すずき・ひろゆき 1966年3月、磐梯町出身。福島県立医科大学医学部卒業後、呼吸器外科講座主任教授、附属病院長、副学長を歴任。今年4月から現職。
福島県立医科大学では4月、呼吸器外科講座主任教授で附属病院長や副学長などを歴任した鈴木弘行氏が新たな理事長兼学長に就任した。震災・原発事故から15年、復興支援で培った知見の発信、地域間の医師偏在の解消、AI・DXを生かした業務改革など、課題は幅広い。「共創と知の循環で未来を拓く」を理念に掲げる新理事長に話を聞いた。
共創と知の循環で地域医療の未来を拓く
――新理事長兼学長に就任しました。抱負をお聞きします。
「本学で学び、福島の医療現場で36年間歩んできた経験を原点に、理事長兼学長という重責を担うこととなり、身の引き締まる思いです。本学を県民の皆様に最も信頼され、必要とされる医療系大学にします。その実現へ掲げたのが『共創と知の循環で未来を拓く』という理念です。
本学は、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故という未曾有の危機を乗り越え、放射線医学、県民健康調査、災害医療、地域医療の再生などを通じて福島県の復興を支えてきました。本県の復興は新たな段階を迎えており、双葉地域における中核的病院の整備や医療人材の育成・確保に積極的に取り組み、被災地の復興を医療の面から支えます。私はこれまで教育・研究・臨床のすべてに携わってきました。医学部・看護学部・保健科学部・別科助産学専攻・大学院の専門性を横断的に連携させ、知見を大学全体で共有して新たな価値を生み出す『知の循環』を推し進め、単独の学部・学科だけでは解決できない課題に、学問の垣根を越えた『共創』の精神で挑戦します。
若手が夢を描ける『研究する大学』へ深化させ、すべての職員の現場の声を大切に、失敗を過度に恐れず新しいことに前向きに取り組める大学文化を育てたいです。AI・DXの推進、産学官連携、国際化を進め、『地域に根ざし、世界と競う医療系総合大学』を実現します」
――震災から15年。放射線医学や県民健康調査で得られた知見を、どのように発信しますか。
「本学には二つの責務があります。福島で得られた知見を世界へ発信すること、そしてその知見を県民の健康と次世代へ確実につないでいくことです。県民健康調査は単なる『調査』ではなく本学の復興支援の原点であり、調査結果を健康管理や健康支援へ結び付け、県民一人ひとりに寄り添い続ける取り組みであることが特徴です。成果は査読付き学術論文として公表し、本年3月末時点で287編が受理されるなど、原子力災害後のコホート研究として世界的に高い評価をいただいています。国際シンポジウムも8回開催してきました。多岐にわたるデータをエビデンスとして整理し次世代へつなげることが必要で、そこに本学が学術的な視点で関わります。
複合災害対応のノウハウは本学にしかないものです。神戸や能登など被災地と連携し、福島の経験が他地域にも応用可能かを検証することは、南海トラフ地震などへの備えとしても意義があります。県民公開講座やSNSでの発信、13市町村との連絡会を重ね、震災を経験していない学生や若い研究者へ経験と教訓を継承し、将来の災害医療や放射線医学を担う人材を育てます」
――地域間の医師偏在が課題です。若手医師をどう定着させますか。
「本県の医師数は震災後に一時大きく減少しましたが、県、本学、自治体、医療機関が一体となった取り組みで着実に回復してきました。医師偏在の解消とは単に医師数を配分することではなく、県民の皆様が住み慣れた地域で安心して必要な医療を受け続けられる環境をつくることです。大事なのは若手のニーズをつかむことです。一方的に『こうしなさい』ではなく、彼らが何を望むのかを理解した上で、『地域で勤務し地域で成長できる』と実感できる安心感を提供します。地域医療の現場には、総合的に患者さんを診る力や多職種と連携する力を養う貴重な機会があり、地域勤務を成長につながる経験と位置付けてキャリア形成を支えます。
令和6年度に始めた医師派遣制度『福島モデル』では、修学資金被貸与医師を原則3カ月単位で医師少数地域へ派遣し、医師の負担軽減とキャリア形成、地域医療の維持を両立させています。
また、県外からはこれまで15名の指導医・専門医を招聘し若手医師の育成を支援しています。さらに、昨年度は非常勤医師を延べ1483件派遣し、県が求める年間1000件以上という中期目標を8年連続で達成しています」
医の土台を育む
――メタボリックシンドローム該当者の割合が全国ワースト4位です。県民の肥満や運動不足にどうアプローチしますか。
「これからの医療は『病気を治す医療』を守りつつ、『病気にならない社会をつくる医療』へ軸足を移すべきです。単に『もっと運動しましょう』と呼びかけるのではなく、メタボの何が悪いのか、どこを直せばいいのかをデータに基づいて分かりやすく伝えることが大切です。
本学では健康増進センターを中心に、県からの委託で『福島県版健康データベース(FDB)』を活用し、特定健診などのデータから地域ごとの健康課題を見える化しています。働き盛り世代向けの健康教育動画や公開講座など、科学的根拠に基づく健康づくりを県や市町村と連携して進めます。県民一人ひとりの行動変容を促し、健康寿命の延伸と医療費の適正化に貢献します」
――AIやDXを活用した業務効率化の具体的な取り組みは。
「書類作成などの時間を減らす効率化の先に、学生と向き合う時間、研究に集中する時間、患者さんに寄り添う時間を増やすことが目的です。附属病院では『医療DX推進ワーキンググループ』を設置し、診療記録作成支援システムや患者説明動画作成ツールなどの導入を進めています。手術の説明を、AIが事前に動画にしてくれるなど患者さんの不安や待ち時間の軽減にもつながります。生成AIは議事録や文書作成などの定型業務に活用します。私は教育・研究担当理事の頃、AI利用の学内指針づくりに関わりましたが、当初の『むやみに使うな』から、今や『どううまく使うか』の時代です。安全性と信頼性を最優先に、教職員・学生双方のデジタルリテラシー向上にも取り組みます」
――最後に今後の抱負を。
「みんなが仕事を楽しいと思える環境をつくっていきます。強制ではなく、面白いから自然にやる、という形が理想です。そのためにはAIやDXも重要ですし、新しい体制づくりも考えています。医療の原点は人間対人間です。AIが教科書的な答えを出せる時代だからこそ、まず患者さんのところへ足を運び、会話や雰囲気から状態をつかむ。その土台となるリベラルアーツも重視し、学生に伝えていきたいと考えています」

























