大東銀行を〝急襲〟した東邦銀行の狙い

昨年末、東邦銀行(福島市、佐藤稔頭取)が大東銀行(郡山市、鈴木孝雄社長)の筆頭株主になったというニュースは大きな関心事として伝わった。当然、両行による合併を連想した人も多かったはず。東邦銀行の狙いは何か、株式を取得された大東銀行は何を思うのか、将来的な合併はあるのか、検証する。

株式取得は大東銀行にとって〝寝耳に水〟

大東銀行の筆頭株主になった東邦銀行
自主独立路線を貫く大東銀行

一連の報道を散見すると、今回の株式取得は大東銀行にとって〝寝耳に水〟だったようだ。

大東銀行経営部の担当者は、本誌の取材に「東邦銀行から(株式取得に関して)事前に連絡があったかどうかはコメントを差し控えたい」と述べるにとどめた。一方、株式取得後に東邦銀行から挨拶等はあったのか尋ねると「特段ありません」。担当者も報道された内容以上のことは分からない様子だ。

年の瀬も押し迫る昨年12月26日に突然発表された、東邦銀行による大東銀行の株式取得。東邦銀行が同日付で発表したリリースには次のように書かれていた。

「当行は本日開催の取締役会において、大東銀行の株式をHSホールディングスより取得することを決議し、本株式取得に関してHS社との間で株式譲渡契約を本日付で締結したので、お知らせ致します」

HSホールディングス(東京都港区、原田泰成社長)は投資業務、M&A仲介、コンサルティング業務などを展開し、グループ会社にモンゴルのハーン銀行やキルギスのキルギスコメルツ銀行などがある。

HSホールディングスは大東銀行の株式を19・37%(228万1500株)所有する筆頭株主だったが、この全株式を東邦銀行が約20億円で取得した。東邦銀行はもともと、大東銀行の株式を1・55%(19万6595株)所有する第6位の株主だったが、今回、HSホールディングスから取得したことで19・67%(247万8095株)を所有する新たな筆頭株主となった。

HSホールディングスは2023年2月、当時の大東銀行の筆頭株主で国内外で金融事業を行うSBIホールディングス(東京都港区、北尾吉孝社長)から同行の全株式(19・5%分)を取得した経緯がある。

この時、HSホールディングスはマスコミの取材に「純投資目的の株式取得。今後の金融再編の動きを踏まえて投資した」と説明したが、今回も同じ理由から「今が売り時」と判断したのだろうか。

HSホールディングスに、いつ頃から大東銀行の株式売却を検討していたのか問い合わせると、担当者から次のような回答が届いた。

「当社は大東銀行の株式を保有し続けるという方針を決めていたわけではないので、特定の時点から売却の話を進めたということはありません。大東銀行の株式を取得した当初から、買い取りたいと提案を受けることもありました」

良い条件が提示されれば、いつでも売却する用意があった、と。株式を取得した当初から買い取りの打診を受けていたという話も、投資家の間で大東銀行株が魅力的に映っていたと解釈できる。実際、HSホールディングスは東邦銀行以外にも複数の売却先があったようだ。

「相手側との守秘義務もあるので当社からの売却打診数は回答を控えますが、当社からの打診のほかにも複数の相手先から買い取りたい旨の提案がありました」(同)

とはいえ、HSホールディングスは「どこに売っても構わない」と考えていたわけではない。

「公共性の高い銀行の株式なので取得する側の様々な調整も必要。それらの調整も含め、複数の相手先と交渉を進めていく中で、最終的に売却条件で合意に至ったのが東邦銀行でした」(同)

いわば良識に基づいて判断した結果、東邦銀行に売却することを決めたわけ。ちなみに同行は、株式取得にかかった金額を約20億円と発表しているが、HSホールディングスに正確な売却金額を尋ねると「正式な額は公表していない」(同)とのことだった。

HSホールディングスが純投資目的で大東銀行の株式を売却したことは分かった。では、東邦銀行が取得した狙いは何なのか。

東邦銀行は昨年12月26日付のリリースで取得の理由を次のように説明している。

「当行は大東銀行を県内において強固な営業地盤を抱え、成長性や競争力を有する銀行の一つと評価しています。また、主たる営業基盤である福島県において人口減少に歯止めがかからない中、地域の持続可能性を高めるには、同じ経営基盤である地域金融機関同士が健全な競合関係を維持しながらも互いの強みを活かして連携することが重要と考え、本株式取得の判断に至りました」

金融庁の「飴」と「鞭」

県内シェアトップの東邦銀行が2位の大東銀行の筆頭株主になれば、真っ先に浮かぶのは合併の可能性だろう。だが、リリースには「お互いの強みを活かしながら連携」とあるだけで、合併には言及していない。

東邦銀行と大東銀行の比較

社名東邦銀行大東銀行
本店所在地福島市郡山市
設立1941年1942年
資本金235億1900万円147億4300万円
総資産6兆6303億円8479億円
総預金6兆1670億円8054億円
貸出金4兆0540億円6674億円
連結自己資本比率10.75%11.04%
店舗数123店舗56店舗
従業員数1873人411人
※2025年3月末現在。ディスクロージャー誌より。


