。  「若者の定住につながる『雇用の場の確保』については、伊達市新工業団地の造成が完了し、8区画を売り出したところ、6社により全区画売約済みとなりました。1社については2月に開業を迎え、令和6年度中には2社が稼働する見通しです。  堂ノ内地区の大型商業施設については、現在、土地区画整理事業の工事と大型商業施設イオンモール北福島(仮称)の造成工事が鋭意進行中であり、間もなく完成を迎えます。今後は大型商業施設の本体建築工事の着手に向けて準備が着々と進められるとのことで、1日も早く開業することを期待しています。  街中のにぎわいづくりについては、『若者が楽しめる場』として気軽に集まって楽しんでもらえる施設の整備、商店街の魅力向上などを目指し、若手商店主等の意見を伺い、実証事業を進めているところです。  『子育て・教育の充実』については、若い世代にとって定住の重要な条件でもあります。子どもたちを安心して預けられ、子どもたち自身も安全に過ごせる居場所が重要になると考え、本市では3つの認定こども園の整備を進めてきました。  伊達・ひかり認定こども園、保原認定こども園は4月に開園の運びとなります。また、阿武隈急行高子駅北地区の住宅団地内で高子北認定こども園(仮称)の建設が始まり、令和7年4月の開園に向け整備が進められています。そのほか、かみほばら放課後児童クラブ館を新築し、今年4月から開所予定です。  本市ではすべての妊婦、18歳までの子どもとその家族を対象に、相談体制を充実させた『伊達市版ネウボラ事業』を展開しています。今後もネウボラ保健師を中心とした、妊娠期から切れ目のない保健・福祉・教育の三位一体となった子育て支援に一層取り組んでまいります。  市民の健康寿命の延伸を目指す『健幸・福祉のまちづくり』も公約として掲げました。本市では、運動習慣化支援事業として、地区集会所を拠点に参加者同士が交流を図りながら気軽に楽しく運動を行う『元気づくり会』事業を推進しており、現在は146団体が参加しています。コロナ禍で一時活動が制限されましたが、会員の皆さんの強い思いにより、コロナ禍以前の取組が復活しています。昨年5月には、本市の基幹産業である農業と福祉の連携を目指し、障害福祉施設として多機能型事業所『インクルーシブたかこ』が開所しました。〝明るく楽しく健康に〟をモットーに、農業生産活動や就労知識及び能力向上のための訓練などを行っており、障害の有無にかかわらず、さまざまな交流・学びの場として利用されています」  ――新型コロナの影響について。  「感染拡大防止のため、これまでさまざまな行動制限を強いられるなど、市民の皆さまにとって、まさに辛抱の3年間だったと感じます。その思いが昨年5月8日の5類引き下げ以降は、一気に市民の活力となって市内各地に「にぎわい」が戻ったと実感しています。現在、イベントやお祭りなどが通常通りに開催されていますが、特に参加する子どもたちの笑顔が印象的で、対面でのふれあいや繋がりの重要性を感じました」  ――伊達小学校校舎改築工事が竣工しました。  「旧伊達小学校は建築から50年が経過しており、耐震診断の結果からも校舎改築は待ったなしの状況でした。平成28年から学校、保護者、地元住民で構成された検討委員会で議論を重ね、『子どもたちが安心・安全に学べる校舎』、『地域住民のコミュニティの核』との意見集約が成され、『地域と一体となった学校づくり』を目指すこととなりました。  これらを踏まえ、同校は吹奏楽が非常に盛んなことから、校内に講堂を整備し、講堂と音楽室を隣接させ、練習、発表を問わず使い勝手の良い配置としました。校内イベントはもちろん地域住民の各種発表会の場としても活用していきます。  校内はバリアフリー仕様で、ICT教育の充実を図るため、各教室に大型提示装置(ディスプレイ)を設置し、児童のタブレットと連携して授業が行える教育環境を提供しています。地域の皆さまや施工業者のご尽力により、昨年12月末に校舎改築工事が竣工し、引っ越しや備品搬入を経て、1月9日から新校舎での学びがスタートしました。子どもたちからは『ホテルみたい』、『廊下が広くてきれい』と感動や喜びの声が寄せられています」  ――今後の抱負について。  「昨年策定した伊達市第3次総合計画では①安心・安全できれいなまち、②健やかでやさしい健康・福祉のまち、③未来を拓く人を育む教育・文化のまち、④活力とにぎわいあふれる産業のまち、⑤便利で快適に暮らせるまち、⑥みんなでつくる協働のまち――という6つの基本目標を掲げています。まずは前期基本計画に基づき、本市の将来像『人と緑と歴史が結び合うひかり輝く田園空間・伊達市』の実現に向け積極的に市政運営を進めていきます」

  • 政経東北【2024年3月号】

    【政経東北 目次】県内元信者が明かす旧統一教会の手口/【衆院選新3区】未知の県南で奮闘する会津の与野党現職/【白河】旧鹿島ガーデンヴィラ「奇妙なM&A」の顛末/【センバツ出場】学法石川の軌跡/安田秀一いわきFCオーナーに聞く/【特集・原発事故から13年】/福島駅東口再開発に暗雲 アマゾンで購入する BASEで購入する 県内元信者が明かす旧統一教会の手口 新法では救われない「宗教2世」 【衆院選新3区】未知の県南で奮闘する会津の与野党現職 上杉支持者に敬遠される菅家氏、玄葉票取り込みが課題の小熊氏 【白河】旧鹿島ガーデンヴィラ「奇妙なM&A」の顛末 不動産を市内外の4社が競売で取得 【棚倉町議会】議長2年交代めぐるガチンコ対決 議員グループ分裂で9月町長選への影響必至!? 問われるあぶくま高原道路の意義 利用促進を妨げる有料区間 【センバツ出場】学法石川の軌跡 佐々木順一朗監督のチームづくりに迫る 【スポーツインタビュー】安田秀一いわきFCオーナーに聞く 「君が来れば、スタジアムができる」 過渡期を迎えた公設温浴施設【会津編】 会津美里町は民間譲渡で存続 【特集・原発事故から13年】 ①県内復興公営住宅・仮設住宅のいま ②復興事業で変わる双葉郡の居住者構成 ③追加原発賠償の課題 ④復興イノベーションは実現できるのか ⑤原発集団訴訟 6・17最高裁判決は絶対なのか(牧内昇平) ⑥フクイチ核災害は継続中(春橋哲史) ⑦廃炉の流儀 拡大版(尾松亮) 県職員・教員の不祥事が減らないワケ 横領金回収が絶望的な会津若松市と楢葉町 国見町議会には荷が重い救急車事業検証 福島駅東口再開発に暗雲 福島駅「東西口再編」に必要な本音の議論 その他の特集 巻頭言 復興まちづくりの在り方 グラビア 旧避難区域の〝いま〟 今月のわだい 維新の会県総支部「郡山移転」の狙い 南相馬木刀傷害男の被害者が心境吐露 矢吹町「ホテルニュー日活」破産の背景 桐島聡に影響与えた⁉福島医大の爆弾魔 特別インタビュー 小櫻輝・県交通安全協会長 管野啓二・JA福島五連会長 企画特集 地域資源を生かした田村市のまちづくり 挑戦とシン化を続けるいわき商工会議所 市長インタビュー 木幡浩・福島市長 須田博行・伊達市長 高松義行・本宮市長 首長新任期の抱負 星學・下郷町長 インフォメーション 新常磐交通 福島観光自動車 陽日の郷あづま館 矢祭町・矢祭町教育委員会 連載 横田一の政界ウオッチ耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁)ふくしまに生きる 編集後記

  • 「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組み【JAグループ福島】

     JAグループ福島が「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みを始めて、まもなく2年を迎える。  「園芸ギガ団地」構想は令和3(2021)年11月に開催した第41回JA福島大会において、取り組むことが決議されたもの。  本県は全国でもコメの生産ウエイトが高い県の一つ(令和3年農業産出額1913億円、うちコメ574億円=30%)だが、近年の生産過剰基調によりコメの販売価格は低下・不安定化している。  そうした中で農業者所得の増大を図るため、国産需要が見込まれる園芸品目へ生産をシフトする取り組みとして、秋田県の取り組みを参考に同構想を進めている。  県としても、園芸振興の取り組みを後押ししており、園芸産地の生産振興をさらに進めるため、「園芸生産拠点育成支援事業」を創設。手厚い補助(事業費の6割を補助=※1)を行うことで、園芸振興に取り組みやすい環境づくりを進めている。  また、独自の支援策を打ち出している市町村もあり、JA、行政など関係機関が一体となって園芸振興の取り組みを進めている。  県内では、現在、全5JA12地区で「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みが進められている。品目は、きゅうり、ピーマン、アスパラガス、トマト、宿根かすみそうなどで、各JA管内の主要園芸品目を中心とした生産振興を行っている。  各JAの今年度の販売高をみると、JAふくしま未来の桃(73億円)、JA福島さくらのピーマン(約7・3億円)、JA会津よつばの南郷トマト(約12・3億円)、昭和かすみ草(約6・4億円)など、過去最高の販売高を計上している。  また、▽GI(地理的表示=※2)の取得(南郷トマト、阿久津曲がりねぎ、伊達のあんぽ柿、昭和かすみ草など)、▽記念日(ふくしま桃、伊達のあんぽ柿、昭和かすみ草、南郷トマト)の制定など、園芸振興の取り組みが県内各地で加速化している。  「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みが、福島県の園芸振興の起爆剤となり、農業者の所得増大へとつながっていくことに期待したい。 ※1 事業要件に合致するもの ※2 GI:Geographical Indication(地理的表示)。その地域ならではの自然や歴史の中で育まれてきた品質や社会的評価などの特性を有する農林水産物・食品を国が登録し、その名称を知的財産として保護しているもの。令和5(2023)年7月20日現在、全国で132産品が登録されており、福島県では6産品が登録されている。 昭和かすみ草の生産ハウス団地

  • 【会津土建】菅家忠洋社長インタビュー

    かんけ・ただひろ 1979年5月生まれ。東京の大学を卒業後、海外留学を経て会津土建へ入社。翌年、子会社の㈱エマキへ出向。10年間IT事業の社長を務める。その後、会津土建へ戻り、取締役、常務取締役、副社長を歴任し、昨年6月に代表取締役社長に就任。   会津若松市の会津土建は大正15(1926)年に創業し、会津地方に根ざした総合建設業として成長を続けてきた。建設業界全体がさまざまな課題を抱える中で、先進的な取り組みへの挑戦を続けている。昨年6月に代表取締役社長に就任した菅家忠洋氏(44)に建設業界の現状、今後の経営ビジョンについてインタビューした。 効率化と新たな挑戦を心がけ成長を続けていく。  ――昨年6月8日付で会津土建の代表取締役社長に就任されました。  「私の祖父と父が歴代の社長なので、幼い頃から会社を引き継ぐことに漠然としたイメージはありました。実際に社長となって、もちろん仕事の重みや責任は感じていますが、不安やプレッシャーにさいなまれることはなく、やりがいを感じながら充実した日々を過ごしています。さまざまな方々とお会いする機会に恵まれ、物事に対する見識や感性が膨らみ、人との結びつきやご縁の尊さを実感しています。建設業という仕事自体にとても魅力を感じますし、人のため、社会のために貢献すべく、地域が活性化できるよう情熱をもってまちづくりに努めていきたいと存じます」  ――老舗総合建設会社として地域社会にどう貢献していく考えですか。  「当社は大正15年創業、まもなく100周年を迎える老舗の建設会社です。会社の歴史を十分に理解しながら、新たな伝統を創っていく所存です。現在の会津地域における建設業界を取り巻く環境や政治経済の状況を俯瞰的に捉え、何を成すべきか、深く考えながらも瞬時に見極め、判断していく必要があります。また、今までお付き合いいただいたお客様はもちろんのこと、新たにご縁をいただいた方々、協力会社、職人さん方とより一層の誠心誠意を込めてお付き合いをさせていただきたく存じます。私たち建設会社のミッションは、お客様の満足いく建物を提供すること、そして、安心で安全に生活ができる豊かなインフラを整備し、地域社会に還元することが最重要項目です。社会情勢が目まぐるしく変化する中、安全、品質、コスト、デザイン、付加価値、SDGsなどへのより一層の対応が求められています。今後、PPP(官民のパートナーシップによる公共サービスの提供手法)やPFI(公共施設等の建設・維持管理・運営等を民間の資金、経営能力、技術的能力を活用する手法)事業が推進されると想定し、異業種の方々との交流や連携による柔軟な発想と対応が大事です。そのためにも、私たちも理論に基づいた提言をしながら、発注者、施工業者、設計、学識者、専門機関など、さまざまな意見をまとめながら、産学官による垣根を超えたデザインビルドに取り組むべきだと思います。将来を見通しながら地域の皆さまが納得し、喜ばれる仕事を完遂することが弊社の社会的な役割であるとあらためて認識しています」 ICTとアナログの融合  ――先進的な取り組みについて。  「建設業界では少子高齢化による人手不足が深刻です。そのため、国土交通省は、最先端工法やICT技術を導入することで建設生産システムを向上し効率を良くする『i―Construction』を推進しています。建設現場のみならず、総務や経理の事務的なバックオフィスでも生産性や効率性の向上が図られています。現在は3次元データの活用を深化させ、建設現場をデジタルツインで作業効率を高める取り組みにも着手しています。  スケールの大きい土木現場を施工管理する大々的な建設DXからスマートフォンのアプリケーションに至るまで、会社にとって効果があり、社員の仕事が楽に、スムーズになるのであれば積極的に導入する考えです。時代の潮流に乗り、今後も新しいテクノロジーや大手ゼネコンの取り組み、海外の事例を含め、導入検討や内製化の研究に励む所存です。 一方で、私は何よりも『アナログ』なお付き合いを大切にしようと思っています。人様との信頼関係の構築には対面が不可欠です。『温故知新』を座右の銘に、老若男女問わず、真心と礼儀を尽くしたいと存じます。『デジタル』と『アナログ』それぞれの利点を見極めながら新旧融合を図り、相乗効果が発揮できるよう『機を見るに敏』を意識した対応に徹したいと思います」  ――建設業界の今後の見通しは。  「全国的にみれば、先の東京五輪、リニア中央新幹線の整備、大阪万博、東京の再開発事業など建設需要が旺盛となっています。一方で、本県に目を移せば東日本大震災から12年が経過し、イノベーション・コースト構想や一部まちづくりを残し、復旧・復興事業も終わりを迎え、大型事業も少ない状況です。建設業界はすでに縮小・淘汰の時代が到来したといっても過言ではなく、大都市と地方都市を比較すると経済格差を著しく感じます。これからは新規でゼロから建設するというよりも、既存の建造物・構造物の維持管理やメンテナンスに軸足が移っており、それに応じて業務内容も変化させていく必要があります。  今後は、既存の建設会社だけではなくハウスメーカー、設備会社など関連業種も含めれば競争相手が多く、生き残りは容易ではありません。そうした中で、当社の位置付けを見つめ直しながら、新たなチャレンジを始動していく覚悟が問われます。先行きが見えないことも多々ございますが、私たちが抱く既成概念をリセットし、どん欲に挑戦しながら新たな領域を切り開くことが生き残るポイントだと考えます。厳しい経済状況でも成長している企業が存在するのも事実です。成功事例から学びを得て、業務に反映できるものはぜひ取り入れていきます。激烈な競争を勝ち抜くためにも『メイドイン会津』の地元建設会社として、プライドを大切にしながら企業価値をさらに高め、皆さまから認めていただけるよう、誠心誠意努めていきます」  ――結びに今後の抱負を。  「これから未来の福島を創るにあたり、私たち建設業界は真価を試される大切なターニングポイントにあると思います。故郷のため、そして子どもたちのため、日々技術を磨き、研鑽を積みながら、新しい事業スタイルを常に学び、もう一段上の高みに会社をもっていきたいと強く願っています。その実現に向け、『企業は人なり』の精神をモットーに、社員ファーストで生き生きと働ける環境を提供し、福利厚生を充実させながら、優秀な人材をリクルートしていきます。  また、健康経営優良法人の認証取得や女性活躍社会の推進をはじめ、企業価値の向上に着手していきます。今までの建設会社のイメージを覆し、新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)を実現し、魅力溢れる企業体質をもって、社会に貢献していきます。私自身、まだまだ若輩者ではありますが、夢と希望を持って成長していきます」

