裏磐梯グランデコ「身売り」の背景

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グランデコリゾート

 北塩原村の「グランデコスノーリゾート」、「裏磐梯グランデコ東急ホテル」を所有する東急不動産は、両施設を譲渡する方針を決めた。譲渡先は「非公表」とされているが、本誌取材では施設所有者は中国企業の子会社、運営は同系列のグループ会社が行うとの情報を得た。新たな所有者と運営会社はどんなところなのか。

新オーナーの中国系企業はどんな会社か

新オーナーの中国系企業はどんな会社か【裏磐梯グランデコホテル】
裏磐梯グランデコ東急ホテル

 グランデコスノーリゾートと裏磐梯グランデコ東急ホテルは、東京急行電鉄(現・東急)がリゾート開発として整備を行い、1992(平成4)年にオープンした。2003年、東京急行電鉄から同グループ内の東急不動産に所有権が譲渡され、関連会社の東急リゾーツ&ステイが運営を行っていた。

 同社は、両施設を近く譲渡する方針だという。福島民友は3月11日付紙面でこの件を伝えた。

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 東急不動産は、グループ会社の東急リゾーツ&ステイが運営する福島県北塩原村のリゾート施設「グランデコリゾート」から撤退する方針を固めた。7月1日付で同施設を譲渡する。譲渡先や売却額は非公表。東急不動産が10日、福島民友新聞社の取材に明らかにした。

 グランデコリゾートは、同村で裏磐梯グランデコ東急ホテルやスキー場のグランデコスノーリゾートを展開している。1992(平成4)年に東急電鉄が開業し、2003年にグループ会社の東急不動産に営業権を譲渡した。

 同社は事業再編の一環として同施設から撤退し、リゾート事業に実績を持つ事業者に譲渡してサービスの充実を図る考え。譲渡先の事業者が従業員の雇用を継続し、施設運営やサービスを維持する見込みとなっている。

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 ある地元村民によると、「『レクリエーションの森管理運営協議会』で、東急不動産から譲渡についての説明があった」という。

 林野庁は、国有林のうち山岳や渓谷などと一体になっている森林、野外スポーツに適した森林を「レクリエーションの森」に選定しており、管理・整備・PRなどのため、地元自治体、教育関係機関、観光協会などで「レクリエーションの森管理運営協議会」を組織している。

 裏磐梯は「裏磐梯デコ平スポーツ林」として選定され、面積は約804㌶、標高は最低地点800㍍、最高地点1650㍍。林野庁のHPでは次のように紹介されている。

 《山形県と福島県の県境に沿って東西に延びる吾妻連峰は、最西部に位置する西大巓(1982㍍)の南斜面に高原が広がり、おでこのように平らで広いことからデコ平と名づけられています(諸説有り)。デコ平の大部分はスノーリゾート地として開発されていますが、デコ平上部には湿原やブナの原生林、下部には夏に沢登り、冬にスノーシュートレッキングができる小野川不動滝等があり、変化に富んだ自然を楽しむことができます》《リゾート地として整備が行き届き、スキー場は開放感のあるコース設定になっており、良質で豊富な雪のなかで裏磐梯の景色を眺めながら、スノーボードやネイチャースキー、エアボード等のウインタースポーツを楽しめます》

 この紹介文からも分かるように、スキー場(グランデコスノーリゾート)とそれに付随するリゾート施設が同レクリエーションの森の中核となっている。そのため、地元自治体や観光協会などで組織する協議会で、スキー場を所有する東急不動産から譲渡に関する説明があったということだ。

 それが3月上旬のことで、これを受けて地元紙が報じた構図が読み取れる。

東急不動産に聞く

東急不動産に聞く【グランデコスノーリゾート】
グランデコスノーリゾート

 あらためて、東急不動産に問い合わせたところ、以下のような回答があった。

 ――譲渡するに至った経緯と理由。

 「東急不動産のアセット戦略上の判断から、今回、譲渡することとなりました」

 ――譲渡先は。

 「非公表ですが、日本国内でもスキー場等、事業展開している法人です。当社も過去に取引があり、信頼できる法人です」

 ――譲渡後の地元採用の従業員の扱いはどうなるのか。

 「譲渡後も2023年3月まで今までと変わらず、当社グループにて運営を致します。その後に関しては、雇用が維持されるよう譲渡先とも協議し、努めてまいります」

 地元紙記事では「7月1日付で同施設を譲渡する」とあり、実際、同日付での資産引き渡しを予定しているようだが、施設運営は2023年3月までは東急不動産のグループ会社(東急リゾーツ&ステイ)が引き続き行うという。つまりは、7月から2023年3月までは、譲渡先の会社から東急リゾーツ&ステイが借りて営業を行い、2023年4月以降は新会社に運営が移行することになる。

