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  • 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化 田村市役所

    第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄の罪に問われた元市職員に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。賄賂を贈った市内の土木建築業の前社長にも執行猶予付きの有罪判決。事件に関わる裁判は終結したが、有罪となったのは氷山の一角に過ぎない。「不正入札の常態化」を作り上げた歴代の首長と後援業者、担当職員の責任が問われる。 執行部・議会は真相究明に努めよ  元市職員の武田護氏(47)=郡山市在住、旧大越町出身=は二つの贈収賄ルートで罪に問われていた。贈賄業者別に一つは三和工業ルート、もう一つは秀和建設ルートだ。 三和工業ルートで、護氏は同社役員(当時)武田和樹氏(48)=同、執行猶予付き有罪判決=に県が作成した非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取っていた。単価表は入札予定価格を設定するのに必要な資料で、全資材単価が記された単価表は、受注者側からすると垂涎ものだ。 近年は民間業者が販売する積算ソフトの性能が向上し、個々の業者が贈賄のリスクを犯して入手するほどの情報ではなかったため、当初から背後にソフト制作会社の存在が囁かれていたが、主導していたのは仙台市に本社がある㈱コンピュータシステム研究所だった。営業担当者が和樹氏を通して、同氏と中学時代からの友人である護氏からデータを得ていた。和樹氏は、同研究所から見返りに1件につき2万円分の商品券を受け取り、護氏と折半していた。ただ、同研究所と和樹氏の共謀は成立せず、贈賄側は和樹氏だけが有罪となった。 求人転職サイトを覗くと、同研究所の退職者を名乗る人物が「会社ぐるみで非公開の単価表の入手に動いていたが、不正を行っていたことを反省していない」と「告発」している。本誌は同社に質問状を送ったが「返答はしない」との回答を寄せたこと、昨年12月号の記事「積算ソフト会社の『カモ』にされた市と業者」に対して抗議もないことから、会社ぐるみで不正を行い、入手した単価表のデータを自社製品に反映させていた可能性が高い。「近年は積算ソフトの性能が上がっている」と言っても、こうした業者の「営業努力」の結果に過ぎない面もある。 もう一つの秀和建設ルートは、市発注の除染除去物端末輸送業務の入札で起こった。武田護氏は同社の吉田幸司社長(当時)とその弟と昵懇になり、2019年6月から9月に行われた入札で予定価格を教えた。見返りに郡山市の飲食店で総額約30万円の接待を受けた。 護氏は裁判で「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」と動機を述べていた(詳細は本誌1月号「裁判で暴かれた不正入札の構図 汚職のきっかけは前市長派業者への反感」参照)。護氏からすると、「真面目にやっている人」とは今回罪に問われた三和工業や秀和建設。一方、「楽に仕事を得ようとしている人たち」とは本田仁一前市長派の業者だった。 本田前市長派業者の社長らは田村市復興事業協同組合(現在は解散)の組合長や本田後援会の会長を務めていた。検察はこの復興事業協同組合が受注調整=談合をしていた事実を当人たちから聞き出している。組合長を務めていた富士工業の猪狩恭典社長も取り調べで認めたという。同市の公共工事をめぐっては、かねてから談合のウワサはあったが、裁判が「答え合わせ」となった形。 護氏は、一部の業者が本田前市長の威光を笠に着て、陰で入札を仕切っていたことに反感を抱いていたのだろう。 もっとも、不正入札を是正しようと三和工業や秀和建設に便宜を図ったとしても、それは新たな不正を生んだだけだった。護氏は裁判で「民間企業にはお堅い役所にはない魅力があった」と赤裸々に語り、ちゃっかり接待を楽しんでいた。こうなると前市長派業者への反感は、収賄を正当化するための後付けの理由にしか聞こえない。裁判所も「不正をした事実に変わりはない」と情状酌量はしていない。 政治家に翻弄される建設業者  市内の業者は、長く政治家に翻弄されてきた。本田前市長派業者に従わなければ仕事を得られなかったことを示すエピソードがある。田村市船引町は玄葉光一郎衆院議員(58)=立憲民主党=の出身地で強固な地盤だ。対する本田前市長は自民党。県議時代は党県連の青年局長や政調会副会長などを務めた。 三和工業の事務所では、冨塚宥暻市長の時代、玄葉氏のポスターを張っていた。冨塚氏は玄葉氏と近い関係にあった。しかし、県議を辞職して市長選に挑んだ本田氏が冨塚氏を破ると、冨塚氏や玄葉氏を応援していた業者は次第に本田派業者から圧力を掛けられ、市発注の公共工事で冷や飯を食わされるようになったという、ある建設会社役員の証言がある。 三和工業に張られていた玄葉氏のポスターが剥がされ、本田氏のポスターに張り替えられたのはその時期だった。「三和もとうとう屈したか」とその役員は思ったという。 本田前市長とその後援業者が全ての元凶と言いたいのではない。裁判では、少なくとも冨塚市長時代から不正入札が行われていたことが判明した。自治体発注の事業が経営の柱になっていることが多い建設業は、政治家に大きく左右されるということ。極端な話、政治は公共事業の便宜を図ってくれそうな立候補者が建設業者の強力な支援を得て、選挙に勝ち続ける仕組みになっている、と言えなくもない。 田村市の贈収賄事件は、本田前市長とその後援業者が露骨に振る舞った結果、ただでさえ疑念にあふれていた入札がさらに歪んで起きた。 田村市は検察、裁判所という国家機関の介入により全国に恥部をさらすことになった。事件を受け、市民は市政に対する不信感を増幅させており、市職員のモチベーションは下がっているという。 護氏は、自分以外にも入札価格を漏洩する市職員がいたこと、本田前市長とその意向を受けた市幹部が不必要と思える事業を作り、本田前市長派業者が群がっていたことをほのめかしているから、現役の市職員が戦々恐々とし、仕事に身が入らないのも分かる。時効や立証の困難さから護氏以外の職員経験者が立件される可能性は低いが、市は今後のために内部調査をするべきだろう。白石高司市長にその気がないなら、市議会が百条委員会を設置するなどして真相究明する必要がある。 原稿執筆時の1月下旬、県職員とマルト建設(会津坂下町)の社長、役員が入札に関わる贈収賄容疑で逮捕された。入札不正を根絶するためにも、田村市は率先して調査・改善し、県や他市町村の参考になり得る「田村モデル」をつくるべきだ。 「過ちて改めざる是を過ちという」。誇りを取り戻すチャンスはまだある。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人『特別養護老人ホーム「つつじの里」』

    【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人

    介護業界の人手不足が招いた悲劇  小野町の特別養護老人ホーム「つつじの里」に入所していた植田タミ子さん(94)を暴行・殺害したとして田村署小野分庁舎は12月7日、同施設の介護福祉士・冨沢伸一容疑者(41)を逮捕した。内情を知る人物によると、同施設では以前から容疑者に関する問題点が上司に告げられていたが、きちんとした対応が行われていなかったようだ。事件を受けて行われた県と同町の特別監査でも、運営状況に問題が見つかった。 *脱稿時点で冨沢容疑者は起訴されていないため、 この稿では「容疑者」と表記する  「つつじの里」は2019年9月に開所。全室個室・ユニット型で定員29床。同施設を運営するのは社会福祉法人かがやき福祉会(小野町谷津作、山田正昭理事長)。 冨沢容疑者(同施設のホームページより) 事件が起きた「つつじの里」  事件は容疑者逮捕の2カ月前に起きていた。  昨年10月9日、個室のベッドで植田さんが亡くなっているのを冨沢容疑者が発見し、同施設の看護師に連絡した。嘱託で勤務する主治医の診断で、死因は「老衰」とされた。しかし、不審に思った施設関係者が翌日、警察に通報。警察は遺族から遺体を引き取り、11日に司法解剖を行った結果、下腹部などに複数のあざや皮下出血が見つかった。死因は一転して「外傷性の出血性ショック」に変わった。  第一発見者の冨沢容疑者は10月8日夜から9日朝にかけ、同僚と2人で夜勤をしていた。警察は10日の通報で、冨沢容疑者による暴行の可能性を告げられたため、本人や職員を任意で事情聴取したり、防犯カメラの映像を解析するなど慎重に捜査を進めていた。同施設は事件後、冨沢容疑者を自宅待機させていた。  冨沢容疑者は任意の事情聴取では事件への関与を否定。しかし、逮捕後の取り調べでは「被害者を寝付かせようとしたが、なかなか寝ずイライラした」「排泄を促すため下腹部を圧迫したが殺そうとはしていない」(朝日新聞県版12月10日付)と暴行を一部認めつつ殺意は否認した。  「殺意はなかった? じゃあ、体中にあざができていた理由はどう説明するのか。殺意がなければ、あれほどのあざはできない」  そう憤るのは、亡くなった植田タミ子さんの長男で須賀川市の会社役員・植田芳松さん(65)。芳松さんによると、遺体が自宅に戻った際、首元にあざを見つけ不審に思ったが、直後に警察が引き取っていったため体の状態を詳しく見ることができなかった。司法解剖を終え、あらためて自宅に戻った遺体を見て、芳松さん家族は仰天した。  「(司法解剖した)腹は白い布が巻かれていて分からなかったが、腕、脚は肌の白い部分が見えないくらいあざだらけだったのです」(同)  報道によると、冨沢容疑者は下腹部を押したと供述しているから、司法解剖された腹にも相当なあざが残っていたと思われる。  「誰の目も届かない個室で、母は何をされていたのか。あれほどのあざは押した程度ではできない。日常的に殴る蹴るの暴行を受けていたのではないか」(同)  そう話すと声を詰まらせ、その後の言葉は出てこなかった。実は、芳松さんはある後悔を拭えずにいた。  タミ子さんが亡くなる3日前(10月6日)、ペースメーカーの検査のため病院に付き添った芳松さんは、タミ子さんの両手にあざがついているのを見つけた。しかし、原因を尋ねてもタミ子さんは答えなかった。  「施設内での出来事や生活の様子は話すのに、あざのことを聞くと口ごもって何も言わなかった」(同)  その時は妙だなと思うだけだったが、事件が起きてみると「母の帰る場所は『つつじの里』で、そこには常に冨沢容疑者がいるから、誰かに告げ口すればもっと酷い目に遭わされるかもしれない。だから怖くて何も言えなかったのではないか」という推察が芳松さんの頭に浮かんだ。  原因をきちんと究明しておけばよかった――息子として、そんな気持ちにさいなまれている。  母親の命を奪った冨沢容疑者は当然許せないが、芳松さんは同施設の対応にも疑問を感じている。  「母の世話は主に冨沢容疑者が見ていたのかもしれないが、他の職員だって世話をしていたはず。その際に母の体を見れば複数のあざに気付いただろうに、それが見過ごされていたのが不思議でならない」  逆に、気付いていながら何の対処もされなかったとすれば、それもそれでおかしな話だ。  最たる例の一つが、タミ子さんの死因をめぐる診断だ。前述の通り司法解剖では「外傷性の出血性ショック」と診断され、芳松さん家族が見ても全身あざだらけだったことは一目瞭然なのに、同施設の主治医はタミ子さんの死亡直後に「老衰」と診断していた。  これについては、町内からも「きちんと診断したのか」と疑問の声が上がっており、「主治医は運営法人と親しく、運営法人にとって不都合になる診断を避けたのでは」というウワサまで囁かれている。  主治医は町内で内科、小児科、外科などからなるクリニックを開設している。死因を「老衰」とした理由を聞くため同クリニックを訪問したが、「聞きたいことがあれば当院の弁護士を通じて質問してほしい」(看護師)と言う。ところが、弁護士の名前を尋ねると「手元に資料がなくて分からない」(同)と呆れた答えが返ってきた。  「冨沢容疑者をはじめ職員の教育は行き届いていたのか、死亡診断書の件に見られるように運営体制に不備はなかったのか等々、施設側にも問題はなかったのか見ていくべきだと思います」(芳松さん)  タミ子さんは2021年6月に同施設に入所。だが、新型コロナウイルスの影響で入所者以外は施設内に立ち入ることができず、芳松さんも着替えなどを届けるため入口で職員に荷物を手渡す程度しか同施設に近付いたことはなかった。タミ子さんと会えるのは、入所の原因となった脚の骨折やペースメーカーの検査で定期的に通院・入院する時の付き添いだった。その際、同施設から病院にタミ子さんを送迎していたのが冨沢容疑者とみられる。「みられる」と表記したのは、  「施設内に入れないので、どの職員が母の世話をしているのか分からなかった。事件後、新聞に載った冨沢容疑者の写真を見て『確か病院に送迎していた人だ』と思い出した。名前も報道で初めて知った」(同) 告げられていた問題点  冨沢容疑者とはどのような人物なのか。  同町内にある冨沢容疑者の自宅を訪ねると、玄関先で女性から「何も分からないんで」と言われた。部屋の奥からは高齢男性の「うちは関係ないぞ」という声も聞かれた。  同施設がマスコミ取材に語ったところでは、冨沢容疑者は開所時から介護福祉士として勤務。事件当時は職員の勤務調整や指導などを行うユニットリーダーに就いていた。  同施設は冨沢容疑者を「物静かでおとなしく真面目だった」「勤務態度に問題はなく、入所者とのコミュニケーションも取れていた」と評している。だが、内情を知る人物はこれとは違った一面を指摘する。  「『つつじの里』に来る前に数カ所の介護施設で勤務経験があるが、そのうち何カ所かで問題を起こし辞めたと聞いている。『つつじの里』に勤務する際、採用担当者は『こういう人を雇って大丈夫か』と心配したそうだが、運営法人幹部のコネが効いて採用が決まったという」  これが事実なら、冨沢容疑者には事件を起こすかもしれない素地があったことになる。さらに言うと、タミ子さんが亡くなった直後に施設関係者がすぐに警察に通報したということは、内部で問題人物と見なされていた、と。  実際、2021年春ごろには冨沢容疑者が担当していた別の入所者の腕にあざが見つかった。当時の内部調査に、冨沢容疑者は「車いすに乗せる際に力が入ってしまった。虐待ではない」と説明したが、  「職員たちはその後、冨沢容疑者に関する問題点を上司らに告げていた。しかし、施設側は真摯に聞き入れず、冨沢容疑者に口頭で注意するだけだったそうです」(同)  昨年春には、そんな運営状況に嫌気を差した職員数人が一斉に退職したこともあったという。  「辞めた職員からは『問題点を指摘しても、上層部がそれをどの程度深刻に受け止めたか分からない』という不満が漏れていた」(同)  施設顧問とは、事件後に取材対応などを行っている阿部京一氏のことだ。阿部氏は小野町の元職員で、大和田昭前町長時代には副町長を務めていた。しかし、2021年3月に行われた町長選で大和田氏が現町長の村上昭正氏に敗れると副町長を辞職。その後就職したのが、同年9月に開所した「つつじの里」だった。  阿部氏は同町職員時代、健康福祉課に勤務したことがあるが、専門知識や現場経験を豊富に備えていたかというと疑問が残る。そうした心許なさが、職員から問題点を指摘されても深刻に受け止め切れない原因になったのかもしれない。ちなみに、運営法人理事長の山田正昭氏も元政治家秘書。  施設側の対応のマズさという点では、本誌が芳松さんを取材した12月中旬時点で、同施設は遺族に事件に関する説明をしていなかった。まだ容疑者の段階で、犯人と断定されたわけではないとはいえ、でき得る範囲での説明や謝罪は行うべきではなかったか。芳松さんの義母はタミ子さんと同い年で、昨年夏に別の施設で亡くなったが、この時施設側から受けた温かみのある対応との差も同施設への不信感を増幅させている。  今回の事件を受け、同町は12月16日、県と合同で同施設に特別監査を行った。同町総務課によると、本来はもっと早く行う予定だったが、同施設で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、後ろ倒しになった。  社会福祉法人に対する指導監査には一般監査と特別監査がある。一般監査は実施計画を策定したうえで一定の周期で行われる。これに対し特別監査は、運営等に重大な問題を有する法人を対象に随時行われる。  特別監査が行われると、対象法人に改善勧告が出され、勧告に従わないと行政処分に当たる改善命令、業務停止命令、それでも従わないと最も重い解散命令が科される。  「特別監査では施設内でどのような生活を送っているか、虐待や拘束を受けていないかなどを入所者から直接聞き取ります。書類や記録簿などもチェックし、専門家の意見を仰ぎます。町は介護保険法、県は老人福祉法の観点から調査します。改善勧告の時期は明言できないが、多くの町民が心配しているので早急に結論を出したい」(同町総務課) 規定より少なかった職員数  そして行われた特別監査では《入所者の虐待防止のための研修は行われていたものの、対面での研修はなく、書類を回覧するだけで済ませていた》《施設の規定では職員数は14人以上必要としていたが、現時点では10人だけで入所者に十分なサービスを提供できていない可能性があることもわかった》(朝日新聞デジタル版12月18日付)として、県と同町は同施設に対し虐待防止研修の強化や職員の増員を指導した。  同施設に取材を申し込むと、運営法人から「施設顧問に対応させる」と言われたが、締め切りまでに阿部氏から連絡はなかった。  介護業界は重労働なのに低賃金で慢性的な人手不足に陥っている。同施設も運営規定で職員14人以上を適正規模と謳っているが、実際は10人しかいなかった。  求人を出しても募集は来ない。今の給料より高い求人があると、職員は即移籍してしまう。そうなると素行に問題のある職員でも、人手の充足を優先し、雇用が継続されてしまう実態がある。その結果、トラブルが起こり、余計に人手不足になる悪循環に陥っている。  すなわち今回の事件は、介護業界の弊害が招いたものと言える。  前出・芳松さんは「誰もが特別養護老人ホームを利用する可能性がある。高齢化が進む社会にとって必要不可欠な施設を安心・安全に利用できるよう事件の原因究明と再発防止策が求められる」と指摘するが、まさしくその通りだ。 あわせて読みたい 【塙強盗殺人事件】裁判で明らかになったカネへの執着