  • 【相馬商工会議所】草野清貴会頭インタビュー(2024.2)

     くさの・きよたか 1946年生まれ。東京電機大学卒。草野建設代表取締役会長。2013年から相馬商工会議所常議員を務め、16年11月から会頭。現在3期目。  新型コロナウイルスは徐々に収まってきたが、円安、物価高、人手不足の影響は深刻さを増している。インバウンドで賑わう首都圏や有名観光地とは異なり、地方経済の回復はまだまだ遠い。加えて相馬市は、二度の福島県沖地震による被害からも完全に立ち直っていない。地元経済界の現状と今後を相馬商工会議所の草野清貴会頭に聞いた。 災い転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたい。  ――新型コロナウイルスが昨年5月に5類に移行しました。  「昨年から祭りやイベントなどを従来通り実施していますが、コロナ前と比べても大盛況でした。スポーツ合宿で市内を訪れる人の数も戻っています。  コロナの影響を大きく受けた飲食店や宿泊業などは回復傾向にあります。飲食店は店ごとに差はありますが、コロナ前の7~8割まで回復しています。ただ、昨今の物価高を価格転嫁できておらず、それが雇用に支障を及ぼしており、経営は未だ不安定です。宿泊業は、人流は回復しているものの地震被害の復旧が完了済みの所とこれから建て替えを行う所があり、格差が見られます。地域全体では回復に至っておらず、イベントが行われても市内に宿泊できる場所が少ないのが現状です」  ――2021、22年に発生した福島県沖地震の影響は。  「地震で半壊以上となった市内の建物は2621件、うち公費解体は1176件に上ります。会員事業所も多くが被災しましたが、国・県に要望してグループ補助金が適用され再開に至った所もあります。しかし比較的大規模な宿泊施設はこれから着工となる所もあり、全体的に回復したとは言えません。  地震被害からの回復を目的に県内一斉に行われた宿泊県民割では、管内の宿泊施設の復旧が遅れたため、県に要望し『県民割相馬版』を実施しました。ほかにも15%割増プレミアム商品券や飲食マップ作成、ほろ酔いスタンプラリーや推奨物産品発掘事業『相馬逸品』など、地域経済回復のための事業に取り組んできました。  今後も行政、観光協会、漁協、農協など各種団体と連携し、地域経済浮揚に向け努力していきたい。また事業所に寄り添い、それぞれが抱える課題には伴走型支援を行うなど経営改善普及事業を積極的に進めていきたいと思います」  ――円高・物価高が大きな問題となっています。人手不足や後継者不在も深刻です。  「8割を超える事業所が異口同音に『物価高に対する価格転嫁ができず利益を見いだせない』『賃上げの意思はあるが余力がない』と述べています。中には『高齢化で廃業を検討せざるを得ない』などの声もあります。建設業や運送業からも『人手不足と資材・燃料高騰で業績が低迷している』との声が聞かれる中、4月からは運送業で年間残業時間上限960時間の規制が始まるため、業界の縮小も懸念されます。ただ一方では、価格転嫁をできている事業所もあり『新たなサービスや付加価値を付けて対応している』という意見も少なからずあるので、全体に波及させていきたいと思います。  後継者問題は、特に小規模事業所では深刻に捉えており、事業継続を断念するケースが多い。会議所としては、そういった事業所に積極的に相談するよう呼びかけながら、経営アドバイザー的な役割を果たしていきたいと思います」  ――国・県に望むことは。  「原油、原材料、資材価格の急激な高騰に対応するため、経営環境が逼迫している中小企業・小規模事業所の実態に沿った事業コストの負担軽減支援策を求めたい。また、エネルギー価格高騰の影響を受ける中小企業・小規模事業所に対する総合的な支援および原油価格高騰の影響を抑えるための総合的な対策を迅速かつ的確に実施していただきたい。  また公共事業を受注する際、受注から納品までの期限が長い事業については、当初の見積もり額から値上がりすることが想定されるため再見積もりを認めるなど、受注側に配慮した負担軽減支援策を実施するようお願いしたい」  ――昨年、福島第一原発で処理水海洋放出が行われました。  「幸い、管内で大きな影響は出ていません。日本商工会議所の小林健会頭が全国に呼びかけた『常磐ものの活用促進』により各地から多くのアプローチがあります。当会議所でも水産加工事業者と連携し情報発信を行っており、今後も地元水産物のPRに努めていきます」 人気を集める「福とら」  ――相馬沖で捕れる天然トラフグ「福とら」が人気を集めています。  「『「福とら」泊まって、食べてキャンぺーン』を展開中ですが、お陰様で大変好調です。『福とら』を取り扱う店舗も11に増えていますが、さらなる拡充に努めていきたい。また『福とら』との相乗効果でカレイやヒラメの人気も高まっており、直売所・浜の駅松川浦には週末になると多くの観光客が訪れています。 一方、課題としては他県に比べて水産加工品が少ないので、以前からアオサの加工品などの開発に取り組んでいます。アオサは健康食品として注目されており、現在四つの加工品が発売されています。今後もさらなる加工品開発に取り組んでいきたいと思います」  ――今年度取り組んでいる事業について。  「この間、相馬駅東改札口設置をJR東日本に要望してきましたが、常磐線を管理する水戸支社からは前向きな回答をいただいています。東側には法務局があり、以前から開発のための土地もあって、ようやく東口開発が進むと思います。  東北中央自動車道の開通により中通り方面とのアクセスは格段に向上しましたが、県立医大附属病院への救急搬送には伊達桑折ICで下りなければならず、さらなるアクセス向上が求められます。そこで、国道115号の改良を県に要望していますが、当会議所だけでなく原町、福島、会津若松、会津喜多方の各商工会議所や各種商工団体も加わったことで県にも前向きに検討していただいているので、引き続き改良実現を目指していきます。  また、相馬野馬追の開催時期が今年から5月に変更されます。周知活動はもちろんのこと、これまで以上の誘客につなげられるよう取り組んでいきたい」  ――最後に、今後の抱負をお聞かせください。  「観光をさらなる産業の柱とすべく『福とら』を生かした『新たな食文化の創造』『豊かな海と城下町の歴史を生かした交流事業』『音楽によるマチ起こし事業』など、これまでの基幹事業に文化事業を幅広く加え、新たなアイデアを駆使しながら交流人口拡大に取り組んでいきたい。近年多くの災いに襲われていますが、転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたいです」

  • 【棚倉町】湯座一平町長インタビュー(2024.2)

     1961年生まれ。福島大経済学部卒。2012年9月の棚倉町長選で初当選。2020年8月の町長選で無投票での3選を果たした。 健康づくり、教育、観光・農業振興を推進する。  ――昨年5月8日から新型コロナウイルス感染症が2類相当から5類に引き下げとなりました。町内の状況はいかがでしょうか。  「5類感染症への移行後は、各種イベントやさまざまな活動が再開されるなど、ようやくコロナ禍前の日常生活に戻ってきたと実感しています。コロナ感染が落ち着きを見せる一方で、原油高、物価高騰による影響が地域経済に影を落としている現状です。本町ではこの間、町民の生活支援や経済対策の一環として、昨年8月と12月に『たなぐら応援クーポン券』を発行し、町内における消費喚起ならびに地域経済の活性化に努めました。  また、『一番お金がかかるのは高校生』との声を踏まえ、新たに『高校生等生活応援給付金』事業を展開し、1人当たり年6万円の給付を実施しながら支援に努めました」  ――2024年度の重点事業について。  「まずは健康づくりです。『健幸なまちづくり』をスローガンに老若男女が希望と生きがいを持ち、健康で活動的に暮らせるまちの実現に向け取り組みます。妊娠期から寄り添った伴走型支援に努め、子育て世帯の孤立・孤独化を防ぎ、子育てに寛容な育児リテラシーを醸成し、『産み育てやすい』『子育てが楽しい』と思えるまちづくりを目指します。また、健診受診率の向上をはじめ、『歩く』健康づくり事業を推進し、健康寿命の延伸を図ります。  次に教育です。引き続きキャリア教育を推進するとともに、タブレットを用いた学習教材の活用やICT環境の整備を行い、一人ひとりに合わせた学習を進めます。今年度は新たに、子どもの夢やチャレンジを支援する『こども未来応援事業』を実施していきます。  観光振興では、2025年度に棚倉城築城400年の節目を迎えるにあたり、プレイベントの実施をはじめ、さまざまな観光施策を展開し、交流人口の拡大を図ります。また、棚倉町歴史的風致維持向上計画に掲げる棚倉城跡周辺道路整備や棚倉城下道路整備、馬場都々古別神社門前環境整備を進め、観光資源の高質化に注力します。  農業振興では、推奨園芸作物推進事業として実施するイチゴ、トマト種子補助にキュウリを加え、農家の皆さまが安定的に経営できるよう県やJAなどと連携強化を図り経済的・技術的な支援を継続して実施します。また、農地利用地域計画を策定します」  ――新年の抱負を。  「本年は辰年です。龍が天に昇るような勢いのある1年となるよう、町民の皆さまとともに『チームたなぐら』をさらに上昇気流に乗せたいと考えますので、皆さまのお力添えを賜りますようお願いいたします」

  • 【白河商工会議所】鈴木俊雄会頭インタビュー(2024.2)

    すずき・としお 1947年生まれ。国立平工業高等専門学校中退。アクティブワン代表取締役。2013年から白河商工会議所副会頭、22年11月から現職。  新型コロナウイルスの感染拡大はひと段落したものの、円安や原油価格・物価高騰、人手不足により、中小・小規模事業所は厳しい状況に置かれている。インボイス制度や電子帳簿保存法への対応にも追われている。白河商工会議所の鈴木俊雄会頭(アクティブワン代表取締役)に管内の現状と今後の展望について語ってもらった。 課題に直面する会員事業所の自己変革・生産性向上を支援。  ――新型コロナウイルスが5類に移行しましたが、管内の現状は。  「特に影響が大きかったのは飲食業ですが、コロナ前の水準に戻りつつあります。イベントに関しては、昨年から白河だるま市が通常開催となりましたが、大勢の人出でにぎわい、今年は昨年を上回る見込みです。  一方で、各事業所が営業時間やスタッフ配置を見直して生き残りを図っていたところに急激に客足が戻ってきたので、飲食店は人手不足となり、大人数での宴会を断っている店もあります。運転手不足で帰りのタクシーや代行業者を探すのも一苦労の状況で、飲酒運転増加につながることが懸念されています」  ――円安や燃料高・物価高も企業経営に大きな影響を与えています。  「ロシアのウクライナ侵攻など外的要因もあるので、ある程度やむを得ない面があります。政府では原油・物価高騰に対応した補助金を設けたほか、取引先との取引適正化を図る『パートナーシップ構築宣言』を推進しています。会員事業所の中にも大手企業とのパートナーシップ宣言に着手したところがありますが、経費増分をすべて吸収する取引金額に設定するのはなかなか難しいと思います。  1月1日からは電子帳簿保存法の猶予期間が終了し、電子データは保存要件に従った形で保存することが求められるようになりました。インボイス制度すら対応できていない会員事業所も多い中、本業以外に対応しなければならないことがありすぎて付いていくのは容易でありません。当会議所としても会員事業所に寄り添いながらサポートしています」  ――中小・小規模事業所にとっては人手不足も大きな課題です。  「当会議所の管内には大手企業の工場が多く進出していますが、それらの企業は政府が掲げる賃上げ政策、働き方改革を忠実に実行しており、人手不足の中でもそれなりに従業員を確保しているように見えます。  問題は、経営的にそうした対策を講じる余裕がなく、大手企業に求職者を取られてしまう中小・小規模事業所です。当会議所で会員事業所にアンケート調査を行ったところ、新入社員の定着率は5年間で53%でした。新入社員の半分が、より良い条件を求めて、5年以内に離職していることになります。  政府は『成長と分配の好循環』を掲げ、賃上げ政策や働き方改革を進めていますが、賃上げは売り上げが上がり、利益が確保されて初めて実行できるもの。政府が掲げている方針は順序が逆なのです。無理やり賃上げすることでデフレから脱却できる可能性は生まれるかもしれませんが〝痛み〟は伴うでしょう。  加えてコロナ禍前後で経済構造が大きく変わってしまい、ビジネス形態や社会環境も様変わりしました。だからこそ中小・小規模事業所は現状維持でなく、生産性向上や自己変革を必須の課題として取り組んでいく必要があります」 人手不足解消に注力  ――会員事業所の人手不足を解消するための施策は。  「人手不足対策に関しては、就職を希望する高校生を対象とした就職説明会を続けています。また、進学で市外に出て行った学生が就職活動する際、無料通信アプリ『LINE』を使って地元企業の就職情報、地元情報にアクセスできる仕組みを作りました。『LINE』アカウントに登録した人には地元産の生活用品を贈呈しています。最近は学生の家族が登録するケースも増えています。  管内には製造業が多いですが、市では今後、研究開発拠点の誘致を目指しています。当会議所としてもそうした拠点が増えていき、多様な人材が集まることを期待しています」  ――今後の重点事業について。  「本年4月1日から『中心市街地活性化基本計画』が第4期目に入ります。中心市街地には白河市立図書館や白河文化交流館コミネス、マンションなどが建設され、他自治体からの視察者も多いです。  一方で中心市街地の課題となっているのは駐車場不足です。車社会の地方において駐車場が整備されていなければ、顧客が足を運ぶことはありません。商店街に並ぶ空き家・空き店舗を駐車場にする方法も考えられますが、そうなると今度は駐車場しかないまちになってしまいます。  中心市街地はただ人が住める場所というだけではなく、歴史・伝統・文化が息づく環境での生活を通して、文化的な価値を共有できることが重要だと考えます。そのためにはただ活性化させるだけでなく、中心市街地が持つべき機能を一から考える必要があります。  観光拠点としては、今年から小峰城の清水門を復元するプロジェクトが本格的にスタートします。その一方で、市は南湖公園の活性化を進めており、昨今は宮城・仙台育英が夏の甲子園で優勝したのをきっかけに白河の関跡も脚光を浴びています。これら観光資源を生かして地域経済活性化につなげていきたいですね。  昨年、当会議所内に『道の駅検討特別委員会』を立ち上げました。詳細な整備計画などは決まっていませんが、実現するとなれば主力商品となる地場産品や地元農産物が必要になります。整備が決まってから準備し始めたのでは遅いので、6次化商品の開発などをこれから検討していきたいと考えています。  このほか、地域内のIT企業やシステムエンジニアとの連携を図る組織作りの準備を進め、会員事業所のデジタル化を応援する取り組みも併せて進めていきます」  ――今後の抱負。  「コロナ禍がひと段落し、経済は間違いなく好転していますが、先ほどもお話しした通り、中小・小規模事業所はさまざまな課題に直面しています。当会議所でも新しい制度への対応に追われていますが、それでも『できることは何でもやろう』という合言葉を掲げ、役職員一丸となってさまざまな事業に取り組んでいきたいと思います。  日経平均株価が33年ぶりに3万6000円台の高値となりましたが、かつての好景気とは異なり、中小・小規模事業所の厳しい経営環境は変わりません。しかしながら、愚痴ばかり言っていても始まりません。与えられた環境の中でも生き残りをかけて自己変革を果たし、生産性向上を目指し、従業員の働きがいや生きがいなどを大切にする企業へと変貌していかなければなりません。当会議所としてはそのために必要な支援を全力で進めていきます」