 譲渡を決めた理由は、「東急不動産のアセット(資産・財産)戦略上の判断」とのこと。

 別表は東急不動産と、施設を運営する東急リゾーツ&ステイの業績(民間信用調査会社調べ)。東急リゾーツ&ステイは、2021年は約58億円の損失を出している。コロナ禍の影響と見て間違いないだろう。なお、同社は宿泊事業25施設、ゴルフ事業24施設、スキー事業9施設、その他(別荘管理、レストラン、
ショップ、温泉施設、保養所など)12施設を運営しており、それら全体の数字である。

東急不動産の業績

決算期売上高当期純利益
2017年2351億5100万円126億6200万円
2018年2798億8400万円219億9600万円
2019年2649億0500万円99億2800万円
2020年2854億2600万円204億9200万円
2021年2936億3300万円343億3600万円
※決算期は3月

東急リゾーツ&ステイの業績

決算期売上高当期純利益
2017年326億9900万円2億7800万円
2018年339億3900万円2億8600万円
2019年360億5600万円4億5500万円
2020年365億円4200万円
2021年340億5100万円△58億6700万円
※決算期は3月。△はマイナス

 グランデコ単体の経営状況は分からないが、不動産登記簿謄本(スキー場、ホテルの土地・建物)を確認したところ、少なくとも担保は設定されてない。

 本誌1月号に「県内スキー場入り込みランキング」という記事を掲載したが、同スキー場の2020―2021シーズンの入り込み数は約7万人で県内4位。ただ、2019―2020シーズンは約15万人だったから、2020―2021シーズンはコロナ禍の影響で前年の半数以下だった。もっとも、2019―2020シーズンは雪不足でほかのスキー場が苦しんだ中、裏磐梯地区はその影響が少なかったため、ほかからスキー客が流れ、入り込みが増えていた。そうしたプラス要素を除いたコロナ禍前は約13万人が基準値だったようだから、そこから比較しても4割以上の減少となっている。

 2021―2022シーズンについては「前売り券、用具(特にスノーボード)の売れ行きがよく、例年並みを期待できそう。積雪もいい」(グランデコの担当者)との予測だった。

 要は、コロナ禍で厳しい状況に見舞われ、譲渡を決めたということだろう。

譲渡先企業の概要

 譲渡先については、地元紙記事にもあったように「非公表」との回答だった。

 ただ、本誌取材では、イデラキャピタルマネジメント(以下「イデラ社」)という会社が引き継ぐとの情報を得ている。

 本店所在地は東京都港区で、2001年設立、資本金1億円。事業目的は①不動産等の資産に対する投資計画の企画、立案およびその実施、②地盤、地質、耐震性等の建築物および建築設備の調査、③不動産賃貸市場および不動産投資市場の調査、④不動産に関する有害物質、日照等の環境調査、⑤不動産投資事業組合の企画、立案ならびに投資、⑥不動産の売買、販売代理、賃貸、仲介、賃貸仲介、管理およびこれらのコンサルタント業務、⑦不動産、不動産証券化商品および有価証券等の金融資産に関する不動産投資顧問業務、⑧建物の保守管理、賃貸管理業務、⑨建築物の設計・監理、⑩土地の開発造成、建物の建築、増改築、⑪経営者、債務者の財務内容改善、債務処理等に関するコンサルタント業、⑫債権の売買、保有、運用および投資、⑬信託契約代理業、⑭貸金業、金銭の貸付け、融資、⑮有価証券の売買、保有、運用および投資、⑯金融商品取引法で規定する金融商品取引業、⑰債権の管理、請求、回収に関する調査、指導およびコンサルティング業務、⑱経営コンサルタント業務、⑲環境事業、発電事業およびその管理・運営ならびに電気の売買に関する事業、⑳投資業、㉑旅館業、㉒旅行業法に基づく旅行業、㉓旅行業法に基づく旅行業者代理業、㉔前各号に関する事業を営む子会社の株式を所有することにより、当該会社によってその事業活動を行うことおよび当該会社の事業活動を管理することなど。

