いわき市〝赤飯給食廃棄問題〟に潜む更迭劇

いわき市〝赤飯給食廃棄問題〟に潜む更迭劇

いわき市で3月11日に提供される予定だった赤飯の給食約2100食分が「追悼の意を表すべき特別な日にふさわしくない」という理由で廃棄された問題は内田広之市長が文科省出身の教育長に抱く不信を決定づけた。廃棄は、当日に保護者とみられる人物から苦情が寄せられたのがきっかけだが、最終的に廃棄を判断したのは服部樹理教育長(当時)と教育委員会の幹部職員。内田市長は生徒や調理員に申し訳が立たず、「もったいない」と見解を示した。実は内田市長と服部教育長の間には、いじめ対応を巡って昨年6月から隙間風が吹いており、教育長更迭路線に赤飯問題が追い打ちを掛けた。

文科省出身の教育長を見限った内田市長

内田広之市長
内田広之市長
服部樹理教育長(当時)
服部樹理教育長(当時)

2100食にも及ぶ赤飯給食廃棄を最初に知らせたのは3月13日夕にネット配信、翌14日の朝刊で報じた朝日新聞だった。いわき市内に7カ所ある学校給食調理場のうち1カ所が3月11日、担当する五つの中学校に提供する予定だった赤飯の給食を市教育委員会の判断で廃棄したと伝える内容。同日午前に「震災のあった日に赤飯はおかしい」と学校に電話があり、報告を受けた市教委が判断したという。

本誌が市の学校給食を担当する教育委員会学校支援課に確認すると、赤飯を用意したのは小名浜学校給食共同調理場で、担当する中学校は小名浜第一、小名浜第二、中央台南、江名、泉の5中学校。保護者を名乗る匿名の電話がそのうちの一つの学校にあった。「震災の日に赤飯を出していいのか」と疑問視する内容だったという。廃棄までを求めるものではなかった。同じ人物かは不明だが、同課によると共同調理場にも同様の内容の電話があった。

3月11日に赤飯提供が重なった小名浜学校給食共同調理場
3月11日に赤飯提供が重なった小名浜学校給食共同調理場

服部教育長と教育委員会の幹部職員には午前11時ごろに報告が上がった。同11時半ごろに廃棄を決定し、五つの中学校に要請した。服部教育長は、文科省が「学校給食衛生管理基準」で、調理品が残ったら持ち帰ったり日をまたいで保存したりせず原則当日のうちに処分すると定めていることを赤飯廃棄の理由に挙げている。代わりに各学校の防災倉庫に備蓄されていた缶詰入りのパンなどを提供した。

ネットでは各ニュースサイトがこの問題を報じ「炎上」した。16日(月)は休刊日のため、新聞各紙は土曜日に取材をし、15日に掲載を間に合わせた。もっとも、教育委員会は大ごとと考え土日も稼働していたようだ。3月11日に赤飯給食を計画した小名浜地区が地盤の小野潤三市議(1人会派「正論の会」)が振り返る。

「土曜日に教育部長(職員)から議会の各会派代表に電話がありました。『大きな問題と認識しているので、週明けに議会に説明したい』と。私としては、卒業のお祝いと3月11日は別のことなので出しても問題なく、何より食材廃棄は大きな問題と考えました。一方で、身近な人が震災や津波で亡くなった人の中には、3月11日にお祝いするのは耐えられない方もいるだろうなという感覚もあり、現実味があります。震災から15年が経ち、被災から遠い人から寄せられる『いつまで引きずるのか』との考えと食材廃棄の問題が重なったのだと思います。震災が風化する中でどのように伝えていくべきかを考え直しました」

小野市議によると、2100食の廃棄決定に至るまでに、服部教育長ら幹部の間で「廃棄するべき」「廃棄の必要はない」と意見は分かれたという。本誌が学校支援課に確認すると、「話し合い、組織として最終決定した」と答えた。

いじめ対応で「法令違反」

3月16日、内田広之市長と服部教育長は会見で経緯を説明した。内田市長は同日に自身のXに両者のコメントを発表した。

内田市長は、廃棄は適切ではなく、「大震災の犠牲者を深く追悼し、黙祷を捧げ、その上で、これまで育ててくれた大人たちにも感謝して食べてもらえれば問題はなかったのではないか」との考え。生徒や調理員に「申し訳ない」と謝罪した。

気になるのが次の文。

「なお、4月から新たな教育長の下で、学校、教育委員会、市長部局の連携強化を進めて頂きます。 そして、教育委員会には、その中心となる室長を新たに1名、専属で配置します。学校教育に係る重要な判断や危機管理について、市長室長に迅速に共有する仕組みとしていきます」

服部教育長は教育長の任期1年を残して、籍を置く文科省に戻ることが、赤飯問題が起こる前の3月上旬に内示されていた。後任には今年3月まで磐城高校長を務めた平澤洋介氏が就いた。

「官僚が出向元の省庁の都合で任期を残して戻るのは珍しくないが、今回はいわき市の方から文科省に戻るように促した形。事実上の更迭とみられている」(市政ウォッチャー)

更迭の理由は、いじめ対応に関わる報告の不備と考えられる。本誌2025年9月号「いわき市立学校で『いじめ重大事態』 問われる市教委の対策法順守」では、市教委のいじめ対応が適切に行われていなかった問題を報じた。

《6月24日の会見で、内田広之市長は「いじめ防止対策推進法に基づく市長への報告もなかった」として、一連の市教委の対応は「法令違反」との認識を示した。内田市長によると、6月上旬になって服部教育長から2年前にあった重大事態の報告を受けたという。内田市長は服部教育長を口頭で厳重注意した》

1973年5月生まれの服部氏は高知大人文学部卒。旧文部省入省後、2022年に初等中等教育局健康教育・食育課長補佐からいわき市教育長に就き、2期目だった。任命した内田市長は1972年3月生まれ。東北大教育学部卒業後、旧文部省に入省。東京大大学院教育学研究科を修了後、福島大事務局長などを務め、2020年9月からいわき市長を務める。内田市長は、出身の文科省から抜擢した後輩をいじめ報告の不備をきっかけに送り返した形。赤飯問題が更迭劇に追い打ちを掛けた。

肝いりの教育分野での苦い経験もあり、内田市長は新年度から特にいじめ問題に力を入れる布陣を組んだ。こどもみらい部と保健福祉部の連携調整や市長部局と教育委員会との情報共有を円滑に行うため、こども政策課に「いじめ問題連携推進員」のポストを設けた。赤飯問題を受け、市長部局との連携を密にするために「学校教育推進室長」を専任にするという。一に報告、二に報告。内田市長の信頼を回復するまでは、教育長と教育委員会職員の第一の仕事は「報告」になりそうだ。

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