【小野町】新庁舎工事で「粉塵トラブル」

 小野町の新庁舎建設をめぐりトラブルが起きている。建設場所に立つ建物の解体工事で出たコンクリート粉が隣接する会社やアパートに降り注ぎ、住民が工事の中断を申し入れたのだ。住民は被害の補償を求めているが、解体工事を行う業者は「保険でまかなえる金額しか出せない」と、両者の話し合いは平行線を辿っている。11月には補償の決着がつかないうちに解体工事が再開された。新庁舎は本体工事が始まる前からミソが付いた格好だ。

被害を受けた町民が施工業者に損害賠償請求

 筆者が初めて新庁舎の建設場所を訪れたのは10月中旬だった。

 国道349号沿い、磐越自動車道小野インターチェンジ(IC)のそばにある建設場所は一部町有地で、敷地内では造成工事が、敷地周辺では道路工事が行われていた。

 一方、造成・道路工事と一緒に行われていた解体工事は、看板に「休工中」のマグネットシートが貼られていた。建設場所に目を移すと、4階建ての白い建物が中途半端に壊されたままの状態で、工事で出たコンクリートがらが積まれているのが確認できた。

粉塵トラブルが起きた解体現場
粉塵トラブルが起きた解体現場

 「建物は町の低家賃住居で、昨年度まで人が住んでいたが、それを壊していたらコンクリート粉が大量に降ってきた。店も車も粉まみれになり、えらい目に遭いました」

 こう話すのは、建設場所の南側で営業する中古車販売店「ガレージレノマ」の橋本善好社長である。

 「解体工事が始まった当初からコンクリート粉の管理が行われているのか気になっていました。その不安が現実になったのが8月21日です。大量のコンクリート粉が風に乗って降ってきたのです」(橋本社長)

 店や整備工場は3時間も経たないうちにコンクリート粉で真っ白。その時の粉の舞い方は外に出ていられないほどだった。

 店と整備工場だけではない。敷地内には商品の中古車が35台置かれていたが、ボンネットや屋根がコンクリート粉で真っ白になり、窓を開けっ放しにしていた中古車は車内にまでコンクリート粉が入り込んだ。

 なぜ、このような事態になったのか。橋本社長は「コンクリート粉の管理不備」を指摘するが、トラブルの詳細に触れる前に、新庁舎の建設場所が決まるまでの経緯をおさらいしておく。

 町は現庁舎の老朽化と狭隘化を受け、大和田昭前町長時代(2013~2021年)に新庁舎の建設を計画した。町民アンケートの結果、①公立小野町地方綜合病院近辺、②現庁舎が立つ場所、③ヨークベニマル小野町店近辺、④製材所・ヨシノボウル跡地、⑤多目的研修集会施設近近の5カ所が候補地に挙がった。

 「役場は町の真ん中に置くべき、というのが私の持論でした」と話すのは当の大和田氏だ。

 「商店街が寂れていく中、役場を郊外に移せば商店街はさらに寂れていく懸念があるため、中心街に適地を求めたのです」(同)

 町役場関係者によると、もともと新庁舎の予定地と目されていたのは現在、公立小野町地方綜合病院が立つ場所だったという。

 「東日本大震災で旧病院の建物が壊れたが、公益財団法人ヤマト福祉財団が病院再建に助成金を出してくれることが決まり、新病院の建設場所を早急に確保しなければならなくなった。そこで、新庁舎を建てようとしていた土地を新病院の建設場所に変更したのです」(町役場関係者)

 新病院の建設場所が確保できなければ、ヤマト福祉財団からの助成金がなくなるかもしれなかった事情があったとはいえ、新庁舎の予定地が消えたことは「その後のまちづくりが停滞する一因になった」と町役場関係者は指摘する。

 「大和田町長は目立ったハコモノを一切つくらなかった。それはそれで健全と言えるかもしれないが、役場を中心としたまちづくりをすると言いながら、新型コロナの発生も重なって新庁舎の建設場所はいつまでも決まらず、まちづくりも停滞していきました」(同)

 その後、5カ所の候補地から2カ所に絞り込むところまでは進んだものの、最終決定には至らなかった。

 2021年、こうした過程が一切無になる出来事が起きる。3月に行われた町長選で元町議会議長の村上昭正氏が3期目を目指した大和田氏を破り、初当選を果たしたのである。

 「町長に就任した村上氏は、5カ所の候補地を白紙にしました。5カ所はいずれもハザードマップで3㍍以上の浸水想定区域にかかっているため、災害対応拠点機能を併せ持つ新庁舎を建てるのは適切ではないと判断されたのです」(同)

 もし、5カ所のいずれかに建てる場合は浸水被害防止のための盛土工事が必要で、近隣宅地との高低差や費用負担が生じることも懸念材料になった。

 村上町長は2022年度に新庁舎建設基本計画検討会議を立ち上げ、2023年6月には建設場所や施設規模、基本性能や導入すべき機能、概算事業費などをまとめた新庁舎建設基本計画を策定した。そこには新たな候補地として磐越道小野IC周辺の5カ所と町中心部東側の山地の計6カ所が挙がっていたが、6カ所を比較検討した結果、移住・定住の相談窓口「つどっておのまち」近辺を適地とする結論が示されていた。総事業費は約28億円。

