情報公開後進自治体から脱皮する伊達市・国見町

 かつては養蚕が盛んで産業先進地と目された伊達地方で、公文書を一般市民に開示する情報公開制度を巡り注目すべき動きが出ている。請求権者を市内在住者などに制限していた伊達市は撤廃。国見町は開示請求者との訴訟を通じて後進性を理解させられ、開示に向けて譲歩した。情報公開後進自治体が多い福島県内では、伊達地方が風穴となりつつある。

伊達市が開示請求権の制限を撤廃  英断の陰で後進性が際立つ桑折町

福島市と伊達地方の開示請求権者2024年度から25年度の変化

福島市何人も
伊達市制限(任意開示)→何人も
桑折町制限
国見町何人も
川俣町制限(任意開示)

 伊達市は議会3月定例会に情報公開条例改正案を提出し、原案通り可決後、4月から施行している。これまでは開示請求権者を市内在住者や市内に通勤・通学する者などに限ってきたが、制限を設けない「何人(なんぴと)も」に変えた点が肝だ。

 改正前の条例では、市外在住者など開示請求権がない者については、「条例の趣旨に反しない限りにおいて、当該行政情報を開示するよう努めるものとする」とし、開示は市の努力義務に過ぎず、開示を拒否できる余地があった。改正された条例では、公文書開示請求が権利として何人にも認められたことで、市が決定した不開示や一部開示(黒塗り)について、誰でも不服申し立てができる。行政不服審査法に基づき、権利侵害の是正を求める審査請求(不服申し立て)が可能となったからだ。

 伊達市は市長の付属機関として、弁護士、大学教授、一般委員ら4人からなる情報公開・個人情報保護審査会を置き、審査請求があった場合に第三者の立場から審議し、開示すべきかどうかを市に答申する。一般的に、委員は文書の黒塗りを除いた状態で閲覧して審議するインカメラ方式を採る。妥当な判断が出るとは必ずしも言えないが、チェック体制は進んだ。

 伊達市情報公開条例の改正案議決に先立って、3月11日の議会総務生活常任委員会では議案審査が行われた。委員を務める議員からは次の質問が出た。

 大竹重範委員(議員1期)「何人もということは外国人も請求できるのか」

 佐々木雅彦総務課長「そうだ」

 大竹委員「国益を害する請求に対しても全て開示するということか」

 佐々木総務課長「開示できる部分とできない部分を精査して開示していく」

 島明美委員(議員1期)「開示請求はオンラインでできるようになるが、開示決定通知はオンラインか」

 佐々木総務課長「郵送になる」

 島委員「開示文書自体はオンラインで開示しないとのことだが、今後する可能性はあるか」

 佐々木総務課長「南相馬市ではオンライン開示の事例がある。オンラインではマスキングがずれやすい課題もあり、全国の自治体を調査して検討していきたい」

 半澤隆委員(議員5期)からは「以前、市が500万円支出した事業に関し開示請求したが、一番大事な金額の部分が黒塗りだった。市の補助金が原資なのに黒塗りはおかしい。今後はきちんと対応してほしい」との要望があった。

 総務課が「2024年度の開示請求件数は現時点で175件あり、外国人からの請求はこれまでない」と説明後、採決となり、異議なく原案通り可決すべきものとされた。条例改正案は本会議で原案通り可決された。

 委員からは「国益を害する開示請求」について懸念が上がったが的外れだ。まず、公共の情報へのアクセスを国籍や出自によって差別してはいけないというのが大前提。加えて、そもそも伊達市は改正前の条例で外国人を含む市外在住者からの任意開示を認めていた。にもかかわらず外国人からの請求はゼロ。請求権者の制限を撤廃したところで「国益を害する請求」が来るとは思えない。

 もっと言えば、米国(情報自由法)や日本(情報公開法)など民主主義国家は、外国人を含む誰しもから公文書の開示請求を受け付けている。「国益を害する情報」を本当に得ようとするなら、請求先は伊達市ではなく国防に関わる情報を持つ政府だろう。「国益侵害」は杞憂に過ぎない。誰にでも開示請求権を認めることで、むしろ国家や自治体の境界を越えて公害問題や入札不正を調査している研究者や報道機関などの公共性の高い活動に役立つ。

 本誌は昨年10月号で「伊達市は情報公開条例の改正に後ろ向き」と報じ、改善には期待していなかったが、その後、改正に動いた須田博行市長や担当部署の職員たちの尽力は評価すべき。前頁表のように伊達市が先を進む一方で、町外在住者には開示を一切認めない桑折町の後進性が際立つ結果となった。

国見町公文書訴訟の和解が破綻へ  原告「愛知の行政マン」の真の狙い

 国見町が下した公文書の全面不開示決定を巡り、町は昨年6月に開示請求者に不開示取り消しを求めて訴えられていた。町は一部開示に応じ原告との和解に向かったが、ここに来て原告はさらなる開示を求めて和解を撤回した。数々の公文書開示請求訴訟を戦ってきた原告の狙いとは。

 原告は今年3月まで愛知県西尾市の危機管理局長を務めていた簗瀬貴央氏(60)。行政監視をライフワークにしている。

 おさらいすると、訴訟は町が企業からの寄付優遇制度を利用して進めた高規格救急車事業が発端。受注業者との契約過程で、禁じられている寄付企業への利益供与があり、制度を所管する内閣府は昨年11月に事業の基となった計画の認定を取り消した。

 内部情報を知る立場にあった課長級の男性職員は、認定取り消し前の2023年、公益通報を目的に監査委員事務局に情報提供するが、町は「情報管理規程に違反した」として減給と降格の処分を科した。男性職員は「不利益処分は公益通報者保護法に違反する」と処分の撤回を求めて公平委員会に不服を申し立てた。簗瀬氏が町に開示請求後、提訴に至ったのは、男性職員への処分を不当と思い、処分の根拠を明らかにするためだった。

 今年3月までに、町から簗瀬氏に対し、和解を前提に一部開示された文書が届いたが、簗瀬氏は不十分と感じ、和解撤回を町に通告。簗瀬氏は町に対し、黒塗りとなっている①男性職員への処分を決めた国見町職員懲戒等審査委員会の庶務構成と②処分理由の開示を求め、福島地裁に訴えの変更を申し出た。

 町は①、②を自主的に開示し、裁判を不成立にするか、裁判所の判決を待つかの二択を迫られている。判決の場合、簗瀬氏の訴えが棄却される可能性もあるが、町が敗訴した場合、種々の不作為が裁判所から認定され、マスコミから大々的に報じられるリスクをはらむ。

 簗瀬氏は「処分理由を明らかにするのが狙い。もし町がマスコミに公表している処分理由と異なる内容だったら、公平委員会での係争にも影響を与える」と語る。

 次回の裁判は4月25日午前10時半から福島地裁で開かれる。

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