  • 政経東北【2024年2月号】

    【政経東北 目次】献上桃事件を起こした男の正体/【衆院選新2区最新事情】大物同士が激しい攻防/【会津若松市神明通り】廃墟ビルが放置されるワケ/議員定数議論で対応分かれた古殿町、玉川村、平田村/【大熊町】鉄くず窃盗で分かった原発被災地の「無法ぶり」/聖光学院野球部・斎藤智也監督に聞く/投書で露呈した双葉地方広域消防の混乱 アマゾンで購入する BASEで購入する 献上桃事件を起こした男の正体 「天皇に桃を勧める権限」を持つ!?ニセ東大教授 【須賀川市長選】無風ムードを一変させた【橋本市長】不出馬 候補者に名前が挙がる3氏の評判 【衆院選新2区最新事情】大物同士が激しい攻防 根本氏は予算確保で実績作り、玄葉氏は郡山で支持拡大 【会津若松市神明通り】廃墟ビルが放置されるワケ 近隣からアスベスト飛散を心配する声 議員定数議論で対応分かれた古殿町、玉川村、平田村 重要なのは住民にとって有益な存在かどうか 小野町議選「定数割れ」の背景 無関心を招いた議会の責任 恒例イベントとして定着した福島市「福男福女競走」 10回目の節目開催を前に振り返る 【大熊町】鉄くず窃盗で分かった原発被災地の「無法ぶり」 街なかに監視カメラが張り巡らされる未来 投書で露呈した双葉地方広域消防の混乱 今度はパワハラと手当不正告発 他人事ではない能登半島地震 専門家に聞く〝福島県のリスク〟 能登の反原発リーダーが警鐘【牧内昇平】 【北野進】「次の大地震に備えて廃炉を」 災害時にデマに振り回されないための教訓 二人の元市長が明かす震災時の「負の連鎖」 伊達市民が憂える二つの出来事 【伊達市】利用者が少ないレンタサイクル事業 【伊達市】水不足が露見したバイオマス発電所 聖光学院野球部・斎藤智也監督に聞く プロの世界に巣立った教え子たち 震災直後より深刻な県内企業倒産件数 コロナ融資の返済スタートで顕在化 【福島市】厳冬の夜間ホームレス調査 全国に広がる「東京発住民調査」の輪 その他の特集 巻頭言 捜査関係者の守秘義務違反 グラビア 福島第一原発のいま 今月のわだい 田村市産業団地「予測不能の岩量」で工事費増 意見交換会で見えた本宮市子ども食堂の現状 石川郡5町村長の「表と裏」の関係 いわき市職員と会社役員が交通事故トラブル 特別インタビュー 鈴木裕一・福島県木材協同組合連合会長 鈴木俊雄・白河商工会議所会頭 草野清貴・相馬商工会議所会頭 丸山和基・福島河川国道事務所長 中村謙信・福島県石油商業組合理事長 企画特集 低炭素社会に貢献する福島県WOOD.ALC推進協議会 トップに聞く経済展望 齋藤記子・福島県中小企業家同友会長 轡田倉治・福島県商工会連合会長 本宮市商工会が新年賀詞交歓会を開催 国政インタビュー 亀岡偉民・衆院議員 星北斗・参院議員 建設業界インタビュー 長谷川浩一・県建設業協会長 首長訪問 木賊正男・鏡石町長 湯座一平・棚倉町長 村上昭正・小野町長 連載 フクイチ核災害は継続中(春橋哲史)横田一の政界ウオッチ耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)情報ファインダー熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁)ふくしまに生きる 編集後記

  • 【会津磐梯】スノーリゾート形成事業の課題

     観光庁が実施している「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」という補助制度がある。2020年から毎年実施(募集)しており、2023年度は、会津磐梯地域が県内で唯一、事業採択された。それによって何が変わるのか。 インバウンドの足かせになる処理水放出 アルツ磐梯  「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の事業概要はこうだ。観光地域づくり法人(DMO)や観光関連協議会などが主体となり、スキー場やその周辺の観光施設、宿泊施設などが共同で「国際競争力の高いスノーリゾート形成計画」を策定し、観光庁に応募する。それが採択されれば、同計画に基づき、アフタースキーのコンテンツ造成、受け入れ環境の整備、スキー場のインフラ整備などの費用について国から補助が受けられる。これにより、インバウンド需要を取り込む意欲がある地域やポテンシャルが高い地域で、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することを目的としている。同事業の応募要件、補助対象などは別表の通り。  2023年度事業は2月から3月にかけて募集があり、県内では会津若松市、磐梯町、北塩原村の「会津磐梯地域」が応募し、事業採択された。計画の名称は「The authentic Japan in powder snow resort AIZU 〜歴史、文化、伝統、自然が織りなす會津の雪旅〜」。  計画策定者は会津若松観光ビューローで、同団体が事務局のような役割を担う。歴史・文化に特化した観光施設や温泉地などがあり、宿泊施設や飲食店なども多い会津若松市がベースタウンとなり、スキー客の呼び込みが期待できる磐梯町・北塩原村と連携して、長期滞在型の冬季観光を目指す。  観光庁によると、同事業は単年度事業だが、公募の際は向こう3年くらいのスパンで計画を策定・提出してもらうという。計画には全体計画と個別計画があり、それを実践していくわけだが、全体計画はそのままに、個別計画をブラッシュアップして、翌年、継続して事業採択されるケースもあるようだ。毎年の事業について、観光庁の「国際競争力の高いスノーリゾート形成の促進に向けた検討委員会」では、成果や課題などが検証される。事業採択された地域ごとに成果や課題などの発表会も行われるという。そうした中で、一定程度の成果が見られなければ、翌年度に再度応募しても、採択されないということもあり得るだろう。  今年度の事業採択は会津磐梯を含めて14地域。このうち、9地域が前年度も選定されている継続地域。これに対し、会津磐梯地域は今年度が新規だから、ライバルは一歩、二歩、先に進んでいると言っていい。  もっと言うと、事業名に「国際競争力の高い」という冠が付いていることからも分かるように、インバウンド需要の取り込みが目的の1つ。福島県は、原発事故の影響が残っているほか、最近では処理水海洋放出があり、隣国から非難された。その点でも、福島県はあまり有利な条件とは言えない。  「スノーリゾート形成事業」だから、当然、事業採択地域は雪国。八幡平(岩手県)、夏油高原(同)、蔵王(山形県)、那須塩原(栃木県)、越後湯沢(新潟県)、妙高(同)など近県が多い。近くでもスノーリゾート事業を促進しているところがある中で、どうやって福島県に来てもらうかが問われる。 処理水放出の影響  そもそも、処理水海洋放出の影響はどうなのか。会津若松市の観光関係事業者はこう話す。  「海洋放出直後は、イタズラ電話がひどくて電話線を抜いていたほどですが、しばらくすると落ち着きました。あるエージェントによると、中国、韓国などでは20代、30代くらいの若い世代はあまり気にしていないそうです。ただ、その親世代に『日本に観光に行く』と言うと、あまりいい顔をされなかったり、明確に止められたり、ということがあると話していました」  一方、会津地方の外国人観光客ツアーガイドは次のように明かした。  「私のところでは、台湾からの観光客が最も多く次いで中国です。中国人観光客については、嫌がらせの電話が問題になった時期は予約キャンセル等がありましたが、少しするとだいぶ落ち着きました。紅葉シーズンは例年並み、スキーシーズンも例年並みになるのではないかと思います。中国では昨年、冬季北京オリンピックがあり、その開催が決まった2015年ごろから、ウインタースポーツ、特にスキーブームがきているんです。日本では80年代後半から90年代初めにかけてスキーブームが起きましたが、(中国のスキーブームでは)純粋にその10倍の人がスキーを求めていると思っていい。一方で、中国ではまだまだスキー場が十分ではなく、いま盛んに開発が行われていますが、どうしても時間がかかります。ですから、中国からスキー客を呼び込むチャンスであるのは間違いありません」  一方で、このツアーガイドは「どこまで言っても来ない人は来ない。そういう人に来てもらおうと、例えば『会津地方は原発から離れている』ということを情報発信したとしても意味がないんです。ですから、来てくれる可能性がある人に向けて、気を引くようなコンテンツを用意したり、営業をかけるということに尽きると思います」とも話した。  スノーリゾート形成事業に話を戻す。計画を策定し、事業事務局の役割を担う会津若松観光ビューローによると、今年度は外国人観光客のための多言語の看板や、スキー場内でのWi―Fi整備、バスやタクシーなどの交通整備を行うという。具体的には、以前からJR会津若松駅とアルツ磐梯を結ぶ冬季限定の直通バスがあるが、それを市内の宿泊施設にも乗り入れるようにするほか、東山温泉街からの直通バスを新設する。  「初年度ということもあり、手探りの部分はありますが、今後はエリア内のスキー場の共通パスの発行や、さらなる交通整備、ペンションなどではキャッシュレスに対応していないところも多いので、その整備、エリアの拡大など、やれることはまだまだあると思います。今年度はスタートの年で、そのための意識合わせが軸になると思います」(会津若松観光ビューローの担当者)  ここで2つ疑問が浮かぶ。  1つは、磐梯町・北塩原村のスキー場と会津若松市の宿泊施設、温泉宿などをつなげるにしても、スキー場によっては自前のホテルを有しているところもある。さらに、磐梯町・北塩原村にはペンションが多数存在している。自前のホテルを有しているスキー場の営業マンや、磐梯町・北塩原村の観光協会関係者などが外国人観光客(スキー客)を呼び込む際、「宿泊には会津若松市の温泉宿がおすすめです」ということになるだろうか。「宿泊は自前のホテル、町内・村内の宿泊施設に」となるのが普通ではないか。  この疑問に対して、会津若松観光ビューローの担当者は次のように説明した。  「外国人観光客は1週間とか、ある程度の期間、滞在するケースが多い。当然、毎日スキーをするわけではなく、滑らない日もあるので、その日は会津若松市内の歴史・文化などの観光施設を回ってもらう、と。スキー場が近くて、これだけの観光施設を備えているところはなかなかありませんから、スキーと歴史・文化、温泉などをセットにして売り込んでいこうというのが、この計画の1つです」 猪苗代町は独自路線!?  もう1つの疑問は、会津磐梯山地域の周辺エリアでは、猪苗代町にもスキー場があるが、同町は同計画のメンバーに入っていない。これはなぜなのか。  「その辺はよく分かりませんが、宿泊施設や飲食店など、ベースタウンとしての機能が十分でない、ということではないでしょうか。ただ、先ほども話したように、いずれはエリアを拡大できればと思っています。それこそ、猪苗代町もそうですし、喜多方市も『食』(ラーメン)の点で強いコンテンツがありますから、一体となって売り込み、誘客につなげられればと思います」(同)  猪苗代町の関係者によると、「私の知る限りでは、今回の件(スノーリゾート形成事業)で話(誘い)はなかった」という。  一方、北塩原村の観光事業関係者はこう話す。  「猪苗代町は独自路線ということでしょう。遠藤さんのところは資金力もあるでしょうから」  この関係者が言う「遠藤さん」とは、ISグループ代表の遠藤昭二氏のこと。会津地方の住民によると、「遠藤氏は猪苗代町出身で会津工業高校を卒業後、東京でビジネスに成功し、近年は地元に寄付をしたり、さまざまなビジネス上のプロジェクトを立案・実施しています。それだけ地元に貢献しているのだから、すごいですよね」という。  ちなみに、本誌は過去に遠藤氏への取材を試みたが、同社広報担当者は「基本的に、当社・遠藤個人へのメディア取材はお断りさせてもらっています」とのことだった。  猪苗代町にISグループの関連会社「DMC aizu」があり、同社は猪苗代スキー場などを運営しているが、前出・北塩原村の観光事業関係者は、そうした背景から「DMC aizu(猪苗代スキー場)は資金力があるから、独自路線なのだろう」との見解を示したわけ。 アルツ・猫魔が連結 「ネコマ マウンテン」のイメージ(HP掲載イメージを本誌が一部改変)  ところで、今回のスノーリゾート形成事業で、1つ目玉となっているのが、磐梯町のアルツ磐梯と北塩原村の猫魔スキー場の連結だ。両スキー場はともに、星野リゾート(本社・長野県軽井沢町)が運営している。同社は2003年からアルツ磐梯を運営しており、2008年に猫魔スキー場を取得した際、両スキー場を尾根をまたいでリフトでつなぐ構想を持っていた。  ただ、当時の地元住民などの反応は「この地域は国立公園だから規制が厳しい。新たに建造物(リフト)をつくって山をまたいで連結させるなんて本当にできるのか」というものだった。  夢物語のように見られていたわけだが、ようやく許可が下り、リフトが建設できるようになった。連結計画が浮上してから約15年かかったことになるが、これは今回のスノーリゾート形成事業に選定されたことと関係しているのか。  アルツ磐梯の広報担当者によると、「許可自体はスノーリゾート形成事業に選ばれる前に下りていた」とのこと。  ただ、タイミングを考えると、「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進」のために、許可された可能性もあるのではないか。だとするならば、同事業採択はすでに大きな意味を持つことになる。  アルツ磐梯はコースが豊富、猫魔スキー場は営業期間が長いといったそれぞれの利点があり、同社ではこれまでもアルツ磐梯と猫魔スキー場の共通リフト券を発行するなど、同地域内に2つのスキー場を有する強みを生かしてきた。ただ、両スキー場の行き来には、山を迂回しなければならないため、クルマで1時間ほどかかっていた。冬季の路面状況を考えると、もっと時間を要することもあっただろう。  それが、山の頂上をリフトで数分で行き来できるようになる。これに伴い、アルツ磐梯と猫魔スキー場という2つのスキー場ではなく、「ネコマ マウンテン」という1つのスキー場になる。かつてのアルツ磐梯は「ネコマ マウンテン 南ゲート」、猫魔スキー場は「北ゲート」という名称になる。2つのスキー場が一体化したことで、33コース、総滑走距離39㌔、ペアリフト11基、クワッド2基、スノーエスカレーター1基を備える国内最大規模になるという。  「予約等が大きく動くのは12月に入ってからですが、現在(本誌取材時の11月中旬時点)のところ、出足としては良好です。今シーズンはコロナ前の水準に戻るのではないかと予測しています。未だに(原発事故関連の)風評被害の影響はありますが、(スノーリゾート形成事業の)エリアとして誘客できればと思っています」(前出・アルツ磐梯の広報担当者)  前段でも述べたように、今回の事業はインバウンドを取り込み、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することが目的。そんな中、福島県は、処理水海洋放出を含めた原発事故の影響があり、決して有利な条件とは言えない。加えて、近県でもスノーリゾート形成事業の採択地域が複数ありライバルとなる。国内最大級のスキー場や、歴史的・文化的な観光施設、温泉地といったハードは整っているが、難しい条件の中で、どうやって観光客を呼び込むかが問われている。