「保険の分しか補償しない」

 この時、町議会は全議員が新庁舎建設等検討特別委員会のメンバーになっていたが、同委員会は建設場所の選定には関与しなかったという。

 議会筋からは「議員は『6カ所のうち、ここが適地と決めた』と町から結果を告げられただけで、正直、新庁舎建設の特別委員会をつくった意味はなかったように思う」との話が漏れ伝わっている。

 ともかく、紆余曲折を経てようやく建設場所が決定。冒頭で触れたように敷地内には4階建ての建物が立っていたため、解体する必要に迫られた。解体工事の入札は今年5月28日に行われ、町内の飯岡工業㈱が6580万円で落札した。

飯岡工業
飯岡工業

 再び前町長・大和田氏の話。

 「4階建ての建物はもともとアルパインの独身寮だったが、私が町長の時、同社から売却の話があり、取得することを決めました。取得後は子育て世帯や若者独身者が低家賃で住むことができる施設に改修し『小野町交流・定住支援館』としてオープンしました。移住・定住の相談窓口『つどっておのまち』は建物の1階に設けられました」

 小野町交流・定住支援館は7、8年稼働した後、新庁舎の建設場所に決まったため、入居者は今年3月末までに退去した。

 こうして8月から始まった解体工事は、前述の通り周辺にコンクリート粉が降り注ぐトラブルが発生したため、同21日から中断した。

 ガレージレノマの橋本善好社長の話に再度耳を傾けることにする。

 「コンクリート粉は水で洗い流せば綺麗に落ちると思っている人もいるかもしれないが、そうではありません。コンクリート粉は塗装の中に入り込んでしまうので、簡単には落ちないのです」(橋本社長)

ガレージレノマ
ガレージレノマ

 加えて、コンクリート粉は細かい傷がつきやすいため、ボンネットや屋根に粉が被った中古車は途端に商品価値が下がってしまう。

 「洗い流しても、また降り注いでくるようでは商品価値は下がるばかり。仕方なく、処分できる中古車はオークションに出すなどしてどんどん処分していきました」(同)

 問題は店と中古車だけではなかった。店の目の前にはアパートが2棟立っているが、住人もコンクリート粉が降り注いだ影響でベランダに洗濯物が干せなくなってしまった。ちなみに、橋本社長はこのアパートのオーナーでもあり、店、中古車とは別に被害を被っている。

 「数カ月前に屋根の塗装を塗り直し、外壁を交換したばかりだったのに、一面がコンクリート粉で真っ白になってしまいました。こちらも中古車と同様、洗って綺麗になるわけではありません」(同)

 橋本社長はコンクリート粉が降った原因を「解体工事で発生したコンクリートがらを粉砕処理し、粉末化したものを適正に管理していなかったからだ」と主張する。橋本社長によると、その粉末の上にコンクリートの塊が落下し、粉末が空中に舞い上がり、風に乗って店やアパートに降り注いだというのである。

 「国や県の解体工事仕様書を見ると『ブレーカー、穿孔機、圧砕機を使った際の粉塵発生部には常時散水を行う』と明確に書かれています。町の解体工事仕様書も国と県に倣い同じ内容になっているはずです。しかし、私が現場を見たところ、飯岡工業は散水をしていないなど防塵対策が不十分だった」(同)

 店の清掃、中古車が受けた被害、アパートの改修、清掃・改修がなければ本来得られたはずの利益(逸失利益)等々を積み上げると、被害額は約1200万円と試算された。ところが、飯岡工業は「保険でおりる金額は約300万円。それしか補償できない」と言ったから、橋本社長は憤った。

 「解体工事が止まった後、飯岡工業から謝罪はあったが『弁済する』とは一言もありませんでした。挙げ句、提示した額は被害額の4分の1だった。他人の商売を妨害しておいて補償しないのはどういうわけか。しかも飯岡工業は『仮に裁判になっても保険会社が示した額が変わることはない』と開き直ったから、余計に腹が立った」(同)

 橋本社長と飯岡工業の話し合いが折り合わなかったため、解体工事は2カ月以上中断した。しかし、補償をどうするか決着がつく前に解体工事は11月10日から再開された。

 「町は『期日までに工事を終えないと補助金がもらえない』とかいう理由をつけて解体工事を再開させてほしいと連絡してきた。補償の問題は解体工事と並行しながら話し合ってほしいと言う。要するにトラブルは民と民の問題なので、町の関知するところではない、と」(同)

町の認識は「民民の問題」

 町に確認すると、新庁舎整備室の矢吹浩司室長がこう説明した。

 「橋本社長からは被害の程度を聞いているが、飯岡工業がどれくらいの補償を申し出ているかは分かりません。そこは民と民の問題なので、双方で話し合ってもらうしかありません」(矢吹室長)

