田部井淳子さんが愛した伊達市保原町のカフェ【マ・シャンブル】

田部井淳子さんが愛した伊達市保原町のカフェ【マ・シャンブル】

 三春町出身で、1975年に世界初の女性によるエベレスト登頂を果たした田部井淳子さん(1939―2016)。歴史的快挙から50周年を迎えた今年、田部井さんをモデルにした映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』(阪本順治監督)が製作され、10月31日から公開されている。

 原案は田部井さんのエッセー本『人生、山あり〝時々〟谷あり』(潮出版社)。映画の主人公・多部純子を吉永小百合さんが、その青年期をのんさんが演じる。佐藤浩市さん、天海祐希さん、木村文乃さん、若葉竜也さん、工藤阿須加さんなど豪華俳優陣が脇を固める。

 劇中ではエベレスト挑戦や、夫・正明(田部井さんの夫・田部井政伸さん)との出会い、登山と子育ての両立、がんとの闘い、被災地の高校生との富士登山、夫婦の絆など生涯が描かれる。郡山市の御霊櫃(ごれいびつ)峠に家族で登ったシーンもある。

 全国上映が始まり関心が高まる中、伊達市保原町の小さなカフェが静かな注目を集めている。田部井さんが生前、足しげく通っていた「マ・シャンブル」だ。

 セブンイレブン保原城ノ内店近くの住宅地の奥にある同店は、多様な種類のコーヒーと、東京の専門店仕込みのシフォンケーキが看板メニューの〝隠れた名店〟。この店の店主・坂下美恵子さんは田部井さんと田村高校(三春町)の同級生で〝淳ちゃん〟〝美恵子ちゃん〟と呼び合う仲だった。

来店客と談笑する坂下さん(左側)
来店客と談笑する坂下さん(左側)
「マ・シャンブル」に来店した田部井さん(右側)
「マ・シャンブル」に来店した田部井さん(右側)

 本誌2017年2月号「ふくしまに生きる」でも紹介しており、田部井さんについて、「高校時代から優秀でしたが偉ぶらず、登山家として超有名になってからも高校時代と少しも変わらず、気さくで友達思いの人でした」と語っていた。

 田部井さんは亡くなる10年前からシャンソンを歌い始め、東京、郡山などで仲間とコンサートを開いた。映画にも闘病中に歌う印象的な場面が登場するが、実はその舞台衣装を貸していたのは、先にシャンソンを始めていた坂下さんだったという。

 田部井さんは沼尻高原ロッジ(猪苗代町)の運営や講演会などで福島県に足を運ぶ際は、決まって「マ・シャンブル」に寄り道したという。

 「『ここに来ると落ち着くの』と話していました。連絡をもらって保原の鮮魚店で刺身を買い、一緒に夕食を食べたことも。来店時にはお客さんと気さくに話し、サインに快く応じながら、『じゃあ、〝サイン代〟ちょうだい』と手を出して笑わせたこともありました」(坂下さん)

 坂下さんは映画を観賞し、田部井さんと共に過ごした時間が鮮やかに蘇ったという。

 「亡くなる直前にも連絡をくれて、『病気のことを黙っていてごめん。店はやめないで。シャンソンも続けて』と言われました」(同)

 映画では世界初の女性エベレスト登頂の栄光だけでなく、1970年代に子を持つ女性がスポンサーを募り世界最高峰登山に挑む苦労、〝有名人〟になったことによる仲間との別れ、子育ての現実など〝影〟の部分にも触れる。それでも多部純子(田部井さん)は歩みを止めず、どんな困難に直面しても、高い山を登るように一歩ずつ前へ進んだ。「てっぺん」の向こうにいたのは、挑戦を見守り支え続けた家族であり、いまの時代を生きる私たちでもある。そんな田部井さんが晩年をどう生きたのかも見どころの一つだ。

 コロナ禍で苦境に立ちながらも、「店はやめるな」という田部井さんの言葉を胸に、「マ・シャンブル」は週末限定で店を開け続ける。映画を見て訪れた客と談笑する坂下さんの姿を見て、写真の中の田部井さんがそっとほほ笑んでいるように見えた。

マ・シャンブル」 営業時間 12時~16時30分。連絡先 ☎024(576)7606、☎090(4550)5553。

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