  • 【牧内昇平】福島民報社が手掛けた県事業11件

     地元マスメディアの福島民報社が県庁から金をもらって県産水産物のPR事業を行っていたことは本誌7月号に書いた。権力の監視役としてふさわしくない行為だと指摘したが、実はこんな事例が山ほどある。2021年度に福島民報社が請け負った他の県事業を紹介しよう。 社説・一般記事を使ってPR  2021年、県庁の農林水産部は「オールメディアによる漁業の魅力発信業務」という事業を福島民報社に委託した。予算は約1億2000万円。同社を含めた県内の新聞、テレビ、ラジオの合計8社で県産水産物の風評払拭プロパガンダを行うという事業だった。同社は一般の新聞記事やテレビのニュース報道(たとえば県が県産トラフグや伊勢エビのブランド化に乗り出した、といった内容)を「プロモーション実績」として県に報告していた。   この事業について、筆者は本誌7月号でこう指摘した。  《オールメディア風評払拭事業が「聖域」であるべき報道の分野まで入り込んでいる(中略)権力とは一線を画すのが、権力を監視するウォッチドッグ(番犬)たる報道機関としての信頼を保つためのルールである》  地元マスメディアが県の広報担当に成り下がっているのではないか、というのが筆者の問題意識だった。  これは一種の例外的事象だ、と思いたいところだが、実はこうした例が山ほどあるのだ。「オールメディア事業」の番頭役を務めた福島民報社について調べてみると、21年度だけで少なくとも11件の県事業を受託していることが確認された(別表)。1億円を超える予算がついた「オールメディア事業」を除いても、受託額の合計は6000万円にのぼる。(表に掲げたのは筆者の乏しい取材力で把握できたものだけだ。実際の受託事業数はもっと多い可能性もある) 2021年度に福島民報社が受託した県事業 事業名発注元金額事業目的・内容テレワークタウンしらかわ推進事業県南地方振興局968万円新白河駅を起点とした「テレワークタウン」構想を進め、首都圏からテレワーカーを呼び込むふくしまチャレンジライフ推進調査事業(県中地域)県中地方振興局547万円県中地域のふくしまチャレンジライフプログラム(短期滞在型仕事・生活体験)の企画・運営、広報ふくしまチャレンジライフ推進事業(県南地方)県南地方振興局492万円県南地方のふくしまチャレンジライフプログラム(短期滞在型仕事・生活体験)の企画・運営、広報魅力体感!そうそう体験型観光振興事業相双地方振興局499万円相双の地域資源を発掘する体験型観光バスツアーを実施ふくしまのプロスポーツ魅力向上事業企画調整部545万円県内プロスポーツチームの魅力を発信し、ファン拡大、試合観戦者増につなげる市町村と連携した移住促進交流イベント等実施事業企画調整部309万円「起業」「子育て」などをテーマに県内への移住に関する交流イベントを開催国際交流員による「ふくしまの今」発信事業生活環境部695万円県の国際交流員が県内の観光地などを取材し、SNSなどで国内外に向けて発信する東京2020ふくしまフード・クラフト発信事業観光交流局249万円東京オリンピック・パラリンピック関連イベントで日本酒をはじめとする県産品のPR・販売を行うアフターコロナを見据えた地域づくり推進事業いわき地方振興局977万円中山間地域にサイクリングモデルコースを造成。地域の魅力を発信する「アンバサダー」を育成するアフターコロナを見据えた食の担い手応援事業いわき地方振興局720万円いわき市の「食の魅力」を学び、伝える人材を育てる現地視察会やワークショップの開催ふくしまの漁業の魅力体感・発信事業(オールメディアによる漁業の魅力発信業務)農林水産部1億1999万円福島民報など地元メディア8社が自社の媒体を通じて県産水産物のPRを行う※県への情報開示請求で入手した資料を基に筆者作成。金額は1万円未満を切り捨てた。 受託した県事業を新聞記事で周知  筆者は福島県に対して情報開示請求を行い、これらの事業について福島民報社が提出した実績報告書などを入手した。その結果言えるのは、同社が自らの新聞を利用して当該事業のPRを行っていたことだ。  たとえば県南地方振興局から約970万円で受注した「テレワークタウンしらかわ推進事業」については、21年10月7日付福島民報4面に以下の紹介記事が載っている。  《ゴルフ場でワーケーション 関係人口拡大 3カ所で専用プラン   県県南地方振興局は、ゴルフ場に宿泊してテレワークを行い、就業時間前後や休憩中にプレーを楽しむワーケーションを推進する取り組みを始めた。「ゴルファーケーション」と名付け…(以下略)》  この記事が載った4面はいわゆる「経済面」だ。ゴルファーケーションの記事の下には「イオンの売上高が過去最高」とか、「財務省が日本郵政株を追加売却」などといった経済ニュースが掲載されていた。読者は当然、ゴルファーケーションの記事も一般的な地域の経済ニュースとして受け取ったことだろう。  そして同年12月中旬には新聞中程の地域面に「テレワークタウンしらかわ」と題した5回シリーズの連載が組まれた。内容は、県南地方振興局長へのインタビューやテレワーク対応の仕事場の紹介などだ。ゴルファーケーションの課題や事業効果などを批判的に検証しているかと問われれば、疑問符がつく内容だろう。結局これらの記事は「報道」の体裁を取りつつ、県の事業をPRしているに過ぎないのではなかろうか。  自社の受託事業であることが紙面上で明らかになっていないのも問題だ。紹介した新聞記事は主語が「福島県」になっている。(「県南地方振興局はワーケーションを推進する取り組みを始めた」など)。福島民報社がこの事業を受託していること、1000万円近い予算がついていることなどは記事を読んだだけでは分からない。これは読者からしてみればアンフェアだろう。  新聞記事による事業PRは多くの案件で行われていた。  相双地域の観光バスツアーを実施する「魅力体感! そうそう体験型観光振興事業」の場合、同社は受注前の企画提案の段階で《新聞社機能を最大限に生かし、紙面はもちろん、様々なデジタルメディア、SNSを駆使し、相双地域の魅力を県内に広く発信します》とアピールしていた。  そして約束通り、ツアー開始前の同年7月6日付福島民報3面に「相双観光親子で楽しんで きょうから参加募る」というPR記事を掲載。数日後から「行こう! 相双の夏」というタイトルの特集記事を随時紙面化した。  11月20・21日に行われた女性向けツアーに関しては、同月3日に「女性限定相双楽しんで 参加者募集」という記事を出し、さらに開催後の22日にも「女子旅で相双満喫」という結果報告記事が出ている。自らが受託した県事業を手厚くPRしたのである。繰り返しになるが、紹介したのは広告ではなく、通常の記事だ。そして同社がこの事業を受託していることは記事に書かれていない。  福島ファイヤーボンズなど県内のプロチームをPRする「ふくしまのプロスポーツ魅力向上事業」も同様だ。同社は提案書で《これまで各球団の取材・報道をはじめ、イベント事業など積極的に連携・展開しております。その経験と知見を活かし、県内プロスポーツの魅力を発信できるのは弊社しかいないという強い思いで本事業に参加させていただくことにしました》と熱く(!)アピール。実績報告書の中では、ファン拡大のためのイベント実施などと共に、《スポーツ担当記者が取材し、福島民報朝刊で県内3プロスポーツの動向、試合結果等毎回記事掲載》と書いた。民報のスポーツ記事は県のPR事業の一環だったということになる。 社説まで利用していいのか? 福島民報社  驚いてしまったのは、いわき地方振興局が発注した「アフターコロナを見据えた地域づくり推進事業」である。市内の山間部にサイクリングのモデルコースを作ったり、地域の観光スポットを紹介するフォトコンテストを実施したりする事業だ。これを福島民報社が受託し、例によって事業のPRやコンテストの結果紹介記事を紙面に掲載したのだが、実は「新聞の顔」とも言うべき社説(福島民報の場合は「論説」)にも同種の記事が載っていた。  《阿武隈山地の観光振興を目指す取り組みが、いわき市で始まった。自然景観、歴史遺産、特色ある食文化を掘り起こし、サイクリングルートをつくる。海産物や沿岸部の観光施設などを主力としてきた市内の観光に新たな魅力を加え、疲弊する山間部の地域づくりにつなげる試みとして注目したい》(21年10月13日付福島民報「論説」)  新聞の社説は「世の中がどんな方向に進んでいくべきか」を書く欄だ。そこに単なる県事業のヨイショが載るのはお粗末だし、ましてやその事業を自社が受託しているというのでは論外だ。ちなみにこの社説(論説)の筆者は、当該の「アフターコロナ事業」の統括責任者(いわき支社長)として同社の企画提案書に名前が載っている人物と同姓同名だった。  前にも書いたが、権力と報道機関の間には一定の距離感が欠かせない。県の事業を受託してしまったら、少なくともその分野について批判的な検証を加えるのは困難だろう。世の中から期待されている「番犬」の役割を放棄していることにならないか。  福島民報社の担当者は筆者の取材に対して、「福島県の県紙として、福島復興の支援などに役割を果たしてまいります」としている。 あわせて読みたい 【牧内昇平】「食べて応援」国民運動にだまされるな【原発事故「汚染水」海洋放出】 【汚染水海洋放出】ついに始まった法廷闘争【牧内昇平】 大義なき海洋放出【牧内昇平】 【汚染水海洋放出】意見交換会リポート【牧内昇平】 県庁と癒着する地元「オール」メディア【牧内昇平】 汚染水海洋放出に世界から反対の声【牧内昇平】 違和感だらけの政府海洋放出PR授業【牧内昇平】 経産省「海洋放出」PR事業の実態【牧内昇平】 【汚染水海洋放出】怒涛のPRが始まった【電通】 【地震学者が告発】話題の原発事故本【3・11 大津波の対策を邪魔した男たち】 まきうち・しょうへい。東京大学教育学部卒。元朝日新聞経済部記者。現在はフリー記者として福島を拠点に取材・執筆中。著書に『過労死 その仕事、命より大切ですか』、『「れいわ現象」の正体』(ともにポプラ社)。 公式サイト「ウネリウネラ」

