【福島市松川町】メガソーラーで泥沼の工事費未払い騒動

 福島市松川町で建設が進むメガソーラーで工事費の未払い問題が起きている。同メガソーラーは市が「ノーモア・メガソーラー宣言」を出したあと、海外企業が建設を発表したことで注目を集めたが、未払い問題は元請け、一次・二次下請けを巻き込み、泥沼の様相を呈している。(佐藤仁)

現場で横行する元請け優位・下請け泣かせの契約

【福島市松川町】メガソーラー 地図

 福島市は2023年8月、「災害の発生が危惧され、誇りである景観が損なわれるような山地への大規模太陽光発電施設の設置をこれ以上望まない」とする「ノーモア・メガソーラー宣言」を出した。宣言には「設置計画には、市民と連携し、実現しないよう強く働きかけていきます」との文言が盛り込まれている。背景には、先達山で現在建設中のメガソーラーに市民から苦情が殺到したことがある。

 宣言に法的拘束力はなく「お願いレベル」にとどまるが、景観を壊しながら次々とつくられていくメガソーラーを行政が「もう要らない」と言い切った意義は大きい。

 ところが、それから1年も経たない昨年7月、ポルトガルのエネルギー企業「EDP」の子会社で再エネ大手「EDPR」が市内に出力44㍋㍗のメガソーラーを建設し、2025年9月に稼働させると発表した。

 《福島市松川町水原のゴルフ場跡地で建設が進んでいたメガソーラーの事業を購入し、東京ドーム約12個分にあたる60㌶に約6万3000枚の太陽光パネルを設置するという。

 もともとは茨城県の不動産会社が着手し、開発に必要な環境アセスメントの手続きを22年に終えていた。(中略)

 不動産会社がゴルフ場事業に注力することにしたため、土地は所有したまま、同年に事業権をシンガポールの再エネ関連会社に売却。EDPRが同関連会社を子会社にした》(朝日新聞デジタル昨年7月3日配信)

 ゴルフ場跡地とは2019年に閉鎖された「福島カントリークラブ」で、土地は福島カントリークラブ㈱(福島市、野澤敏伸社長)が所有。同所では一時期、同じ野澤氏が社長を務める㈱ノザワワールド(茨城県ひたちなか市)がメガソーラーの設置を計画していた。その後、事業権がEDPRに渡った経緯は朝日の配信記事にある通り。

 不動産登記簿によると、土地の所有者は現在も福島カントリークラブのままで、2023年1月に合同会社NW―3(東京都中央区、代表社員EDPR JAPAN)が「2023年1月20日から本発電設備の商業運転開始日の35年後の応当日まで1平方㍍1年当たり59円余の地代を支払う」ことを条件に地上権を設定している。代表社員の「EDPR JAPAN」はEDPRの日本法人。施設の名称はNW福島CC太陽光発電所という。

 「メガソーラーはもう要らない」とする福島市に、またもや巨大な施設が建設される状況に市民やマスコミの関心が向いているが、そんな現場で今、泥沼の騒動が起きている。

 「工事費を払ってもらえず、このままでは会社が潰れてしまう」

 こう嘆くのは㈱サムスターク(郡山市)の金井宏治社長である。同社は二次下請けとして杭、架台、太陽光パネルの設置を請け負い、昨年5月から現場で作業を始めたが、8月末に支払いを受けたのを最後に未払いが続いている。

 「トータルの請負額は2億円。このうち8月末までで4000万円もらいました。しかし、その後は一切払われず、未払い金は10月末時点で三千数百万円です」(金井氏)

 同社は未払いが続いたあとも作業を続けたが、資金的に耐え切れなくなり、11月中旬に工事をストップした。そこまでの未払いは計5000万円近くに上るという。

 同社は工区全体の3分の2の工事を任され、契約では昨年末までにパネルの設置をほぼ終えることになっていたが、進捗率は昨年10月時点で3割にとどまっていた。

 筆者も昨年末、現場を訪れたが、一部の個所ではパネルの設置が進んでいたものの、ほとんどが杭のみが打たれた状態で、架台が設置された個所は少しだけだった。

尾を引いた遅延違約金

工事が進んでいないメガソーラーの現場
工事が進んでいないメガソーラーの現場

 サムスタークに工事費を払わないのは、一次下請けの㈱アークスフォーム(宮城県岩沼市)である。

 「うちはアークスフォームの専務を窓口にやりとりしていたが、専務が入院したとかで音信不通になってから急に様子が変わって……。例えば、精査したら払い過ぎていたので今月はもう払えないとか、工期に間に合うよう工程表を作り直せとか、人員計画書を至急出せとか。同社は『それらをきちんとやれば工事費を払う』の一点張りでした」(同)

 金井氏も工事が遅れていたことは認めている。ただ、資材が予定通り納入されないなど外的要因が影響した面もあったと主張する。

 「そもそも出来高払いなので、工事をやった分は払ってほしい」(同)