両行はこれまでも書類、手形、小切手などを共同輸送するためのメールカーの運行や相続手続きを共同実施するなどして経費削減を進めてきた。ただし、これらは福島銀行(福島市、鈴木岳伯社長)も含めた3行によるもので、東邦と大東の2行で共同実施している事業はない。

福島県は長らくオーバーバンキングにあると言われている。東邦、大東、福島の各地銀だけでなく、中通り、浜通り、会津の各地に地元に根ざした信用金庫、信用組合がある。茨城県の常陽銀行や宮城県の七十七銀行など県外行が県内に複数の支店を構えるのも特徴だ。

今後、人口減少が進めば預金量は減り、貸出先も減る。近年は高金利を謳うネット銀行との競争にさらされている。サイバー攻撃やマネーロンダリングへの対応など、金融サービスを安定的に提供するためのコストは増える一方。人手不足の中、高度なシステムや専門性に長けた人材の確保も難しくなっている。大規模な自然災害や感染症などが蔓延すれば、経営基盤が大きく損なわれるリスクもある。体力の小さい地銀は中長期的に経営の選択肢が狭まる可能性がある。こうした中で、福島県だけがオーバーバンキングの解消に向かわないことは考えにくい。

金融庁が昨年12月に発表した地域金融力強化プランによると、合併など事業の抜本的見直しを行う地域金融機関に対しては、2021年から2026年までの期限中に申請すれば返済不要の資金(上限30億円)を交付する制度を実施中。さらに、申請期限を2031年3月末まで延長し、交付する資金の上限も50億円に引き上げるとしている。業務改善命令を受けた金融機関が当事者となる場合や、地銀と信金・信組による業態を超えた合併を進める場合は、交付上限額を75億円にするなどのインセンティブも設けている。

一方で、将来の収益性や健全性に改善の余地があったり、抜本的な経営改革に踏み込めない地域金融機関を念頭に、早期是正措置の前段階となる早期警戒制度を強化するとともに、地域金融機関と緊密にコミュニケーションを図ることを前提としつつも、監督の実効性を高めるため、経営の実態に深く立ち入ることを示唆する。資金交付という「飴」と監督強化という「鞭」を打ち出すことで地域金融力を強化する、言い換えると合併を加速させる作戦だ。

他県の動きも見ておこう。昨年は新潟県の第四北越フィナンシャルグループと群馬県の群馬銀行、千葉銀行と千葉興業銀行がそれぞれ2027年4月に合併することで基本合意した。今年1月1日には長野県の八十二銀行と長野銀行が合併し、八十二長野銀行が発足した。

東北を見渡しても、2012年に山形県のきらやか銀行と宮城県の仙台銀行が合併し、持株会社じもとホールディングスを発足させて両行が完全子会社になった。昨年1月には青森県の青森銀行とみちのく銀行が合併し、青森みちのく銀行が発足。2027年1月にはフィデアホールディングス傘下の山形県の荘内銀行と秋田県の北都銀行が合併し、フィデア銀行が発足する予定だ。

株式取得で県外行の中通り侵攻に対抗

こうした状況を踏まえれば、東邦銀行の株式取得が大東銀行との合併を思わせるのは避けられないが、1月15日付の日本経済新聞はそれとは違った見方を紹介している。

《「県外銀行や海外のアクティビストに買われるよりは我々が買った方がよい」。ある東邦銀幹部は語る。HSHDが持っていた大東銀株には福島県外の金融機関だけでなく、海外勢も関心を寄せていたとされる。株式を一度取得されると福島県の商都・郡山により強力なライバルを迎え入れることになり、取り返しがつかない――。

大東銀への通達は直前までなかった。東邦銀関係者は「協業内容はこれから話し合う」と口をそろえる。店舗網の再編や勘定系システムの共同化などの具体案は行内でも検討が進んでいない。戦略を煮詰めたうえで株式取得に至る穏当な動きができなかった背景に、「まずは他行に先んじなければ」という焦りが透けて見える》(日経新聞「地域金融のいま動く福島地銀」より抜粋)

県内に食い込む常陽銀行

とりわけ日経新聞が注視するのが常陽銀行だ。民間信用調査機関の帝国データバンクによると、2025年の県内メインバンクシェアは東邦銀行が1位(39・5%)で、2位の大東銀行(9・06%)を30㌽も引き離している。上位10行中、9行が地元だが、実は県外行で唯一5位に入っているのが常陽銀行(3・64%)なのだ。同行は毎年上位10行に入るなど、県内の経営者に一定程度食い込んでいる。

一方、東邦銀行はメインバンクシェアトップではあるものの、同じく1位の青森みちのく銀行は県内シェア率71%、七十七銀行は同55%、岩手銀行は同45%と他県の第一地銀に大きく水をあけられている。