  • 【生島淳】大学駅伝で福島出身者が活躍する理由

     大学の陸上長距離界で福島県出身の指導者・選手の活躍が目立つ。その理由はどんな点にあるのか。スポーツジャーナリストの生島淳氏にリポートしてもらった。(文中一部敬称略) 「陸上王国ふくしま」が目指すべき未来 駒大の大八木弘明総監督(右)と藤田敦史監督(撮影:水上竣介、写真提供:駒澤大学)  大学駅伝シーズンの開幕戦、10月9日に行われた出雲駅伝では駒澤大学が連覇を達成した。これで去年の出雲、全日本、今年に入って箱根、そして今回の出雲と大学駅伝4連勝。「駒澤一強」の状態が続いている。このままの勢いが続けば、お正月の箱根駅伝でも優勝候補の最右翼となるだろう。  今年の出雲で、胴上げされた福島県人がふたりいた。ひとりは駒大の大八木弘明総監督(河沼郡河東町/現・会津若松市河東町出身)、そして最後に胴上げされたのは今年就任したばかりの藤田敦史監督(西白河郡東村/現・白河市出身)である。  大学長距離界で福島県出身者の存在感は高まり続けている。大八木総監督は還暦を過ぎてなお指導者として進化し、今年の箱根駅伝のあと、大学の監督を教え子でもある藤田氏に譲り、自らは総監督へ。  単なる名誉職ではなく、青森県出身で今年3月に駒大を卒業し、2年連続で世界陸上の代表に選ばれた田澤廉(トヨタ自動車)は練習拠点を駒大に残し、総監督の指導を受けている。大八木総監督は今後の指導プランをこう話す。  「田澤は2024年のパリ・オリンピックではトラックでの出場を目指しています。そのあとは25年に東京で世界陸上がありますし、28年のロサンゼルス・オリンピックではマラソンを狙っていきます」  大八木総監督は1958年、昭和33年生まれ。ちょうど70歳の年にロサンゼルス・オリンピックを迎えることになる。総監督は40代の時に駒大の黄金期を作ったが、ひょっとしたら60代から70代にかけて指導者として最良の時を迎えるかもしれない。  駒大の指導を引き継いだ藤田監督にも期待がかかる。三大駅伝初采配となった今年の出雲では1区から首位に立ち、それ以降は後続に影をも踏ませぬレース運びで、一度も首位を譲ることはなかった。しかも6区間中3区間で区間賞。監督が交代してもなお、駒大の強さが際立つ結果となった。  ただし、この強さを支えるための苦労は大きいと大八木総監督は話す。  「大学長距離界では、選手の勧誘は大きな意味を持ってます。田澤がウチに来てくれたからこそ、今の強さがあると思ってますから。それでも基本的には東京六大学の学校には知名度では負けますし、勧誘での苦労はあります。でも、私は自ら望んで駒大に入って来てくれる選手を求めてます。そういう選手は必ず伸びますから」 学石から東洋大監督に 東洋大の酒井俊幸監督(写真提供:東洋大学)  そして2010年代、駒大と激しい優勝争いを繰り広げたのが東洋大学だった。東洋大の酒井俊幸監督(石川郡石川町出身)は、学法石川高校卒業。東洋大から実業団に進み、選手を引退したあとに母校・学法石川の教員となって、高校生の指導にあたった。人生の転機となったのは2009年のことで、空席となっていた東洋大の監督に就任し、それから箱根駅伝優勝3回を飾っている。  特に「山の神」と呼ばれた柏原竜二(いわき市出身/いわき総合高卒)とは、柏原が大学2年の時から指導にあたっており、東洋大の黄金期を築いた。それ以降、東洋大からは東京オリンピックのマラソン代表の服部勇馬、1万㍍代表に相澤晃(須賀川市出身/学法石川高卒)を送り出すなど、日本の長距離界を代表する選手たちを育てている。また、長距離だけでなく、競歩では瑞穂夫人と共に選手の指導にあたり、オリンピック、世界陸上へと選手を輩出し続けている。  大八木総監督、酒井監督と、福島県出身の指導者が日本の陸上長距離界の屋台骨を支えていると言っても過言ではない。  それでも、酒井監督には大学の監督就任時には葛藤があったという。  「高校の生徒たちに、なんと話せばいいのか悩みました。高校生にとってみれば、私が生徒たちを見捨てて東洋大に行ってしまうわけですから。正直に話すしかありませんでしたが、最後は生徒たちから『先生、頑張ってください』と背中を後押ししてもらいました」  当時の酒井監督は33歳。当時の学生は「大学の監督というより、若いお兄さんが来たみたいな感じでした」と振り返るほど若かった。覚悟をもった監督就任だったのだ。  以前、タモリが彼の出身地である九州・福岡と東北の比較をしていた。  「九州の人たちは、東京に出ていく人たちを『失敗したら、いつでももどって来んしゃい』という感じで送り出すんだよ。でも、東北の人たちは違うね。出る方も、見送る方も『成功するまでは帰れねえ』という決死の思いで東京に出ていくし、送り出す。ぜんぜん違うんだよ」  この言葉は、宮城県気仙沼市出身の私にはよく分かる。とにかく、故郷を離れたら、もう帰ってくることはないという覚悟をもって上京する。だからこそ、地元を離れるのは重たい。  きっと、酒井監督も学法石川の教え子たちを残して東洋大の監督を引き受けることには、相当の覚悟が必要だったと思う。それが理解できるだけに、どうしても酒井監督には思い入れが湧いてしまう。  今年の出雲駅伝では、経験の浅い選手たちをメンバーに入れながら、8位に入った。優勝した駒澤からは水を開けられてしまったが、「常に優勝を狙える位置でレースを進めたいですね。それが学生たちの経験値を高め、自信にもつながっていくので」と酒井監督は話す。ぜひとも、箱根駅伝では「その1秒を削りだせ」というチームのスローガンそのままに、粘りの走りを見せて欲しいところだ。  このほかにも、早稲田大学の相楽豊前監督(安積高校卒)には幾度も取材をさせてもらった。相楽前監督は「福島県人には、粘り強い気質があると思います。その意味では長距離には向いているのかもしれません」と話していたのが印象深い。そういえば、大八木総監督もこんなことを話していた。  「私は会津の生まれですから……反骨精神もありますし、ねちっこくやるのが性に合ってるんです」 陸上を福島県の象徴的なスポーツに  これだけ指導者、そして選手に人材を輩出してきた背景には、やはり35回を迎えた「ふくしま駅伝」の存在が大きいと思う。市町村の対抗意識が才能の発掘につながっている。  たとえば柏原の場合、中学時代はソフトボール部に所属していたが、ふくしま駅伝を走ったことで長距離の適性に気づき、高校からは本格的に陸上競技を始めた。そして高校3年生の時には、都道府県対抗男子駅伝の1区で区間賞を獲得した。ふくしま駅伝というインフラが、「山の神」の生みの親といえる。  全県駅伝は全国各地で行われるようになったが、福島県には歴史があり、各自治体の熱意も、他の県とはレベルが違う。それは福島県人が誇っていいことだと思う。  どうだろう、これだけ陸上長距離に人材を輩出し、歴史ある大会が県民の共有財産になっているのだから、思い切って「陸上県・福島」という方向性を打ち出していくのは。私はそうした明確な方針が福島県のスポーツを土台にした「プライド」の醸成につながるのではないかと思っている。  今、私の故郷である宮城県は「野球の県」になりつつある。プロ野球の楽天が本拠地を置き、高校野球では仙台育英が夏の甲子園で優勝し、野球が県民の共有財産になっている。  こうした象徴的なスポーツがあることで、男女を問わずに子どもたちがスポーツに参加する機会が増える。それは家族、コミュニティーへと広がっていく力がある。  日本の特徴として、スポーツの選択肢が広いことが挙げられる。私の取材経験では中国、韓国では学校レベルでの部活動がない。すでに高校の段階からエリートだけのものになってしまうのだ。それに対し、日本は草の根からの活動が特徴だ。スポーツは自由意志で行われるべきものであり、その方が正しい。しかし、才能が分散するリスクがある。  今後、日本の少子化のスピードは止められそうにもない。私の生まれ故郷、宮城県気仙沼市の新生児の出生数は、ついに300人を切り、このままだと200人を割ってしまいそうだ。人口6万人規模の都市では、日本全国で同じような数字になると聞いた。私は昭和42年、1967年生まれだが、私が通った気仙沼高校は男子校一校だけで一学年360人がいた。雲泥の差である。  少子化が進めば、スポーツ人口もそれに比例して減っていく。高校野球では合同チームも珍しくなくなった。野球部が消えてしまった学校もある。  私は「県の象徴的なスポーツ」がひとつでもあることが、県を元気にすると思っている。もちろん、野球でもいい。いまだにグラウンドをはじめ、インフラが整っているから競技を始めやすい環境にある。  福島には陸上の財産がある。ふくしま駅伝、そして大八木総監督をはじめとした豪華な指導者たち。そして、1964年の東京オリンピックのマラソン銅メダリスト、円谷幸吉をはじめ、相澤晃にいたるまで日本を代表するランナーが育ってきた。コロナ禍を経て、須賀川市では「円谷幸吉メモリアルマラソン」が行われているのも福島のレガシーを伝える一助となっているだろう。  これだけのインフラがそろっているのだから、それを未来につなげなければもったいない。それは日本を代表するエリートを育てるというだけではなく、市民レベルでの活動にもつなげていけば、健康増進、そしてそれは医療費の抑制につながる可能性を秘めている。 次世代の動き  実際、そうした動きはある。学法石川高出身で、中央大学の主将を務めた田母神一喜は現在、郡山市でランニングイベントの企画運営、そしてジュニア陸上チームを運営する「合同会社ⅢF(スリーエフ)」の代表を務めつつ、自らも選手として走り続けている。  彼には「『陸上王国ふくしま』」を日本中に轟かせたい」という思いがあり、会社のホームページには「ふくしまってすごいんだぞと、胸を張って歩けるような居場所を作っていきます」と、福島への愛を前面に押し出したメッセージが記されている。  以前、彼に取材した時の話では、今後は部活動の外部指導など、教育現場との連携も模索していきたいという。部活動の外部委託化は国全体の動きである。どうだろう、福島がそのモデルになっていくというのもあり得るのではないか。  全国に先んじて官民が一体となって陸上の環境を整え、子どもたちの可能性を拡げていく。その発信者になっていけば自然と人が集まり、県民の新たなプライドも醸成されていくはずだ。それでも、こんな声が聞こえてくるかもしれない。  「陸上ばかり依怙贔屓するわけにはいかない」  他の競技団体にも歴史があり、言い分がある。それは理解できる。しかし、全体のバランスに配慮している限り、進歩、進化は遅くなる。  それを実感したのは、今年の9月から10月にかけてラグビーのワールドカップの取材でフランスに滞在したが、デジタル化の進歩に目を見張った。現金を使ったのは、40日間で数えるほどだけ。ほとんどが「クレジットカードは10ユーロ以上の場合のみ」と表示のあるお店ばかりだった。カード払いの場合、非接触型のカード読み取り機にかざすだけで良い。お店の人にカードを渡す必要もないし、暗証番号の入力も必要ない。「コロナ禍の間に一気に進んだ決済方法です」と話してくれたのは、フランスに向かう時の飛行機で隣り合った日本人ビジネスマン。  「いまだに現金決済が多いのは、日本とドイツです。おそらく、既存の仕組みがしっかりしているところほど、新しい変化に対応するのが遅くなる傾向があると思います」  なるほど。長い年月をかけて作り上げた仕組みが存在すると、その制度を守る力が働く。そうしていると、変化のスピードは遅くなる。今回のフランス滞在では、物価や賃金などの高さに驚きもした。その一方で、日本はコロナ禍の間に大きく取り残されてしまったとも感じた。  スポーツの世界も大きな変化に晒されている。既成の仕組み(育成や競技会の運営など)は、限界を迎えている。良質なものが生き残っていく時代だが、福島の陸上界には財産がある。そこで、保守的な方向に向かうことなく、攻めの姿勢で「福島モデル」を作り上げて欲しいのだ。  自由に、闊達に、そして強い選手が次々に生まれてくる仕組み。それは既存の体制を一度精査し、県民の幸福度がスポーツ、そして陸上によって上がるプランが生まれてきて欲しい。  若い世代の意欲と、経験を積んだ世代の知恵がうまく合体するといいのだが。福島出身の知恵者は、この原稿で紹介した通り、たくさんいるのだから。  いくしま・じゅん スポーツジャーナリスト。1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務しながら執筆を始め、1999年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る一方、歌舞伎、講談では神田伯山など、伝統芸能の原稿も手掛ける。  最新刊に『箱根駅伝に魅せられて』(角川新書)。また、『一軍監督の仕事』(高津臣吾・著)、『決めて断つ』(黒田博樹・著)など、野球人の著書のインタビュー、構成を手掛ける。 X(旧ツイッター)アカウント @meganedo

  • 【会津若松商工会議所】澁川惠男会頭インタビュー(2024.1)

     しぶかわ・ともお 1947年生まれ。会津高、日大商学部卒。澁川問屋会長。会津若松商工会議所副会頭などを経て、2016年から現職。現在3期目。  会津若松市は城下町の強みをインバウンドにつなげる一方、小中学校と地元企業をつなぐマッチングサービスや地域発キャッシュレス決済の導入でデジタル技術の恩恵を地方に還元するなど歴史と進取を両立している。国際競争力の高いスノーリゾートにも選定され、宿泊拠点の役割も期待されている。会津若松商工会議所の澁川惠男会頭に経済飛躍の鍵を聞いた。 民間の力こそが地域の未来を拓く。  ――新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが引き下げられて7カ月以上になりました。  「コロナ禍により老舗料亭や観光ホテルの経営破綻があり、管内はダメージを受けました。感染収束後の消費回復を期待していましたが、物価高の影響は大きいです。当商工会議所の退会理由のトップは『廃業』です。中小企業の経営者は高齢の方も多く、後継者がいないというのが主な理由です。コロナ禍からの回復が十分でないうちに物価高が追い打ちをかけて廃業が加速していくのを懸念しています。  明るい兆しはあります。行動制限のない忘新年会シーズンを迎え、飲食業界は予約が相次いでいるようです。感染拡大前の水準に戻りつつある事業所もあります」  ――昨年7月から市内の小中学校と企業をつなぐマッチングサービス「まちスク会津」を用いた実証実験が始まっています。  「まちスク会津は教育支援と地域活性化を両立します。子どもたちにとっては、地域企業・人材と触れ合う機会を増やすことで、企業の認知度向上や地域への理解、魅力発見などにつながります。教育支援を希望する登録企業が増え、本サービスを通して学校と企業の新たなマッチングが生まれており好評です。  今後は当商工会議所で実施している『ジュニアインターンシップ(職場体験)』との連携に加え、サービス充実のために、地域企業・人材の参画を広く呼び掛けます。会津の次代を担う子どもたちが地域を深く知り、将来は地元への就職やUターンにつながってほしいです」  ――観光庁の「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」に会津若松市、磐梯町、北塩原村が会津磐梯地域として県内で唯一選ばれました。  「冬季の誘客は会津地方の長年の課題でした。今シーズンは磐梯町と北塩原村のスキー場が連結し、国内最大級のスノーリゾートが誕生しました。南半球のスキーヤー・スノーボーダーが良質な雪を求めて裏磐梯を訪れてきましたが、この流れが会津地方に波及するでしょう。  インバウンドが集中する東京・京阪神間を『ゴールデンルート』と呼びます。東北は対抗軸の『ダイヤモンドルート』を掲げ各自治体や経済団体が盛り上げてきました。今こそ、それを再燃させる時です。  スノーリゾートでは、会津若松は魅力ある宿泊や飲食を提供するベースタウンの役割があります。観光客は国・地域によって食事や宗教、生活様式がさまざまです。違いに対応し、受け入れのレベルを上げる必要があります。当商工会議所はこれまでにも訪日客への対応を学ぶ各種セミナーを開いてきました。会員事業所には観光、旅客、宿泊の事業者がいます。意見を聞きながら今後は業種に特化したセミナーにするなどしてより充実させます。  今年度、会津大学の留学生を対象に市内の観光スポットを巡るモニターツアーを実施しました。鶴ヶ城登閣、弓道や抹茶、赤べこの絵付けなどの体験型コンテンツを通じて会津の魅力を聞きました。素材は十分に魅力的ですが、多言語表記が少ないなどの課題が浮き彫りになりました。改善策を行政に提案し、訪れる全ての方に優しい環境につなげます」  ――「会津コイン」を用いたデジタル商品券事業が始まりました。  「会津コインは会津若松市が進める『スマートシティ』の取り組みの一環です。国は2025年6月までにキャッシュレス決済比率を4割程度にする目標を掲げています。キャッシュレスは増加傾向ですが、既存のキャッシュレス決済はお金の他、マーケティングに活用できる利用者情報などが地域を出てしまうのが課題でした。そこで地域のみで流通する通貨を導入して情報が地域に残るようにしたのが会津コインです。  商品券はこれまで紙ベースでしたが、今回初めてスマホを使ったデジタル形式にしています。当商工会議所やスマートシティAiCTに入居する企業でつくる『AiCTコンソーシアム』などで構成する実行委員会が事業を行っています。当初会津コインが使えるのは6店舗だけでしたが、プレミアムポイント事業の実施で400店舗を超えました。ただ、店舗の加盟申請や消費者の利用設定の手順が複雑な点は否めず、特に高齢の方からさまざまな意見を頂戴しました。市と決済事業者と共に対応を検討したいです。  プレミアム事業が終了した後、どこまで会津コインを利用してもらえるか、事業所に継続していただけるか不安な点はあります。利用者情報を個人が特定されない形に処理して会津コイン参加店舗に提供し、経営に生かしてもらうなどの仕組みづくりが急務です。再生可能エネルギーへのポイント付与構想など、持続可能な開発を進めるインセンティブも有効でしょう。商店街や飲食店業種単位でイベントに活用するなど様々なアイデアに挑戦することで利用が増えていくと思います」 急務の再開発  ――市街地の再開発について。  「中心市街地から大型店が撤退したままの現状に非常に危機感を持っています。都市の活況のバロメーターと言える地価公示や路線価は、昨年は福島、郡山、いわきの県内主要都市の商業地は軒並み前年比プラスになっている一方、会津若松はマイナスに沈んでいます。  当商工会議所は昨年度、再開発に向けた意見を取りまとめ、神明通りや駅前周辺、旧県立病院跡地などの利活用について市に提言しました。多くの利害関係があること、市の財政的な課題もあり、一足飛びに実現しない現状は理解しています。ただ、その中でも中心市街地の再開発は早急に取り組むべきです。まちのシンボルである神明通りはその最たるもの。個性豊かな店を集積したり、インフラなど不足する要素を分析して早めに手立てを考えていきたいです」  ――抱負を教えてください。  「地方は人口減少に伴う縮む経済に直面しています。地域の活力を維持し、若者が住み続けたい、また多くの観光客が訪れたいまちにできるかどうかはここ数年で決まってしまうのではないかと危機感を持っています。会頭就任以来、民間の挑戦こそが地域の未来を切り拓いていく大きな力になると訴えています。危機的な状況だからこそ、この思いを新たにし、徹底した事業所支援を通じて足腰の強い会津若松経済の実現に向けて取り組んでいきます」

