葬祭の神保「お家騒動」を追う

葬祭の神保「お家騒動」を追う

会津若松市の老舗葬祭業㈱神保が、株式の権利を巡り、創業家と法廷闘争を繰り広げている。取締役を解任された創業家男性が、一族の復帰を目指して、「大株主の祖母(故人)が認知症で理解が及ばないのをいいことに、会社持株会に保有株を譲渡する契約を結ばせたのは無効」と主張して株の相続を求めて提訴。一審の地裁会津若松支部は訴えを認め、創業家所有の株が議決権ベースで過半数を上回った。ところが、二審仙台高裁は一審判決を取り消し男性の請求を棄却。創業家を除いた現体制が維持された。逆転勝訴の一因には、業績を改善させた現経営陣から以前の体制に戻るのを懸念するメインバンク会津信用金庫の支援があった。

現経営陣〝逆転勝訴” の背後に会津信金の支援

会津若松市大町にある神保創業の地
会津若松市大町にある神保創業の地

日本を代表するアクションスター、千葉真一氏(1939~2021)は会津人が受け継いできた武士道を愛していた。株主権を巡り「お家騒動」を繰り広げる老舗葬祭業㈱神保とは浅からぬ縁がある。2006年、千葉氏は旧藩校を会津若松市に復元した施設「會津藩校日新館」を時代劇の撮影所にする構想を発表。共に会見に臨んだのが会津若松市長(当時)の菅家一郎氏、そして、当時日新館を運営していた「会津武士道」の社長で、神保の社長も務めていた神保光一氏(2023年9月に68歳で死亡)だった。

神保は1900年創業。神保家が代々経営を担ってきた。千葉真一氏と神保グループの関わりを、生前の光一氏を知る会津の経済人が振り返る。

「復元した日新館は、会津若松商工会議所会頭を務めた経済人、高木厚保さん(故人)が率いる若松ガスグループがバブル期に始めた。同グループが2006年に各種事業を売却する中、東京の学校法人や宗教法人が日新館を欲しがっていた。藩校『日新館』の名を受け継いだ施設は会津人の心。教育施設という特別な思い入れもあり、地元で運営せねばと光一さんら経済人が考えていた。そこに千葉真一が撮影所構想を引っ提げてきた」

千葉氏が光一氏らと一緒に日新館を撮影所にする構想を発表した2006年が、ちょうど若松ガスグループから神保グループに経営が移った頃だ。

「光一さんはミーハーな面があって千葉真一の大ファンだった。運営会社の社長に就き、千葉真一に感化されて始めたのが映画撮影用に演技ができる馬を飼育する事業だ。人が合図をしたら倒れこみ、もう一度合図したら起き上がるといった水準にまで育てる。神奈川県にある牧場の一角を借りてやっていたようだから、人繰りも出費も大変だったと思う」(前出の経済人)

2019年ごろの写真を見ると、㈱神保シネマホース事業部なるものが存在し、「シネマホースプロダクション 会津武士道、Jimbo Riding Club」の名称で撮影専用馬を飼育したり貸し出したりしていたことが分かる。乗馬クラブも運営していた。

日新館の当時の運営会社「会津武士道」のサイトには、2019~20年にかけてシネマホース事業からの撤退を告げる「お知らせ」が載った。

《【営業終了のご挨拶】 このたび弊社は、本業の葬祭事業の経営合理化の一環として、2020年1月末日をもちましてシネマホース事業部(劇用馬レンタル事業、乗馬クラブ事業)のすべての営業(新規案件受付)を終了させて頂きました。(中略)(株式会社神保 シネマホース事業部 スタッフ一同)》

神保グループは日新館も2022年には手放し、市内出身の会社役員に経営譲渡した。

「ウェディングドレスなどの婚礼衣装を貸すブライダル事業からも撤退している。未婚化と結婚式の小規模化、そもそも挙式しない夫婦も増え、不採算事業だったという」(同)

不採算事業を清算

神保が経営合理化を進めた2019年は、光一氏が取締役に創業家出身者以外を大量に迎え入れた年だ。新たな経営陣の下で不採算事業の清算や家族葬施設の設備投資に踏み切り業績改善につながった。一方で、今につながる「お家騒動」の火種を抱えた年でもあった。この騒動は相続問題と事業承継問題をはらむ。大株主だった創業家の神保ヨシノ氏が2023年10月に亡くなるよりも前に、長男の光一氏が死亡したために発生した。

神保の業績

2024年11月、光一氏の長男の神保直人氏(44)が、祖母ヨシノ氏が生前保有していた全株式の権利が相続人の自分にあることの確認を求め、神保を相手取り地裁会津若松支部に提訴した。直人氏は2021年9月に取締役を解任されている。神保家は議決権ベースで3割の株式を保有するが、直人氏の解任以降、取締役は輩出していない。

