【平成レガシー】ルネサンス棚倉の行く末

棚倉町を代表する宿泊施設の一つ、ルネサンス棚倉。テニスコートや会議施設などを備え、スポーツ合宿の団体客を受け入れてきたが、近年は赤字が続いている。黒字化を公約に掲げた新町長のもとで業績を立て直せるだろうか。

三セク運営リゾート施設の限界

棚倉町議会3月定例会の最終日。73億5300万円の令和8年度一般会計当初予算案が討論の末、賛成多数で可決された。討論では須藤俊一町議(4期)が反対の立場で次のように意見を述べた。

「ルネサンス棚倉関連予算に関しては、昨年度の指定管理料や施設維持管理費を上回る1億2900万円が計上されている。物価高対応のため増額したとのことだが、すでにルネサンス棚倉の経営改善のため、スポーツコミッション事業費として4583万円を計上しており、指定管理料増額には疑問を残すところだ。物価高対応はルネサンス棚倉が自助努力で対応すべきではないか」

ルネサンス棚倉とは、棚倉町にある公設民営のリゾート型宿泊施設だ。約24㌶の敷地の中に、単純泉の日帰り温泉施設やサウナのほか、屋内プール、トレーニングジム・スタジオ、テニスコート、サッカー場、ドローン飛行場、多目的広場、会議室などを備え、スポーツ合宿や研修などで多く利用されている。宿泊施設には81室の客室があり、最大400人以上が宿泊可能。

ルネサンス棚倉
ルネサンス棚倉

藤田満寿惠町長の時代に構想が浮上し、平成元年に総事業費約36億円で開業。元利償還金の40%程度の交付税措置を受けられる地域総合整備事業債の「自治省・リーディングプロジェクト」に指定された。

運営は、棚倉町と民間企業による第三セクター㈱ルネサンス棚倉(宮川政夫社長=棚倉町長)が担う。出資比率は別掲グラフの通り。ルネサンスという名称だが、スポーツジムなどを展開する㈱ルネサンスのグループ施設というわけではない。

ルネサンス棚倉 出資比率構成

レジャーブームの中、観光資源が乏しい自治体が公設民営のリゾート施設を整備し、第三セクターに運営を委ねて首都圏からの集客を狙う……こうしたスタイルは全国でも珍しく、「棚倉方式」と呼ばれた。

当初は首都圏からの集客が安定して続くと見込まれていたが、バブル崩壊後に節約志向が高まったのに加え、震災・原発事故やコロナ禍の影響で、主力の学生合宿客が激減。海外実習生の研修利用なども検討していたが、コロナ禍で断念し、売上高・宿泊者ともに低迷している(下のグラフ参照)。令和6年度決算では売上高1億6694万円、販管費2億4521万円、当期純損益2084万円のマイナスという状況だ。累積債務超過額は3億0465万円に達している。

ルネサンス棚倉 売上高の推移

ルネサンス棚倉 累積債務超過額の推移

苦しい経営状況を支えているのは町だ。年間約6000万円の指定管理料に加え、経営安定化のために総額1億1600万円貸し付けている。さらには老朽化に伴う冷暖房設備の故障や雨漏りへの対応のため、修繕費として毎年2000~3000万円を計上。光熱費の効率化のための投資も進めている。

冒頭の議会で、町議から「町が金を出し過ぎではないか」という指摘が入ったのはこうした理由からだ。

需要に合っていない施設

町内の経営者は「老朽化で、現代の旅行需要に合っていない施設となりつつある」と指摘する。

「基本的にスポーツ合宿向けの団体客を想定しているので、シングルルームがなく、一番狭い部屋でも3人部屋です。現在の主流である1、2人での旅の需要に対応できていません。館内は無駄に広く、食事や風呂に行く際は延々と歩かなければならないし、バリアフリー化も徹底されているとは言い難い。高齢の個人客や町内を訪れた経営者、スポーツ団体の幹部などは、JR新白河駅前の東京第一ホテル新白河など、白河市のホテルにわざわざ移動してそちらに泊まることが多いのです」

町内の集まりや宴会、イベントの会場になることも多く、町民にとってはなじみ深い施設のようだが、「営業時間や利用方法などを細かく注意したり、同僚に厳しく指導する従業員がいた。支配人の身内ということもあって、町民から不満が漏れていた」(同)という声も聞かれた。団体客ばかりか、町民ですら同施設に足を運んでいない可能性もある。

2月中旬の週末、実際に宿泊してみた。1人約1万円、朝食付き。ビジネスホテルと比べると割高に感じる。部屋は本館の洋室3人部屋で清潔感はあったが、全体的に少し古めの施設という印象は否めなかった。

朝食はサケの切り身に小鉢が6種類ほど付きなかなか充実していたが、夜はレストランが閉まっており、夕食・夜食を食べようと思うと、1㌔先のコンビニに行くか自動販売機の冷凍食品・カップ麺に限られた。

このほか、宿泊して気になった点は以下の通り。

▼スポーツリゾートを意識してか、スタッフが全員ジャージ姿だった、▼客室近くのロビーにずらりと並んでいた健康関連の本の背表紙が全て日焼けして色あせていた、▼浴衣などのアメニティーは全てセルフサービスで、チェックアウト時も無人のフロントの箱にキーを入れる仕組みだった、▼客室がある本館から温泉施設があるクアハウスまでかなり歩く必要がある、▼宿泊者がスポーツ施設を使えるのはいいが、プール770円(2時間、宿泊者料金)、ジム1540円(同)で最新の機器などもなく、高めに感じた――など。

