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日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証【福島県内ワーストは会津若松市「北柳原交差点」】

 一般社団法人・日本損害保険協会は昨年10月26日、最新の「全国交通事故多発交差点マップ」を公表した。同マップには都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載されている。それを基に、県内ワーストとなった交差点での人身事故のケースなどを検証すると同時に、あらためて事故防止のためにどういったことを心がければいいか考えていきたい。

福島県内ワーストは会津若松市「北柳原交差点」

 一般社団法人・日本損害保険協会の広報担当者によると、「全国交通事故多発交差点マップ」は、交差点・交差点付近での交通事故防止・軽減を目的に、各都道府県の地方紙(記者)の協力を得て作成したという。データは2021年のもので、毎年、同時期に更新されている。同マップでは、都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載され、人身事故のケースや交差点の特徴、予防策などが紹介されている。

 マップとともに掲載されたリポートによると、福島県全体の過去5年の人身事故件数、死傷者数の推移は別表の通り。人身事故の発生件数、死傷者数ともに年々減少傾向にあることが分かる。

 一方で、2021年の人身事故2997件のうち、1653件(55・2%)が交差点とその付近で発生している。こうして見ても、やはり交差点とその付近はより注意が必要であることが分かっていただけよう。

 では、実際にどこの交差点での人身事故が多かったのか。

 ワースト1は、会津若松市一箕町の「北柳原交差点」だった。国道49号と国道118号が交差するところだ。さらに、そこから600㍍ほど東側に行ったところにある「郷之原交差点」がワースト2タイになっている(地図参照)。

 もっとも、ワースト1の「北柳原交差点」とその付近で起きた人身事故は5件、ワースト2タイの「郷之原交差点」とその付近は4件だったから、びっくりするほど多いというわけではない。

「北柳原交差点」
郷之原交差点

 ちなみに、そのほかのワースト2タイは、いわき市常磐の「下船尾交差点」、同市小名浜の「御代坂交差点」、郡山市横塚の「横塚三丁目交差点」喜多方市一本木上の「塗物町交差点」、福島市渡利の「渡利弁天山交差点」、同市仲間町の「仲間町交差点」の計6カ所。

 その中から、今回はワースト1の会津若松市一箕町の「北柳原交差点」と、そのすぐ近くにある「郷之原交差点」について検証してみる。
 まず「北柳原交差点」だが、国道49号と国道118号が交差する地点で、朝夕を中心に交通量が多い。国道49号の会津坂下方面から猪苗代方面に向かうと交差点付近が下り坂になっており、右折レーンが2車線ある、といった特徴がある。
 「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートにも、交差点の特徴として、「国道同士が交わる交差点であり、東西に延びる国道は東側に向け下り坂、南北に延びる国道は交差点を頂上にそれぞれ下り坂になっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」と記されている。

実際の事故事例

 事故の種別は重傷事故が1件、軽傷事故が4件、事故類型は右折直進が2件、追突、右折時、出会い頭がそれぞれ1件となっている。

 実際の事故のケースは「信号無視により、右折車両と衝突した」、「対向車が来るのをよく確認せずに右折したことにより、対向車と衝突した」と書かれており、予防方策としては「交通法規を遵守し、信号をよく確認して運転する」、「交差点を通行する際は、対向車がいないかよく確認し、速度を控えて運転する」と指摘している。

 そこから東(国道49号の猪苗代方面)に600㍍ほど行ったところにあるのがワースト2タイの「郷之原交差点」。国道49号と県道会津若松裏磐梯線(通称・千石バイパス)が交わるT字路となっている。

 マップのリポートには、交差点の特徴として、「東西に国道49号、南側に主要地方道会津若松裏磐梯線がそれぞれ交わる交差点であり、国道49号がカーブとなっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」とある。

 事故の種別は軽傷事故が4件、事故類型は追突が2件、右折時、左折時がそれぞれ1件となっている。

 実際の事故のケースは「脇見等の動静不注視により、前車に追突した」、予防方策としては「運転に集中し、前車の動きや渋滞の発生を早めに見つけられるようにする」と書かれている。

ドライバーの声

 普段、両交差点(付近)をよく走行するドライバーに話を聞いた。

 「正直、『北柳原交差点や郷之原交差点とその付近で事故が多い』と言われても、ピンと来ない。そんなに〝危険個所〟といった認識はありませんね。ただ、いつも混んでいる印象で、当然、交通量が多ければそれだけ事故の確率も上がるでしょうから、そういうことなのかな、と思いますけどね」(仕事で同市によく行く会津地方の住民)

 「両交差点に限ったことではないが、会津若松市内では県外ナンバー(観光客)をよく見る。普段、走り慣れていない人が多いことも要因ではないか」(ある市民)

 「北柳原交差点は、国道49号を会津坂下方面から猪苗代方面に走行すると、下り坂になっていて見通しはあまり良くないですね。加えて、その方向に走ると、右折レーンが2つあり、本当は直進したいのに間違って右折レーンに入ってしまい、直進レーンに無理に戻ろうとしたクルマに出くわし、ビックリしたことがありました。郷之原交差点はT字路のため、左折信号があり、ちょっと気を抜いていると、それ(左折信号が点いたこと)に気づかないことがあります。その場合、後方から追いついてきたクルマに衝突される可能性が考えられます。そういったケースが事故につながっているのではないかと思います。もう1つは、両交差点に限ったことではありませんが、(積雪・凍結等の恐れがあるため)会津地方での冬季の運転はやっぱり怖いですよね」(同市をよく訪れる営業マン)