一審は創業家の勝訴

経営陣刷新に当たり、同社は神保家が全株式を保有する仕組みから、役員や従業員が持株会をつくって創業家保有の株式を買い取り、経営に参画する方式に転換した。両持株会は、株式の相続・贈与に対して課される税金を非課税にしたり低く抑えたりできるメリットがある「配当還元方式」を採用して、1株当たり2万6000円の算定額で、2020年から翌21年にかけて光一氏とヨシノ氏から買い取った。ヨシノ氏は役員持株会に104株を270万4000円で、従業員持株会に360株を936万円で譲渡している。

神保の経営陣

譲渡から3年後、直人氏は契約が無効だと主張して訴訟を起こした。代理人は大野毅夫弁護士。請求内容は主に次の2点だ。

①ヨシノ氏(2023年10月に92歳で死亡)が生前に同社の役員、従業員で構成する二つの持株会に計464株を譲渡した手続きは、ヨシノ氏の認知機能が低下し、意思能力を喪失している中で行われたため無効。ヨシノ氏は株式譲渡契約の結果、創業家の影響力が低下することを理解しておらず、息子の光一氏が不正に記名・押印していた。

②直人氏は、ヨシノ氏(2023年10月に死亡)→長男・光一氏(同9月に死亡)→孫・直人氏と代を跨いで相続する権利があり、実際、遺産分割協議書に基づきヨシノ氏の464株を取得した。もともと自分が持っていた312株と合わせて権利があることを確認する。

対する神保側は、訴訟代理人に小池達哉弁護士を立てた。生前、光一氏がヨシノ氏に株式を譲渡するよう説得し、了解を得たのは正しい手続きだったと示そうと、説得に同席した司法書士の証人尋問が行われた。

地裁会津若松支部(島崎卓二裁判官)は、2025年7月17日、直人氏の訴えを全面的に認めた。ヨシノ氏は認知症の影響にあり、複雑な法律問題に対して正常な判断ができなかったと推認でき、そのため光一氏が代理で行った持株会への株式譲渡手続きは無効とした。

議決権の争奪

仮に一審判決が効力を持てば、下の図のように、創業家保有株式は議決権ベースで6割に達する。直人氏は判決の翌日に神保に対し、「取締役を解任した上で新たな人物を選任する必要がある」と臨時株主総会の招集を求めた。同9月に行われた総会で、創業家は、現取締役を全員解任し、神保直人、優子、勇二の創業家3氏の選任を求める議案を提出。ただし神保が控訴して一審判決は未適用だったため、賛成476(直人氏、優子氏の代理人大野毅夫弁護士、勇二氏)、反対1054(3持株会)で否決された。

神保の株主名簿

仙台高裁での控訴審は、2025年10月27日に第1回期日が開かれ、即日結審した。倉澤守春裁判長、櫛橋直幸裁判官、栗原志保裁判官が担当した。神保側は、引き続き小池弁護士に加え、新たに仙台市の佐々木雅康弁護士を訴訟代理人に立てた。

倉澤裁判長は結審を前に、双方に和解の余地がないのかを尋ねた。

「地裁会津若松支部では話し合いはあったのか。判決が必要か」

直人氏側の大野弁護士は、「金銭的な事案ではない。難しい」。

倉澤裁判長は、「そういう状況なら判決に。先生方も尽力されたでしょうが…」。

今年1月21日に仙台高裁が言い渡した判決は、「一審判決を取り消し、直人氏の請求を棄却する」。つまり、創業家の逆転敗訴、現経営陣の逆転勝訴だった。二審判決は、株式譲渡契約時にヨシノ氏が認知症だったことは認めつつ、「意思能力がなかったということはできず、契約は有効に締結されたものと判断する」とした。

二審判決後、神保に取材を依頼したところ、同社取締役の水野正大財務部長から辞退の知らせがメールで届いた。

《大変恐縮ではございますが、社内で検討した結果としては、現時点では個別の取材につきましてはお受けしておらず、今回は辞退させていただきたく存じます》

直人氏に面会取材を依頼すると、代理人を務める大野弁護士が「現在訴訟継続中のため、面談での回答は控えさせていただきます」とコメント。代わりに、最高裁に上告したとファクスで回答が寄せられた。

《仙台高裁の判決は、株式譲渡契約の有効性を判断する上で、神保ヨシノさんが重度の認知症であったにもかかわらず意思能力があったと認めてしまっており、大変信じがたい判決です。意思能力は法的概念ですが、仙台高裁は医学的見解をあまりに軽視しており不当です。現在、最高裁に上告及び上告受理申立てをしておりますが、重度の認知症の場合には医学的見解を尊重すべきことを主張していきます》

二審判決では、創業家から持株会への株式譲渡を「経営改善」と「相続税対策」の一環と捉え、神保側に有利に働いた。仙台高裁で閲覧した裁判資料によると、同社は控訴審でこの2点の説明に力を入れていたことが分かる。

経営改善については、メインバンクの会津信用金庫が駅前支店長の名で証拠「報告書」(2025年8月27日付)を作成した。それによると、光一氏が社長を務めていた2019年夏頃、同社から「会津信金と他行の借入金を一本化し、借入期間を長期化することで毎月の返済を少なくしたい」との申し出があったという。会津信金が応じる判断材料となったのが経営陣の刷新だった。