「宿泊料金が高めのわりにこの程度のサービスなのか」という思いを抱いてしまうから、より細かい点が気になるのかもしれない。

敷地内には開業時の式典で聖火がともされた巨大な聖火台がいまも残っていた。同じ北緯37度に位置するということで国際友好都市となったギリシャ・スパルタ市の聖火がヘリコプターで同施設に届けられ、小中学生による聖火リレーを経て聖火台に点火されたという。

巨大な聖火台
巨大な聖火台

バブル時期らしい派手なエピソードに驚かされるが、そうした当時の残り香を味わえる〝平成レガシー〟として、古さや不便さを楽しみながら泊まるぐらいのスタンスが必要だったのかもしれない。

「任期中に黒字回復目指したい」

もっとも、今後業績を回復させるためには、令和の時代の顧客の需要に合わせて、快適に利用できる施設にしていかなければならないが、打つ手はあるのか。令和6年8月の棚倉町長選で無投票での初当選を果たし、就任以来、㈱ルネサンス棚倉社長を務めている宮川町長はこのように考えを述べる。

宮川政夫町長
宮川政夫町長

「町長就任前からルネサンス棚倉の経営状況やサービス内容について、不評の声が聞かれており、マイナスイメージが定着していたので、まずはその払拭に努めています。スタッフのマナー向上や清掃の徹底、クアハウスの営業時間延長など、まずはお金をかけずに済むところから着手しています。また、飛び込みで来る出張ビジネス客なども極力断らず、受け入れるように指示しています。そうした取り組みで私の任期中に何とか業績を黒字まで持っていきたいです」

新年度からはさらに「東京イーストサイドホテル櫂会」などを運営するセンコークリエイティブマネジメント(東京都、藤田浩二社長)のアドバイスを参考に経営改善につなげる意向も明らかにした。

同社は令和5年4月、同町を含む東白川郡3町1村と地域創生や観光振興及び文化振興に関する包括連携協定を締結。すでに塙町の温浴施設湯遊ランドはなわと連携し、相互にアドバイスをしているという。

「経営は下りのエスカレーターを上っていくようなもの。足を止めたら下に落ちていくだけです。まずはできることを一つひとつ積み重ね、そうした中で町民から評価されるようになれば、今度は『また来たいね』、『今度は親戚と一緒に来よう』と自然と評価を広げるセールスマンになってくれるはず。いずれそうなったとき、今後に向けてどのように運営していくか、大規模改修なども含めて、議論すべきタイミングなのかなと考えています」(宮川町長)

出資者でもあるルネサンスは現在の状況をどのように見ているのか。同社執行役員・地域健康推進部長で、ルネサンス棚倉の取締役にも就いている熊坂克哉氏はこう述べた。

「湯座一平前町長が着任した際、『ルネサンス棚倉の経営改善を図りたい』と同社の創業者である当社役員斎藤敏一(現ルネサンス取締役名誉会長)が相談を受け、新支配人を業務委託の形で派遣した経緯があります。ただ、支配人が65歳で定年を迎えたのを機に、3月末で派遣を終了し、当社も一株主という形での関わりに戻ります」

熊坂氏によると、町から引き続き人材協力を依頼されたが、同社としても潤沢に人を出せる状況ではなかったため、宮川町長のリーダーシップのもとで新しい支配人を探しているようだ。

「当社では全国の自治体と連携してまちづくり支援などの事業に取り組んでいます。ルネサンス棚倉に関しても、町との連携を引き続き図り、ルネサンス棚倉が地域にとっても資産価値が向上するよう、伴走を続けていく。投資効果が最大限発揮されるよう願っている」(同)

スポーツコミッションへの期待

古さを感じる看板
古さを感じる看板

湯座前町長が退任し、経営改革をうたう宮川町長が就いたことで、ルネサンスとの関係性がリセットされた感がある。退任予定のルネサンス棚倉の支配人に取材を申し込んだところ、「私、マスコミ嫌いなんですよね。ノーコメントでいいですか」と対応を断られた。町産業振興課に確認したところ、3月26日現在、後任はまだ決まっていないという。

宮川町長にとっては苦境だが、体制を一から見直す好機と捉えることもできる。

突破口として期待されるのは、昨年5月、スポーツまちづくりを推進するために町が着手した「棚倉町スポーツコミッション」事業だ。3年間にわたる国の補助事業で、同施設でスポーツ選手やお笑い芸人を招いたイベントを開催するなど、交流人口増加と施設利用促進を推進しようとしている。同施設でも日本ソフトテニス連盟所有のハードコート12面を整備し、大会を開催するなど、〝テニスの聖地〟として売り出している。

ただ、宮川町長の周囲からは「これでうまくいかなかったら責任問題になるのではないか」と不安視する声も出ている。町議会昨年12月定例会の一般質問では議員から「ルネサンス棚倉に隣接する町総合体育館にエアコンを完備するなど、スポーツ合宿誘致を進めやすい環境を一体的に整備すべきだ」という意見も出た。

国は医療費抑制・健康寿命延伸に向けて介護予防事業や企業の健康経営を推進しており、ヘルスケア産業の動きも活発化している。同施設でもスポーツだけでなく「健康」関連の需要に応えて存在意義を示し、町民の理解を得ていくのが現実的な路線ではないだろうか。官民の知恵を結集し、「平成レガシー」と化しつつあるこの施設が、棚倉の誇りとなる日が来ることを期待したい。

まるで古代ギリシャの神殿のような外観の交流研修館「パルテノン」
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