「フリーハグ」とは街頭で見知らぬ人とハグ(抱擁)をすることで、喜びや平和への思いを共有・アピールしていくという活動で、2000年代に世界中で広まった。これを世界各国のまちかどで実践し、話題を集めているのが桑原功一さん(41)だ。
桑原 地元の群馬県伊勢崎市は全国の中でも外国人が多く暮らしている地域で、近所の工場で働く中南米出身の方と通学路で挨拶を交わす機会が多かった。地球の裏側から日本に来ている人たちへの憧れから、いつか世界に出たいという思いがありました。東京の大学に進学して教師を目指していましたが、就職して長期休暇が取れなくなる前に、世界一周の旅をしたいと考えました。卒業後に1年間バイトでお金をため、2008年、フィリピンへの語学留学を皮切りに世界一周の旅に出発しました。
ただ、その途中で方向転換を余儀なくされました。転機となったのはそのフィリピンでの経験です。通い始めた語学学校は韓国資本で韓国人の同級生が多かった。当時、自分は韓国人に対し、「日韓関係は長年もめているし、日本人のことは嫌いなのだろう」と偏見を持っていました。
ところが、実際に話してみるとみんな優しくてフランクで、めちゃくちゃいい人たちでした。韓国人の友達がたくさんできて、勝手に抱いていた先入観が大きく崩れました。こうしたことを体験せずに教師になっていたら、子どもたちに偏った考えのことを教えていたかもしれません。
旅をする中で中国での反日デモに遭遇し、大きなショックを受けた。その一方で、2011年、台湾から被災地に対する義援金が多く寄せられたことに感謝の意を示すべく、台湾各地を自転車で回り、「台湾謝謝(=ありがとう)」と叫ぶ動画を公開した際は、動画がニュースで取り上げられ、大きな反響を集めた。
桑原 「台湾の動画のように、韓国や中国に関しても、国単位で残る偏見を崩し、手っ取り早く距離を縮める方法はないものか」と考えていたとき、以前ユーチューブで見たフリーハグを思い出しました。
もし日本人と韓国人がフリーハグをやってみたらどうなるんだろう。初対面同士でハグができたら、お互いのイメージや偏見は大きく変わるのではないか――。
早速韓国で挑戦してみたところ、2日間で100人とハグができ、被災したことに対する応援の声もずいぶんいただきました。その後は自転車でのシルクロード横断達成を経て、現在は世界各国を巡りながらフリーハグ活動を続けています。これまでに44カ国で累計10万人以上とハグを交わしてきました。
韓国の反日デモ会場でフリーハグをした動画は多くの人に見てもらいました。中国では警察に連行されたこともありましたが、99%は温かく受け入れてもらっています。「フリーハグで互いの偏見を崩す」という社会実験を自ら実験体となって続けています。
世界旅の魅力は「自分の価値観がひっくり返る瞬間」でしょう。日本との関係が冷え切っている国でも、旅の中で多くの友達ができました。ウクライナやパレスチナ、イラン、ロシアなどいま戦争が行われている国・地域に関しても同様です。報道で抱くイメージとは全く異なり、普通の暮らしがあり、日本人に親切に対応してくれる人も多いです。
世界をめぐる中で最も印象に残っているのは、ワーキングホリデーで1年半滞在したオーストラリアの絶景です。満天の星空に流れ星が次々とあらわれては消える光景は忘れられませんし、高さ348㍍の一枚岩「ウルル(エアーズロック)」にも圧倒されました。そのウルルの隣には「カタ・ジュタ」と呼ばれる36の巨石群が20㌔以上にわたり連なっており、「風の谷」と呼ばれています。知名度は低いですが、生まれてきてよかったと思えるほどの景色で、今でも自分の中でベストの場所です。
世界一周するなら最初に行く国はタイがおすすめです。いきなりインドなどに行くとカルチャーショックが大きいので、まずはタイでワンステップ踏んでから次に向かうパターンが多い。ゾウに乗る体験やタイマッサージもあるし、観光地も多い。まずはそういったところから徐々に慣れていくのがいいと思います。

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