  • 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図【田村市役所】

    第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄に問われた元市職員の判決が1月13日午後2時半から福島地裁で言い渡される。裁判では除染関連の公共事業発注に関し、談合を主導していた業者の証言が提出された。予定価格の漏洩が常態化していたことも明らかになり、事件は前市長、そして懇意の業者が共同で公共事業発注をゆがめた結果、倫理崩壊が市職員にも蔓延して起こったと言える。 汚職のきっかけは前市長派業者への反感  元市職員の武田護被告(47)=郡山市=は市内の土木建築業者から賄賂を受け取った罪を全面的に認めている。昨年12月7日の公判で検察側が求めた刑は懲役2年6月と追徴金29万9397円。注目は実刑か執行猶予が付くかどうかだ。立件された贈賄の経路は二つある。  一つは三和工業の役員(当時)に非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取ったルート。もう一つが秀和建設ルートだ。市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6月27日~9月27日にかけて行われた入札で、武田被告は予定価格を同社の吉田幸司社長(当時)に教えた見返りに飲食の接待を受けた。同社は3件落札、落札率は96・95~97・90%だった。  三和工業の元役員には懲役8月、執行猶予3年が確定した。秀和建設の吉田氏は在宅起訴されている。  田村市は設計金額と予定価格を同額に設定している。武田被告は少なくともこの2社に設計金額を教え、見返りを得ていた。他の業者については、見返りの受け取りは否定しているが、やはり教えてきたという。  入札の公正さをゆがめ、公務員としての信頼に背いたのは確かだが、後付けとはいえ彼なりの理由があったようだ。2社に便宜を図った動機を取り調べでこう述べている。  「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」  「真面目にやっている人」とは武田被告からすると三和工業と秀和建設。では「楽に仕事を得ようとしている人」とは誰か。それは、本田仁一前市長時代に受注調整=談合を主導していた「市長派業者」を指している。検察側は田村市で行われていた公共事業発注について、次の事実を前提としたうえで武田被告に尋問していた。  ・船引町建設業組合では事前に落札の優先順位を決めるのが慣例だった。  ・除染除去物質端末輸送業務では一時保管所を整地した業者が優先的に落札する決まりがあった。  ・田村市復興事業協同組合(既に解散)が受注調整=談合をしていた。  これらの事実は船引町建設業組合を取りまとめる業者の社長と市復興事業協同組合長を務める業者の社長が取り調べで認めている。  「落札の優先順位を定める円滑調整役だった。業者は優先順位に従って落札する権利を与えられ、業者同士が話し合う。どこの輸送業務をどの業者が落札するか決定し、船引町の組合には結果が報告されてくる。それを同町を除く市内の各組合長に伝えていた」(船引町建設業組合長)  市復興事業協同組合長も「一時保管所を整地したら除染土壌の運搬も担うよう他地区と調整していた」と認めている。この組合長については本誌2018年8月号「田村市の公共事業を仕切る〝市長派業者〟の評判」という記事で市内の老舗業者が言及している。  「本田仁一市長の地元・旧常葉町に本社がある㈱西向建設工業の石井國仲社長は本田市長の後援会長を務めている。一方、市内の建設業界を取り仕切るのは田村市復興事業組合で組合長を務める富士工業㈱の猪狩恭典社長。この2人が『これは本田市長の意向だ』として公共工事を仕切っているんです」(同記事より)  除染土壌の輸送業務をめぐっては業者が落札の便宜を図ってもらうために、本田前市長派業者の主導で市に多額の匿名寄付をし、除染費用を還流させていた問題があった。元市職員が刑事事件に問われたことで、公共事業発注の腐敗体質が明らかになったわけだ。  武田被告は本田前市長派業者による不正が行われていた中で、自分も懇意の業者に便宜を図ろうと不正に手を染めたことになる。取り調べに「楽に仕事を得ようとする業者」に反感があったと語ったが、自分もまた同様の業者を生み出してしまった。田村市では予定価格を業者に教えるのが常態化していたというから、規範が崩れ、不正を犯すハードルが低くなっていたことが分かる。 不必要な事業を発注か  武田被告は公共事業発注の腐敗体質について、市の事業に決定権を持つ者、つまり本田前市長や職員上層部の関与もほのめかしている。  「我々公務員は言われた仕事をやる立場。決定する立場の人間が必要な事業なのか判断しているのか疑問だった。そのような事業を取る会社はそういう(=楽をして仕事を取ろうとする)会社も見受けられた」  上層部が不必要な事業をつくり、一部の業者が群がっていたという構図が見て取れる。  武田被告が市職員を辞めたのは2022年3月末。本誌は前号で、宮城県川崎町の職員が単価表データを地元の建設会社役員と積算ソフト会社社員に漏らして報酬を受け取った事件を紹介した。本誌は同種の事件を起こしていた武田被告が立件を恐れて退職したとみていたが、本人の証言によると、単に「堅苦しい役所がつまらなかった」らしい。  2022年1~2月には就職活動を行い、土木資料の販売を行う民間会社から内定を得た。市役所退職後の4月から働き始め、市の建設業務に携わった経験を生かして営業やパソコンで図面を作る仕事をしていた。市役所の閉塞感から解放され「楽しくて、初めて仕事にやりがいを感じた」という。  武田被告は1995年3月に短大を卒業後、郡山市の広告代理店に就職。解雇され職探しをしていたところ、父親の勧めで96年に旧大越町役場に入庁した。建設部水道課に所属していた2013、14年ごろに秀和建設の役員(吉田前社長の実弟)と知り合い、年に3、4回飲みに行く仲になった。  役所内に情報源を持ちたかった吉田氏の意向で、実弟は武田被告への接待をセッティング。吉田氏と武田被告はLINEで設計金額を教える間柄になった。この時期の贈収賄は時効を迎えたため立件されていない。当時は冨塚宥暻市長の時代だから、市長が誰かにかかわらず設計金額漏洩は悪習化していたようだ。  後始末に追われる白石高司市長だが、自身も公募型プロポーザルの審査委員が選定した新病院施工者を独断で覆した責任を問われ、市議会が百条委員会を設置し調査を進めている。前市政から続く問題で市民からの信頼を失っている田村市だが、武田被告が「市役所はつまらない」と評したように、内部(市職員)からも見限られてはいないか。外部からメスが入ったことを契機に膿を出し切り、生まれ変わるきっかけにするべきだ。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【福島刑務所】集団暴行死事件を追う

    【福島刑務所】集団暴行死事件を追う

     2022年3月25日、福島刑務所(福島市)の6人が収容された1室で、60歳の男性受刑者が意識不明の状態で見つかった。受刑者は病院に搬送され、3日後に死亡。同室の複数人から日常的に殴る蹴るの暴行を受けていた。傷害の罪に問われた3人の裁判では、脳梗塞の影響で失禁を繰り返していた被害者にいら立ち、標的にしていたことが判明。刑務官が事態を放置していたことも内部文書で明らかになり、同刑務所の管理体制が問われている。(敬称略) 内部文書で判明した「刑務官の異変放置」  福島刑務所は、執行刑期が10年未満で犯罪傾向が進んでいる(B指標)か、外国人(F指標)の男性受刑者が収容される。2022年3月25日付の同刑務所「処遇日報」によると、定員は1655人で、898人を収容していた(収容率54・3%)。 集団暴行が繰り返されていたのは、3舎2階にある52室。けがや病気などで身体に障害を抱えた男性受刑者6人が入室していた。被害者はタカサカシンイチ。福島民友2020年11月25日付によると、同名の「高坂進一」が郡山市内で乗用車を盗んだとして逮捕されている。タカサカは2022年2月21日に52室に転室した。 タカサカは、先に入室していた受刑者たちから頭や顔、胸腹部などを殴られ、打撲や肋骨骨折などのけがを負った。暴行を受けて死亡しているため傷害致死の疑いも残るが、加害者3人が裁かれたのは傷害罪のみ。主犯は小林久(ひろし)(47)=本籍郡山市、従犯は佐々木潤(49)=同京都市、菊池巧(35)=同矢祭町。全員前科がある累犯者で、小林と菊池は窃盗、佐々木は強制わいせつの罪で懲役刑を受け服役していた。従犯2人は罪を認め、福島地裁は10月19日に懲役1年(求刑懲役1年2月)を言い渡した。主犯の小林は共謀を認めておらず、審理が続いている。 公判での証言から、52室で日常化していた集団暴行をたどる。  主犯の小林は2022年1月5日、F受刑者と一緒に転室してきた。佐々木が翌6日、S受刑者が同31日、最後にタカサカと菊池が2月21日に転室した。全員、身体が不自由だった。裁判では加害者3人が車椅子に乗って入廷し、証言台に立つのも刑務官2人に支えられていた。加えて、死亡したタカサカは脳梗塞の後遺症で失禁を繰り返していたという。 同室者たちは、そんなタカサカと悪臭にいら立っていた。「寝ている時にトイレに行けばいいんですが、周囲が言っても聞かないんです。シャツや上着を汚していましたが、本人が掃除しないので俺たちがやっていました」と佐々木。タカサカは「明日からはしないし掃除もする」と約束したが、守られなかったという。同室者たちは就寝中のタカサカが失禁しないように、15~20分間隔で起こして便所に連れて行った。最初は小林が、後に佐々木、菊池、Sも加わった。 6人部屋で標的に  「なんでこんなことをしなくちゃならないんだ」。4人は睡眠不足が続き、鬱憤を晴らすためタカサカに3月上旬から暴力を振るうようになった。最初は小林が寝ているタカサカを起こす時におでこや鼻の頭を叩いた。「起こす時に殴っていいから」という小林の言葉に他の受刑者も続いた。タカサカが起床を拒む時は、踏みつけたり、布団を剥ぎ取ってみぞおちを殴ったり蹴ったりして従わせた。 夕食後の余暇時間にも暴行はやまなかった。激しくなる暴力にタカサカは耐えきれず、刑務官に何度も転室を求めた。だが返事はいつも「行く部屋はない」だった。 日常的な暴行が約2週間続いた同23日ごろ、タカサカは起き上がるのが困難になっていたという。刑務官は同日午後5時10分ごろにタカサカの体温を測定し、顔にあざやけががないことを確認した。しかしこの時、既に暴行は熾烈を極めていた。 一度標的にされると逃げ場はなかった。被害者と加害者が一日中顔を合わせる状況が続いていたことが原因だ。福島刑務所では、懲役囚たちは月、火、木、金曜の午前8時~午後4時に刑務作業がある(金曜は矯正指導の場合も)。通常は居室とは別の部屋で作業するが、身体が不自由な彼らの場合、居室の中に材料が運び込まれ、机を並べて作業した。作業中もタカサカの失禁はやまず、受刑者から顔面に裏拳を食らった。 同24日はタカサカに意識があった最後の日だ。タカサカは夕食後の余暇時間に、小便で汚してしまった上着と下着を流し台で洗っていた。テレビを見ながらだったため、洗い方は疎かだった。午後8時からの番組「科捜研の女」を見ていた。 タカサカの手が止まった。小林が洗濯を続けろと怒ったが通じない。小林に命じられ、佐々木が右隣に立ち監視した。「それじゃ生ぬるい。俺がやるのを見とけ」と小林。タカサカの右脇腹を殴った。続いて流し台に手を掛けて不自由な身体を支えながら、胸腹部にひざ蹴りした。タカサカが前かがみになったところに背中へ右ひじを振り下ろした。 小林は「俺がしき(見張り)張っとくから、よそ見したらお前も俺がしたようにしろ」と佐々木に命じた。小林は窓の傍で廊下の巡回を警戒した。佐々木は手本通り実行した。次に小林は「後で俺が殴る前に20発殴れ。みぞおちだと跡が残らないからな。合図したらやめろ」と言った。 菊池にはタカサカの両手を後ろに回し拘束するよう命じた。佐々木はタカサカの正面に立ち、両手のこぶしでみぞおちを殴った。足が不自由で踏ん張りが効かないが、菊池の「佐々木さん、俺のことは気にしなくていいから思いっきり殴ってくれ」との言葉を得て20回ほど殴った。 暴行に加わらず布団に入っていたSとFが様子を見ていた。タカサカは畳の上に横になったまま、動かなかった。1人で布団を敷ける状態ではなく、刑務官が「お前らで敷け」と命じると、小林、佐々木、菊池、Sは4人でタカサカの手足を持ち布団に入れた。小林は備え付けのつまようじを複数手に取り束にして、タカサカの左太ももに突き刺して手前に引いた。赤い線になって傷が付いた。 翌25日、起床時刻の午前7時半になってもタカサカは起きない。その日は8時からの作業に代わり、矯正指導のビデオを見る日だった。刑務官が到着したのは8時31分ごろだった。他の5人がビデオを見ている中、刑務官がタカサカの体温を測ると「測れないぞ」との声が上がった。 3日後の午後8時20分、タカサカの死亡が確認された。 衰えていた被害者  福島地裁で10月13日に開かれた小林の公判では、佐々木が証人として出廷した「なぜ小林の主導で集団暴行が繰り返されたのか」と問われた佐々木は「同室者の多くは小林に親族の住所と電話番号を控えられ、命令に逆らうことに恐怖を感じていた」と答えた。小林は他の受刑者より一足早く出所する予定で、自分が刑務所に残っている間に親族に危害が及ぶことを恐れたという。 ただ、佐々木自身もタカサカにいら立ちを感じていたのは確かで、それが暴行に加わった要因の一つと認めている。 真偽は不明だが、小林は暴力団との関係をほのめかし、52室の主導権を握っていた。タカサカも小林に個人情報を握られていたという。佐々木は「タカサカは小林の言うことを聞かなかったから標的となった」と話すが、失禁が止まらないほど重症で、部屋の中で一番高齢で衰えているタカサカが反抗的な態度を取っていたとは思えない。 佐々木は「動作を見ると、タカサカさんは言うことを聞く気はあるけど体が思うように利かない状態やったと思います」と言った。生前、「(便を)漏らしている感覚はあるのか」と聞いても、タカサカは「ない」と答えたという。小林の言うことを聞かなかったのではなく、脳梗塞の後遺症で体が動かせなかったから「聞けなかった」のではないか。 集団暴行死事件が起こった福島刑務所  一方、重い病状の受刑者たちを一つの部屋に集中させ、健康状態に配慮しなかった刑務所側の責任も問わなければならない。福島刑務所は今回の事件をどのように総括しているのか。情報開示請求で入手した内部文書からその一端をうかがう。 まずは7月6日に出された事務連絡。題名は「被収容者の動静把握の徹底等について」。処遇担当の首席矯正処遇官が通知している。 《承知のとおり、本件は、司法解剖に係る公表事案となり、広くマスコミにより報道されたところであり、「福島刑務所で発生した事件」として、広く社会にも周知されていることから、その後の動向については、今なお注目されています》 佐々木と菊池に懲役1年の判決が言い渡されたことを報じた10月20日付の地元2紙の記事は、いずれも第3社会面で扱いは小さい。福島刑務所が危惧したほどではなかった。傷害致死ではなく傷害で逮捕・起訴され、裁判員裁判とならなかったためだろう。引用を続ける。 《本件発生後、当所では、本年4月11日付所長指示第23号「被収容者の動静把握の徹底等について」が発出され、当該指示の内容について、全職員を対象として研修を実施した。(中略)今一度、その内容を再確認の上、適切に勤務を遂行願います》 「適切な勤務」がされていなかったと分かる記述だ。では、4月11日に出された所長指示「被収容者の動静把握の徹底等について」とはどのような内容か。着任したばかりの五十嵐定一所長が出した書面を一部黒塗りがあるが抜粋する。 《本年3月25日午前7時30分の起床時刻頃、当所(3字分黒塗り)2階共同室に収容されていた(2字分黒塗り)受刑者が、布団に横がしたまま起床せず、その後、(27字分黒塗り)により外部病院に救急搬送され、同月28日に至り、多臓器不全により死亡する被収容者死亡事案が発生した。 本事案については、(9字分黒塗り)事故者を医務課に搬送し、診察の実施過程において、事故者の頭部、上半身及び左大腿部に複数の擦過傷及び打撲痕等が確認され、同衆暴行が行われた疑いがあったことから、事案解明と社会正義の実現のため、当所司法警察職員による捜査を開始したところであるが、(15字分黒塗り)にもかかわらず、これを事実上放置して、医療措置が遅れ、結果として、被収容者が死亡したことは、重大な事案であり、到底看過することはできない》(傍線部は筆者注) 「放置」を問題視  裁判での証言を基にすると、傍線部には、タカサカが脳梗塞を抱えていて注視する必要があったことや、刑務官に転室を希望していたことが表記されていると思われる。担当刑務官が異変を放置し、受刑者の生命保護につなげられなかった点を五十嵐所長は問題視しているわけだ。 書面では、以下の4項目の徹底も求めている。 1「(4字分黒塗り)の予防について」、2「現場確認について」、3「居室等勤務、運動・入浴立会勤務について」、4「動静視察等の徹底について」。 1は、高齢や病気で身体機能が低下している受刑者を十分に観察せよとの内容。2では、「起床時刻から1時間以上経過した後に監督職員が事故者の居室を開扉し、状況を直接確認しているが、起床後の人員点検報告を確認する業務がある等の事情を勘案しても遅きに失する」と指摘している。起床時刻が午前7時半、刑務官が駆け付けたのが1時間後の8時半ごろ。被害者の容体が危うく、自分で布団も敷ける状態ではなかったのが前日の午後8時45分ごろだから、体調不良の受刑者を12時間近く放置していたことになる。 3では、「勤務職員が異常を察知できなかったことが事案を発展させた可能性がある」とし、「巡回間隔を遵守するのみでなく頻繁な巡回を励行」すること、さらに、受刑者の運動・入浴時には形骸的な検査に陥らないようにし、異変は監督者に直ちに報告することを求めている。 被害者の死につながる暴行が行われていた3月24日夜は、小林が巡回の警戒に立ち、刑務官に目撃されないようにしていた。菊池によると、巡回は1、2人で行われ、警戒していれば暴行していても簡単には見つからないという。「福島刑務所居室配置表」を見ると、3舎2階には1~56室まで居室があり、集団暴行が行われていた52室は端の方に位置する。菊池が述べたように、巡回は簡単にやり過ごせるほど形骸化していたのだろう。 4では、集団暴行が「養護により昼間においても同じ居室内で作業を実施している居室」で起こったことから、同一空間で過ごすことによる精神的ストレスに注意し、夜間の居室の一部分離や定期的な転室の実施を求めている。これも、タカサカの転室希望が聞き入れられなかったことを受けての指示だ。 タカサカは何度も盗みを働き、刑務所の常連のようだが、だからと言って無造作に命が奪われていいはずがない。 今回の集団暴行死事件では、刑務所という国の24時間管理下に置かれた施設が無秩序状態にあったことが露見した。原稿執筆時の10月末現在、主犯である小林の裁判は継続中(次回は11月11日午後2時)だが、それとは別に、福島刑務所は事件の経緯と原因を公表し、管理運営の在り方を抜本的に見直す必要があるだろう。 あわせて読みたい 【福島刑務所】受刑者に期限切れ防塵マスク

