「原子力緊急事態宣言」の闇【特集・原発事故から14年】

「原子力緊急事態宣言」の闇【特集・原発事故から14年】

 福島第一原発事故後に発令された「原子力緊急事態宣言」は14年が経った今も解除されていない。言い換えると、今も「原子力緊急事態宣言」の下にあるということだが、そこに潜む問題に迫る。

〝曲解〟で放射線管理区域の概念を無視

緊急事態の原因となった福島第一原発(今年1月、マスコミ公開の代表撮影)
緊急事態の原因となった福島第一原発(今年1月、マスコミ公開の代表撮影)

 原子力緊急事態宣言は「原子力災害対策特別措置法」に基づく措置。同法ではおおよそ次のように規定されている。

 ○原子力規制委員会は、原子力緊急事態が発生したと認めた場合、内閣総理大臣に報告する。(第15条)

 ○内閣総理大臣は、その報告があったら、直ちに原子力緊急事態が発生したことを公示(※編集部注・このことを指して「原子力緊急事態宣言」という)する。(同2項)

 ○内閣総理大臣は、当該地域の市町村長、都道府県知事に対して、避難・屋内退避の勧告・指示を行うほか、緊急事態応急対策に関する事項を指示する。(同3項)

 ○内閣総理大臣は、原子力災害の緊急事態応急対策を実施する必要がなくなったと認めたら、速やかに原子力緊急事態宣言の解除を行い、その旨を公示する。(同4項)

 ○内閣総理大臣は、原子力緊急事態宣言をしたときは、その対策推進のため、内閣府に原子力災害対策本部を設置する。(第16条)

 ○原子力災害対策本部長は、内閣総理大臣(内閣総理大臣に事故があるときは、あらかじめ指定する国務大臣)を充てる。(第17条)

 ○原子力災害対策本部長は、緊急事態応急対策を的確・迅速に実施するため、特に必要があると認めるときは、その必要な限度において、関係指定行政機関、関係指定地方行政機関、地方公共団体長、その他の執行機関、指定公共機関、指定地方公共機関、原子力事業者に対して、必要な指示をすることができる。(第20条2項)

 ○原子力災害対策本部は、その設置期間が満了した時に、廃止されるものとする。(第21条)

 要するに、原子力緊急事態が発生したら、原子力緊急事態宣言を発令して原子力災害対策本部を立ち上げ、原子力災害対応のためにさまざまな指示をすることができる、ということだ。

 福島第一原発事故を受け、政府が「原子力緊急事態宣言」を発令したのは2011年3月11日。その公示文は次の通り。

 平成23年(2011年)3月11日16時36分、東京電力㈱福島第一原子力発電所において、原子力災害対策特別措置法第15条1項2号の規定に該当する事象が発生し、原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実施する必要があると認められるため、同条の規定に基づき、原子力緊急事態宣言を発する。

 以降、原子力災害対策特措法に基づき、さまざまな指示などが発せられることになるわけだが、その履歴をたどっていくと、住民への避難指示や農畜産物の出荷制限・作付け制限が主なもの。

 住民への避難指示は屋内退避区域、緊急時避難準備区域を含め13市町村にわたるが、現在は帰還困難区域の特定復興再生拠点区域外を除き、すべて解除された。残る区域も、2029年までの解除を目指している。ただ、その対象住民に避難指示を継続させている以上、すぐに原子力緊急事態宣言を解除することにはならない。いまの状況で原子力緊急事態宣言を解除しようと思ったら、帰還困難区域(特定復興再生拠点区域外)の避難指示を継続させるための特例措置を設ける必要がある。

 一方、原子力災害対策特措法(原子力緊急事態宣言)に基づき設置された原子力災害対策本部は、いまも定期的に開催されている。本部長は時の内閣総理大臣で現在は石破茂氏。直近では昨年12月に開催され、議題は「福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等の推進に関する体制の強化について(案)」だった。要するに、除染土再利用についてで、この問題については本誌1月号をはじめ、折に触れて問題点を指摘してきた。

 端的に言うと、除染作業により発生した除染土壌は、双葉・大熊両町に設置された中間貯蔵施設に運び込み、30年間(2045年3月まで)、適正管理した後、県外で最終処分することになっている。除染土再生利用計画は管理しなければならない除染土の容量を減らし、それによって県外最終処分をより現実的にするのが狙いとされる。しかし、容量を減らしたところで、最終処分を受け入れてもいい、というところが出てくるとは思えない。そう考えると、除染土再生利用はさほど意味があるように思えず、県外最終処分の道筋を付けることに全力を注ぐべき、ということ。

専門家の指摘

 一方で、本誌にも度々コメントを寄せてもらっている小出裕章・元京都大学原子炉実験所(現・京都大学複合原子力科学研究所)助教の報告文「2つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織」(『NO NUKES voice』=鹿砦社、2020年10月号掲載)には次のように記されている。

 フクシマ事故が起きた当日、日本政府は「原子力緊急事態宣言」を発令した。多くの日本国民はすでに忘れさせられてしまっているが、その「原子力緊急事態宣言」は今なお解除されていないし、安倍首相が(※東京オリンピック誘致の際に)「アンダーコントロール」と発言した時にはもちろん解除されていなかった。

 (中略)フクシマ事故が起きた時、半径20㌔以内の10万人を超える人たちが強制的に避難させられた。その後、当然のことながら汚染は同心円的でないことが分かり、北西方向に50㌔も離れた飯舘村の人たちも避難させられた。その避難区域は1平方㍍当たり、60万ベクレル以上のセシウム汚染があった場所にほぼ匹敵する。日本の法令では1平方㍍当たり4万ベクレルを超えて汚染されている場所は「放射線管理区域」として人々の立ち入りを禁じなければならない。1平方㍍当たり60万ベクレルを超えているような場所からは、もちろん避難しなければならない。

 (中略)しかし一方では、1平方㍍当たり4万ベクレルを超え、日本の法令を守るなら放射線管理区域に指定して、人々の立ち入りを禁じなければならないほどの汚染地に100万人単位の人たちが棄てられた。

 (中略)なぜ、そんな無法が許されるかといえば、事故当日「原子力緊急事態宣言」が発令され、今は緊急事態だから本来の法令は守らなくてよいとされてしまったからである。

 前述したように、現在も避難指示が続く区域の対象住民に、避難指示を継続させている以上、すぐに原子力緊急事態宣言を解除することはできない。だからといって、小出氏が指摘したように、原子力緊急事態宣言を理由に「1平方㍍当たり4万ベクレルを超えて汚染されている場所は『放射線管理区域』として人々の立ち入りを禁じなければならない」というルールを無視している状況は見過ごせない。
 

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