  • 政経東北【2024年1月号】

    【政経東北 目次】「自民党裏金疑惑」県政界への影響/選挙資金源をひた隠す【内堀知事】/陸自郡山駐屯地「強制わいせつ」有罪判決の意義/『五ノ井里奈さん』に届けたパンプス/巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額/北塩原村【ラビスパ裏磐梯】廃止の裏事情/反対一色の松川浦自然公園「湿地埋め立て」 アマゾンで購入する BASEで購入する 【自民党裏金疑惑】県政界への影響 河村和徳・東北大准教授に聞く 選挙資金源をひた隠す内堀知事 パー券・会費収入を迂回寄付のカラクリ 陸自郡山駐屯地「強制わいせつ」有罪判決の意義 本誌が報じてきた性被害告発 五ノ井里奈さんに届けたパンプス ノンフィクション作家・岩下明日香 巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額 議会が市長、業者を追及しないワケ 北塩原村ラビスパ裏磐梯廃止の裏事情 不採算施設を切り捨て「村の駅」を整備!? 反対一色の松川浦自然公園「湿地埋め立て」 〝騒いでいるのは一部〞とうそぶく事業者 ALPS作業員被曝事故をスルーするな ジャーナリスト・牧内昇平 環境省「ごみ屋敷調査」を読み解く 郡山市・広野町が関連条例を制定したわけ 南相馬闇バイト強盗が招いた住民不和 強盗被害者に殴られた男性が真相を語る クマの市街地出没に脅かされる福島 専門家とマタギに聞く根本解決策 呼んでも来ないタクシー・運転代行 ドライバー不足が社会に及ぼす痛手 鏡石町・議員同士の〝場外バトル〟 議長落選者が同僚に質問状送付 双葉町で不適切巡回横行の背景 巡回員のレベルの低さが露呈 会津若松「立ち退き脅迫男」に提訴された高齢者 無理筋な「不法入居」立証 デタラメだらけの県人事委勧告 〝優良企業準拠〟を改めよ!! 玉川村職員「住居手当不適切受給」の背景 矢吹町でも同様の事例発覚 津波被災地のいまを描いた映画『水平線』 ピエール瀧さん&小林且弥監督にインタビュー その他の特集 巻頭言 投票で「文句を言う権利」を得よう グラビア 福島県ゆかりの著名人に聞く2024年の抱負 ▽JAリポート2024「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組み▽せいけい投稿ポスト 今月のわだい 郡山市が逢瀬ワイナリーの事業譲受を決断⁉ 郡山市フェスタ建て替えで膨らむシネコン待望論 再開発見直しで福島駅東西一体化議論が急浮上 薬剤師法違反を誤解された南相馬市の薬局 国見町百条委の焦点は町職員に対する刑事告発の有無 運営法人の怠慢が招いた小野町特養暴行死 今度は矢吹町長選に立候補した小西彦治氏 浪江町が特定帰還居住区域の復興再生計画を策定 泥沼化する大熊町議と住民のトラブル 首都圏工事の残土捨て場となる福島県 特別インタビュー 澁川惠男・会津若松商工会議所会頭 菅家忠洋・会津土建社長 伊藤平男・須賀川信用金庫理事長 町村長に聞く 吉田淳・大熊町長 首長訪問 佐野盛至・湯川村長 連載 フクイチ核災害は継続中(春橋哲史)【脱水したスラリーの固化処理開始は2030年代】横田一の政界ウオッチ【マイナ保険証一本化を強行する岸田政権】廃炉の流儀【私たちは法的な抵抗を十分にやってきたか】耳寄り健康講座(ときわ会グループ)【胸焼けは消化器疾患の前兆】ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)【吉良貞家の逆襲】情報ファインダー熟年離婚 男の言い分(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席【真剣交際〟を主張した性犯罪教師】選挙古今東西(畠山理仁)【福島の人は優しかった】ふくしまに生きる 編集後記

  • 10年足踏み【郡山旧豊田貯水池】の利活用

     郡山市の旧豊田貯水池跡地が利活用されないままの状態が長年続いている。この間、議会や民間からはさまざまな提言が行われているが、市は検討中と繰り返すばかり。郡山市政にとって、同跡地の利活用は残された重要課題になりつつある。 具体策は「次の市長」の政治課題に  旧豊田貯水池は郡山市役所から南東に0・7㌔、郡山総合体育館や商業施設(ザ・モール郡山)などに隣接する市街地にある。面積8万8000平方㍍。稼働時は水面積6万7000平方㍍、貯留水量12万立方㍍を誇ったが、現在は辺り一面に雑草が生い茂る。  旧豊田貯水池が完成したのは今から360年以上前の明暦2(1656)年。農業用ため池と水道用貯水池として長く機能し、明治45(1912)年には安積疏水の水を利用した豊田浄水場が建設されたが、給水100年を迎えて老朽化が進んでいたことから、市は同浄水場の機能を堀口浄水場に統合。豊田浄水場は平成25(2013)年に廃止された。  これを受け、当時の原正夫市長は旧豊田貯水池の水抜きを進めたが、同年4月の市長選で初当選した品川萬里氏は水抜きを停止。「水害対策や歴史的役割を踏まえた学習への活用を検討する」として市役所8部局からなる研究会を設置した。しかし、水抜き停止は市民や議会に意見を聞かずに行われただけでなく、貯水池内の水の流れが止まったことで水質が悪化。辺りには悪臭が漂うようになり、蚊や水草が大量発生した。  結局、水抜きは再開されたが、市はこの問題をめぐり定例会や委員会で議員から厳しい追及を受けた。以来、品川市長は同貯水池跡地の利活用に及び腰の感がある。  「品川市長は局地的な豪雨が増えていることを踏まえ、旧豊田貯水池に雨水を溜め、緩やかに流すことで下流域の負担軽減を図ろうと調整池としての利活用を考えた。その考え自体はよかったが、独断で水抜きを止めたことでつまずき、同貯水池内にある第5配水池を利用した暫定的な雨水貯留施設を整備した後は具体策を示してこなかった」(事情通)  議会では利活用に関してもさまざまな質問が行われ、議員からは室内50㍍プール、全天候型ドーム、水害対策機能を備えた都市公園などの整備を求める声や「福島大学農学部の移転先になり得るのではないか」といった提案が出された。しかし、市は「総合的に検討していく」との答弁を繰り返すばかりだった。  停滞する状況を動かそうと、2017年6月には議会内に設置された公有資産活用検討委員会からこんな提言が行われた。  《市役所や文化・スポーツ施設が集中する麓山・開成山地区においては、施設利用者の駐車場が不足しているという市民の意見が多いことから、旧豊田浄水場跡地の一部について、当面、安全性を確保のうえ、駐車場や自由広場等として暫定利用できるよう、必要最低限の整備に向け対応すること》  ある議員はこう話す。  「旧豊田貯水池跡地に隣接する郡山総合体育館は福島ファイヤーボンズ(バスケット)やデンソーエアリービーズ(女子バレーボール)がホームゲームを行っているが、駐車場が圧倒的に足りない。そこで議会としては、暫定的な使い方として一部に砂利を敷いて駐車場としつつ、具体的な利活用策を早急に示すべきと提言したのです」  同検討委員会が提言に当たり行ったアンケート調査で市民に旧豊田貯水池跡地の最終的な利用方法を尋ねたところ、「開成山・麓山地区における公共施設等の駐車場として整備」が32・2%、「新たな公共施設と駐車場を整備」が27・5%「浸水対策や水辺空間を生かした公園等として整備」が16・9%、「民間へ売却」が11・1%という結果になった。開成山・麓山地区は公園、体育館、図書館などの公共施設が集中しているが、駐車場が少なくて不便なため駐車場整備を求める声が多かった。  民間からも利活用に関する提言が行われた。郡山商工会議所内に設置された郡山の未来像を考える若手組織・グランドデザインプロジェクト会議が2018年11月に▽パークアンドライドを意識した地下駐車場、▽バス、モノレール、LRT(ライトレールトランジット)や2020年代に実用化を目指す空飛ぶクルマなどのターミナル、▽ライブ、シネマシアター、マルシェ等に利用できるイベント基地の整備を提案した。  こうした議会や民間による動きを受け、市は2019年度に副市長をトップとする旧豊田貯水池利活用検討推進本部や有識者懇談会を設置。同年度末には利活用方針案の中間とりまとめを発表し、緑を生かした①体験重視案、②保全重視案、③歴史重視案の3案が示された。しかし、翌年度に行われたパブリックコメントで市民から寄せられた意見は「3案とも検討するに値しない」と手厳しいものだった。  「市街地にはたくさんの公園があるのに、今さら緑を生かした場所が必要なのか、もっと有効な使い方があるのではないかと考える市民が多かったようです」(前出・事情通)  2021年6月には、議会内に設置された旧豊田貯水池利活用特別委員会での議論をもとに、議会から二度目の提言が行われた。  《具体的な整備にあたっては音楽都市、スポーツ、交流人口の拡大、防災・減災、リスクマネジメント、駐車場確保の観点を重視するとともに参考人(※市内15団体の役職者)からの意見に配慮し、市民が納得する活用方法となるよう検討していくこと。また、周辺地区との一体的利用の観点から、宝来屋郡山総合体育館と開成山公園を容易に移動できる動線の確保について検討すること。(中略)なお、具体的な利活用方針が決定するまでの間、旧豊田貯水池の暫定的な利活用を図ること》 定まらない方向性 一面雑草だらけの旧豊田貯水池跡地  その後、市では同年10月から翌22年5月にかけて市民との意見交換会を開催したが、そこで掲げられた利活用コンセプトは「全ての世代が安心・安全で元気に過ごせるみどりのまち SDGs体感未来都市」という非常に漠然としたものだった。  独断で水抜きを止めた反省から、さまざまな組織を立ち上げ、議会や民間、市民の意見に耳を傾けようとしている姿勢は評価できる。ただ、議論を深めれば深めるほど中身が抽象的になり、方向性が定まらなくなっている印象を受ける。  市の窓口である公有資産マネジメント課は「市民の中には旧豊田貯水池の存在すら知らない人がかなりいる。そこで市民に現地を見てもらい広く意見を募るため、現在、一般開放に向けた準備を進めている。いつまでにこうするという期限は定めていない」と話すが、浄水場廃止から10年経っても前進する気配が見られないのだから、状況が変わることはしばらくなさそう。  「この間の具体的な動きと言えば令和元年東日本台風の翌年、市民から議会に水害対策機能を意識した利活用を求める請願が出されたことくらい。品川市長の3期目は2025年4月まで。任期が残り1年半しかない中、自分が手掛ける可能性がない施策を打ち出すとは思えない。4期目も目指すなら話は別だが、現状では次の市長に持ち越しと考えるのが自然だ」(前出の議員)  そのまま水抜きを進め、最初から市民や議会と相談して事を進めていれば、状況は今とは違っていたかもしれない。