  • 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

    【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

     田村市で起きた一連の贈収賄事件。逮捕・起訴された元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品を受け取っていたが、情報を漏らしていた時期が本田仁一前市長時代と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。真相はどうなのか。 賄賂を渡した田村市内業者の思惑  まずは元職員の逮捕容疑を新聞記事から説明する。 《県が作成した公共工事などの積算根拠となる「単価表」の情報を業者に提供した謝礼にギフトカードを受け取ったとして、県警捜査2課と田村署、郡山署は24日午前、元田村市技査で会社員、武田護容疑者(47)=郡山市富久山町福原字泉崎=を受託収賄の疑いで逮捕した。また、贈賄の疑いで、田村市の土木工事会社「三和工業」役員、武田和樹容疑者(48)=郡山市開成=を逮捕した。  逮捕容疑は、護容疑者が、市生活環境課原子力災害対策室で業務をしていた2020年2月から翌年5月までの間、和樹容疑者から単価表の情報提供の依頼を受け、情報を提供した謝礼として、14回にわたり、計14万円相当のギフトカードを受け取った疑い。和樹容疑者は、情報を受けた謝礼として護容疑者にギフトカードを贈った疑い》(福島民友2022年9月25日付) 両者は旧大越町出身で、中学校まで同級生だった(この稿では、両者を「容疑者」ではなく「氏」と表記する)。 武田護氏が武田和樹氏に漏らした単価表とは、県が作成した公共工事の積算根拠となる資料。県内の市町村は、県からこの資料をもらい公共工事の価格を積算している。 県のホームページを見ると土木事業単価表、土木・建築関係委託設計単価表、建築関係事業単価表が載っているが、例えば「令和4年度土木事業単価表」は994頁にも及んでおり、生コンクリート、アスファルト合材、骨材、再生材、ガソリン・軽油など、さまざまな資材の単価が県北(1~6地区)、県中(1~4地区)、県南(1~3地区)、喜多方(1~3地区)、会津若松(1~4地区)、南会津(1~3地区)、相双(1~5地区)、いわき(1~2地区)と地区ごとに細かく示されている。 福島県作成の単価表  ただ単価表を見ていくと、一般鋼材、木材類、コンクリート製品、排水溝、管類、交通安全施設資材、道路用防護柵、籠類など複数の資材や各種工事の夜間単価で「非公表」と表示されている。ざっと見て1000頁近い単価表の半分以上が非公表になっている印象だ。 県技術管理課によると、単価を公表・非公表とする基準は 「単価の多くは一般財団法人建設物価調査会と一般財団法人経済調査会の定期刊行物に載っている数字を使っている(購入している)が、発刊元から『一定期間は公表しないでほしい』と要請されているのです。発刊元からすれば、自分たちが調査した単価をすぐに都道府県に公表されてしまったら、刊行物の価値が薄れてしまうので〝著作権〟に配慮してほしい、と。ただ、非公表の単価は原則1年後には公表されます」 と言う。 とはいえ、都道府県が市町村に単価表を提供する際は全ての単価を明示するため、市町村の積算に支障が出ることはない。問題は、非公表の単価を含む「不完全な単価表」を基に入札金額を積算する業者だ。 業者は、非公表の単価については過去の単価などを参考に「だいたいこれくらいだろう」と予想して積算し、入札金額を弾き出す。業者からすると、その入札金額が、市町村が積算した価格に近いほど「予想が正確」となるから、落札に向けて戦略的な応札が可能になる。 近年、各業者は積算能力の向上に注力しており、社内に積算専門の社員を置いたり、情報開示請求で単価に関する情報を入手し、それを基に専門の積算ソフトを使って積算のシミュレーションを行うなど研究に余念がない。〝天の声〟で落札者が決まったり、役所から予定価格が漏れ伝わる官製談合は、完全になくなったわけではないが過去の話。現在は、昔とは全く趣きの異なる「シビアな札入れ合戦」が行われている。 要するに業者にとって非公表の単価は、市町村が積算した価格を正確に予想するため「喉から手が出るほど欲しい情報」なのだ。 積算ソフト会社に漏洩  「でも、ちょっと解せないんですよね」 と首を傾げるのは市内の建設会社役員だ。 「隣の郡山市では熾烈な価格競争が常に展開されているので、郡山の業者なら非公表の単価を入手し、より正確な入札金額を弾き出したいと考えているはず。しかし、田村市の入札はそこまで熾烈ではないし、三和工業クラスならだいたいの積算で札入れしても十分落札できる。そもそも贈賄というリスクを冒すほど同社は経営難ではない。こう言っては何だが贈賄額もたった14万円。落札するのに必死なら、100万円単位の賄賂を渡しても不思議ではない」 別表①は、和樹氏が護氏から単価表の情報を受け取った時期(2020年2月~21年5月)に三和工業が落札した市発注の公共工事だ。計12件のうち、富士工業とのJVで落札した東部産業団地造成工事は〝別格〟として、それ以外は1億円超の工事が1件あるだけで、他社より多く高額の工事を落札しているわけでもない。同社の落札金額と次点の入札金額も比較してみたが、前出・建設会社役員が言うように、熾烈な価格競争が行われた様子もない。  「三和工業は市内最上位のSランクで、地元(大越)の工事を中心に堅実な仕事をする会社として定評がある。他地域(滝根、都路、常葉、船引)の仕事で目立つのは船引の国道288号バイパス関連の工事くらい。他地域に食い込むこともなければ、逆に地元に食い込まれても負けることはない」(同) 同社(田村市大越町)は1952年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=武田公志、取締役=武田元志、渡辺政弘、武田和樹(前出)、監査役=武田仁子の各氏。 市が公表している「令和3・4年度工種別ランク表」によると、同社は一般土木工事、舗装工事、建築工事で最上位のSランク(S以下は特A、A、Bの順)に位置付けられている。他にSランクは富士工業、環境土木、鈴船建設だけだから、確かに市内トップクラスと言っていい。 民間信用調査機関のデータによると、業績も安定している(別表②)。  なるほど、前出・建設会社役員が言うように、同社の経営状態を知れば知るほど、リスクを冒してまで単価表の情報を入手する必要があったのか、という疑問が湧いてくる。 「単価表の情報を欲しがるとすれば積算ソフト会社です。おそらく和樹氏は、入手した情報を自社の入札に利用したのではなく、積算ソフト会社に横流ししたのでしょう。当然そこには、それなりの見返りもあったはず」(同) 実は、新聞によっては《県警は、武田和樹容疑者が工事の積算価格を算出するソフト開発会社に単価表の情報を渡していたとみて捜査している》(読売新聞県版2022年9月25日付)、《和樹容疑者が護容疑者から得た単価表の情報を自社の入札価格の算出などに使った可能性や、積算ソフトの製作会社に提供した可能性もある》(福島民報同26日付)と書いている。 「積算ソフト会社が業者から求められるのは高い精度です。そのソフトを使ってシミュレーションした価格が、市町村が積算する価格に近ければ近いほど『あの会社のソフトは良い』という評価につながる。つまり、より精度を上げたい積算ソフト会社にとって、非公表の単価はどうしても知りたい情報なのです」(同) 建設会社役員によると、積算ソフト会社はいくつかあるか、市内の業者は「大手2社のどちらかの積算ソフトを使っている」と言い、三和工業は「おそらくA社(取材では実名を挙げていたが、ここでは伏せる)だろう」というから、和樹氏は護氏から入手した情報をA社に横流ししていた可能性がある。 「A社が強く意識したのは郡山の業者でしょう。郡山の方が田村より業者数は多いし、競争もシビアなので積算ソフトの需要も高い。実は単価表の括りで言うと、田村と郡山は同じ『県中地区』に区分されているので田村の単価表が分かれば郡山の単価表も自動的に分かる。『郡山で精度の高い積算ができるソフト』と評判を呼べば、売れ行きも当然変わってきますからね」(同) 困惑する三和工業社員  これなら14万円の賄賂も合点がいく。同級生(護氏)から1回1万円(×14回)で情報を引き出し、それを積算ソフト会社に提供する見返りにそれなりの対価を得ていたとしたら、和樹氏は「お得な買い物」をしたことになる。 ちなみに1年3カ月の間に14回も情報を入手していたのは、単価が物価等の変動によって変わるため、単価表が改正される度に最新の情報を得ていたとみられる。前述・県作成の「令和4年度・土木事業単価表」も4月1日に公表されて以降、10月までに計7回も改正が行われている。 「和樹氏は以前、異業種の会社に勤めていたが、4、5年前に父親が社長を務める三和工業に入社した。そのころは別の役員が積算業務を担い、和樹氏が積算業務を担うようになったのは最近。和樹氏がどのタイミングで積算ソフト会社と接点を持ったのかは分からないが、自宅のある郡山で護氏と頻繁に飲み歩いていたようだし、そこでいろいろな人脈を築いたという話もあるので、その過程で積算ソフト会社と知り合ったのかもしれない」(同) 2022年10月27日現在、和樹氏と積算ソフト会社の接点に関する報道は出ていないが、捜査が進めば最終的に単価表の情報がどこに行き着いたか見えてくるだろう。 事件を受け、三和工業は田村市から24カ月の指名停止、県から21カ月の入札参加資格制限措置の処分を受けた。公共工事を主体とする同社にとっては厳しい処分だ。 2022年10月中旬、同社を訪ねると、応対した男性社員が次のように話した。 「私たち社員もマスコミ報道以上のことは分かっていない。弊社では毎月1日に朝礼があるが、10月1日の朝礼で社長から謝罪があった。市や県から指名停止処分などが科されたことは承知しているが、正式な通知はまだ届いていない。今後の対応はその通知を踏まえたうえで決めることになると思う。ただ、現在施工中の公共工事はこれまで通り続けられるので、まずはその仕事をしっかりこなしていきたい」 ここまで情報を受け取った側の和樹氏に触れてきたが、情報を漏らした側の護氏とはどんな人物なのか。 武田護氏は1996年に合併前の旧大越町役場に入庁。技術系職員として勤務し、単価表の情報を漏らしていた時期は田村市市民部生活環境課原子力災害対策室で技査(係長相当)を務めていた。しかし、2022年3月末に「一身上の都合」で退職。その後は自宅のある郡山で会社勤めをしていた。 突然の早期退職は、自身に捜査が及びつつあるのを察知してのこととみられる。2022年6月には「三和工業の役員が早朝、警察に呼び出され、任意の事情聴取を受けたようだ」というウワサも出ていたから、和樹氏と一緒に護氏も呼び出されていたのかもしれない。 そんな護氏が情報を漏らしていたのは同社だけではなかった。 元職員が一人で積算  《県警捜査2課と田村署、郡山署は14日午後2時15分ごろ、田村市発注の除染関連の公共工事3件の予定価格を別の業者に漏らし、見返りとして飲食の接待などを受けたとして、加重収賄の疑いで武田容疑者を再逮捕した。 再逮捕容疑は、市原子力災害対策室に勤務していた2019(令和元)年6月ごろから11月ごろまでの間、市発注の除染で出た土壌の輸送業務に関係する指名競争入札3件の予定価格について、田村市の土木建築会社役員の40代男性に漏らし、見返りとして計16万円相当の飲食接待などの提供を受けた疑い》(福島民友2022年10月15日付) 報道によると、3件の予定価格は1億8790万円、1億2670万円、3560万円で、前記2件は2019年6月、後記1件は同年9月に入札が行われた。これを基に市が公表している入札結果を見ると、落札していたのは秀和建設だった。 同社(田村市船引町)は1977年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=吉田幸司、取締役=吉田ヤス子、吉田眞也、監査役=佐久間多治郎の各氏。市の「令和3・4年度工種別ランク表」によると、一般土木工事と舗装工事で特Aランクとなっている。 市内の業者によると、吉田幸司社長は以前から体調を崩していたといい、新聞記事にも《県警は男性について、健康上の理由などから任意で捜査を行い、贈賄容疑で近く書類送検するとみられる》(福島民友2022年10月15日付)とあるから、護氏に飲食接待を行っていたのは吉田社長とみられる。ほかにゴルフバックなども贈っていたという。 「護氏と和樹氏は同級生だが、護氏と吉田社長がどういう関係なのかはよく分からない」(業者) 別表③は同社が落札した除染土壌の輸送業務だが、注目されるのは落札率。事前に予定価格を知っていたこともあり、100%に近い落札率となっている。  一方、別表④は同社の業績だが、厳しい状況なのが分かる。除染土壌の輸送業務を落札した近辺は黒字だが、それ以外は慢性的な赤字に陥っている。  「資金繰りに苦労しているとか、後継者問題に悩んでいると聞いたことがある」(同) というから、吉田社長は「背に腹は代えられない」と賄賂を渡してしまったのかもしれない。ただ、収賄罪の時効が5年に対し、贈賄罪の時効は3年で、飲食接待の半分以上は時効が成立しているとみられる。 加えて三和工業とは異なり、秀和建設は10月26日現在、指名停止等の処分は受けていない。 10月中旬、同社を訪ねたが 「社員で事情を分かる者がいないので、何も話せない」(事務員) それにしても、なぜ護氏はここまで好き放題ができたのか。 ある市議によると、護氏は「一部の職員に限られている」とされる、単価表を管理する設計業務システムにアクセスするための専用パスワードとIDを知り得る立場にあった。また、除染土壌の輸送業務では一人で積算を担当し、発注時の設計価格(予定価格)を算出していた。 「除染関連工事の発注は、冨塚宥暻市長時代は市内の業者で組織する復興事業組合に一括で委託し、そこから組合員が受託する方式が採られていたが、本田仁一市長時代に各社に発注する方式に変更された。その業務を担ったのが原子力災害対策室で、当初は技術系職員が複数いたが、除染関連事業が少なくなるにつれて技術系職員も減り、輸送業務が主体になるころには護氏一人になった。結果、護氏が積算を任されるようになり、チェック機能もないまま多額の事業が発注された」(ある市議) 本田仁一前市長  除染土壌の輸送業務は2017~20年度までに約70件発注され、事業費は契約額ベースで約65億円。このうち護氏は19、20年度の積算を一人で行っていた。これなら予定価格を簡単に漏らすことが可能だ。 護氏は10月14日に受託収賄罪で起訴された。今後、加重収賄罪でも起訴される見通しだ。 元職員が二度逮捕・起訴されたことを受け、白石高司市長は次のようなコメントを発表した。 《9月24日の事案と同じく、今回の事案についても、警察の捜査により逮捕に至ったもので、市長として痛恨の極みにほかなりません。あらためて市民の皆様に市政に対する信頼を損なうこととなったことを深くお詫び申し上げます》 前出・市議によると、白石市長は護氏の最初の逮捕後、すぐに県中建設事務所と本庁土木部を訪ね、県から提供された単価表を漏洩させたことを謝罪したという。 前市長の関与を疑う声  一連の贈収賄事件は今のところ、元職員による単独犯の様相を呈しているが、護氏が情報を漏らしていた時期が本田市政(2017~21年)と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。 実際、田村市役所で行われた9月24日の家宅捜索は捜査員約20人が駆け付け、5時間にわたり関連資料を探すという物々しさだった。その状況を目の当たりにした市役所関係者は「警察は他に狙いがあるのではないか」と話していた。 思い返せば、除染土壌の輸送業務をめぐっては落札業者による多額の匿名寄付問題が起きていたし、当時の公共工事の発注には本田氏を熱心に支持する業者の関与が取り沙汰されたこともあった(詳細は本誌2021年1月号「田村市政の『深過ぎる闇』」を参照されたい)。 しかし、 「本田氏は2021年4月の市長選で落選し、今年3月には公選法違反(寄付禁止)で罰金40万円の略式命令を受けている。もし本田氏が今も市長なら警察も熱心に捜査しただろうが、落選した本田氏に強い関心を寄せるとは思えない。今後の焦点は、護氏がどこまで情報を漏らし、どれくらい対価を得ていたかになると思われます」(前出・市議) 市民の関心をよそに、事件は「大山鳴動して鼠一匹」に終わる可能性もありそうだ。 前市政の後始末に追われるだけでなく、元職員まで逮捕され、白石市長は思い描いた市政運営になかなか着手できずにいる。 あわせて読みたい 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