《神保光一社長の健康不安や社長の長男直人氏(同社取締役)の経営手腕などに懸念があり今後の経営改善策の検討を依頼、同社から経営陣の刷新により経営改善に取り組む決意であることが示され、同社の業績向上と今後の葬祭業の環境変化に対応できるものと判断し、借入金の一本化と借入期間の長期化の要請に応じました》

加えて同報告書では、2019年以降に行った日新館やブライダル部門などの不採算事業からの撤退、遊休不動産の売却、JA会津よつばの葬祭部門との連携解消を通して「業績が着実に良くなっている」と評価。「現経営陣の経営手腕を高く評価しています。今後も現経営陣と社員が一致協力して、諸課題を早期に解決し同社の更なる経営の安定と業績が向上することを強く望んでいます」と結んだ。

相続税対策について、神保は控訴審で以下のように主張した。

「光一氏とヨシノ氏が保有する株式を相続した場合、推計で3億円超の相続税が掛かる。創業家が個人的に払える額ではなく、同社の資金を融通することが予想でき、さらに経営が悪化する可能性があった」

二審判決は、神保が新たに補充した主張に沿ったものだった。光一氏は会津信金から経営状態の刷新を示唆された上、ヨシノ氏の相続人(創業家個人)に相続税を支払える資力がなかったことなどを考慮して、自らが株式譲渡に前向きだったと判断。創業家として長年経営を担っていたヨシノ氏は、取締役を退いた後も大株主として経営に関心を抱いていたと考えられ、息子の光一氏から株式譲渡を説得されて賛同したとしても「不自然ではない」。その上で、「契約を光一氏に一任することを判断する能力に欠けていたとまで認めることは困難」とした。

判決では、神保の補充主張を紹介する形で、直人氏が株式を取得しようとした経緯に触れていた。

神保が補充する主張の基になった代表取締役鈴木晃氏の陳述書によると、2021年9月ごろに直人氏と叔父の勇二氏が神保事務所を訪れ、「幹部全員を集めてほしい。持株会の株を買い取るので、現経営陣を入れ替えしたい」と申し出たという。だが、株価や相続税の話をすると、「そのような資金は用意できていない」と答え、2人は帰っていった。結局、話は立ち消えになったという。さらに同陳直人氏が持株会所有の株を買い戻そうとしていたことを根拠に、神保は「直人氏はヨシノ氏から持株会への株式譲渡が有効であることを前提としていた」と主張した。

現経営陣の中心人物

神保の本社(会津若松市)
神保の本社(会津若松市)

この裁判では、神保のメインバンクである会津信金が現経営陣の手腕を高く評価していることが分かったが、中心人物は誰なのか。本誌2025年11月号「葬祭の神保で『お家騒動』」では、会津若松市内のある経済人の話として、2019年に取締役に就任し、現在2人体制の代表取締役の一角を担う鈴木浩二氏(65)の存在の大きさを伝えた。

「晩年は病気がちだった光一氏に代わり社外取締役兼COO(最高執行責任者)に就き、日新館の売却先探しにも奔走していた」(昨年11月号より)

この経済人によると、鈴木氏は元々飲食店経営・食料品販売㈱若央の社長で、市内で同名の料亭を営む板前だった。

「若央は料亭の他に出汁パック製造を行っており、神保には葬儀に引き出物として納入し取引関係にあった。鈴木浩二氏は光一氏の学校の後輩で、生前、若央によく飲みに行っていた光一氏が経営の相談をしていたと聞いた。光一氏は2023年に亡くなるまでの数年間は病気がちだった。先輩と後輩、客と板前の関係で経営の相談を受ける中で、社外取締役に就いたのではないか」(同)

業界誌『フューネラルビジネス』2023年10月号は、掲載記事「4年にわたる働き方・意識改革で誕生した初の女性管理職」で神保を4ページにわたって取り上げた。そこに「社外取締役」鈴木浩二氏の影が見え隠れする。

《(女性活躍の)きっかけとなったのは、2019年に社外取締役を登用したことだ》

《就任した社外取締役は自身も異業種の企業を経営し、首都圏を中心に多くの企業ともつながりをもつ人物である》

《社外取締役の鶴の一声によって、まず社内で取り組まれたのが「固定的役割分担意識」(個人の能力とは関係なく、性別を理由にして役割を固定的に区別する考え方)の是正である》

先進的な取り組みを紹介する肯定的な記事だ。当時の社長や他の取締役はすべて実名で出ているのに、社外取締役だけ名が伏せられており、かえって違和感が漂う。会津の経済人を回って神保の件を聞くと、「鈴木浩二氏が裏ですべてを仕切っている」という噂話をよく聞いた。会津信金が経営手腕を信頼するが、表に姿を現すのを避ける同氏。実像が気になる。

神保の歴史1
神保の歴史2
神保の歴史3

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