 役員は、代表取締役・山田卓也、取締役・李力、竹内誠治、監査役・半田高史の各氏。山田氏の住所はシンガポール共和国になっている。

 資産、財産、投資信託などのマネジメントが主業務で、もともとはエムケーキャピタルマネージメントという会社だったが、2012年に同業のアトラス・パートナーズと合併して現商号になった。2014年には中国の巨大複合企業「復星集団(フォースン・グループ)」の傘下に入り、その直後は代表取締役をはじめ、役員は親会社(復星集団)の関係者と思われる中国人名が多かった。

 同社が不動産の管理を行い、スキー場、ホテルの経営は、同社の100%子会社「The Court(ザ・コート)」という会社が担う。所在地はイデラ社と同じ。2008年設立、資本金2400万円。事業目的は、①ホテル、飲食店の経営及びホテル連鎖店の展開、経営指導及び運営の受託、②美術館、結婚式場の経営並びにクリーニング業、③スキー場、ゴルフ場、乗馬クラブその他スポーツ施設及び遊園地、遊戯場の経営、④食料品、衣料品、日用雑貨品、化粧品、医薬品及び医薬部外品の販売、⑤タバコ、喫煙具、酒類、塩、絵画、美術工芸品及び古物の販売、⑥収入印紙及び切手、葉書の販売並びに両替に関する業務、⑦コンピューター及びその関連機器による情報の収集、処理、⑧旅行業及び旅行代理店業、⑨労働者派遣業、⑩各種イベントに関する企画、立案及びその運営、⑪広告及び広告代理業務、⑫企業の事業、経営及び経営者に関する情報の収集調査、分析、研修並びにコンサルティング業務、⑬建物及び建物設備機器の保守、管理、⑭不動産の管理業務、⑮不動産の売買、賃借及びその仲介、代理など。

 役員は、代表取締役・柱本哲也、山田卓也、取締役・陳琦、王一非、監査役・半田高史の各氏。

 同社はブティックホテル、リゾートホテル、宿泊特化型ホテルの形態で、全国15カ所にホテルを展開している。福島県には系列ホテルはない。さらに、同社ホームページを見る限り、スキー場の運営実績は見当たらないが、イデラグループでは他社のスキー場の不動産マネジメントの実績があるようだ。

新会社はノーコメント

 イデラ社、ザ・コートの業績は別表の通り(民間信用調査会社調べ)。イデラ社は売上高に対して、利益率が高いのが目につく。ザ・コートは直近3年間は赤字を計上している。

イデラキャピタルマネジメントの業績

決算期売上高当期純利益
2016年49億円27億0320万円
2017年53億円27億1473万円
2018年36億円13億1026万円
2019年44億円20億7256万円
2020年47億7400万円22億2912万円
※決算期は12月。

ザコートの業績

決算期売上高当期純利益
2018年34億円2679万円
2019年47億7000万円△1億7466万円
2020年23億4000万円△14億5493万円
2021年29億0700万円△11億8000万円
※決算期は12月。△は損失

 イデラ社に、グランデコスノーリゾート、裏磐梯グランデコ東急ホテルを取得することを決めた経緯、取得後の経営戦略などを聞くため問い合わせたところ、担当者は「申し訳ありませんが、お答えできません。ご了承ください」とのことだった。

 グランデコスノーリゾート、裏磐梯グランデコ東急ホテルは、磐梯朝日国立公園内にあり、冒頭で説明したように、林野庁の「レクリエーションの森」に選定されている。「国有林野新規使用許可」など、いろいろと手続きがあるため、それらが承認され、正式に譲渡手続きが終わるまでは慎重になっているのだろう。

 裏磐梯地区は、県内でも降雪時期が早いうえ、春先まで営業することができ、オープン期間が長いのが特徴と言える。その一方で、地元住民によると、「一昔前は、首都圏、北関東、浜通りなどからのスキー客は、金曜日の夜に来て、土日はスキーを楽しむ、というスタイルが多かったが、近年は日帰りがほとんどになった」という。スキー場は安定した利用客が見込めるが、付随するホテルは簡単ではないのではないか、ということだ。

 「地元採用の従業員は、希望者は新会社で引き続き雇用してもらえるようですし、運営会社が変わっても、地元にとってはそれほど影響はないと思います。あとは、新会社として、利用者が魅力を感じるような新たな仕掛けがあるかどうか、ということでしょうね」(地元住民)

 外資系(中国系)企業の傘下に入るということは、中国をはじめとした外国人観光客の呼び込みに力を入れるのではないか、といった見方もある。いまはコロナ禍でインバウンド需要は無理だろうが、コロナが落ち着けば、そういった戦略を講じていくことが予想される。いずれにしても、新会社の手腕・動向に注目したい。

グランデコリスノーゾートのホームページ

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