    【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

      田村市で起きた一連の贈収賄事件。受託収賄・加重収賄の罪に問われている元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品や接待を受けていた。本誌は先月号【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相で、元職員が漏らした非公開の土木事業単価表が積算ソフト会社に流れたと見立てていたが、裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた。調べると、仙台市に本社があるこの会社は宮城県川崎町でも全く同じ手口で贈収賄事件を起こしていた。予定価格の漏洩が常態化していた田村市は、規範意識の低さを積算ソフト会社に付け込まれた形だ。 田村市贈収賄「三和工業ルート」の構図  元職員への賄賂の経路は、贈った市内の土木建築会社ごとに「三和工業ルート」と「秀和建設ルート」に分かれる。本稿では執筆時点の2022年11月下旬、福島地裁で裁判が進行中で、同30日に役員に判決が言い渡される予定の「三和工業ルート」について書く。  「三和工業ルート」は単価表をめぐる事件だった。公共工事の入札に当たり、事業者は資材単価を工事に合わせて積算し、入札金額を弾き出す。この積算根拠となるのが、県が作成し、一部を公表している単価表だ。実物をざっと見ると半分以上が非公表となっている。ただし都道府県が市町村に単価表を提供する際は、すべての単価が明示されている。  問題は、不完全な単価表しか見られない業者だ。これを基に他社より精度の高い積算をしなければ落札できない。そこで、事業者は専門の業者が作成する積算ソフトを使ってシミュレーションする。積算ソフト会社にとっては、精度を上げれば製品の信頼度が上がり、商品(積算ソフト)が売れるので、完全な情報が載っている非公表の単価表は「のどから手が出るほど欲しい情報」なのだ。  一方で、三和工業は堅実で業績も安定しており、自社の落札のために単価表入手という危ない橋を渡ることは考えにくい。こうした理由から、本誌は先月号で、積算ソフト会社が三和工業役員に報酬をちらつかせて単価表データの入手を働きかけ、役員が元市職員からデータを漏洩させたと見立てた。果たして裁判で明らかとなった真相は、見立て通り、積算ソフト会社社員の「依頼」が発端だった。  11月9日の「三和工業ルート」初公判では、元市職員の武田護被告(47)=郡山市=と同社役員の武田和樹被告(48)=同=が出廷した。2人は旧大越町出身で中学時代の同級生。和樹被告は大学卒業後、民間企業に勤めたが、父親が経営する同社を継ぐため2014年に入社した。  次第に積算業務を任されるようになったが、専門外なので分からない。そこで、相談するようになったのが護被告、そして取引先の積算ソフトウェア会社「コンピュータシステム研究所」の社員Sだった。  公判で言及されたこの会社をあらためて調べると、仙台市青葉区に本社を置く「株式会社コンピュータシステム研究所」とみられることが分かった。法人登記簿や民間信用調査会社によると、1986(昭和61)年設立。資本金2億2625万円で、コンピュータソフトウェアの企画、開発、受託、販売及び保守、システム利用による土木・建築の設計などを行っている。建設業者向けのパッケージソフトの開発が主力だ。  単価表をめぐるコンピュータシステム研究所の動き 田村市宮城県川崎町1996年武田護氏が大越町(当時)に入庁2014年武田和樹氏が三和工業に入社、護氏と再会し飲みに行く関係に2020年2月ごろ~21年5月ごろ研究所社員のSが和樹氏を仲介役に護氏から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2010年ごろ~2021年4月ごろ研究所の社員と地元建設業役員が共謀して町職員から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2021年5月宮城県警が本格捜査2021年6月コンピュータシステム研究所が「コンプライアンス」を理由に非公開の単価表入手をやめる2021年6月30日贈収賄に関わった3人が逮捕2021年7月21日受託収賄や贈賄で3人を起訴2021年12月27日3人に執行猶予付き有罪判決2022年3月末護氏が田村市を退職2022年9月24日贈収賄で福島県警が護氏と和樹氏を逮捕河北新報や福島民報の記事を基に作成  代表取締役は長尾良幸氏(東京都渋谷区)。同研究所ホームページによると、東京にも本社を置き全国展開。東北では青森市、盛岡市、仙台市に拠点がある。「さらなる積算効率の向上と精度を追求した土木積算システムの決定版」と自社製品を紹介している。 宮城県で同様の事件  実は、田村市の事件は氷山の一角の可能性がある。同研究所は他の自治体でも単価表データの入手に動いていたからだ。  2021年6月30日、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、町内の建設業「丹野土木」男性役員(50)、そして同研究所の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報7月1日付より、年齢役職は当時。紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同年12月28日付の同紙によると、3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、同27日に仙台地裁から有罪判決を受けている。町職員は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金1万2000円(求刑懲役1年6月、追徴金1万2000円)。丹野土木元役員と同研究所社員にはそれぞれ懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)が言い渡された。  判決によると、2020年11月24日ごろから21年4月27日ごろまでの6カ月間、町職員は公共工事の設計や積算に使う単価表の情報を提供した謝礼として元役員から役場庁舎などで6回にわたり商品券計12万円分を受け取った。贈賄側2人は共謀して町職員に情報提供を依頼して商品券を贈ったと認定された。1回当たり2万円払っていた計算になる。  田村市の事件では、三和工業役員の和樹被告が、2020年2月ごろから21年5月ごろまで、ほぼ毎月のペースで元市職員の護被告から単価表データを受け取ると、同研究所のSに渡した。Sは見返りに会社の交際費として2万円を計上し、和樹被告に14回にわたり計28万円払っていた。和樹被告は、毎回2万円を護被告と折半していた。田村市の事件では、折半した金の動きだけが立件されている。川崎町の事件と違い、和樹被告とSの共謀を立証するのが困難だったからだろう。それ以外は手口、1回当たりに払った謝礼も全く同じだ。  共謀の立証が難しいのは、和樹被告の証言を聞くと分かる。2019年12月、Sは「上司からの指示」としたうえで「単価表を入手できなくて困っている」と和樹被告に伝えた。積算業務の素人だった自分に普段から助言してくれたSに恩義を感じていたという和樹被告は「手伝えることがある。市役所に同級生がいるから聞いてみる」と答えた。翌20年1月、和樹被告は護被告に頼み、「田村市から出たのは内緒な」と注意を受けて単価表データが入ったCD―Rを受け取り、それをSに渡した。Sからもらった2万円の謝礼を「オレ、なんもやっていないから」と護被告に言い、折半したのも和樹被告の判断だという。   一連の単価表データ入手は、川崎町の事件で同研究所の別の社員が2021年6月に逮捕され、同研究所が「コンプライアンス強化」を打ち出すまで続いた。逮捕者が出て、ようやく事の重大性を認識したということか。  田村市で同様の手口を繰り返していた護被告は、川崎町の事件を知り自身に司直の手が伸びると恐れたに違いない。捜査から逃れるためか、今年3月に市職員を退職。そして事件発覚に至る。 狙われた自治体は他にも!?  単価表データを入手する活動は、同研究所が社の方針として掲げていた可能性がある。裁判で検察は、SがCD―Rのデータを添付して上司に送ったメールを証拠として提出しているからだ。  本誌は、同研究所に①単価表データを得る活動は社としての方針か、②自社製品の積算ソフトに、不正に入手した単価表データを反映させたか、③事件化した自治体以外でも単価表データを得る活動を行っていたか、など計8項目にわたり文書で質問したが、締め切りの2022年11月25日を過ぎても回答はなかった。  川崎町の事件から類推するしかない。河北新報2021年12月5日付によると、有罪となった同研究所社員は《「予想した単価と実際の数値にずれがあり、クレーム対応に苦慮していた。これ(単価表)があれば正確なデータが作れる」と証言。民間向け積算ソフトで全国トップクラスの社の幹部だった被告にとって、他市町村の発注工事の価格積算にも使える単価表の情報は垂ぜんの的だった》という。積算ソフトにデータを反映させていたことになる。  一方、田村市内のある建設会社役員は「積算ソフトの精度は向上し、製品による大きな差は感じない。逮捕・有罪に至る危険を冒してまで単価表データを入手する必要があるとは思えない。事件に関わった同研究所の社員たちは『自分は内部情報をここまで取れるんだぞ』と営業能力を示し、社内での評価を高めたかっただけではないか」と推測する。  事件は、全国展開する積算ソフト会社が、地縁関係が強い地方自治体の職員と地元建設業者をそそのかしたとも受け取れるが、だからと言って田村市は「被害者面」することはできない。公判で護被告と和樹被告は「入札予定価格を懇意の業者に教えることが田村市では常態化していた」と驚きのモラル崩壊を証言しているからだ。  全国で熾烈な競争を繰り広げる積算ソフト会社が、ぬるま湯に浸かっていた自治体に狙いを定め、情報を抜き取るのはたやすかったろう。川崎町や田村市以外にも「カモ」と目され、狙われた自治体があったと考えるのが自然ではないか。同市の事件が氷山の一角と推察される所以である。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 【会津若松】巨額公金詐取事件の舞台裏

    【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏

     会津若松市の元職員による巨額公金詐取事件。その額は約1億7700万円というから呆れるほかない。 専門知識を悪用した元職員  巨額公金詐取事件を起こしたのは障がい者支援課副主幹の小原龍也氏(51)。小原氏は2022年11月7日付で懲戒免職になっているため、正確には元職員となる。  発覚の経緯は2022年6月13日、2021年度の児童扶養手当支給に係る国庫負担金の実績報告書を県に提出するため、小原氏の後任となったこども家庭課職員が関係書類やシステムデータを確認したところ、実際に振り込んだ額とシステムデータに不整合があることを見つけたことだった。  内部調査を進めると、2021年度の児童扶養手当支給に複数の不整合があることが分かった。また小原氏の業務用パソコンからは、同年度の子育て世帯への臨時特別給付金について小原氏名義の預金口座に振込依頼していたデータや、重度心身障がい者医療費助成金をめぐり小原氏が給付事務を担当していた07~09年度に詐取していたことをうかがわせるデータも見つかった。市は会津若松署に報告し今後の対応を相談する一方、金融機関に小原氏名義の預金口座の照会を行うなど、詐取の証拠集めを2カ月かけて進めた。  市は2022年8月8日、小原氏に事情聴取した。最初は「分からない」「覚えていない」と非協力的な姿勢を見せていたが、集めた証拠類を示すと児童扶養手当と子育て世帯への臨時特別給付金を詐取したことを認めた。  小原氏は動機について「不正に振り込む方法を思い付いた。魔が差した」と語り、使途は「生活していく中で自然に使った」と説明したが、続く同9、10、15日に行った事情聴取では「親族の借金を肩代わりし返済に苦労していた」「競馬や宝くじに使った」「車のローンの返済に充てた」と次第に変化していった。  市は事情聴取と並行し、詐取された公金の回収に取り組んだ。預金口座からの振り込みに加え、生命保険の解約や車の売却といった保有財産の換価を行い、2022年11月8日現在、約9100万円を回収した。  2022年9月8日には小原氏に対する懲戒審査委員会を開き、懲戒免職が妥当と判断されたが、引き続き事情聴取と公金回収を進めるため、小原氏の職員としての身分を当面継続することとした。  小原氏は2022年10月7日、市に誓約書を提出した。内容は児童扶養手当(約1億1070万円)、子育て世帯への臨時特別給付金(60万円)、重度心身障がい者医療費助成金(約6570万円)、計約1億7700万円を詐取したことを認め、弁済することを誓約したものだ。  市は2022年11月7日付で会津若松署に詐欺罪で告訴状を提出し、その日のうちに受理された。また、同日付で小原氏を懲戒免職とし、併せて上司らの懲戒処分を行った。  「会津若松署が告訴状を受理したので、事件の全容解明は今後の捜査に委ねられることになる。警察筋の話によると、捜査は2023年2月くらいまでかかるようだ」(ある事情通)  それにしても、これほど巨額な詐取がなぜバレなかったのか不思議でならないが、  「市の説明や報道等によると、児童扶養手当の詐取は管理システムの盲点を悪用し不正な操作を繰り返した、子育て世帯への臨時特別給付金の詐取は本来の支給額より多い金額が自分の預金口座に振り込まれるようデータを細工した、重度心身障がい者医療費助成金の詐取もデータを細工する一方、帳票を改ざんして発覚を免れていた」(同) 合併自治体特有の「差」  それだけではない。こども家庭課に勤務していた時は、自分が児童扶養手当支給の主担当を担えるよう事務分担を変え、支給処理に携わる職員を1人減らし、それまで行っていた決裁後の起案のグループ回覧をやめることで他職員が関連書類に触れないようにしていた。また主担当の仕事をチェックする副担当に、入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充てることでチェックが機能しにくい体制をつくっていた。  「パソコンがかなり達者で、福祉関連の支給事務に精通していた。そこに狡猾さが加わり、不正がバレないやり方を身に付けていった」(同)  小原氏は市の事情聴取に「不正はやる気になればできる」と話したというから、詐取するには打って付けの職場環境だったに違いない。  小原氏は1996年4月、旧河東町役場に入庁。2005年11月、会津若松市との合併に伴い同市職員となった。社会福祉課に配属され、11年3月まで重度心身障がい者医療費助成金の給付事務を担当。18年4月からはこども家庭課で児童扶養手当と子育て世代への臨時特別給付金の給付事務を担当した。2022年4月、障がい者支援課副主幹に。事件はこの異動をきっかけに発覚した。  地元ジャーナリストの話。  「小原氏は妻と子どもがおり、父親と同居している。父親は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐと聞いた。三男(同)は、小原氏と職種は違うが公務員だそうだ」  小原氏は「親族の借金を肩代わりした」とも語っていたが、  「過去に叔父が勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあるという。親族の借金の肩代わりとは、それを指しているのかもしれない」(同) 会津若松市河東町にある小原氏の自宅  河東町にある自宅は2000年10月に新築され、持ち分が父親3分の2、小原氏3分の1の共有名義となっている。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  小原氏の職場での評判は「他職員が嫌がる仕事も率先して引き受け、仕事ぶりは迅速かつ的確」といい、地元の声も「悪いことをやる人にはとても見えない」と上々。しかし、会津若松市のように他町村と合併した自治体では「職員の差」が問題になることがある。  ある議員経験者によると、市町村合併では優秀な職員が多い自治体もあれば能力の低い職員が目立つ自治体、服装や挨拶など基本的なことすらできていない自治体等々、職員の能力や資質に差を感じる場面が少なくなかったという。  「合併から十数年経ち、職員の退職・入庁が繰り返されたため今は差を感じることは減ったが、中核となる市に周辺町村がくっついた合併では職員の能力や資質にだいぶ開きがあったと思います」(同)  元首長もこう話す。  「町村役場は、職員を似たような部署に長く置いて専門性を身に付けさせ、サービスの低下を防ぐ。そこで自然と専門知識が身に付くので、あとは個人の資質によるが、悪用する気になればできる、と」  小原氏は旧河東町時代も重度心身障がい者医療費助成金の支給事務を行っていたというから、専門知識は豊富だったことになる。  市町村職員になるには採用試験に合格しなければならないが、競争率が高いため「職員=優秀」というイメージが漠然と定着している。しかし現実は、小原氏のような悪質な職員も存在すること、さらに言うと合併自治体特有の、職員の能力や資質の差が今回のような事件の契機になることも認識する必要がある。  市は今後、未回収となっている約8600万円の回収に努め、場合によっては民事訴訟も視野に入れるという。事件を受け、室井照平市長は給料を7カ月2分の1に減額し、現任期(3期目)の退職手当も2分の1に減額する方針。  市の責任を形で示したわけだが、市民からは市が注力しているデジタル田園都市国家構想を踏まえ「巨額公金詐取を見抜けなかった市に膨大な市民の個人情報を預けて大丈夫なのか」と心配する声が聞かれる。ICT導入を熱心に進める前にチェック機能がない、いわば〝ザル〟の組織を立て直す方が先決ではないのか。 この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄の罪に問われた元市職員に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。賄賂を贈った市内の土木建築業の前社長にも執行猶予付きの有罪判決。事件に関わる裁判は終結したが、有罪となったのは氷山の一角に過ぎない。「不正入札の常態化」を作り上げた歴代の首長と後援業者、担当職員の責任が問われる。 執行部・議会は真相究明に努めよ  元市職員の武田護氏(47)=郡山市在住、旧大越町出身=は二つの贈収賄ルートで罪に問われていた。贈賄業者別に一つは三和工業ルート、もう一つは秀和建設ルートだ。 三和工業ルートで、護氏は同社役員(当時)武田和樹氏(48)=同、執行猶予付き有罪判決=に県が作成した非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取っていた。単価表は入札予定価格を設定するのに必要な資料で、全資材単価が記された単価表は、受注者側からすると垂涎ものだ。 近年は民間業者が販売する積算ソフトの性能が向上し、個々の業者が贈賄のリスクを犯して入手するほどの情報ではなかったため、当初から背後にソフト制作会社の存在が囁かれていたが、主導していたのは仙台市に本社がある㈱コンピュータシステム研究所だった。営業担当者が和樹氏を通して、同氏と中学時代からの友人である護氏からデータを得ていた。和樹氏は、同研究所から見返りに1件につき2万円分の商品券を受け取り、護氏と折半していた。ただ、同研究所と和樹氏の共謀は成立せず、贈賄側は和樹氏だけが有罪となった。 求人転職サイトを覗くと、同研究所の退職者を名乗る人物が「会社ぐるみで非公開の単価表の入手に動いていたが、不正を行っていたことを反省していない」と「告発」している。本誌は同社に質問状を送ったが「返答はしない」との回答を寄せたこと、昨年12月号の記事「積算ソフト会社の『カモ』にされた市と業者」に対して抗議もないことから、会社ぐるみで不正を行い、入手した単価表のデータを自社製品に反映させていた可能性が高い。「近年は積算ソフトの性能が上がっている」と言っても、こうした業者の「営業努力」の結果に過ぎない面もある。 もう一つの秀和建設ルートは、市発注の除染除去物端末輸送業務の入札で起こった。武田護氏は同社の吉田幸司社長(当時)とその弟と昵懇になり、2019年6月から9月に行われた入札で予定価格を教えた。見返りに郡山市の飲食店で総額約30万円の接待を受けた。 護氏は裁判で「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」と動機を述べていた(詳細は本誌1月号「裁判で暴かれた不正入札の構図 汚職のきっかけは前市長派業者への反感」参照)。護氏からすると、「真面目にやっている人」とは今回罪に問われた三和工業や秀和建設。一方、「楽に仕事を得ようとしている人たち」とは本田仁一前市長派の業者だった。 本田前市長派業者の社長らは田村市復興事業協同組合(現在は解散)の組合長や本田後援会の会長を務めていた。検察はこの復興事業協同組合が受注調整=談合をしていた事実を当人たちから聞き出している。組合長を務めていた富士工業の猪狩恭典社長も取り調べで認めたという。同市の公共工事をめぐっては、かねてから談合のウワサはあったが、裁判が「答え合わせ」となった形。 護氏は、一部の業者が本田前市長の威光を笠に着て、陰で入札を仕切っていたことに反感を抱いていたのだろう。 もっとも、不正入札を是正しようと三和工業や秀和建設に便宜を図ったとしても、それは新たな不正を生んだだけだった。護氏は裁判で「民間企業にはお堅い役所にはない魅力があった」と赤裸々に語り、ちゃっかり接待を楽しんでいた。こうなると前市長派業者への反感は、収賄を正当化するための後付けの理由にしか聞こえない。裁判所も「不正をした事実に変わりはない」と情状酌量はしていない。 政治家に翻弄される建設業者  市内の業者は、長く政治家に翻弄されてきた。本田前市長派業者に従わなければ仕事を得られなかったことを示すエピソードがある。田村市船引町は玄葉光一郎衆院議員(58)=立憲民主党=の出身地で強固な地盤だ。対する本田前市長は自民党。県議時代は党県連の青年局長や政調会副会長などを務めた。 三和工業の事務所では、冨塚宥暻市長の時代、玄葉氏のポスターを張っていた。冨塚氏は玄葉氏と近い関係にあった。しかし、県議を辞職して市長選に挑んだ本田氏が冨塚氏を破ると、冨塚氏や玄葉氏を応援していた業者は次第に本田派業者から圧力を掛けられ、市発注の公共工事で冷や飯を食わされるようになったという、ある建設会社役員の証言がある。 三和工業に張られていた玄葉氏のポスターが剥がされ、本田氏のポスターに張り替えられたのはその時期だった。「三和もとうとう屈したか」とその役員は思ったという。 本田前市長とその後援業者が全ての元凶と言いたいのではない。裁判では、少なくとも冨塚市長時代から不正入札が行われていたことが判明した。自治体発注の事業が経営の柱になっていることが多い建設業は、政治家に大きく左右されるということ。極端な話、政治は公共事業の便宜を図ってくれそうな立候補者が建設業者の強力な支援を得て、選挙に勝ち続ける仕組みになっている、と言えなくもない。 田村市の贈収賄事件は、本田前市長とその後援業者が露骨に振る舞った結果、ただでさえ疑念にあふれていた入札がさらに歪んで起きた。 田村市は検察、裁判所という国家機関の介入により全国に恥部をさらすことになった。事件を受け、市民は市政に対する不信感を増幅させており、市職員のモチベーションは下がっているという。 護氏は、自分以外にも入札価格を漏洩する市職員がいたこと、本田前市長とその意向を受けた市幹部が不必要と思える事業を作り、本田前市長派業者が群がっていたことをほのめかしているから、現役の市職員が戦々恐々とし、仕事に身が入らないのも分かる。時効や立証の困難さから護氏以外の職員経験者が立件される可能性は低いが、市は今後のために内部調査をするべきだろう。白石高司市長にその気がないなら、市議会が百条委員会を設置するなどして真相究明する必要がある。 原稿執筆時の1月下旬、県職員とマルト建設(会津坂下町)の社長、役員が入札に関わる贈収賄容疑で逮捕された。入札不正を根絶するためにも、田村市は率先して調査・改善し、県や他市町村の参考になり得る「田村モデル」をつくるべきだ。 「過ちて改めざる是を過ちという」。誇りを取り戻すチャンスはまだある。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人