 工事はEDPRから自然エンジニアリング㈱(東京都中央区)に発注され、その下に一次下請けのアークスフォーム、二次下請けのサムスタークが入っている。

 「さらに、うちの下に三次下請けとして数社入っていますが、未払いにより(三次下請けに)支払いができていません。自分の従業員にも給料を払えていません」(同)

 困った金井氏は元請けの自然エンジニアリングに仲裁を求めたが、「アークスフォームには払うべきものを払っている。あとは一次と二次の問題」とつれない態度だったという。

 確かに下請け同士の問題だが、元請け責任は果たすべきではないか。工事の中断が長引けば自然エンジニアリングも困るはずだ。

 「当社でもできうる限りのことはしました」

 と釈明するのは自然エンジニアリングの工事部長である。

 「私は昨年10月に行われた両社の協議に立ち会いました。その時、明らかになったのは出来高についての認識の齟齬でした。ですので、まずはそこを一致させるよう指導し、その結果、9月末までの出来高で1500万円余の未払いがあることを両社間で合意しました」(工事部長)

 工事部長はアークスフォームに未払い分をサムスタークに払うよう指導した。しかし、両社の契約にはディレイペナルティ(遅延違約金)の条項があり、アークスフォームは「工事遅延による違約金が発生しているのでサムスタークには払えない」と主張したという。ディレイペナルティが発生した場合、下請けへの支払いが残っていたら相殺できる契約になっていたからだ。

 「いくら元請けでも契約には踏み込めないので『よく話し合ってクリアにしてほしい』と指導しました。その後、どういう結論になったかはどちらからも報告はない」(同)

 とはいえ、未払いが続いている状況は放置できないと顧問弁護士に相談したところ、①建設業法では自然エンジニアリングからアークスフォームに対し、サムスタークへの支払いを行うよう是正勧告することはできるが強制力はない、②自然エンジニアリングがアークスフォームに代わってサムスタークに立て替え払いすることは二重払いになる恐れがあり、商法上認められない――との見解が示された。

 これを受け、自然エンジニアリングが出した結論がアークスフォームとの契約解除だった。

 「アークスフォームは下請けを別業者に替えて工事を続行しようとしたが、入れ替えた業者にも工事費を払っていませんでした。こういう会社とはもう取引できないと、1月中旬に契約解除を伝えました」(同)

 その後、自然エンジニアリングは入れ替わった業者と直接契約を交わし、工事を継続している。形としては一次下請けがいなくなったので、元請けと二次下請けが契約している。ということは、自然エンジニアリングとサムスタークが直接契約することも可能なはずだが、ディレイペナルティの問題がクリアにならないと難しいという。

 「アークスフォームが入れ替えた業者はもともとサムスタークの下についていた三次下請けで、その業者にはディレイペナルティの条項がなかったため、当社と直接契約することができた。これに対し、サムスタークはアークスフォームと一括契約を交わし、ディレイペナルティの条項があった。そこが、直接契約が可能か否かの大きな違いです」(同)

 余談になるが、この工事部長をめぐっては「特定の業者から裏金をもらい、工事で優遇している」とのウワサが囁かれているが、当人は全面否定する。

 「本当に迷惑している。きっかけは、地元業者を紹介してくれた仲介人が『現場に入るには工事部長に賄賂が必要』とウソをつき、地元業者から別口でカネを受け取っていたことでした。私はその事実をあとから知ったが、仲介人が自分の懐に入れるカネを、私の名前を使ってせしめていたかと思うと腹立たしい」(同)

工事費を仮差押

 サムスタークの金井氏は「未払いがある」と主張し、自然エンジニアリングの工事部長は「厳しく指導した」と話すが、アークスフォームはどんな見解を示すのか。取材に応じたのは上坂賢二副社長である。

 「金井氏はかなりの出来高があると主張しているが、どうやったらその金額になるのか教えてほしい。ディレイペナルティによって(未払い分が)相殺されることを考慮していないのではないか」(上坂氏)

 上坂氏は、そもそもサムスタークが工事を遅延させなければ問題は起きなかったと主張する。

 「金井氏は70人体制でやるべき工事を、最大五十数人しか(三次下請けを)連れてこられなかった。7月は20~30人しかいなかった。事情を聞いても『すいません』としか言わない。(工事遅延の)原因がサムスタークにあったのは明白なのに、ディレイペナルティを考慮しないのは契約無視と一緒です」(同)

 ただ、アークスフォームとしても工事を継続させるため、サムスタークから新しい工程表や人員配置書を出し直してもらうことで体制の立て直しを図ろうとしたという。

 「ところが、サムスタークは工程表や人員配置書を出さない、というか書けない。しかも、同社と三次下請けの支払い状況を確認したら、うちが同社に払っている単価より高く(三次下請けに)払っていることが分かったのです」(同)