県内では今後、震災後に浜通りで始まった福島イノベーション・コースト構想に関連して大きな資金需要が生まれると見込まれている。常陽銀行はいわきを中心に各市に9もの支店を構える。七十七銀行も5支店体制で南相馬、いわきなどを中心に営業攻勢をかける。これに対し、東邦銀行は浜通りでの新たな資金需要を狙う一方、中通り、とりわけ商都と呼ばれる郡山へのこれ以上の県外行の進行を牽制するため、大東銀行の株式を取得しておく必要があったというわけだ。

もちろん、株式取得は「守り」のためだけではない。

《大株主として大東銀の経営状況を把握することが可能になり、経営統合も含む更なる協業深化をじっくり検討できる。シナジーが生み出せないとなれば株式を手放せばよい》(前記・日経新聞より抜粋)

大株主になれば「攻め」の検討も可能になる、と。

東邦銀行総合企画部の担当者は本誌の取材に次のように語る。

「大東銀行とどのように連携していくのか、具体的な中身はこれから協議していくことになります。当行が筆頭株主になったことで合併を連想した方もいると思いますが、あくまで株式取得による連携を模索するもので、合併は検討していません」

担当者の話しぶりからも、明確なビジョンがあって筆頭株主になったわけではない様子が伝わってくる。

株式を取得された側の大東銀行は何を思うのか。以下は同行が昨年12月26日付で発表したリリース。

「本件に関しては筆頭株主の異動が行われたものと認識しています。当行は安定経営を続けています。これまでの経営方針をより一層徹底していくことが取引先へのサービスと株主価値の向上につながると確信しています。今後、顧客満足度および株主満足度を一層高めて参ります。なお、経営統合等に関する協議・検討は行っていません」

単に筆頭株主が変わっただけ、ウチの経営は安定している、これからも顧客と株主のために独自のやり方を貫く――と宣言している。

リリースにある経営方針とは、2023年4月から2026年3月までを実施期間とする第6次中期経営計画に基づき「地域社会や取引先の課題を解決することで持続的で安定した収益を上げていく」という経営理念のもと、顧客保護、競争戦略、実質主義という三つの基本方針を徹底し、営業、人財、基盤の各戦略を展開していくことで、コア業務純益(投資信託解約損益を除く)最終年度30億円以上、当期純利益(単体)毎期12億円以上、自己資本利益率(当期純利益ベース)毎期3・5%以上という到達目標を掲げる。

大東銀行はリーマン・ショックや東日本大震災の年度は赤字を計上したが、2012年3月期以降はコロナ禍がありながらも14期連続で黒字を達成。他者に頼らない自主独立路線はこうして確立された。

鈴木孝雄社長には「規模は小さくても地域に根ざした経営で財務や収益力を上げられる」という自負がある。一方で、大東銀行は筆頭株主に振り回されてきた歴史もある。

「合併は検討していない」

2020年5月、当時筆頭株主だったマンション分譲、再エネ事業のプロスペクト(東京都渋谷区)が、所有する全ての株式をSBIホールディングスに売却すると発表。同社は取得の経緯を「プロスペクトからの譲渡の申し出に応じた。目的は純投資だ」と説明した。

だが、説明通りには受け取れない部分があった。SBIホールディングスは2019年に福島銀行と資本業務提携を行い、同行の筆頭株主になっていた。2020年6月の株主総会では、同社が指名する社外取締役も選任された。

SBIホールディングスの北尾吉孝社長は「地銀連合構想」を掲げ、福島銀行のほかに島根、筑邦(福岡県)、清水(静岡県)の各行に出資。出資先をさらに増やしていく方針も示していた。そんな同社が突然、大東銀行の筆頭株主になれば「福島銀行と一緒に地銀連合構想の一角を担うのではないか」という見方が浮上するのも当然だった。

最終的に大東銀行は地銀連合構想に加わらず、前述の通りSBIホールディングスは2023年2月、所有する全ての株式をHSホールディングスに売却した。大東銀行とSBIホールディングスが水面下でどのような協議をしたのかは分からないが、鈴木社長はこの時も自主独立路線を鮮明にしたのだ。

その直後、大東銀行は同年6月から三浦謙一専務が社長に昇格し、鈴木社長は代表権のある会長に就任する人事を発表。新体制下でも自主独立路線を継続しようとしたが、三浦社長が健康上の理由でわずか1年で社長を辞任し、鈴木会長が再び社長に戻った。同行の目下の課題は、人材・後継者の育成だ。

あらためて、東邦銀行が筆頭株主になったことについて大東銀行にコメントを求めると、経営部の担当者は次のように述べた。

「当行の見解はリリースで発表した通りで、それ以上はお答えできません。合併を検討している事実もありません」

1月16日付の日経新聞によると、東邦銀行と大東銀行が置かれている状況は、2025年に千葉銀行がファンドから千葉興業銀行の株式を取得し、その後、合併に合意した構図に似ているという。千葉県は地銀3行体制で、千葉銀行がトップ、千葉興業銀行は3番手行で自主独立路線を歩んでいた。

これから始まる協議で、東邦銀行と大東銀行はどう連携を図り、前述した地域金融力強化プランを意識した合併はあるのか、要注目だ。

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