Uターンジャーナリストが見る福島 【最終回】女性も人間

斎藤美幸 さいとう・みゆき
福島市唯一の造り酒屋金水晶酒造株式会社4代目蔵元取締役会長。Uターンジャーナリストとして内外の視点から情報発信している。元フジテレビ・福島テレビ記者。
人口減少をどうするか
人口減に苦しむ福島の処方箋をAIに尋ねたところ「沈みゆく船からは一刻も早く逃げろ」との答えだったことを連載の第1回に書いた。
AIにも妙案が無い。
それでも私は福島に残ろうと思う。船の穴をどうやって塞ぐか。
人口減には、転出数が転入数を上回る「社会減」と、死亡数が出生数を上回る「自然減」がある。社会減について第1回で「生活できる収入を安定的に得られる仕事が最重要」と書いた。今は結婚が女性の生活保障にならないことは第2回で指摘した。だからその安定的な仕事を誰に提供するかが、地域の未来を左右する。
福島県からは若い男性も若い女性も流出するが、学業を終えた男性が比較的Uターンするのに対し、若い女性のUターンは少なく、出て行ったきりになりがちだ。20歳から34歳までの独身女性100人に対し、独身男性は136人と福島県は全国で最も男女比が偏っている。人口増を望むなら、まず若い女性が地域に戻れる環境づくりだ。
若い女性は貴重な存在
少子化で若い女性の数が少ない。
人口流出に悩む地域の自治体や企業なら「応募した若い女性は全員を採用」しても良いくらい今や貴重な存在である。育成に時間がかかっても「福島で働きたい」という本人の希望を生かさぬ手はない。他の地域に取られるより地域に残ってもらう方が価値がある。男性には不公平との批判もあるだろうが、男性は他の民間企業も採用しやすい。若い男女が地域に来れば万々歳だから、人口減対策として一時的に必要な投資と割り切るのも一策である。
男性偏重の採用が男女比の不均衡を招いた
これまでの採用はどうだったか。
正社員や正職員の採用実績を見れば、多くの職場で男性の採用が女性より多かったのではないか。不採用になった女性を地域の他企業が雇えばよかったが、好待遇で女性を雇う企業は地方には少ない。その結果、多くの女性は首都圏などへ向かった。地元に戻りたかったが戻れなかった。
経営者等の意思決定層が、女性の県外流出を嘆きながら自分の組織では男性偏重の採用を続ける。その積み重ねこそが「男あまり最多県」を招いた一つの要因ではなかったか。
女性を優先して採用し男女が地域に集まる未来と、男性採用を優先し女性が地域を離れ、老親と息子だけが残る未来のどちらを選ぶのだろう。
新生児こそ「沈みゆく船」の宝
妊娠と出産は女性しかできず家庭責任も伴うため、勤続年数への不安から採用をためらう気持ちは理解できる。しかしその新生児こそが「沈みゆく船」の穴を塞ぐ宝だ。
女性の積極的な採用は恒久策ではない。長年続いた歴史的な偏りを改め、男女が自然に地域へ戻る日のための一時的な是正策である。
年長女性の扱いを若い女性は見ている
ただ採用人数だけ増やしても女性は残らない。
「女性を積極採用している」と言いながら、ほどなく辞められてしまう企業の話もよく聞く。子育て支援は行政も力を入れているので、私は別の角度から考えたい。
若い女性は、自分が今どう扱われるかだけではなく「年を重ねた女性がどう扱われているか」も見ている。
職場や地域の先輩女性は、未来の自分だからだ。
男性は、年齢を重ねただけで自然に敬意を払われる場面が多い。
一方、女性は「雑用は女性がするもの」「気が利いて当然」と扱われる場面が少なくない。仕事をがんばっても、年齢を重ねただけで軽く扱われるなら、若い女性はそこに未来を見いだせない。人前で本音を語る女性が疎まれる姿を見れば、自分はそうなりたくないと思うだろう。だから本音を語ることなく、黙って出ていく。地域は女性が去る本当の理由を知ることができず対策も的を外しやすい。若い女性を増やしたいからと言って、若い女性だけに目を向けても意味は無い。地域のおばさんを大切にできない地域に、若い女性が住み続けようとは思わない。
「女性も努力すべきだ」という意見もあるだろう。しかし女性個人の努力だけに任せる段階は過ぎた。人口減少は待ってくれない。若い女性がまだいる今が最後の機会だ。
女性が残れば地域は変わる
女性が地域に残れば、その先も変わる。職場や地域に女性が増えれば管理職にも女性が増え、行政なら政策を立てる立場にも女性が増える。
女性自身が意思決定に参加することで、女性が暮らしやすい制度や文化が女性自身の手で生まれてくる。
そうなれば「沈みゆく船」の穴は少しずつ塞がっていくだろう。
長い間「女性の意見も男性が代表している」と考えられてきた。だが結果として十分には代表されてこなかった。だから今必要なのは、女性について議論することではなく、女性自身を決める側へ入れることだ。
解像度を上げ、女性が戻る文化に変われるか
独身女性100人に対し独身男性136人で全国最下位の福島県。
第1位は女性100人に対し男性101人の福岡県である。
その福岡県で、西日本新聞の役員から興味深い話を聞いた。
宇宙飛行士・山崎直子さんの記事を共同通信は「ママさん飛行士」と配信したが、新聞では「女性宇宙飛行士」に改めて掲載したという。
男性なら「パパさん飛行士」とは書かない。専門職である宇宙飛行士なのに、女性だけ家庭での役割を強調するのは公平ではないという判断だった。その後も「美貌の」「華やかな」など男性には付けない修飾語を女性だけに付けない編集を積み重ね、その考え方は担当者が異動した後も社内に根付いたという。
私はこの話を聞いて思った。
女性が集まる地域は、文化が違う。
ここでいう文化とは芸術の意味ではない。誰をどう表現し、どう扱うかという日常の積み重ねである。
だから福島の新聞やテレビ、雑誌などには、若い女性が地域を離れる理由をもっと可視化してほしい。
「若者」という性別無標の言葉に都合よく女性を含めたり外したりせず「若い男性」「若い女性」「壮年男性」「壮年女性」と双方性別有標で分析し、問題の解像度を上げるのだ。
船の穴がどこにあるか分からなければ、誰も塞ぐことはできない。
地域のおばさんは、かつてみんな若い女性だった。その人たちに、「どうしたら若い女性が戻るか」聞いてみてほしい。そこに地域が失ってはいけない文化と、今後は変えるべき文化の両方があるはずだ。
女性は人口を増やすための道具ではない。女性も人間である。
この当たり前のことに地域全体が気付いた時、沈みゆく船の穴は塞がり、楽しい航海が始まるだろう。
私もともに進んでまいります。5回にわたる連載をお読みいただきありがとうございました。

























