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【陸自郡山駐屯地強制わいせつ事件】「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為

【陸自郡山駐屯地強制わいせつ事件】「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為

 陸上自衛隊郡山駐屯地に所属していた元自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県東松島市出身=に服の上から下半身を押し付け性行為を想起させる「腰振り」をしたとして、強制わいせつ罪に問われた元男性隊員3人の公判は8月23日で3回目を迎えた。これまでに当時現場にいた現役隊員や元隊員ら4人が証言。自衛隊内の犯罪を取り締まる警務隊が「口裏合わせ」の時間を与えてしまった初動捜査の問題が浮かび上がった。

証人は自らの嘘に苦しむ

第3回公判を終えた後、取材に応じる五ノ井さん=8月23日、福島市

 事件は2021年8月3日夜、北海道・陸自矢臼別演習場の宿泊部屋で起こった。検察側の主張では、郡山市に駐屯する東北方面特科連隊第1大隊第2中隊(約50人)の一部隊員十数人が飲み会を開き、居合わせた隊員の中では階級が上位だった40代のF1等陸曹(1曹)と30代のB2等陸曹(2曹)が格闘談義で盛り上がり、F1曹が「首を制する者は勝てる」と発言。相手の首をひねり、痛がったところで地面に押し付ける技「首ひねり」を五ノ井さん(1等陸士)に掛けるよう3等陸曹(3曹)の男性に指示。男性3曹は倒した五ノ井さんに腰を押し付ける行為をした。2人の男性3曹が順に同様の行為をした。五ノ井さんはその部屋で唯一の女性だった(階級は当時。匿名表記は五ノ井里奈著、岩下明日香構成『声をあげて』2023年、小学館に準じた)。

 今回、強制わいせつ罪に問われているのは、いずれも郡山市在住で現在は会社員の渋谷修太郎被告(30)=山形県米沢市出身、関根亮斗被告(29)=須賀川市出身、木目沢佑輔被告(29)=郡山市出身。防衛省はこの3人のわいせつ行為を認定。F1曹が首ひねりを指示したこと、B2曹が別の機会に五ノ井さんにわいせつ行為をしたことも認め、昨年12月に5人を懲戒免職した。3被告とB2曹は懲戒免職前の同10月に、「軽率な行動」を詫びる謝罪文をしたため、五ノ井さんに直接謝罪していた。だが3被告は、裁判では一転「わいせつ目的ではなく笑いを取るため」「下半身の接触はなかった」などと否認している。

 物的証拠はない。そのため、検察側は現場にいた4人を証人にした。

 1人目の証人は懲戒免職されたB氏。2021年に行われた警務隊の取り調べ前、部下に当たる3被告から「自分たちはやってないんで、やってないって言います」と言われ、「じゃあ俺も見てないってする」と口裏を合わせた。

 五ノ井さんが被害を実名告発後、取り調べが頻繁に行われるようになり、2022年9月か10月に渋谷被告から「Bさんだめです。もう話します」と言われ、次の日に「真実を伝えました」と打ち明けられたという。B氏は「なんで俺は嘘を付いているんだろう」とさいなまれ「見てない」という当初の証言を覆した。

 B氏は法廷で渋谷、関根両被告が五ノ井さんに性行為を思わせる「腰振り」をしていたと証言。B氏は笑いながらも「やり過ぎだ」とたしなめたという。

 2人目の証人X隊員は当時、渋谷被告の同期。関根、木目沢両被告の後輩に当たる。渋谷被告と木目沢被告らしき風貌の人物が五ノ井さんに腕立て伏せをするような体勢で覆い被さったのを見たと証言した。技を掛ける前には、渋谷、木目沢両被告ら男性隊員複数人が必要以上に五ノ井さんに接近して囲み、「キャバクラのような雰囲気」でプライバシーに関わる内容を聞いていたという。