 町は橋本社長からの抗議を受け、飯岡工業の粉塵対策が適切だったのかどうかを確認。同社からは設計に基づき散水などの必要な防塵対策をしていたと報告を受けた。ただ、町の職員が常時現場に張り付いているわけではないので「大量のコンクリ
ート粉が舞った時点できちんとした対策が施されていたかは分かりません」(同)。あくまで同社の報告を信じるしかないというわけだ。

 橋本社長が被害額を1200万円と主張しているのに対し、飯岡工業が保険の300万円しか補償できないとしている点はどう考えるのか。

 「公共工事を受注する業者は何かしらの保険に入っていますが、その保険でどれくらい補償をみてもらえるかは町として関与できる部分ではないので……」(同)

 矢吹室長は、今回のトラブルを踏まえ、町は再発防止に努めることしかできないと強調する。

 飯岡工業は橋本社長の訴えをどう受け止めているのか。飯岡崇社長が取材に応じた。

 「弊社としては町の設計書通りに工事を進めていたが、4階建ての建物なので、10㍍以上の高さからコンクリートの塊が落下すると、散水対策をしても粉塵が舞ってしまうのです。しかも、その日は風が強かったためコンクリート粉が舞い上がり、橋本社長にご迷惑をおかけしてしまった次第です」(飯岡社長)

 橋本社長は「散水をしていないなど防塵対策が不十分だった」と主張しているが、

 「そんなことはありません。必要な対策はしていました」(同)

 とはいえ、橋本社長が被害を被ったのは事実で「全額を補償してもらわないと納得がいかない」と憤っていることについては

 「弁護士を通じて1300万円ほどの損害賠償が届いています。ただ、弊社も弁護士を立てて橋本社長と話し合っており、今後係争になる可能性もあるので、補償についてはコメントを控えさせてください」(同)

 トラブル発生後、町とはどのような話をしているのか。

 「町とは『設計書通りに施工していた』との認識で一致しています。補償は弊社と橋本社長の問題なので、町は関係なく、弊社が対応すべきものと考えています」(同)

 11月10日に解体工事の再開に踏み切った際には、町からどういう指示があったかについては、

 「町には『このまま中断が続けば工期(12月12日まで)に間に合わなくなる』と伝えていました。それを受け、町は再発防止に努めながら解体工事を再開することを決断し、橋本社長にもその旨を伝えて11月10日から再開しました」(同)

見えないまちのビジョン

 解体工事は再開されたが、橋本社長は「了承はしていない。町から一方的に再開すると言われただけ。補償を置き去りにした再開は今も納得できません」と不満顔だ。「損害賠償を求めて飯岡工業を提訴する考え」とも言う。

 前出・町役場関係者はこう話す。

 「町民のための新庁舎と言っておきながら、町民に多大な迷惑をかけては本末転倒だ。せっかくの新庁舎が、本体工事が始まる前からミソが付いてしまったのは残念です」

 町役場関係者は「トラブルは民と民の問題かもしれないが、町にも発注者としての責任があるのではないか」と指摘する。発注者が「民と民の問題」と見て見ぬふりをするケースは、大手ゼネコンが受注し、下請け同士で工事費の未払いをめぐりトラブルが続出した除染や、元請けが下請けに工事費を払わないメガソーラーの工事で頻繁に見掛けた。発注者はトラブルが起きても知らんぷりするので、たいがい泥沼化する。小野町は「町民のための新庁舎」の工事で泥沼化を良しとするのか。町に補償責任はないにしても、仲裁の役目は負ってしかるべきではないか。

 「あれだけ老朽化しているのだから新庁舎はつくるべきなのでしょうが、執行部にまちづくりのことを考えている様子が見えないのは不満」

 と漏らすのはある商店主だ。

 「磐越道小野IC周辺は交通の便が良いにもかかわらず、起伏のある地形のせいで周辺整備が全く進んでいなかった。大和田前町長時代には道の駅の整備も検討されたが実現しなかった。今回の新庁舎建設でIC周辺の景色はようやく変わるが、まちなかを見るとシャッターを閉めた店が立ち並び、新庁舎移転後の現庁舎の跡地利用は未定のまま。新庁舎だけが目立ち、まちづくりのビジョンが見えないと感じている町民は私だけではないと思う」(商店主)

 商店主は「町内にはコンビニとドラッグストアが増えるばかり。これが住み良い町と言えますか?」と疑問を投げ掛ける。区長会の中には、「平田村に倣って小野高校の校舎跡を役場にして財政負担を軽くすべきでは」という意見もある。新庁舎建設と併せてまちづくりのビジョンも示さないと「町民のための新庁舎」の謳い文句は町民をシラケさせるだけになってしまう。

※村上町長は新庁舎を中心とする今後のまちづくりについて、本誌4月号のインタビューで次のように話している。「新庁舎を拠点に小野IC周辺の開発も進め、具体的には商業施設や宿泊施設、企業などを誘致し、にぎわいを創出していきたい。また、町の農産物の販売、町民の交流拠点となる施設などを設けることで交流人口の増加につなげたい。さらに、防災公園や防災倉庫、消防署の移転なども計画しており、防災拠点として整備を進めていきたい」

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