    介護業界の人手不足が招いた悲劇  小野町の特別養護老人ホーム「つつじの里」に入所していた植田タミ子さん(94)を暴行・殺害したとして田村署小野分庁舎は12月7日、同施設の介護福祉士・冨沢伸一容疑者(41)を逮捕した。内情を知る人物によると、同施設では以前から容疑者に関する問題点が上司に告げられていたが、きちんとした対応が行われていなかったようだ。事件を受けて行われた県と同町の特別監査でも、運営状況に問題が見つかった。 *脱稿時点で冨沢容疑者は起訴されていないため、 この稿では「容疑者」と表記する  「つつじの里」は2019年9月に開所。全室個室・ユニット型で定員29床。同施設を運営するのは社会福祉法人かがやき福祉会(小野町谷津作、山田正昭理事長)。 冨沢容疑者(同施設のホームページより) 事件が起きた「つつじの里」  事件は容疑者逮捕の2カ月前に起きていた。  昨年10月9日、個室のベッドで植田さんが亡くなっているのを冨沢容疑者が発見し、同施設の看護師に連絡した。嘱託で勤務する主治医の診断で、死因は「老衰」とされた。しかし、不審に思った施設関係者が翌日、警察に通報。警察は遺族から遺体を引き取り、11日に司法解剖を行った結果、下腹部などに複数のあざや皮下出血が見つかった。死因は一転して「外傷性の出血性ショック」に変わった。  第一発見者の冨沢容疑者は10月8日夜から9日朝にかけ、同僚と2人で夜勤をしていた。警察は10日の通報で、冨沢容疑者による暴行の可能性を告げられたため、本人や職員を任意で事情聴取したり、防犯カメラの映像を解析するなど慎重に捜査を進めていた。同施設は事件後、冨沢容疑者を自宅待機させていた。  冨沢容疑者は任意の事情聴取では事件への関与を否定。しかし、逮捕後の取り調べでは「被害者を寝付かせようとしたが、なかなか寝ずイライラした」「排泄を促すため下腹部を圧迫したが殺そうとはしていない」(朝日新聞県版12月10日付)と暴行を一部認めつつ殺意は否認した。  「殺意はなかった? じゃあ、体中にあざができていた理由はどう説明するのか。殺意がなければ、あれほどのあざはできない」  そう憤るのは、亡くなった植田タミ子さんの長男で須賀川市の会社役員・植田芳松さん(65)。芳松さんによると、遺体が自宅に戻った際、首元にあざを見つけ不審に思ったが、直後に警察が引き取っていったため体の状態を詳しく見ることができなかった。司法解剖を終え、あらためて自宅に戻った遺体を見て、芳松さん家族は仰天した。  「(司法解剖した)腹は白い布が巻かれていて分からなかったが、腕、脚は肌の白い部分が見えないくらいあざだらけだったのです」(同)  報道によると、冨沢容疑者は下腹部を押したと供述しているから、司法解剖された腹にも相当なあざが残っていたと思われる。  「誰の目も届かない個室で、母は何をされていたのか。あれほどのあざは押した程度ではできない。日常的に殴る蹴るの暴行を受けていたのではないか」(同)  そう話すと声を詰まらせ、その後の言葉は出てこなかった。実は、芳松さんはある後悔を拭えずにいた。  タミ子さんが亡くなる3日前(10月6日)、ペースメーカーの検査のため病院に付き添った芳松さんは、タミ子さんの両手にあざがついているのを見つけた。しかし、原因を尋ねてもタミ子さんは答えなかった。  「施設内での出来事や生活の様子は話すのに、あざのことを聞くと口ごもって何も言わなかった」(同)  その時は妙だなと思うだけだったが、事件が起きてみると「母の帰る場所は『つつじの里』で、そこには常に冨沢容疑者がいるから、誰かに告げ口すればもっと酷い目に遭わされるかもしれない。だから怖くて何も言えなかったのではないか」という推察が芳松さんの頭に浮かんだ。  原因をきちんと究明しておけばよかった――息子として、そんな気持ちにさいなまれている。  母親の命を奪った冨沢容疑者は当然許せないが、芳松さんは同施設の対応にも疑問を感じている。  「母の世話は主に冨沢容疑者が見ていたのかもしれないが、他の職員だって世話をしていたはず。その際に母の体を見れば複数のあざに気付いただろうに、それが見過ごされていたのが不思議でならない」  逆に、気付いていながら何の対処もされなかったとすれば、それもそれでおかしな話だ。  最たる例の一つが、タミ子さんの死因をめぐる診断だ。前述の通り司法解剖では「外傷性の出血性ショック」と診断され、芳松さん家族が見ても全身あざだらけだったことは一目瞭然なのに、同施設の主治医はタミ子さんの死亡直後に「老衰」と診断していた。  これについては、町内からも「きちんと診断したのか」と疑問の声が上がっており、「主治医は運営法人と親しく、運営法人にとって不都合になる診断を避けたのでは」というウワサまで囁かれている。  主治医は町内で内科、小児科、外科などからなるクリニックを開設している。死因を「老衰」とした理由を聞くため同クリニックを訪問したが、「聞きたいことがあれば当院の弁護士を通じて質問してほしい」(看護師)と言う。ところが、弁護士の名前を尋ねると「手元に資料がなくて分からない」(同)と呆れた答えが返ってきた。  「冨沢容疑者をはじめ職員の教育は行き届いていたのか、死亡診断書の件に見られるように運営体制に不備はなかったのか等々、施設側にも問題はなかったのか見ていくべきだと思います」(芳松さん)  タミ子さんは2021年6月に同施設に入所。だが、新型コロナウイルスの影響で入所者以外は施設内に立ち入ることができず、芳松さんも着替えなどを届けるため入口で職員に荷物を手渡す程度しか同施設に近付いたことはなかった。タミ子さんと会えるのは、入所の原因となった脚の骨折やペースメーカーの検査で定期的に通院・入院する時の付き添いだった。その際、同施設から病院にタミ子さんを送迎していたのが冨沢容疑者とみられる。「みられる」と表記したのは、  「施設内に入れないので、どの職員が母の世話をしているのか分からなかった。事件後、新聞に載った冨沢容疑者の写真を見て『確か病院に送迎していた人だ』と思い出した。名前も報道で初めて知った」(同) 告げられていた問題点  冨沢容疑者とはどのような人物なのか。  同町内にある冨沢容疑者の自宅を訪ねると、玄関先で女性から「何も分からないんで」と言われた。部屋の奥からは高齢男性の「うちは関係ないぞ」という声も聞かれた。  同施設がマスコミ取材に語ったところでは、冨沢容疑者は開所時から介護福祉士として勤務。事件当時は職員の勤務調整や指導などを行うユニットリーダーに就いていた。  同施設は冨沢容疑者を「物静かでおとなしく真面目だった」「勤務態度に問題はなく、入所者とのコミュニケーションも取れていた」と評している。だが、内情を知る人物はこれとは違った一面を指摘する。  「『つつじの里』に来る前に数カ所の介護施設で勤務経験があるが、そのうち何カ所かで問題を起こし辞めたと聞いている。『つつじの里』に勤務する際、採用担当者は『こういう人を雇って大丈夫か』と心配したそうだが、運営法人幹部のコネが効いて採用が決まったという」  これが事実なら、冨沢容疑者には事件を起こすかもしれない素地があったことになる。さらに言うと、タミ子さんが亡くなった直後に施設関係者がすぐに警察に通報したということは、内部で問題人物と見なされていた、と。  実際、2021年春ごろには冨沢容疑者が担当していた別の入所者の腕にあざが見つかった。当時の内部調査に、冨沢容疑者は「車いすに乗せる際に力が入ってしまった。虐待ではない」と説明したが、  「職員たちはその後、冨沢容疑者に関する問題点を上司らに告げていた。しかし、施設側は真摯に聞き入れず、冨沢容疑者に口頭で注意するだけだったそうです」(同)  昨年春には、そんな運営状況に嫌気を差した職員数人が一斉に退職したこともあったという。  「辞めた職員からは『問題点を指摘しても、上層部がそれをどの程度深刻に受け止めたか分からない』という不満が漏れていた」(同)  施設顧問とは、事件後に取材対応などを行っている阿部京一氏のことだ。阿部氏は小野町の元職員で、大和田昭前町長時代には副町長を務めていた。しかし、2021年3月に行われた町長選で大和田氏が現町長の村上昭正氏に敗れると副町長を辞職。その後就職したのが、同年9月に開所した「つつじの里」だった。  阿部氏は同町職員時代、健康福祉課に勤務したことがあるが、専門知識や現場経験を豊富に備えていたかというと疑問が残る。そうした心許なさが、職員から問題点を指摘されても深刻に受け止め切れない原因になったのかもしれない。ちなみに、運営法人理事長の山田正昭氏も元政治家秘書。  施設側の対応のマズさという点では、本誌が芳松さんを取材した12月中旬時点で、同施設は遺族に事件に関する説明をしていなかった。まだ容疑者の段階で、犯人と断定されたわけではないとはいえ、でき得る範囲での説明や謝罪は行うべきではなかったか。芳松さんの義母はタミ子さんと同い年で、昨年夏に別の施設で亡くなったが、この時施設側から受けた温かみのある対応との差も同施設への不信感を増幅させている。  今回の事件を受け、同町は12月16日、県と合同で同施設に特別監査を行った。同町総務課によると、本来はもっと早く行う予定だったが、同施設で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、後ろ倒しになった。  社会福祉法人に対する指導監査には一般監査と特別監査がある。一般監査は実施計画を策定したうえで一定の周期で行われる。これに対し特別監査は、運営等に重大な問題を有する法人を対象に随時行われる。  特別監査が行われると、対象法人に改善勧告が出され、勧告に従わないと行政処分に当たる改善命令、業務停止命令、それでも従わないと最も重い解散命令が科される。  「特別監査では施設内でどのような生活を送っているか、虐待や拘束を受けていないかなどを入所者から直接聞き取ります。書類や記録簿などもチェックし、専門家の意見を仰ぎます。町は介護保険法、県は老人福祉法の観点から調査します。改善勧告の時期は明言できないが、多くの町民が心配しているので早急に結論を出したい」(同町総務課) 規定より少なかった職員数  そして行われた特別監査では《入所者の虐待防止のための研修は行われていたものの、対面での研修はなく、書類を回覧するだけで済ませていた》《施設の規定では職員数は14人以上必要としていたが、現時点では10人だけで入所者に十分なサービスを提供できていない可能性があることもわかった》(朝日新聞デジタル版12月18日付)として、県と同町は同施設に対し虐待防止研修の強化や職員の増員を指導した。  同施設に取材を申し込むと、運営法人から「施設顧問に対応させる」と言われたが、締め切りまでに阿部氏から連絡はなかった。  介護業界は重労働なのに低賃金で慢性的な人手不足に陥っている。同施設も運営規定で職員14人以上を適正規模と謳っているが、実際は10人しかいなかった。  求人を出しても募集は来ない。今の給料より高い求人があると、職員は即移籍してしまう。そうなると素行に問題のある職員でも、人手の充足を優先し、雇用が継続されてしまう実態がある。その結果、トラブルが起こり、余計に人手不足になる悪循環に陥っている。  すなわち今回の事件は、介護業界の弊害が招いたものと言える。  前出・芳松さんは「誰もが特別養護老人ホームを利用する可能性がある。高齢化が進む社会にとって必要不可欠な施設を安心・安全に利用できるよう事件の原因究明と再発防止策が求められる」と指摘するが、まさしくその通りだ。 あわせて読みたい 【塙強盗殺人事件】裁判で明らかになったカネへの執着