 いずれの証言も、「なるほど」と思わされる内容。両交差点を通行する際はそういった点での注意が必要になろう。

「交通白書」記載の事例

 ここからは、会津若松地区交通安全協会、会津若松地区安全運転管理者協会、会津若松地区交通安全事業主会、会津若松市交通対策協議会、会津若松警察署が発行している「令和3年 交通白書」を基に、さらに深掘りしてみたい。

 2021年に同市内で起きた人身事故は167件で、死者1人、傷者186人となっている。2012年は633件、死者5人、傷者764人だったから、この10年でかなり改善されていることが分かる。人身事故発生件数が200件を下回ったのは1962年以来59年ぶりという。

 同市内の人身事故の特徴は、「交差点・交差点付近の事故が全体の6割を占める」、「8時〜9時、17時〜18時の発生割合が高い」、「追突・出会い頭事故が全体の約6割を占める」、「国道49号での発生割合が高い」、「高齢運転者の事故が増加している」と書かれている。

 実際に事故が多い交差点の状況についても記されており、当然、前述した「北柳原交差点」と「郷之原交差点」がワースト地点に挙げられている。ただ、同白書によると、両交差点での事故件数はともに6件となっており、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」に記された件数と開きが生じている。

 会津若松署によると、その理由は「物件事故を含んでいることと、どこまでを交差点(交差点付近)と捉えるか、の違いによるもの」という。

 同白書によると、「北柳原交差点(同付近)」の事故ケースは、右折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、出会い頭など、「郷之原交差点(同付近)」の事故ケースは追突、左折時に歩行者・自転車と接触、私有地から交差点に進入した際の歩行者・自転車との接触などが挙げられている。

 このほか、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」には入っていなかったが、「北柳原交差点」から国道49号を西(会津坂下方面)に600㍍ほど行ったところにある「荒久田交差点」も両交差点に次いで事故が多い地点として挙げられている(2021年の事故発生件数は5件)。

 同交差点(付近)では、左折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、追突といった事故事例が紹介されている。

 会津若松署では、「やはり、単路より交差点での事故が多く、交差点付近では一層の注意が必要。心に余裕を持った運転を心がけてほしい」と呼びかける。

 さらに、同署では、これら交差点に限らず、酒気帯び等の悪質なケースの取り締まり、事故被害を軽減するシートベルト着用の強化、行政・関係団体と連携した講習会の開催、道路管理者と連携した立て看板・電光掲示板での呼びかけなど、事故防止に努めている。

 一方で、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートでは、「地元警察本部の取り組み」として、以下の点が挙げられている。

 ○モデル横断歩道

 各署・各分庁舎管内における信号機のない横断歩道で、過去に横断歩行者被害の交通事故が発生した場所や学校が近くにある場所、または、車両および横断歩行者が多いため、対策を必要とする場所を「モデル横断歩道」と指定し、横断歩行者の保護を図るもの。

 ○参加・体験型交通安全講習会(運転者、高齢歩行者、自転車)

 運転者、高齢歩行者、自転車の交通事故防止のため、警察職員が県内各地に出向き、「危険予測トレーニング装置(KYT装置)」等を使用して、参加・体験型の交通安全講習会を実施するもの。

 ○家庭の交通安全推進員による高齢者への反射キーホルダーの配布

 県内の全小学校6年生(約1万5000人)を「家庭の交通安全推進員」として各署・分庁舎で委嘱しており、その家庭の安全推進員の活動を通じて、祖父母など身近な高齢者に対して、交通安全のアドバイスをしながらお守り型の反射キーホルダーを手渡してもらうもの。

 ○自転車指導啓発重点地区・路線の設定、公表による自転車交通事故防止対策の推進

 警察署ごとに自転車事故の発生状況等を基に自転車指導啓発重点地区・路線を設定し、同地区・路線において自転車事故防止、交通事故防止の広報啓発を実施。

福島市で暴走事故

 今回は、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」を基に、事故が多い交差点の紹介、その形状と特徴、事故発生時の事例、注意点などをリポートしてきたが、県内では昨年秋、高齢の男がクルマで暴走するというショッキングな事故があった。

 この事故は11月19日午後4時45分ごろ、福島市南矢野目の市道で起きた。97歳の男が運転するクルマ(軽自動車)が歩道に突っ込み、42歳の女性がはねられて死亡。その後、信号待ちで前方に停止していたクルマ3台にも衝突し、街路樹2本をなぎ倒しながら数十㍍にわたって走行した。衝突されたクルマのうち、2台に乗っていた女性4人が軽傷を負った。

 軽自動車を運転していた97歳の男は、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の疑いで逮捕された。男は2020年夏に、免許を更新した際の認知機能検査では問題がなかったという。

 地元紙報道には、事故に巻き込まれたドライバーの「こんな人が運転していいのかと感じた」という憤りの声が紹介されていた。

 その後の警察の調べでは、現場にブレーキ痕はなかったことから、ブレーキとアクセルを踏み間違えた可能性が高いという。

 この事故を受け、警察庁の露木康浩長官は記者会見で、「(高齢運転者対策の)制度については不断の見直しが必要」との見解を示した。警察庁長官がそうしたことに言及をするのは異例と言える。

 このほか、週刊誌(オンライン版)などでも、この事故が取り上げられ、逮捕された男の人物像に迫るような記事もいくつか見られた。

 そのくらい、ショッキングな事故だったということである。

 地方では、クルマを運転する人は多いが、ハンドルを握るということは、それ相応の責任が生じる。そのことを自覚し、各ドライバーが無理のない運転を心がけ、より注意を払い、事故防止のきっかけになれば幸いだ。

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