  • 「ギャンブル王国ふくしま」の収支決算

     かつて雨後の筍のごとく各地につくられた場外ギャンブル施設が今、青息吐息にある。インターネット投票への移行が年々進んでいたところに新型コロナが追い打ちをかけ、場外施設に足を運ぶ人が急速に減っている。客離れが進めば売上が減るのは言うまでもないが、公営競技自体はネット投票に支えられ好調。場外施設は時代の大きな変化により、役割を失いつつある。(佐藤仁) 県民の〝賭け金〟は少なくとも年100億円超  県内には福島市に福島競馬場、西郷村に場外馬券売場のウインズ新白河、いわき市にいわき平競輪場、郡山市に同競輪郡山場外車券売場がある。このほか場外車券売場として福島市にサテライト福島、二本松市にサテライトあだたら、喜多方市にサテライト会津、南相馬市にクラップかしま、場外馬券売場として磐梯町にオープス磐梯、場外舟券売場として玉川村にボートピア玉川がある。サテライト福島では車券だけでなく舟券と馬券も発売している。  かつては飯舘村にニュートラックいいたてという場外馬券売場もあったが、震災・原発事故で閉鎖。また実現はしなかったが、猪苗代町、会津美里町では舟券、白河市では舟券とオートレースの場外施設計画が浮上したこともあった。今から20年以上前の出来事だ。  そうした乱立模様を本誌は「ギャンブル王国ふくしま」と表して報じてきたが、それら場外施設は今どうなっているのか。まずは県内に本場があるウインズ新白河といわき平競輪郡山場外から見ていきたい。  ウインズ新白河は平成10年10月に東北地方初のJRA場外施設として西郷村にオープンした。  JRAは本場の年間売上と入場者数は公表しているが、ウインズの数値は公表していない。念のためJRA広報にも問い合わせたが「答えられない」とのことだった。  では、福島競馬場の売上と入場者数はどうなっているのか。表①を見ると、売上は横ばいから令和に入って増加。令和3年が落ち込んだのは2月に起きた福島県沖地震で施設が損傷し、開催が3回から2回に減ったことが原因だが、もし3回開催されていたら単純計算で1400億円を超えていたとみられる。一方、入場者数は23万人前後で推移していたのが令和2年以降激減。新型コロナで無観客や入場制限せざるを得なかったことが響いた。 表① 福島競馬場の売上と入場者数の推移 H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4売  上(円)1186億1216億1138億1203億1228億1210億1289億1331億960億1453億入場者数(人)24.2万26.6万23.3万23.6万23.0万24.1万23.6万0.6万3.3万12.0万※開催数は通常年3回だが、平成26年は4回、令和3年は2回だった     これを見て気付くのは、新型コロナで入場者数が減ったのに売上は伸びていることだ。背景にはインターネット投票の急速な拡大がある。  図①はJRAの売得金の推移だ。平成9年はJRAにとってピークの売上4兆円を記録したが、この時、売上に最も寄与したのはウインズ等の2兆0827億円で、電話・インターネット投票は9273億円だった。その後、ネット投票の割合が増え、新型コロナが発生した令和2年に急増すると、4年は売上3兆2700億円の8割超に当たる2兆8000億円を占めるまでになった。対するウインズは3054億円と1割にも満たない。 図①  JRAの売得金の推移  https://www.jra.go.jp/company/about/financial/pdf/houkoku04.pdf23ページ目  場外施設はネット投票とは無関係で、足を運んだ客が馬券を買わなければ売上に結び付かない。そう考えると、ウインズ新白河が好調とは考えにくく、売上、入場者数とも減少傾向にあると見ていい。  場外施設の売上を探るヒントに設置自治体に納める協力費がある。公営競技の施行者(自治体等)は、施設の売上に応じて施設が置かれている自治体に環境整備費などの名目で協力費を支払っている。金額は設置時に「年間売上の何%」と決められ、相場は0・5~1%。つまり協力費が1%なら、100倍すれば施設の売上が弾き出せる。売上は「地元住民から吸い上げた金」とも言い変えられる。  協力費についてはもう少し説明が必要だ。例えば〇〇場外施設でA競馬、B競馬、C競馬の馬券を発売しているとする。施設における各競馬の年間売上はA競馬1000万円、B競馬1200万円、C競馬1500万円、施設がある自治体への協力費が1%とするとA競馬10万円、B競馬12万円、C競馬15万円。これを各競馬の施行者が自治体に納め、その合計(37万円)が施設から支払われた協力費と解釈されるわけ。  ただしJRAには何%といった相場がなく、要綱にある計算手法に基づいて算出される。なお要綱は非公表のため、計算手法は不明。  福島競馬場は福島市に「競馬場周辺環境整備寄付金」という名称で毎年2億数千万円納めている。同寄付金は一般財源に入り、競馬場周辺などの環境整備費に充てられている。ウインズ新白河も西郷村に「JRA環境整備寄付金」という名称で毎年2300万円前後納めている。 本場の売上は全体の1% いわき平競輪郡山場外(郡山市)  いわき平競輪郡山場外の歴史は古い。設置されたのは平競輪場の開設から9カ月後の昭和26年11月。現在のJR郡山駅東口に新築移転したのは昭和58年。その後、マルチビジョンや特別観覧席が設置され、平成18年にリニューアルして今に至る。  いわき市公営競技事務所によると郡山場外の年間売上と入場者数は表②の通り。どちらも平成25年度をピークに減っているが、入場者数は令和3年度以降、新型コロナの影響から若干持ち直している。  これを本場のいわき平競輪場と対比すると、福島競馬場とウインズ新白河の関係とよく似ていることが分かる。同じく表②を見ると、売上が減少している郡山場外とは逆に、本場の売上は平成28年度を底に回復しているのだ。令和4年度は平成28年度の倍の売上を記録した。 表② いわき平競輪場と郡山場外の売上と入場者数の推移 H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4いわき売  上(円)191億152億158億147億207億203億152億218億244億289億入場者数(人)9.7万7.9万9.0万8.1万10.6万7.8万11.5万8.1万7.6万11.9万郡 山売  上(円)4.2億3.1億3.1億2.4億2.4億2.4億1.8億1.5億1.6億1.4億入場者数(人)3.9万3.2万3.4万2.9万2.9万2.8万1.9万1.7万1.8万1.9万※郡山場外の入場者数は本場開催時のもの  本場の売上が増えた要因はJRAと同じくネット投票の急拡大にある。図②は競輪施行者全体の売上額を示したものだが、2兆円近い売上があった平成3年度はネット投票の割合は1割にも満たず本場が8割を占めた。それが令和4年度には真逆になり、売上1兆0908億円のうち8割がネット投票で8551億円、本場はたった1%の148億円にとどまっている。 図2 競輪施行者全体の売上額の推移 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/sharyo_kyogi/pdf/018_01_00.pdf 2ページ目  ならば、ネット投票の恩恵にあずかれない郡山場外は今後どうなるのか。いわき平競輪場は売上から毎年4億円前後をいわき市に納めているのに対し、郡山場外(施行者のいわき市)が郡山市に納めている「郡山場外車券売場周辺環境整備負担金」は平成29年度2260万円から毎年度減り続け、令和4年度1030万円に落ち込んでいる。  郡山市財政課によると、同負担金は平成28年度まで定率制で2000万円納められていたが、いわき市と協議し29年度から「郡山場外における前々年度の売上の0・7%」に変更された。理由は売上が減る中で定率制の維持が困難になったため。ただ「最も多い時で7000万円とか4000万円の時代もあった」(郡山市財政課)というから、郡山場外のかつての好調と現在の凋落が見て取れる。  他の場外車券売場の現状も見ていこう。サテライト福島は平成18年4月にオープンした。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売。1日最大3場の車券が買える。開催スケジュールを見ると休館日はなく、毎日どこかの車券が発売されている。  施設の設置者は㈱サテライト福島(福島市瀬上町)。  10月某日の午後、施設をのぞいてみると、220ある観覧席に対し客は30人くらいしかいない。高齢者ばかりで、若者は皆無。 訪れる客は高齢者ばかり サテライト福島  サテライト福島が扱っているのは車券だけではない。同施設は3階建てで、1階で車券、2階で舟券、3階で馬券が発売されている。  2階は平成23年に舟券売場に改装してオープンした。ボートレース桐生をメーンに各地の舟券を発売。1日最大8場もの舟券が買える。開催スケジュールを見ると、こちらも休館日はゼロ。  観覧席は100席あるが、客は30人くらいで高齢者ばかりだった。  3階は平成26年に馬券売場に改装してオープンした。南関東公営競馬(大井、船橋、浦和、川崎競馬)、盛岡競馬の全競走と各地の一部馬券を発売。JRAのレースがある土日は休館している。  施設の設置者は㈱ニュートラックかみのやま(山形県上山市)。  観覧席は190席あるが客は40人くらいでこちらも高齢者が中心。  サテライト福島の売上(推計)は表③の通り。今回の取材で車券を発売する施設は売上の0・5%、馬券を発売する施設は同1%、舟券を発売する施設は同0・5~1%を協力費として地元自治体に納めていることが分かった。各施設は売上や入場者数を明かしていないが、各自治体は毎年度、施設(競技の施行者)から協力費がいくら納められているか公表している。  例えば、サテライト福島からは令和4年度、車券分として310万円(納入者はいわき平競輪の施行者のいわき市など)、舟券分として440万円(納入者はボートレース桐生の施行者の群馬県みどり市など)、馬券分として500万円(納入者は特別区競馬組合など)、計1250万円が福島市に「寄付金」という名目で納められた。これをもとに推計すると、同施設の同年度の売上は19億8000万円となる。福島市民を中心に、これほどの巨費がギャンブルに吸い上げられているのかと思うと暗澹たる気持ちになる。10年間の売上合計は275億5000万円。  平成18年6月にオープンしたサテライトあだたらは、いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。日中からナイターまで連日休みなく開館しているのはサテライト福島と同じだ。  施設の設置者は㈲本陣(茨城県八千代町)。  サテライトあだたら(施行者のいわき市など)から二本松市に納められている「環境整備費」は平成25年度1100万円、令和4年度530万円。協力費は売上の0・5%。これをもとに推計した売上は表③の通り。平成25年度は22億円、令和4年度は10億6000万円、10年間の合計161億円。10年経って売上が半減しており、経営はかなり厳しいのではないか。 表③ 県内場外施設の売上の推移(推計) (円) H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4サテライト福島27.0億35.1億36.4億33.4億29.8億25.9億22.5億19.2億23.4億19.8億サテライトあだたら22.0億22.0億21.6億19.6億17.0億13.4億12.6億10.8億11.4億10.6億サテライト会津14.4億13.6億13.4億11.8億11.2億10.6億9.8億8.2億9.2億8.6億クラップかしま19.6億23.4億22.6億22.8億19.0億17.6億15.4億12.4億9.0億7.8億オープス磐梯7.9億6.9億6.9億5.8億5.2億5.9億4.4億2.8億3.4億3.6億ボートピア玉川29.9億29.7億29.7億31.4億29.1億28.9億28.2億28.0億29.5億25.4億※車券を発売しているサテライト福島、あだたら、会津、クラップかしま、馬券を発売しているオープス磐梯は「売上の0.5%」を施設が置かれている自治体に協力費として納めている。※舟券を発売しているボートピア玉川は「売上の1%」を施設が置かれている玉川村に納めている。※サテライト福島では車券のほか馬券と舟券も発売。馬券分として「売上の1%」、舟券分として「同0.5%」を福島市に納めている。  サテライト会津のオープンは平成6年10月。新潟県弥彦村の弥彦競輪をメーンに各地の車券を発売している。通常は1日2場、月に数日あるナイター開催時は3場の車券が買える。休館は月に1、2日。 サテライト会津(喜多方市)  施設の設置者は㈱メイスイ(いわき市)だったが、現在の管理者は㈱サテライト会津(喜多方市)。  10月某日、施設を訪れると、1階の460ある観覧席に対し客は60人超、2階の特別観覧席はゼロ。椅子とテーブルには書きかけのマークカードや新聞が散乱していた。 サテライト会津はその立地から山形方面の来客も見込まれていたが、駐車場に止まっていた車六十数台を確認すると、ほとんどが会津ナンバー(そのうち3分の1が軽トラ)。山形ナンバーは2台しかなかった。  サテライト会津(施行者の弥彦村など)から喜多方市に納められている「周辺環境整備及び周辺対策に関する交付金」は平成25年度720万円、令和4年度430万円。協力費が減っているということは売上も減っているわけで(表③参照)、入場者数も「令和3年度は6万7000人、4年度は6万1000人と聞いている」(喜多方市財政課)というから、年300日稼働として1日二百数十人にとどまっている模様。10年間の売上合計110億8000万円。  最後はクラップかしま(旧サテライトかしま)。オープンは平成10年10月。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。休館日はなく1日最大6場の車券が買える。  施設の設置者はエヌエヌオー情報企画㈱(いわき市)だったが、平成19年に花月園観光㈱(神奈川県横浜市)に所有権が移った。震災・原発事故後は2年間休止していたが、25年6月に再開。令和3年7月からは㈱チャリ・ロト(東京都品川区)に運営が代わり、施設名も今のクラップかしまに変更された。  クラップかしま(施行者のいわき市など)から南相馬市鹿島区に納められている「周辺環境整備費」は平成26年度1170万円、令和4年度390万円。令和に入ってからは激減している。背景には新型コロナで客足が途絶えたことと、新しい購入システムであるチャリロトの導入でキャッシュレス化が進み、現金志向の高齢者が敬遠したことがある。令和3、4年の福島県沖地震で建物が損傷したことも影響した。 南相馬市鹿島区地域振興課によると協力費は当初売上の1%だったが、平成20年に0・8%、21年に0・7%、22年に0・5%に引き下げられた。これをもとに売上を推計すると、平成25年度19億6000万円、令和4年度7億8000万円。10年間の合計169億6000万円。一方、1日の入場者数は当初700人。その後、次第に減っていき現在180人前後。 売上絶好調の公営競技 オープス磐梯(磐梯町)  残る二つの場外施設は関係する競技の現状も交えて紹介したい。  オープス磐梯は新潟県競馬組合の場外馬券売場として平成12年12月にオープンしたが、14年に新潟県競馬が廃止され、その後は南関東公営競馬の馬券を発売している。  施設を所有するのはマルト不動産㈱(会津若松市)、同社から管理を任されているのは㈱オープス磐梯(磐梯町)、運営は特別区競馬組合(大井競馬を主催する特別地方公共団体)が100%出資する㈱ティーシーケイサービス(東京都品川区)。  オープス磐梯(施行者の特別区競馬組合など)から磐梯町に納められている「販売交付金」は平成25年度780万円、令和4年度360万円。協力費は売上の1%なので、これをもとに売上を推計すると平成25年度7億8000万円から令和4年度3億6000万円に半減している(表③参照)。10年間の合計52億8000万円。  このように場外施設は非常に苦戦しているが、実は地方競馬は今、過去最高の経営状況にある。令和4年度は地方競馬にとって初の売上1兆円超えを記録した。  興味深いのは、平成3年度に1500万人だった入場者数が年を追うごとに減り、新型コロナが拡大した令和2年度には74万人まで落ち込んだにもかかわらず、売上は平成23年度以降伸びていることだ。原因は前述しているように、ネット投票の急拡大にある。令和4年度の売上1兆0704億円のうち、ネット投票は9割に当たる9621億円を占めた。これに対し、場外施設は1割にも満たない817億円。オープス磐梯が苦戦するのは当然だ。  ボートピア玉川はボートレース浜名湖の舟券をメーンに発売する場外施設として平成10年10月にオープンした。地元住民によると「舟券を買うだけでなく、施設が綺麗で食堂も安いので、高齢女性の憩いの場になっている」というから他の場外施設とは少し趣きが異なるようだ。  施設の設置者は㈱エム・ビー玉川(群馬県高崎市)だったが、平成16年に浜名湖競艇企業団に売却。エム・ビー玉川は同年9月に解散した。  ボートピア玉川(施行者の浜名湖競艇企業団など)から玉川村に納められている「環境整備協力費」は平成25年度2990万円、令和4年度2540万円。他の場外施設より高額で推移している。協力費は売上の1%なので、これをもとに推計すると売上も毎年30億円前後で安定していることが分かる(表③参照)。10年間の売上合計290億円。  公営競技の売上が近年好調なのは前述したが、ボートレースは特に好調だ。一般社団法人全国モーターボート競走施行者協議会によると、売上は平成22年度に8434億円で底を打った後、翌年度から回復。令和3年度は2兆3900億円、4年度は2兆4100億円を記録した。地方競馬は1兆円超えで過去最高と書いたが、ボートレースはその2倍も売り上げている。  背景には、やはりネット投票の急拡大が影響している。令和4年度は全体の8割に当たる1兆8800億円がネット投票による売上だった。  ボートピア玉川は他の場外施設と違って好調をキープしているが、ネット投票の割合がさらに増えた時、売上にどのような変化が表れるのか注視する必要がある。 地元住民から吸い上げた金  設置当時、地域振興に寄与すると盛んに言われた場外施設だが、例えば雇用の面では設置業者のほとんどが「地元から100以上雇う」などと説明していた。しかし今回の取材で各施設をのぞいてみると、インフォメーション窓口に1、2人、食堂に1、2人、警備員3、4人、清掃員2、3人という具合。発売機や払戻機は自動だから人は不要。いわき平競輪場(郡山場外も含む)は65人を直接雇用し、警備や清掃などを地元業者に委託して計100人の雇用につなげ、福島競馬場もレースがある週末に多くの雇用を生み出しているが、場外施設が期待された雇用に寄与しているようには見えない。  協力費も設置当初は5000万~1億円などと言われていたが、現状は数百万円。これでどんな地域振興ができるというのか。本場近くの学校や場外施設周辺の道路が協力費によって綺麗になった事実はあるが、そもそも地元住民から吸い上げた金が回り回って自治体の財源になっていること自体、地域振興とは言い難い。かえってギャンブル依存症の人を増やした可能性があることを考えると、金額でははかれないマイナスの影響をもたらしたのではないか。内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部事務局が令和元年9月に公表した資料によると「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合は平成29年度全国調査で成人の0・8%(70万人)と推計されている。政府はギャンブル等依存症対策基本法を施行するなど対策に乗り出しているが、本場や場外施設にギャンブル依存症の相談ポスターが貼られているのは違和感を覚える。  場外施設の売上は「地元住民から吸い上げた金」と前述したが、ここまで取り上げた施設(ネット投票が含まれる福島競馬場、いわき平競輪場、売上不明のウインズ新白河は除く)の過去10年の売上合計は1080億6000万円。地域振興という名のもとに、少なくとも福島市の今年度一般計当初予算(1147億円)に匹敵する金がギャンブルに消えたことは異様と言うべきだろう。  しょせんギャンブルは、胴元が儲かる仕組みになっている。公営競技のいわゆる寺銭(施行者が賭ける者に配分せず自ら取得する割合=控除率)は25%。払戻率は75%。  窓口や発売機で買うのが当たり前だった時代から、ネット投票の拡大により場外施設の役割は終わりに近付いている。今、施設を訪れている客はネットに疎い高齢者ばかり。10年後、この高齢者たちが来なくなったら施設はガランとしているはずだ。 役割終えた場外施設  実際、全国では場外施設の閉鎖が相次いでいる。北海道白糠町のボートピア釧路は開業から5年後の平成11年6月に18億円の赤字を抱えて閉鎖。千葉県習志野市のボートピア習志野は新型コロナの影響で令和2年7月に閉鎖された。新潟県妙高市のサテライト妙高と宮城県大和町のサテライト大和も来年3月末で閉鎖することが決まった。  ボートピア釧路は見通しの甘さが引き金になったが、あとの3施設は新型コロナとネット投票による低迷が原因。年間売上は10億円未満だったようだ。県内の施設も状況は同じ。  こうした中、宮城県仙台市には新しい時代に入ったことを感じさせる施設がある。JRAが昨年11月にオープンした全国初の馬券を発売しない施設「ヴィエスタ」だ。若いライト層をターゲットにレースのライブ映像や過去の名馬・名レース、競馬関連情報などを大型ワイドスクリーンで放映。収容人数75人で、無料のエリアや有料のラウンジ席がある。馬券は発売していないがスマホは持ち込めるので、映像を見ながらネット投票することは可能。JRAは「競馬の魅力を感じてもらうための施設。ネット投票は想定していない」と言うが、そんなはずはないだろう。  ちなみにパチンコ業界は、ピーク時30兆円と言われた市場規模が2022年は14・6兆円と半減。内訳はパチンコ8・8兆円、パチスロ5・8兆円。ホールの売上が下がり、コロナ禍で閉店・廃業が相次いだだけでなく、有名メーカーの経営も立ち行かなくなっている。  昭和後半から平成にかけて公営競技の売上を支えたのは場外施設だった。本場の入場者が減る中、それをカバーするため施行者は各地に施設をつくった。中には強引なやり方で設置しようとして地元住民とトラブルに発展したケースもあり、大阪、名古屋、高松、新橋、沖縄では工事差し止め訴訟が起こされた。  それから30年余。場外施設は今、往時の勢いを失っている。閉鎖へと向かうのは避けられないだろう。