  • 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄に問われた元市職員の判決が1月13日午後2時半から福島地裁で言い渡される。裁判では除染関連の公共事業発注に関し、談合を主導していた業者の証言が提出された。予定価格の漏洩が常態化していたことも明らかになり、事件は前市長、そして懇意の業者が共同で公共事業発注をゆがめた結果、倫理崩壊が市職員にも蔓延して起こったと言える。 汚職のきっかけは前市長派業者への反感  元市職員の武田護被告(47)=郡山市=は市内の土木建築業者から賄賂を受け取った罪を全面的に認めている。昨年12月7日の公判で検察側が求めた刑は懲役2年6月と追徴金29万9397円。注目は実刑か執行猶予が付くかどうかだ。立件された贈賄の経路は二つある。  一つは三和工業の役員(当時)に非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取ったルート。もう一つが秀和建設ルートだ。市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6月27日~9月27日にかけて行われた入札で、武田被告は予定価格を同社の吉田幸司社長(当時)に教えた見返りに飲食の接待を受けた。同社は3件落札、落札率は96・95~97・90%だった。  三和工業の元役員には懲役8月、執行猶予3年が確定した。秀和建設の吉田氏は在宅起訴されている。  田村市は設計金額と予定価格を同額に設定している。武田被告は少なくともこの2社に設計金額を教え、見返りを得ていた。他の業者については、見返りの受け取りは否定しているが、やはり教えてきたという。  入札の公正さをゆがめ、公務員としての信頼に背いたのは確かだが、後付けとはいえ彼なりの理由があったようだ。2社に便宜を図った動機を取り調べでこう述べている。  「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」  「真面目にやっている人」とは武田被告からすると三和工業と秀和建設。では「楽に仕事を得ようとしている人」とは誰か。それは、本田仁一前市長時代に受注調整=談合を主導していた「市長派業者」を指している。検察側は田村市で行われていた公共事業発注について、次の事実を前提としたうえで武田被告に尋問していた。  ・船引町建設業組合では事前に落札の優先順位を決めるのが慣例だった。  ・除染除去物質端末輸送業務では一時保管所を整地した業者が優先的に落札する決まりがあった。  ・田村市復興事業協同組合(既に解散)が受注調整=談合をしていた。  これらの事実は船引町建設業組合を取りまとめる業者の社長と市復興事業協同組合長を務める業者の社長が取り調べで認めている。  「落札の優先順位を定める円滑調整役だった。業者は優先順位に従って落札する権利を与えられ、業者同士が話し合う。どこの輸送業務をどの業者が落札するか決定し、船引町の組合には結果が報告されてくる。それを同町を除く市内の各組合長に伝えていた」(船引町建設業組合長)  市復興事業協同組合長も「一時保管所を整地したら除染土壌の運搬も担うよう他地区と調整していた」と認めている。この組合長については本誌2018年8月号「田村市の公共事業を仕切る〝市長派業者〟の評判」という記事で市内の老舗業者が言及している。  「本田仁一市長の地元・旧常葉町に本社がある㈱西向建設工業の石井國仲社長は本田市長の後援会長を務めている。一方、市内の建設業界を取り仕切るのは田村市復興事業組合で組合長を務める富士工業㈱の猪狩恭典社長。この2人が『これは本田市長の意向だ』として公共工事を仕切っているんです」(同記事より)  除染土壌の輸送業務をめぐっては業者が落札の便宜を図ってもらうために、本田前市長派業者の主導で市に多額の匿名寄付をし、除染費用を還流させていた問題があった。元市職員が刑事事件に問われたことで、公共事業発注の腐敗体質が明らかになったわけだ。  武田被告は本田前市長派業者による不正が行われていた中で、自分も懇意の業者に便宜を図ろうと不正に手を染めたことになる。取り調べに「楽に仕事を得ようとする業者」に反感があったと語ったが、自分もまた同様の業者を生み出してしまった。田村市では予定価格を業者に教えるのが常態化していたというから、規範が崩れ、不正を犯すハードルが低くなっていたことが分かる。 不必要な事業を発注か  武田被告は公共事業発注の腐敗体質について、市の事業に決定権を持つ者、つまり本田前市長や職員上層部の関与もほのめかしている。  「我々公務員は言われた仕事をやる立場。決定する立場の人間が必要な事業なのか判断しているのか疑問だった。そのような事業を取る会社はそういう(=楽をして仕事を取ろうとする)会社も見受けられた」  上層部が不必要な事業をつくり、一部の業者が群がっていたという構図が見て取れる。  武田被告が市職員を辞めたのは2022年3月末。本誌は前号で、宮城県川崎町の職員が単価表データを地元の建設会社役員と積算ソフト会社社員に漏らして報酬を受け取った事件を紹介した。本誌は同種の事件を起こしていた武田被告が立件を恐れて退職したとみていたが、本人の証言によると、単に「堅苦しい役所がつまらなかった」らしい。  2022年1~2月には就職活動を行い、土木資料の販売を行う民間会社から内定を得た。市役所退職後の4月から働き始め、市の建設業務に携わった経験を生かして営業やパソコンで図面を作る仕事をしていた。市役所の閉塞感から解放され「楽しくて、初めて仕事にやりがいを感じた」という。  武田被告は1995年3月に短大を卒業後、郡山市の広告代理店に就職。解雇され職探しをしていたところ、父親の勧めで96年に旧大越町役場に入庁した。建設部水道課に所属していた2013、14年ごろに秀和建設の役員(吉田前社長の実弟)と知り合い、年に3、4回飲みに行く仲になった。  役所内に情報源を持ちたかった吉田氏の意向で、実弟は武田被告への接待をセッティング。吉田氏と武田被告はLINEで設計金額を教える間柄になった。この時期の贈収賄は時効を迎えたため立件されていない。当時は冨塚宥暻市長の時代だから、市長が誰かにかかわらず設計金額漏洩は悪習化していたようだ。  後始末に追われる白石高司市長だが、自身も公募型プロポーザルの審査委員が選定した新病院施工者を独断で覆した責任を問われ、市議会が百条委員会を設置し調査を進めている。前市政から続く問題で市民からの信頼を失っている田村市だが、武田被告が「市役所はつまらない」と評したように、内部(市職員)からも見限られてはいないか。外部からメスが入ったことを契機に膿を出し切り、生まれ変わるきっかけにするべきだ。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【福島刑務所】集団暴行死事件を追う

     2022年3月25日、福島刑務所(福島市)の6人が収容された1室で、60歳の男性受刑者が意識不明の状態で見つかった。受刑者は病院に搬送され、3日後に死亡。同室の複数人から日常的に殴る蹴るの暴行を受けていた。傷害の罪に問われた3人の裁判では、脳梗塞の影響で失禁を繰り返していた被害者にいら立ち、標的にしていたことが判明。刑務官が事態を放置していたことも内部文書で明らかになり、同刑務所の管理体制が問われている。(敬称略) 内部文書で判明した「刑務官の異変放置」  福島刑務所は、執行刑期が10年未満で犯罪傾向が進んでいる(B指標)か、外国人(F指標)の男性受刑者が収容される。2022年3月25日付の同刑務所「処遇日報」によると、定員は1655人で、898人を収容していた(収容率54・3%)。 集団暴行が繰り返されていたのは、3舎2階にある52室。けがや病気などで身体に障害を抱えた男性受刑者6人が入室していた。被害者はタカサカシンイチ。福島民友2020年11月25日付によると、同名の「高坂進一」が郡山市内で乗用車を盗んだとして逮捕されている。タカサカは2022年2月21日に52室に転室した。 タカサカは、先に入室していた受刑者たちから頭や顔、胸腹部などを殴られ、打撲や肋骨骨折などのけがを負った。暴行を受けて死亡しているため傷害致死の疑いも残るが、加害者3人が裁かれたのは傷害罪のみ。主犯は小林久(ひろし)(47)=本籍郡山市、従犯は佐々木潤(49)=同京都市、菊池巧(35)=同矢祭町。全員前科がある累犯者で、小林と菊池は窃盗、佐々木は強制わいせつの罪で懲役刑を受け服役していた。従犯2人は罪を認め、福島地裁は10月19日に懲役1年(求刑懲役1年2月)を言い渡した。主犯の小林は共謀を認めておらず、審理が続いている。 公判での証言から、52室で日常化していた集団暴行をたどる。  主犯の小林は2022年1月5日、F受刑者と一緒に転室してきた。佐々木が翌6日、S受刑者が同31日、最後にタカサカと菊池が2月21日に転室した。全員、身体が不自由だった。裁判では加害者3人が車椅子に乗って入廷し、証言台に立つのも刑務官2人に支えられていた。加えて、死亡したタカサカは脳梗塞の後遺症で失禁を繰り返していたという。 同室者たちは、そんなタカサカと悪臭にいら立っていた。「寝ている時にトイレに行けばいいんですが、周囲が言っても聞かないんです。シャツや上着を汚していましたが、本人が掃除しないので俺たちがやっていました」と佐々木。タカサカは「明日からはしないし掃除もする」と約束したが、守られなかったという。同室者たちは就寝中のタカサカが失禁しないように、15~20分間隔で起こして便所に連れて行った。最初は小林が、後に佐々木、菊池、Sも加わった。 6人部屋で標的に  「なんでこんなことをしなくちゃならないんだ」。4人は睡眠不足が続き、鬱憤を晴らすためタカサカに3月上旬から暴力を振るうようになった。最初は小林が寝ているタカサカを起こす時におでこや鼻の頭を叩いた。「起こす時に殴っていいから」という小林の言葉に他の受刑者も続いた。タカサカが起床を拒む時は、踏みつけたり、布団を剥ぎ取ってみぞおちを殴ったり蹴ったりして従わせた。 夕食後の余暇時間にも暴行はやまなかった。激しくなる暴力にタカサカは耐えきれず、刑務官に何度も転室を求めた。だが返事はいつも「行く部屋はない」だった。 日常的な暴行が約2週間続いた同23日ごろ、タカサカは起き上がるのが困難になっていたという。刑務官は同日午後5時10分ごろにタカサカの体温を測定し、顔にあざやけががないことを確認した。しかしこの時、既に暴行は熾烈を極めていた。 一度標的にされると逃げ場はなかった。被害者と加害者が一日中顔を合わせる状況が続いていたことが原因だ。福島刑務所では、懲役囚たちは月、火、木、金曜の午前8時~午後4時に刑務作業がある(金曜は矯正指導の場合も)。通常は居室とは別の部屋で作業するが、身体が不自由な彼らの場合、居室の中に材料が運び込まれ、机を並べて作業した。作業中もタカサカの失禁はやまず、受刑者から顔面に裏拳を食らった。 同24日はタカサカに意識があった最後の日だ。タカサカは夕食後の余暇時間に、小便で汚してしまった上着と下着を流し台で洗っていた。テレビを見ながらだったため、洗い方は疎かだった。午後8時からの番組「科捜研の女」を見ていた。 タカサカの手が止まった。小林が洗濯を続けろと怒ったが通じない。小林に命じられ、佐々木が右隣に立ち監視した。「それじゃ生ぬるい。俺がやるのを見とけ」と小林。タカサカの右脇腹を殴った。続いて流し台に手を掛けて不自由な身体を支えながら、胸腹部にひざ蹴りした。タカサカが前かがみになったところに背中へ右ひじを振り下ろした。 小林は「俺がしき(見張り)張っとくから、よそ見したらお前も俺がしたようにしろ」と佐々木に命じた。小林は窓の傍で廊下の巡回を警戒した。佐々木は手本通り実行した。次に小林は「後で俺が殴る前に20発殴れ。みぞおちだと跡が残らないからな。合図したらやめろ」と言った。 菊池にはタカサカの両手を後ろに回し拘束するよう命じた。佐々木はタカサカの正面に立ち、両手のこぶしでみぞおちを殴った。足が不自由で踏ん張りが効かないが、菊池の「佐々木さん、俺のことは気にしなくていいから思いっきり殴ってくれ」との言葉を得て20回ほど殴った。 暴行に加わらず布団に入っていたSとFが様子を見ていた。タカサカは畳の上に横になったまま、動かなかった。1人で布団を敷ける状態ではなく、刑務官が「お前らで敷け」と命じると、小林、佐々木、菊池、Sは4人でタカサカの手足を持ち布団に入れた。小林は備え付けのつまようじを複数手に取り束にして、タカサカの左太ももに突き刺して手前に引いた。赤い線になって傷が付いた。 翌25日、起床時刻の午前7時半になってもタカサカは起きない。その日は8時からの作業に代わり、矯正指導のビデオを見る日だった。刑務官が到着したのは8時31分ごろだった。他の5人がビデオを見ている中、刑務官がタカサカの体温を測ると「測れないぞ」との声が上がった。 3日後の午後8時20分、タカサカの死亡が確認された。 衰えていた被害者  福島地裁で10月13日に開かれた小林の公判では、佐々木が証人として出廷した「なぜ小林の主導で集団暴行が繰り返されたのか」と問われた佐々木は「同室者の多くは小林に親族の住所と電話番号を控えられ、命令に逆らうことに恐怖を感じていた」と答えた。小林は他の受刑者より一足早く出所する予定で、自分が刑務所に残っている間に親族に危害が及ぶことを恐れたという。 ただ、佐々木自身もタカサカにいら立ちを感じていたのは確かで、それが暴行に加わった要因の一つと認めている。 真偽は不明だが、小林は暴力団との関係をほのめかし、52室の主導権を握っていた。タカサカも小林に個人情報を握られていたという。佐々木は「タカサカは小林の言うことを聞かなかったから標的となった」と話すが、失禁が止まらないほど重症で、部屋の中で一番高齢で衰えているタカサカが反抗的な態度を取っていたとは思えない。 佐々木は「動作を見ると、タカサカさんは言うことを聞く気はあるけど体が思うように利かない状態やったと思います」と言った。生前、「(便を)漏らしている感覚はあるのか」と聞いても、タカサカは「ない」と答えたという。小林の言うことを聞かなかったのではなく、脳梗塞の後遺症で体が動かせなかったから「聞けなかった」のではないか。 集団暴行死事件が起こった福島刑務所  一方、重い病状の受刑者たちを一つの部屋に集中させ、健康状態に配慮しなかった刑務所側の責任も問わなければならない。福島刑務所は今回の事件をどのように総括しているのか。情報開示請求で入手した内部文書からその一端をうかがう。 まずは7月6日に出された事務連絡。題名は「被収容者の動静把握の徹底等について」。処遇担当の首席矯正処遇官が通知している。 《承知のとおり、本件は、司法解剖に係る公表事案となり、広くマスコミにより報道されたところであり、「福島刑務所で発生した事件」として、広く社会にも周知されていることから、その後の動向については、今なお注目されています》 佐々木と菊池に懲役1年の判決が言い渡されたことを報じた10月20日付の地元2紙の記事は、いずれも第3社会面で扱いは小さい。福島刑務所が危惧したほどではなかった。傷害致死ではなく傷害で逮捕・起訴され、裁判員裁判とならなかったためだろう。引用を続ける。 《本件発生後、当所では、本年4月11日付所長指示第23号「被収容者の動静把握の徹底等について」が発出され、当該指示の内容について、全職員を対象として研修を実施した。(中略)今一度、その内容を再確認の上、適切に勤務を遂行願います》 「適切な勤務」がされていなかったと分かる記述だ。では、4月11日に出された所長指示「被収容者の動静把握の徹底等について」とはどのような内容か。着任したばかりの五十嵐定一所長が出した書面を一部黒塗りがあるが抜粋する。 《本年3月25日午前7時30分の起床時刻頃、当所(3字分黒塗り)2階共同室に収容されていた(2字分黒塗り)受刑者が、布団に横がしたまま起床せず、その後、(27字分黒塗り)により外部病院に救急搬送され、同月28日に至り、多臓器不全により死亡する被収容者死亡事案が発生した。 本事案については、(9字分黒塗り)事故者を医務課に搬送し、診察の実施過程において、事故者の頭部、上半身及び左大腿部に複数の擦過傷及び打撲痕等が確認され、同衆暴行が行われた疑いがあったことから、事案解明と社会正義の実現のため、当所司法警察職員による捜査を開始したところであるが、(15字分黒塗り)にもかかわらず、これを事実上放置して、医療措置が遅れ、結果として、被収容者が死亡したことは、重大な事案であり、到底看過することはできない》(傍線部は筆者注) 「放置」を問題視  裁判での証言を基にすると、傍線部には、タカサカが脳梗塞を抱えていて注視する必要があったことや、刑務官に転室を希望していたことが表記されていると思われる。担当刑務官が異変を放置し、受刑者の生命保護につなげられなかった点を五十嵐所長は問題視しているわけだ。 書面では、以下の4項目の徹底も求めている。 1「(4字分黒塗り)の予防について」、2「現場確認について」、3「居室等勤務、運動・入浴立会勤務について」、4「動静視察等の徹底について」。 1は、高齢や病気で身体機能が低下している受刑者を十分に観察せよとの内容。2では、「起床時刻から1時間以上経過した後に監督職員が事故者の居室を開扉し、状況を直接確認しているが、起床後の人員点検報告を確認する業務がある等の事情を勘案しても遅きに失する」と指摘している。起床時刻が午前7時半、刑務官が駆け付けたのが1時間後の8時半ごろ。被害者の容体が危うく、自分で布団も敷ける状態ではなかったのが前日の午後8時45分ごろだから、体調不良の受刑者を12時間近く放置していたことになる。 3では、「勤務職員が異常を察知できなかったことが事案を発展させた可能性がある」とし、「巡回間隔を遵守するのみでなく頻繁な巡回を励行」すること、さらに、受刑者の運動・入浴時には形骸的な検査に陥らないようにし、異変は監督者に直ちに報告することを求めている。 被害者の死につながる暴行が行われていた3月24日夜は、小林が巡回の警戒に立ち、刑務官に目撃されないようにしていた。菊池によると、巡回は1、2人で行われ、警戒していれば暴行していても簡単には見つからないという。「福島刑務所居室配置表」を見ると、3舎2階には1~56室まで居室があり、集団暴行が行われていた52室は端の方に位置する。菊池が述べたように、巡回は簡単にやり過ごせるほど形骸化していたのだろう。 4では、集団暴行が「養護により昼間においても同じ居室内で作業を実施している居室」で起こったことから、同一空間で過ごすことによる精神的ストレスに注意し、夜間の居室の一部分離や定期的な転室の実施を求めている。これも、タカサカの転室希望が聞き入れられなかったことを受けての指示だ。 タカサカは何度も盗みを働き、刑務所の常連のようだが、だからと言って無造作に命が奪われていいはずがない。 今回の集団暴行死事件では、刑務所という国の24時間管理下に置かれた施設が無秩序状態にあったことが露見した。原稿執筆時の10月末現在、主犯である小林の裁判は継続中(次回は11月11日午後2時)だが、それとは別に、福島刑務所は事件の経緯と原因を公表し、管理運営の在り方を抜本的に見直す必要があるだろう。 あわせて読みたい 【福島刑務所】受刑者に期限切れ防塵マスク