 3人目の証人Y氏は、県外の自衛隊地方協力本部に勤務。3被告の先輩だった。自分が寝るベッドを背に酒を飲んでいた。音がして振り向いたところ、渋谷被告が五ノ井さんをベッドに押し倒したような状況を目撃したと証言した。次に振り向いた時は、木目沢被告と五ノ井さんが同様の状況にあった。

 最後の証人Z隊員は、郡山駐屯地に勤務。当時は、3被告の後輩に当たる。苗字と訛りから県内ゆかりの人物のようだ。被告たちの前に衝立を置いて証言台に立った。

 部屋では当初13人で宴会を行い、渋谷、関根両被告は後から来たと証言。渋谷被告と一緒にF1曹に乾杯をしに近づき、「首を制する者は勝てる」発言を聞いた。F1曹かB2曹の指示で渋谷被告が五ノ井さんに首ひねりを掛けてベッドに倒し、お笑い芸人レイザーラモンHGのような「ウェーイ」という声を発し、複数回腰を振るのを目にした。着衣越しに陰部が五ノ井さんに当たっているように見えた。関根被告も同様の行為をしたという(レイザーラモンHGを真似た言動をしたかは不明)。周囲は笑っていた。

 被告や証人たちは再捜査後、警務隊や検察からの度重なる取り調べに相当参っていたようだ。弁護側は、被告や証人の証言が自発的なものかを確かめるため、聴取を受けた回数や頻度、事件直後に警務隊が聞き取った内容との食い違いを指摘した。

 そもそも、初動捜査で隊員たちに「口裏合わせ」をする時間を与えてしまった警務隊に不作為があったのではないか。警務隊が捜査に消極的だったことも、五ノ井さんの著書からうかがえる。

 五ノ井さんは事件から約1カ月後の2021年9月に警務隊の聞き取り調査に応じ、捜査員から「警察と違って、警務隊には逮捕する権限がないんだ」と言われた(前掲書94ページより)。だが、これは虚偽。自衛隊法96条に、警務隊は「刑事訴訟法の規定による司法警察職員として職務を行う」とあり、自衛隊内の犯罪については容疑者を逮捕・送検する権限を持つ。

 五ノ井さんの著書には、捜査への本気度が薄いと感じる描写もある。この捜査員に付いてきた書記官は居眠りし、何度も手に持っているペンを落としたという。警務隊からは、訓練を理由にすぐには男性隊員たちを事情聴取できないと言われ、五ノ井さんは「人の記憶はどんどん薄れていってしまうというのに、どうして早急に対応してくれないのだろう」と書いている。

不祥事隠蔽の温床

 月刊誌『選択』7月号「お粗末な『警務隊』の実態」は、そもそも捜査能力に疑問符を付けている。今年6月に岐阜県内の射撃場で発生した自衛隊員による銃撃事件では、自衛隊施設内での犯罪にもかかわらず、発生当初から警察が介入し、警務隊は「おまけのような扱い」(防衛省関係者)だったという。警務隊が「身内の不祥事を隠蔽する温床になっている」(警察関係者)との指摘もある。

 今回の裁判は自衛隊関係者が傍聴し、熱心にメモを取っている。初動捜査を担当した東北方面の部隊を管轄する警務隊員かどうかは分からないが、「初めから抜かりなく捜査をしていれば、苦しむ人はもっと少なくて済んだのに」と筆者は思う。

 第3回公判の閉廷後、五ノ井さんは報道陣の取材に応じ、証人について「最初の自衛隊内の調査で正直に話してもらいたかった」と述べた。「同じ中隊で一緒に仕事をしてきた先輩たち。上司、先輩だからこそ(被告たちに)注意してほしかった」とも話している。被告3人が否認していることについては「証言がしっかり出ている。嘘を付かずに認めてほしい」と訴えた。

 嘘で苦しむのは他者だけではない。一番苦しむのは「嘘を付いている自分」と「本当のことを知っている自分」を内部に同居させ、それに引き裂かれる思いをしなければならない自分自身だ。

 第4回公判は9月12日午後1時半から福島地裁で行われる予定。渋谷、関根両被告が証言台に立つ。

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