 上坂氏は「出来高に関する証拠資料はあるので裁判になっても問題ない」と強気の姿勢。そして取材の中盤からは、怒りの矛先を自然エンジニアリングに向けた。

 「工事序盤から人員不足になっていたことは自然エンジニアリングも分かっていたはず。それを見て見ぬふりをしていたのは、サムスタークを指導できなかったうちにも責任はあるが、自然エンジニアリングも元請け責任が問われると思う」(同)

 これについては、アークスフォームの現場代理人も「元請けにはトラブルが起きる度に相談したが『何とかしろ』としか言われなかった。下請けの範疇ではない部分も対応してくれないので、元請けの人たちは現場のことを全く把握していないんだなと思った」と証言する。

 上坂氏は「ディレイペナルティで苦しんでいるのはうちも同じ」と嘆く。実は、サムスタークの金井氏は昨年12月12日、アークスフォームを債務者、自然エンジニアリングを第三債務者とする仮差押を地裁郡山支部に申し立てている。アークスフォ
ームが預貯金等を保有している可能性は低く、唯一の資産として推測されるのが自然エンジニアリングから払われる工事費なので、金井氏は工事費の保全(仮差押)に動いたのだ。アークスフォームが自然エンジニアリングに有する債権にはこのほか、長野県のメガソーラーで下請け工事をした際の代金があり、金井氏はこの工事費も保全(仮差押)の対象とした。請求債権は昨年9、10月分の未払い工事費と、サムスタークがアークスフォームに依頼されて立て替えた重機リース代の合計約2835万円。地裁郡山支部は12月20日に仮差押を決定している。

 「自然エンジニアリングは仮差押を受け、うちに対する債務は存在せず、存在した場合でもディレイペナルティに基づく債権で相殺すると主張しています。おかげでうちは、同社からもらえるはずだった工事費を止められ、サムスタークと入れ替えた業者に支払いができなくなりました。さらに何の問題も起きていない長野県の現場の工事費まで仮差押され、踏んだり蹴ったりです」(同)

 上坂氏によると、自然エンジニアリングの担当者からは「12月まではディレイペナルティを科さないので工事を進めてほしい」と言われていたという。その言葉を信じ、わざわざ前渡金を払って新たな業者を確保した。にもかかわらず、年が明けた途端「サムスタークから仮差押されたが、その債務は(アークスフォームとの)ディレイペナルティで相殺できる」と言い出し、挙げ句、1月中旬に契約を解除されたから、上坂氏は「自然エンジニアリングに上手いこと利用され、切り捨てられたようなもの」と憤る。

下請けに理不尽な契約

 元請け、一次・二次下請け、それぞれの言い分を聞いてきたが、工事費の未払い問題は今回に限った話ではなく、あちこちの現場で聞く。背景には、メガソーラーの現場が抱える構造的問題がある。

 本誌の手元にアークスフォームとサムスタークが交わした契約書のコピーがあるが、その中に気になる一文がある。

 《元請負人側の本契約時の設計の確認、補完、現地確認、転石等の土質の結果によって生ずる設計変更により工事金額の増減が発生した場合でも、追加精算は認めません》

 実際に工事が始まれば想定とは異なる事態に直面し、追加工事を迫られることも少なくないが、それは認めないという「元請け絶対優位」の内容になっている。

 この契約書は一次・二次下請けの間で交わされたものだが、アークスフォームは全く同じ内容の契約書を自然エンジニアリングとも交わしている。下請けになればなるほど理不尽さが増す契約と言っていい。

 ちなみに前記一文には《元請負人より大幅な設計変更・施工方法変更の指示により工事金額の増減が発生する場合で、下請負人が書面によりその詳細を報告したときは両者で協議のうえ工事金額の増減を決定》と但し書きがあるが、元請け優位に変わりはなく、下請けの不利を防ぐ建設業法をかわす狙いで付け足したとしか思えない。前出・自然エンジニアリングの工事部長は「指導した」と繰り返したが、下請けのことをどこまで本気で考えたかは疑問だ。

 外資の再エネ会社で現場所長を務める人物はこんな本音を漏らす。

 「太陽光発電の売電価格が下落したため、事業者は建設コストを削減せざるを得ない。そうなると、工事は安値で請け負ってくれる業者に発注され、受注した元請けは儲けを出そうと下請けに厳しい契約を強いる。そして二次・三次下請けへと連鎖していく。こうした悪循環が未払いを発生させる元凶になっている」

 追加工事の費用精算が認められないのは、外資がランプサム契約(契約金額として約定された固定金額で契約上の義務を請け負う契約)を用いることも影響しているようだ。余計な支出はしたくない、投資目的の外資らしい考え方と言える。

 NW福島CC太陽光発電所は今年9月に稼働開始する予定だが、泥沼の未払い問題に対応しながら工事を継続させることはできるのか。

佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

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