  • 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

     田村市で起きた一連の贈収賄事件。逮捕・起訴された元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品を受け取っていたが、情報を漏らしていた時期が本田仁一前市長時代と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。真相はどうなのか。 賄賂を渡した田村市内業者の思惑  まずは元職員の逮捕容疑を新聞記事から説明する。 《県が作成した公共工事などの積算根拠となる「単価表」の情報を業者に提供した謝礼にギフトカードを受け取ったとして、県警捜査2課と田村署、郡山署は24日午前、元田村市技査で会社員、武田護容疑者(47)=郡山市富久山町福原字泉崎=を受託収賄の疑いで逮捕した。また、贈賄の疑いで、田村市の土木工事会社「三和工業」役員、武田和樹容疑者(48)=郡山市開成=を逮捕した。  逮捕容疑は、護容疑者が、市生活環境課原子力災害対策室で業務をしていた2020年2月から翌年5月までの間、和樹容疑者から単価表の情報提供の依頼を受け、情報を提供した謝礼として、14回にわたり、計14万円相当のギフトカードを受け取った疑い。和樹容疑者は、情報を受けた謝礼として護容疑者にギフトカードを贈った疑い》(福島民友2022年9月25日付) 両者は旧大越町出身で、中学校まで同級生だった(この稿では、両者を「容疑者」ではなく「氏」と表記する)。 武田護氏が武田和樹氏に漏らした単価表とは、県が作成した公共工事の積算根拠となる資料。県内の市町村は、県からこの資料をもらい公共工事の価格を積算している。 県のホームページを見ると土木事業単価表、土木・建築関係委託設計単価表、建築関係事業単価表が載っているが、例えば「令和4年度土木事業単価表」は994頁にも及んでおり、生コンクリート、アスファルト合材、骨材、再生材、ガソリン・軽油など、さまざまな資材の単価が県北(1~6地区)、県中(1~4地区)、県南(1~3地区)、喜多方(1~3地区)、会津若松(1~4地区)、南会津(1~3地区)、相双(1~5地区)、いわき(1~2地区)と地区ごとに細かく示されている。 福島県作成の単価表  ただ単価表を見ていくと、一般鋼材、木材類、コンクリート製品、排水溝、管類、交通安全施設資材、道路用防護柵、籠類など複数の資材や各種工事の夜間単価で「非公表」と表示されている。ざっと見て1000頁近い単価表の半分以上が非公表になっている印象だ。 県技術管理課によると、単価を公表・非公表とする基準は 「単価の多くは一般財団法人建設物価調査会と一般財団法人経済調査会の定期刊行物に載っている数字を使っている(購入している)が、発刊元から『一定期間は公表しないでほしい』と要請されているのです。発刊元からすれば、自分たちが調査した単価をすぐに都道府県に公表されてしまったら、刊行物の価値が薄れてしまうので〝著作権〟に配慮してほしい、と。ただ、非公表の単価は原則1年後には公表されます」 と言う。 とはいえ、都道府県が市町村に単価表を提供する際は全ての単価を明示するため、市町村の積算に支障が出ることはない。問題は、非公表の単価を含む「不完全な単価表」を基に入札金額を積算する業者だ。 業者は、非公表の単価については過去の単価などを参考に「だいたいこれくらいだろう」と予想して積算し、入札金額を弾き出す。業者からすると、その入札金額が、市町村が積算した価格に近いほど「予想が正確」となるから、落札に向けて戦略的な応札が可能になる。 近年、各業者は積算能力の向上に注力しており、社内に積算専門の社員を置いたり、情報開示請求で単価に関する情報を入手し、それを基に専門の積算ソフトを使って積算のシミュレーションを行うなど研究に余念がない。〝天の声〟で落札者が決まったり、役所から予定価格が漏れ伝わる官製談合は、完全になくなったわけではないが過去の話。現在は、昔とは全く趣きの異なる「シビアな札入れ合戦」が行われている。 要するに業者にとって非公表の単価は、市町村が積算した価格を正確に予想するため「喉から手が出るほど欲しい情報」なのだ。 積算ソフト会社に漏洩  「でも、ちょっと解せないんですよね」 と首を傾げるのは市内の建設会社役員だ。 「隣の郡山市では熾烈な価格競争が常に展開されているので、郡山の業者なら非公表の単価を入手し、より正確な入札金額を弾き出したいと考えているはず。しかし、田村市の入札はそこまで熾烈ではないし、三和工業クラスならだいたいの積算で札入れしても十分落札できる。そもそも贈賄というリスクを冒すほど同社は経営難ではない。こう言っては何だが贈賄額もたった14万円。落札するのに必死なら、100万円単位の賄賂を渡しても不思議ではない」 別表①は、和樹氏が護氏から単価表の情報を受け取った時期(2020年2月~21年5月)に三和工業が落札した市発注の公共工事だ。計12件のうち、富士工業とのJVで落札した東部産業団地造成工事は〝別格〟として、それ以外は1億円超の工事が1件あるだけで、他社より多く高額の工事を落札しているわけでもない。同社の落札金額と次点の入札金額も比較してみたが、前出・建設会社役員が言うように、熾烈な価格競争が行われた様子もない。  「三和工業は市内最上位のSランクで、地元(大越)の工事を中心に堅実な仕事をする会社として定評がある。他地域(滝根、都路、常葉、船引)の仕事で目立つのは船引の国道288号バイパス関連の工事くらい。他地域に食い込むこともなければ、逆に地元に食い込まれても負けることはない」(同) 同社(田村市大越町)は1952年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=武田公志、取締役=武田元志、渡辺政弘、武田和樹(前出)、監査役=武田仁子の各氏。 市が公表している「令和3・4年度工種別ランク表」によると、同社は一般土木工事、舗装工事、建築工事で最上位のSランク(S以下は特A、A、Bの順)に位置付けられている。他にSランクは富士工業、環境土木、鈴船建設だけだから、確かに市内トップクラスと言っていい。 民間信用調査機関のデータによると、業績も安定している(別表②)。  なるほど、前出・建設会社役員が言うように、同社の経営状態を知れば知るほど、リスクを冒してまで単価表の情報を入手する必要があったのか、という疑問が湧いてくる。 「単価表の情報を欲しがるとすれば積算ソフト会社です。おそらく和樹氏は、入手した情報を自社の入札に利用したのではなく、積算ソフト会社に横流ししたのでしょう。当然そこには、それなりの見返りもあったはず」(同) 実は、新聞によっては《県警は、武田和樹容疑者が工事の積算価格を算出するソフト開発会社に単価表の情報を渡していたとみて捜査している》(読売新聞県版2022年9月25日付)、《和樹容疑者が護容疑者から得た単価表の情報を自社の入札価格の算出などに使った可能性や、積算ソフトの製作会社に提供した可能性もある》(福島民報同26日付)と書いている。 「積算ソフト会社が業者から求められるのは高い精度です。そのソフトを使ってシミュレーションした価格が、市町村が積算する価格に近ければ近いほど『あの会社のソフトは良い』という評価につながる。つまり、より精度を上げたい積算ソフト会社にとって、非公表の単価はどうしても知りたい情報なのです」(同) 建設会社役員によると、積算ソフト会社はいくつかあるか、市内の業者は「大手2社のどちらかの積算ソフトを使っている」と言い、三和工業は「おそらくA社(取材では実名を挙げていたが、ここでは伏せる)だろう」というから、和樹氏は護氏から入手した情報をA社に横流ししていた可能性がある。 「A社が強く意識したのは郡山の業者でしょう。郡山の方が田村より業者数は多いし、競争もシビアなので積算ソフトの需要も高い。実は単価表の括りで言うと、田村と郡山は同じ『県中地区』に区分されているので田村の単価表が分かれば郡山の単価表も自動的に分かる。『郡山で精度の高い積算ができるソフト』と評判を呼べば、売れ行きも当然変わってきますからね」(同) 困惑する三和工業社員  これなら14万円の賄賂も合点がいく。同級生(護氏)から1回1万円(×14回)で情報を引き出し、それを積算ソフト会社に提供する見返りにそれなりの対価を得ていたとしたら、和樹氏は「お得な買い物」をしたことになる。 ちなみに1年3カ月の間に14回も情報を入手していたのは、単価が物価等の変動によって変わるため、単価表が改正される度に最新の情報を得ていたとみられる。前述・県作成の「令和4年度・土木事業単価表」も4月1日に公表されて以降、10月までに計7回も改正が行われている。 「和樹氏は以前、異業種の会社に勤めていたが、4、5年前に父親が社長を務める三和工業に入社した。そのころは別の役員が積算業務を担い、和樹氏が積算業務を担うようになったのは最近。和樹氏がどのタイミングで積算ソフト会社と接点を持ったのかは分からないが、自宅のある郡山で護氏と頻繁に飲み歩いていたようだし、そこでいろいろな人脈を築いたという話もあるので、その過程で積算ソフト会社と知り合ったのかもしれない」(同) 2022年10月27日現在、和樹氏と積算ソフト会社の接点に関する報道は出ていないが、捜査が進めば最終的に単価表の情報がどこに行き着いたか見えてくるだろう。 事件を受け、三和工業は田村市から24カ月の指名停止、県から21カ月の入札参加資格制限措置の処分を受けた。公共工事を主体とする同社にとっては厳しい処分だ。 2022年10月中旬、同社を訪ねると、応対した男性社員が次のように話した。 「私たち社員もマスコミ報道以上のことは分かっていない。弊社では毎月1日に朝礼があるが、10月1日の朝礼で社長から謝罪があった。市や県から指名停止処分などが科されたことは承知しているが、正式な通知はまだ届いていない。今後の対応はその通知を踏まえたうえで決めることになると思う。ただ、現在施工中の公共工事はこれまで通り続けられるので、まずはその仕事をしっかりこなしていきたい」 ここまで情報を受け取った側の和樹氏に触れてきたが、情報を漏らした側の護氏とはどんな人物なのか。 武田護氏は1996年に合併前の旧大越町役場に入庁。技術系職員として勤務し、単価表の情報を漏らしていた時期は田村市市民部生活環境課原子力災害対策室で技査(係長相当)を務めていた。しかし、2022年3月末に「一身上の都合」で退職。その後は自宅のある郡山で会社勤めをしていた。 突然の早期退職は、自身に捜査が及びつつあるのを察知してのこととみられる。2022年6月には「三和工業の役員が早朝、警察に呼び出され、任意の事情聴取を受けたようだ」というウワサも出ていたから、和樹氏と一緒に護氏も呼び出されていたのかもしれない。 そんな護氏が情報を漏らしていたのは同社だけではなかった。 元職員が一人で積算  《県警捜査2課と田村署、郡山署は14日午後2時15分ごろ、田村市発注の除染関連の公共工事3件の予定価格を別の業者に漏らし、見返りとして飲食の接待などを受けたとして、加重収賄の疑いで武田容疑者を再逮捕した。 再逮捕容疑は、市原子力災害対策室に勤務していた2019(令和元)年6月ごろから11月ごろまでの間、市発注の除染で出た土壌の輸送業務に関係する指名競争入札3件の予定価格について、田村市の土木建築会社役員の40代男性に漏らし、見返りとして計16万円相当の飲食接待などの提供を受けた疑い》(福島民友2022年10月15日付) 報道によると、3件の予定価格は1億8790万円、1億2670万円、3560万円で、前記2件は2019年6月、後記1件は同年9月に入札が行われた。これを基に市が公表している入札結果を見ると、落札していたのは秀和建設だった。 同社(田村市船引町)は1977年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=吉田幸司、取締役=吉田ヤス子、吉田眞也、監査役=佐久間多治郎の各氏。市の「令和3・4年度工種別ランク表」によると、一般土木工事と舗装工事で特Aランクとなっている。 市内の業者によると、吉田幸司社長は以前から体調を崩していたといい、新聞記事にも《県警は男性について、健康上の理由などから任意で捜査を行い、贈賄容疑で近く書類送検するとみられる》(福島民友2022年10月15日付)とあるから、護氏に飲食接待を行っていたのは吉田社長とみられる。ほかにゴルフバックなども贈っていたという。 「護氏と和樹氏は同級生だが、護氏と吉田社長がどういう関係なのかはよく分からない」(業者) 別表③は同社が落札した除染土壌の輸送業務だが、注目されるのは落札率。事前に予定価格を知っていたこともあり、100%に近い落札率となっている。  一方、別表④は同社の業績だが、厳しい状況なのが分かる。除染土壌の輸送業務を落札した近辺は黒字だが、それ以外は慢性的な赤字に陥っている。  「資金繰りに苦労しているとか、後継者問題に悩んでいると聞いたことがある」(同) というから、吉田社長は「背に腹は代えられない」と賄賂を渡してしまったのかもしれない。ただ、収賄罪の時効が5年に対し、贈賄罪の時効は3年で、飲食接待の半分以上は時効が成立しているとみられる。 加えて三和工業とは異なり、秀和建設は10月26日現在、指名停止等の処分は受けていない。 10月中旬、同社を訪ねたが 「社員で事情を分かる者がいないので、何も話せない」(事務員) それにしても、なぜ護氏はここまで好き放題ができたのか。 ある市議によると、護氏は「一部の職員に限られている」とされる、単価表を管理する設計業務システムにアクセスするための専用パスワードとIDを知り得る立場にあった。また、除染土壌の輸送業務では一人で積算を担当し、発注時の設計価格(予定価格)を算出していた。 「除染関連工事の発注は、冨塚宥暻市長時代は市内の業者で組織する復興事業組合に一括で委託し、そこから組合員が受託する方式が採られていたが、本田仁一市長時代に各社に発注する方式に変更された。その業務を担ったのが原子力災害対策室で、当初は技術系職員が複数いたが、除染関連事業が少なくなるにつれて技術系職員も減り、輸送業務が主体になるころには護氏一人になった。結果、護氏が積算を任されるようになり、チェック機能もないまま多額の事業が発注された」(ある市議) 本田仁一前市長  除染土壌の輸送業務は2017~20年度までに約70件発注され、事業費は契約額ベースで約65億円。このうち護氏は19、20年度の積算を一人で行っていた。これなら予定価格を簡単に漏らすことが可能だ。 護氏は10月14日に受託収賄罪で起訴された。今後、加重収賄罪でも起訴される見通しだ。 元職員が二度逮捕・起訴されたことを受け、白石高司市長は次のようなコメントを発表した。 《9月24日の事案と同じく、今回の事案についても、警察の捜査により逮捕に至ったもので、市長として痛恨の極みにほかなりません。あらためて市民の皆様に市政に対する信頼を損なうこととなったことを深くお詫び申し上げます》 前出・市議によると、白石市長は護氏の最初の逮捕後、すぐに県中建設事務所と本庁土木部を訪ね、県から提供された単価表を漏洩させたことを謝罪したという。 前市長の関与を疑う声  一連の贈収賄事件は今のところ、元職員による単独犯の様相を呈しているが、護氏が情報を漏らしていた時期が本田市政(2017~21年)と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。 実際、田村市役所で行われた9月24日の家宅捜索は捜査員約20人が駆け付け、5時間にわたり関連資料を探すという物々しさだった。その状況を目の当たりにした市役所関係者は「警察は他に狙いがあるのではないか」と話していた。 思い返せば、除染土壌の輸送業務をめぐっては落札業者による多額の匿名寄付問題が起きていたし、当時の公共工事の発注には本田氏を熱心に支持する業者の関与が取り沙汰されたこともあった(詳細は本誌2021年1月号「田村市政の『深過ぎる闇』」を参照されたい)。 しかし、 「本田氏は2021年4月の市長選で落選し、今年3月には公選法違反(寄付禁止)で罰金40万円の略式命令を受けている。もし本田氏が今も市長なら警察も熱心に捜査しただろうが、落選した本田氏に強い関心を寄せるとは思えない。今後の焦点は、護氏がどこまで情報を漏らし、どれくらい対価を得ていたかになると思われます」(前出・市議) 市民の関心をよそに、事件は「大山鳴動して鼠一匹」に終わる可能性もありそうだ。 前市政の後始末に追われるだけでなく、元職員まで逮捕され、白石市長は思い描いた市政運営になかなか着手できずにいる。 あわせて読みたい 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