  • 【福島商工会議所】渡邊博美会頭インタビュー(2023.12)

     わたなべ・ひろみ 1946年生まれ。福島大経済学部卒業後、福島ヤクルト販売入社。2012年に福島商工会議所副会頭。13年11月に会頭就任。現在4期目を務める。  福島商工会議所は職員らの力を結集し、渡邊博美会頭の下、伴走型支援で会員事業所の経営環境の足腰強化に力を入れている。経済に打撃を与える慢性的な人手不足と資材高騰は福島駅前東口再開発に影響し、建設費用が増加。完成が1年延期され2027年度の予定になった。「福島駅東西エリア一体化推進協議会」会長も務める渡邊氏に再開発の行方などを聞いた。 足腰の強い経営環境を共に目指していく  ――新型コロナウイルスが感染症法上の5類に引き下げ後、福島わらじまつりが通常開催されるなど新型コロナ禍前の活気が戻ってきました。現況を教えてください。  「わらじまつりは今年、まず6月に青森市で行われた東北絆まつりに参加しました。賑わいを見て、福島のイベントも賑わうぞと期待が膨らみました。祭りは参加者が熱狂し、笑顔が観客に伝播します。その光景が復活したのは感慨深いものです。7月末に『ふくしま花火大会』があり、熱気が高まったまま、8月3、4日のわらじまつりで最高潮となりました。大相撲の福島巡業が4日に行われたため、福島市の夏は例年にない盛り上がりでした。  福島駅東口の再開発工事中は賑わい創出のため駅前通りやまちなか広場では週末に各種イベントが開かれて盛況です。県立医大保健科学部と福島学院大学の駅前キャンパスがあるため、多くの若者がイベントに関わっています。学生ならではの自由な視点には目を見張るものがあり、若手も参入しやすい雰囲気が生まれています。これらを起爆剤に、来年はもっと魅力のある街になるよう盛り上げていきます」  ――円安と物価高が深刻な問題となっています。人手不足や後継者問題も深刻です。会員事業所からはどのような声がありますか。  「人手不足は日本を覆う問題です。福島県は特に女性の生産年齢人口の流出が全国と比べて高いというデータがあります。要因は様々ですが、女性が魅力を感じる産業を用意できていないという点で、我々経営者にも責任があると感じています。働く場所としてもそうだし、結婚し子育てをする場として不安を感じ、学校を出ると福島を離れてしまう。  価格転嫁について会員事業所を調査していますが、問題なく行っているという事業所はまずありません。燃料費の高騰が特に打撃で、賃金を上げて今いる従業員を雇用し続けられるよう経営者は奮闘しています」  ――資材価格高騰で福島駅東口再開発が1年先送りとなりました。会頭自身も「福島駅東西エリア一体化推進協議会」の会長を務めていますが会議所ではどのような対応をしていきたいですか。  「百貨店の中合が閉店してから福島駅前の歴史あるランドマークが無くなってしまいました。特に私ども高齢者は駅前が一番賑わっていた時代が頭に残っていますから衝撃は大きかった。当会議所には往時の駅前の活気を知る方たちから、なぜ中合を閉めるのかと惜しむ声が聞こえてきました。地方都市では、駅前の活気は衰退し、賑わいは駅の中だけに収まってしまいました。  福島市は東北新幹線の駅があり、交通の便では恵まれています。行政施設とコンベンション施設が駅前に集まると都市機能が向上します。さらに大切なのは、医大保健科学部、福島学院大のキャンパスがあり、近くに大原綜合病院が位置している点です。再開発地区には既に暮らしに密接な教育機関や病院があります。東京や仙台などの大都市では地代が高い分、行政や教育、医療機関の集約は困難でしょう。その点で福島市は再開発で機能を集約しやすい強みがある。自家用車を持っていなくても誰もが暮らしやすい街になる可能性を秘めています。  ただ、資材価格高騰が建設に影響を与えています。完成後も維持費を考える必要があります。そして、暮らす人にとって一番良い方策を考えねばなりません。私は今、関係者に建設中の今こそ、腹を割って話そうと言っています。  資材価格高騰によるコスト上昇や地方の再開発事業の難しさをみると、予算や持続可能性に厳しい部分があるのであれば、福島に住む人にとって一番いいやり方を駅西口と一体化して考える必要があります。後世に悔いが残らぬように、知恵を絞るのは今しかできません。見栄や他の都市に負けたくないという発想ではなく、自分たちのためになる形を追求したいです。  東北中央道ができたことで、福島市には相馬市や山形県米沢市からも訪れるようになりました。福島の魅力は分析すればたくさんあるはずです。構造物だけどんどん造って、継続できませんでしたでは済みません。行政とまちづくりセンター、当会議所で連携を密にして取り組んでいきます」  ――福島市出身の作曲家、故・古関裕而さんが野球殿堂入りしました。街づくりにどうつなげますか。  「古関先生をモデルにしたテレビドラマで火が付き、記念の音楽祭や作曲賞の創設、夫人の金子さんの出身地である愛知県豊橋市とのつながりが生まれました。豊橋市の方たちには花火大会でも筒花火を披露していただきました。  野球のオール早慶戦を11月26日に行いました。早稲田大と慶応大の応援歌をどちらも古関先生が作曲している縁からです。現役生やOBが試合をし、市や当会議所も準備に関わりました。応援合戦は盛り上がりました。古関先生の縁で福島に若い人が来てくれた。試合後も果物や温泉を楽しんで、福島の魅力を知っていただいたようです。福島の魅力はたくさんありますが、古関先生はそれらをつなぐ要です」  ――今年度取り組んでいる重点施策について。  「激変する経営環境に対応できる、足腰の強い経営ができるよう企業や商店の伴走型支援に取り組んでいきます。具体的には人手不足や資材高騰、デジタル移行に対応します。セミナーで一方的に教えるだけではなく、職員が赴いて親身に対応できるよう、商工会議所では人づくりを進めています。来年のカレンダーを配る時期ですが、会員事業所には職員が直接回って配り、ネット環境の整備や人手の確保、新商品開発に使える便利な制度を紹介するなど対面であらゆる相談に乗っています。若手職員が出向くことで気兼ねなく相談できるとの声があります。  浮かび上がった課題は、当会議所の各種委員会で共有して解決策を編み出します。いくつかの委員会では女性や会議所議員になってから1年以内の若手メンバーを委員長に据え新しい風を取り込んでいます。多種多様な意見をまとめていくのは並大抵ではありませんが、その分チャレンジングな発想が生まれます。時代の変化に合わせて新たな経営視点を会員事業所と一緒に磨き上げていきたいです」

  • 【県南建設事務所】手塚孝良所長インタビュー

     てづか・たかよし 1967年生まれ。福島市出身。東北大工学部資源工学科卒。1989年福島県入庁。道路整備課主幹、下水道課長などを歴任。今年4月より現職。 県民が求める社会資本整備・管理に取り組む  ――4月に県南建設事務所長に就任されました。管轄地域の印象はいかがでしょうか。  「栃木・茨城両県と接し、東北新幹線、東北道、あぶくま高原道などの高速交通網が発達している一方で、美しく豊かな自然に囲まれた地域でもあります。白河関跡、小峰城跡、棚倉城跡など歴史的文化遺産や伝統文化も多く魅力溢れる地域です」  ――2月4日には国道294号白河バイパスが開通しました。  「市街地を通る現道はクランクが多く、十分な歩道幅も取れないことから、1995(平成7)年度に延長4120㍍のバイパス整備に着手しました。開通により安全・安心な通行が確保されるとともに、市街地を経由して白河中央スマートインターチェンジと国道289号が直結し、白河厚生病院等へのアクセスが向上しました。市の循環バス『こみねっと』が4月からバイパス経由の新規路線を開設したほか、バイパス周辺にある小峰城や南湖公園への観光客も増加しています」  ――建設業界の人材不足が課題となっていますが、県としての対策は。  「県土木・建築総合計画でも目標の一つに『持続可能な建設産業』を掲げています。当事務所では担い手確保として、小学生や高校生、一般の方向けの現場見学会を実施しており、関心を持っていただけるようにそれぞれ内容を工夫しています。  一般の方向けの現場見学会としては、昨年度に南湖トンネル、今年度に堀川ダムでキャンプを実施し、施設の役割や建設業の重要さを学んでいただきました。子どもからお年寄りまで多数の参加があり、建設業をアピールできたのではないかと思います。  トンネルキャンプは全国でも2例目、ダムキャンプは全国でも初の試みだと思われます。今後も、担い手確保に向け日々シンカ(新化)し、有効な取り組みを進めます」  ――結びに抱負を。  「県土木・建築総合計画の地域別計画で定められている『県を越えた広域連携の中心として、自然、歴史、伝統文化をいかしながら、持続的に発展する県南地域』の達成に向けて各種施策に取り組んでいきます。  道路事業では、国道289号、国道118号などの広域的な道路ネットワークの強化、幹線道路の整備を推進することで、地域の物流の円滑化、産業や観光の振興を支援し、活力あるまちづくりを目指します。  国が進める阿武隈川の遊水地群整備をはじめ、各水系の流域治水対策事業や砂防事業などの推進、県有施設の長寿命化事業などにも重点的に取り組み、災害に強く安全で安心なまちづくりに努めます。  安全・安心、豊かさを次代につなげられるよう、県民が求める真に必要な社会資本の整備、管理に取り組んでいきます」 県南建設事務所ホームページ