      田村市で起きた一連の贈収賄事件。受託収賄・加重収賄の罪に問われている元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品や接待を受けていた。本誌は先月号【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相で、元職員が漏らした非公開の土木事業単価表が積算ソフト会社に流れたと見立てていたが、裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた。調べると、仙台市に本社があるこの会社は宮城県川崎町でも全く同じ手口で贈収賄事件を起こしていた。予定価格の漏洩が常態化していた田村市は、規範意識の低さを積算ソフト会社に付け込まれた形だ。 田村市贈収賄「三和工業ルート」の構図  元職員への賄賂の経路は、贈った市内の土木建築会社ごとに「三和工業ルート」と「秀和建設ルート」に分かれる。本稿では執筆時点の2022年11月下旬、福島地裁で裁判が進行中で、同30日に役員に判決が言い渡される予定の「三和工業ルート」について書く。  「三和工業ルート」は単価表をめぐる事件だった。公共工事の入札に当たり、事業者は資材単価を工事に合わせて積算し、入札金額を弾き出す。この積算根拠となるのが、県が作成し、一部を公表している単価表だ。実物をざっと見ると半分以上が非公表となっている。ただし都道府県が市町村に単価表を提供する際は、すべての単価が明示されている。  問題は、不完全な単価表しか見られない業者だ。これを基に他社より精度の高い積算をしなければ落札できない。そこで、事業者は専門の業者が作成する積算ソフトを使ってシミュレーションする。積算ソフト会社にとっては、精度を上げれば製品の信頼度が上がり、商品(積算ソフト)が売れるので、完全な情報が載っている非公表の単価表は「のどから手が出るほど欲しい情報」なのだ。  一方で、三和工業は堅実で業績も安定しており、自社の落札のために単価表入手という危ない橋を渡ることは考えにくい。こうした理由から、本誌は先月号で、積算ソフト会社が三和工業役員に報酬をちらつかせて単価表データの入手を働きかけ、役員が元市職員からデータを漏洩させたと見立てた。果たして裁判で明らかとなった真相は、見立て通り、積算ソフト会社社員の「依頼」が発端だった。  11月9日の「三和工業ルート」初公判では、元市職員の武田護被告(47)=郡山市=と同社役員の武田和樹被告(48)=同=が出廷した。2人は旧大越町出身で中学時代の同級生。和樹被告は大学卒業後、民間企業に勤めたが、父親が経営する同社を継ぐため2014年に入社した。  次第に積算業務を任されるようになったが、専門外なので分からない。そこで、相談するようになったのが護被告、そして取引先の積算ソフトウェア会社「コンピュータシステム研究所」の社員Sだった。  公判で言及されたこの会社をあらためて調べると、仙台市青葉区に本社を置く「株式会社コンピュータシステム研究所」とみられることが分かった。法人登記簿や民間信用調査会社によると、1986(昭和61)年設立。資本金2億2625万円で、コンピュータソフトウェアの企画、開発、受託、販売及び保守、システム利用による土木・建築の設計などを行っている。建設業者向けのパッケージソフトの開発が主力だ。  単価表をめぐるコンピュータシステム研究所の動き 田村市宮城県川崎町1996年武田護氏が大越町(当時)に入庁2014年武田和樹氏が三和工業に入社、護氏と再会し飲みに行く関係に2020年2月ごろ~21年5月ごろ研究所社員のSが和樹氏を仲介役に護氏から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2010年ごろ~2021年4月ごろ研究所の社員と地元建設業役員が共謀して町職員から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2021年5月宮城県警が本格捜査2021年6月コンピュータシステム研究所が「コンプライアンス」を理由に非公開の単価表入手をやめる2021年6月30日贈収賄に関わった3人が逮捕2021年7月21日受託収賄や贈賄で3人を起訴2021年12月27日3人に執行猶予付き有罪判決2022年3月末護氏が田村市を退職2022年9月24日贈収賄で福島県警が護氏と和樹氏を逮捕河北新報や福島民報の記事を基に作成  代表取締役は長尾良幸氏(東京都渋谷区)。同研究所ホームページによると、東京にも本社を置き全国展開。東北では青森市、盛岡市、仙台市に拠点がある。「さらなる積算効率の向上と精度を追求した土木積算システムの決定版」と自社製品を紹介している。 宮城県で同様の事件  実は、田村市の事件は氷山の一角の可能性がある。同研究所は他の自治体でも単価表データの入手に動いていたからだ。  2021年6月30日、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、町内の建設業「丹野土木」男性役員(50)、そして同研究所の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報7月1日付より、年齢役職は当時。紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同年12月28日付の同紙によると、3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、同27日に仙台地裁から有罪判決を受けている。町職員は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金1万2000円(求刑懲役1年6月、追徴金1万2000円)。丹野土木元役員と同研究所社員にはそれぞれ懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)が言い渡された。  判決によると、2020年11月24日ごろから21年4月27日ごろまでの6カ月間、町職員は公共工事の設計や積算に使う単価表の情報を提供した謝礼として元役員から役場庁舎などで6回にわたり商品券計12万円分を受け取った。贈賄側2人は共謀して町職員に情報提供を依頼して商品券を贈ったと認定された。1回当たり2万円払っていた計算になる。  田村市の事件では、三和工業役員の和樹被告が、2020年2月ごろから21年5月ごろまで、ほぼ毎月のペースで元市職員の護被告から単価表データを受け取ると、同研究所のSに渡した。Sは見返りに会社の交際費として2万円を計上し、和樹被告に14回にわたり計28万円払っていた。和樹被告は、毎回2万円を護被告と折半していた。田村市の事件では、折半した金の動きだけが立件されている。川崎町の事件と違い、和樹被告とSの共謀を立証するのが困難だったからだろう。それ以外は手口、1回当たりに払った謝礼も全く同じだ。  共謀の立証が難しいのは、和樹被告の証言を聞くと分かる。2019年12月、Sは「上司からの指示」としたうえで「単価表を入手できなくて困っている」と和樹被告に伝えた。積算業務の素人だった自分に普段から助言してくれたSに恩義を感じていたという和樹被告は「手伝えることがある。市役所に同級生がいるから聞いてみる」と答えた。翌20年1月、和樹被告は護被告に頼み、「田村市から出たのは内緒な」と注意を受けて単価表データが入ったCD―Rを受け取り、それをSに渡した。Sからもらった2万円の謝礼を「オレ、なんもやっていないから」と護被告に言い、折半したのも和樹被告の判断だという。   一連の単価表データ入手は、川崎町の事件で同研究所の別の社員が2021年6月に逮捕され、同研究所が「コンプライアンス強化」を打ち出すまで続いた。逮捕者が出て、ようやく事の重大性を認識したということか。  田村市で同様の手口を繰り返していた護被告は、川崎町の事件を知り自身に司直の手が伸びると恐れたに違いない。捜査から逃れるためか、今年3月に市職員を退職。そして事件発覚に至る。 狙われた自治体は他にも!?  単価表データを入手する活動は、同研究所が社の方針として掲げていた可能性がある。裁判で検察は、SがCD―Rのデータを添付して上司に送ったメールを証拠として提出しているからだ。  本誌は、同研究所に①単価表データを得る活動は社としての方針か、②自社製品の積算ソフトに、不正に入手した単価表データを反映させたか、③事件化した自治体以外でも単価表データを得る活動を行っていたか、など計8項目にわたり文書で質問したが、締め切りの2022年11月25日を過ぎても回答はなかった。  川崎町の事件から類推するしかない。河北新報2021年12月5日付によると、有罪となった同研究所社員は《「予想した単価と実際の数値にずれがあり、クレーム対応に苦慮していた。これ(単価表)があれば正確なデータが作れる」と証言。民間向け積算ソフトで全国トップクラスの社の幹部だった被告にとって、他市町村の発注工事の価格積算にも使える単価表の情報は垂ぜんの的だった》という。積算ソフトにデータを反映させていたことになる。  一方、田村市内のある建設会社役員は「積算ソフトの精度は向上し、製品による大きな差は感じない。逮捕・有罪に至る危険を冒してまで単価表データを入手する必要があるとは思えない。事件に関わった同研究所の社員たちは『自分は内部情報をここまで取れるんだぞ』と営業能力を示し、社内での評価を高めたかっただけではないか」と推測する。  事件は、全国展開する積算ソフト会社が、地縁関係が強い地方自治体の職員と地元建設業者をそそのかしたとも受け取れるが、だからと言って田村市は「被害者面」することはできない。公判で護被告と和樹被告は「入札予定価格を懇意の業者に教えることが田村市では常態化していた」と驚きのモラル崩壊を証言しているからだ。  全国で熾烈な競争を繰り広げる積算ソフト会社が、ぬるま湯に浸かっていた自治体に狙いを定め、情報を抜き取るのはたやすかったろう。川崎町や田村市以外にも「カモ」と目され、狙われた自治体があったと考えるのが自然ではないか。同市の事件が氷山の一角と推察される所以である。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏

     会津若松市の元職員による巨額公金詐取事件。その額は約1億7700万円というから呆れるほかない。 専門知識を悪用した元職員  巨額公金詐取事件を起こしたのは障がい者支援課副主幹の小原龍也氏(51)。小原氏は2022年11月7日付で懲戒免職になっているため、正確には元職員となる。  発覚の経緯は2022年6月13日、2021年度の児童扶養手当支給に係る国庫負担金の実績報告書を県に提出するため、小原氏の後任となったこども家庭課職員が関係書類やシステムデータを確認したところ、実際に振り込んだ額とシステムデータに不整合があることを見つけたことだった。  内部調査を進めると、2021年度の児童扶養手当支給に複数の不整合があることが分かった。また小原氏の業務用パソコンからは、同年度の子育て世帯への臨時特別給付金について小原氏名義の預金口座に振込依頼していたデータや、重度心身障がい者医療費助成金をめぐり小原氏が給付事務を担当していた07~09年度に詐取していたことをうかがわせるデータも見つかった。市は会津若松署に報告し今後の対応を相談する一方、金融機関に小原氏名義の預金口座の照会を行うなど、詐取の証拠集めを2カ月かけて進めた。  市は2022年8月8日、小原氏に事情聴取した。最初は「分からない」「覚えていない」と非協力的な姿勢を見せていたが、集めた証拠類を示すと児童扶養手当と子育て世帯への臨時特別給付金を詐取したことを認めた。  小原氏は動機について「不正に振り込む方法を思い付いた。魔が差した」と語り、使途は「生活していく中で自然に使った」と説明したが、続く同9、10、15日に行った事情聴取では「親族の借金を肩代わりし返済に苦労していた」「競馬や宝くじに使った」「車のローンの返済に充てた」と次第に変化していった。  市は事情聴取と並行し、詐取された公金の回収に取り組んだ。預金口座からの振り込みに加え、生命保険の解約や車の売却といった保有財産の換価を行い、2022年11月8日現在、約9100万円を回収した。  2022年9月8日には小原氏に対する懲戒審査委員会を開き、懲戒免職が妥当と判断されたが、引き続き事情聴取と公金回収を進めるため、小原氏の職員としての身分を当面継続することとした。  小原氏は2022年10月7日、市に誓約書を提出した。内容は児童扶養手当(約1億1070万円)、子育て世帯への臨時特別給付金(60万円)、重度心身障がい者医療費助成金(約6570万円)、計約1億7700万円を詐取したことを認め、弁済することを誓約したものだ。  市は2022年11月7日付で会津若松署に詐欺罪で告訴状を提出し、その日のうちに受理された。また、同日付で小原氏を懲戒免職とし、併せて上司らの懲戒処分を行った。  「会津若松署が告訴状を受理したので、事件の全容解明は今後の捜査に委ねられることになる。警察筋の話によると、捜査は2023年2月くらいまでかかるようだ」(ある事情通)  それにしても、これほど巨額な詐取がなぜバレなかったのか不思議でならないが、  「市の説明や報道等によると、児童扶養手当の詐取は管理システムの盲点を悪用し不正な操作を繰り返した、子育て世帯への臨時特別給付金の詐取は本来の支給額より多い金額が自分の預金口座に振り込まれるようデータを細工した、重度心身障がい者医療費助成金の詐取もデータを細工する一方、帳票を改ざんして発覚を免れていた」(同) 合併自治体特有の「差」  それだけではない。こども家庭課に勤務していた時は、自分が児童扶養手当支給の主担当を担えるよう事務分担を変え、支給処理に携わる職員を1人減らし、それまで行っていた決裁後の起案のグループ回覧をやめることで他職員が関連書類に触れないようにしていた。また主担当の仕事をチェックする副担当に、入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充てることでチェックが機能しにくい体制をつくっていた。  「パソコンがかなり達者で、福祉関連の支給事務に精通していた。そこに狡猾さが加わり、不正がバレないやり方を身に付けていった」(同)  小原氏は市の事情聴取に「不正はやる気になればできる」と話したというから、詐取するには打って付けの職場環境だったに違いない。  小原氏は1996年4月、旧河東町役場に入庁。2005年11月、会津若松市との合併に伴い同市職員となった。社会福祉課に配属され、11年3月まで重度心身障がい者医療費助成金の給付事務を担当。18年4月からはこども家庭課で児童扶養手当と子育て世代への臨時特別給付金の給付事務を担当した。2022年4月、障がい者支援課副主幹に。事件はこの異動をきっかけに発覚した。  地元ジャーナリストの話。  「小原氏は妻と子どもがおり、父親と同居している。父親は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐと聞いた。三男(同)は、小原氏と職種は違うが公務員だそうだ」  小原氏は「親族の借金を肩代わりした」とも語っていたが、  「過去に叔父が勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあるという。親族の借金の肩代わりとは、それを指しているのかもしれない」(同) 会津若松市河東町にある小原氏の自宅  河東町にある自宅は2000年10月に新築され、持ち分が父親3分の2、小原氏3分の1の共有名義となっている。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  小原氏の職場での評判は「他職員が嫌がる仕事も率先して引き受け、仕事ぶりは迅速かつ的確」といい、地元の声も「悪いことをやる人にはとても見えない」と上々。しかし、会津若松市のように他町村と合併した自治体では「職員の差」が問題になることがある。  ある議員経験者によると、市町村合併では優秀な職員が多い自治体もあれば能力の低い職員が目立つ自治体、服装や挨拶など基本的なことすらできていない自治体等々、職員の能力や資質に差を感じる場面が少なくなかったという。  「合併から十数年経ち、職員の退職・入庁が繰り返されたため今は差を感じることは減ったが、中核となる市に周辺町村がくっついた合併では職員の能力や資質にだいぶ開きがあったと思います」(同)  元首長もこう話す。  「町村役場は、職員を似たような部署に長く置いて専門性を身に付けさせ、サービスの低下を防ぐ。そこで自然と専門知識が身に付くので、あとは個人の資質によるが、悪用する気になればできる、と」  小原氏は旧河東町時代も重度心身障がい者医療費助成金の支給事務を行っていたというから、専門知識は豊富だったことになる。  市町村職員になるには採用試験に合格しなければならないが、競争率が高いため「職員=優秀」というイメージが漠然と定着している。しかし現実は、小原氏のような悪質な職員も存在すること、さらに言うと合併自治体特有の、職員の能力や資質の差が今回のような事件の契機になることも認識する必要がある。  市は今後、未回収となっている約8600万円の回収に努め、場合によっては民事訴訟も視野に入れるという。事件を受け、室井照平市長は給料を7カ月2分の1に減額し、現任期(3期目)の退職手当も2分の1に減額する方針。  市の責任を形で示したわけだが、市民からは市が注力しているデジタル田園都市国家構想を踏まえ「巨額公金詐取を見抜けなかった市に膨大な市民の個人情報を預けて大丈夫なのか」と心配する声が聞かれる。ICT導入を熱心に進める前にチェック機能がない、いわば〝ザル〟の組織を立て直す方が先決ではないのか。 この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う