東日大昌平の快挙の背景には、同校の努力はもちろんのこと、それと並行して地域一体型の試みがあった。行政、教育界、財界、市民が手を取り合って推進する「いわき甲子園プロジェクト」である。
いわき市は野球が盛んな地域だ。県勢として、甲子園で初めて勝利を挙げたのは1963年の磐城で、同校は1971年に県勢唯一の決勝まで進んだ。ただ、近年は2013年のセンバツに、いわき海星が21世紀枠として出場しただけで、同地区から夏の代表は久しく出ていない。
そんな中で、昨年7月に立ち上げられたのが「いわき甲子園プロジェクト」だ。同プロジェクト実行委員会の事務局を兼ねるいわき市スポーツ振興課の担当者によると、「人材流出を防ぐ」ということが一番の目的にあるという。その象徴として「甲子園」というフレーズを用いた。本気で甲子園を目指せる高校が市内にないと、人材流出に歯止めがかからず、スポーツの観点だけでなく、地域全体の損失につながるといった捉え方から、同プロジェクトを立ち上げたのだ。
構成団体は、市、市体育協会、高野連いわき支部などのほか、少年野球の関係団体、南東北大学野球連盟で近年圧倒的な強さを誇る東日本国際大硬式野球部などが名を連ねる。会長には、内田広之市長が就き、プロ野球のロッテ、楽天でプレーし、楽天の監督も務めた今江敏晃氏がアンバサダーを務める。今江氏がロッテ時代の球団職員にいわき市出身の人がいて、その縁でたびたびいわき市を訪問しており、アンバサダー就任となった。
このプロジェクトの本格的な始動に合わせるように、今回の東日大昌平の躍進があった。市スポーツ振興課の担当者は「たまたまの巡り合わせで、選手たちが頑張ってくれた。そこに尽きます」という。確かに、すぐに結果が出るほど、簡単なものではないだろうが、その「巡り合わせ」は、地域全体が本気になったからこそ引き寄せられた。行政や市民が「甲子園」という明確な目標を掲げて後押しする気運が高まっていたから、選手たちも実力を発揮できたと言える。
行政主導による「野球を通じたまちおこし」には成功例がある。いわき市がモデルの一つとして参考にしている徳島県阿南市の取り組みだ。同市は2010年、市役所内に全国初となる専門部署「野球のまち推進課」を設置し、市を挙げて高校野球の招待試合や小中学生の育成、野球観光などを進めてきた。その土壌があり、近年、阿南光高校(2024年センバツでベスト8など)が甲子園で躍進を果たし、「阿南」の名を全国に知らしめた。
いわき市が今秋以降に打ち出す施策も、この先行事例に通ずるものがある。最大の目玉は、全国の強豪校を招いて開催される「招待試合」。今秋は、2023年のセンバツ王者・山梨学院(山梨県)を招くことが決定している。秋季いわき支部大会で上位に入った地元の高校と、数試合の練習試合を予定している。1つの学校単位で、こうした強豪校との練習試合を取り付けるのは簡単ではないが、行政・地域の支援で実現可能となる。
全国トップレベルの投手・打者との対戦は「甲子園レベル」を肌で感じることができ、課題の洗い出しや目標設定などに大きく寄与するに違いない。
こうした取り組みを積み重ね、東日大昌平が全国で強豪と認知されるようになれば、今度は向こう(全国の強豪校)から、「東日大昌平と練習試合をやりたい」といったオファーが殺到するに違いない。全国の強豪校との対戦は、大きなカンフル剤となる。
いわき甲子園プロジェクトの取り組みはそれだけにとどまらない。今年5月には、ヨークいわきスタジアムでプロ野球を開催し、小学生の野球チームなどを招待した。多くの市民や子どもたちがスタジアムに詰めかけ、プロのプレーを目の当たりにした。ほかにも、今江氏の人脈による野球教室なども開催され、小・中学生のジュニア層から高校生、さらには一般市民までを巻き込んだ取り組みとなっている。
東日大昌平の躍進を足がかりに、「野球のまち・いわき」として、全国にその名を轟かせる挑戦は、上々のスタートを切ったと言っていいだろう。

東日大昌平ナインが甲子園から帰校した8月17日夜、同校体育館で帰校報告会が行われた。千葉義夫校長、内田広之市長、学校法人昌平黌の緑川浩司理事長が感謝とねぎらいの言葉をかけた。

千葉義夫校長
今回の私どものチームは、初出場で、しかも甲子園で2回校歌を歌うことができました。選手たちの頑張りと、多くの皆様から本当に温かいご支援をいただき、このチームを支えていただいたことに心より感謝申し上げます。選手の皆さんも、自分たちのプレーでいわきのまちを盛り上げ、元気に高めてくれました。今後とも本校ならびにいわき市の高校野球、そして少年野球に対して、是非とも熱いご支援のほどをお願いいたします。心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

内田広之市長
東日大昌平高校野球部の皆様、おかえりなさい。最高の夏を本当にありがとうございました。頑張った選手の皆様、そして選手をサポートした記録員、データ班、応援でスタンドから盛り上げていただいた方々、ブラスバンド、フラダンス部の皆様、同窓生や保護者の皆様方、本当に多くの方の熱い応援とご支援で、ベスト16という偉業を成し遂げていただいたと思います。監督、部長をはじめ教職員の皆様方も、温かいご支援で育てていただいたこと、心から敬意とお祝いを申し上げたいと思います。
3年生の皆様におかれましては、これから夢や進路の実現に向けて、精一杯頑張ってほしいと思います。そして、2年生や1年生は、3年生が甲子園で作ってくれた歴史をしっかりと引き継いでいただき、新しい歴史を作り、新しい未来を作っていただきたいと思います。いわき市としても、これからも全力で応援させていただきます。この夏、いわき市内全体が盛り上がっていました。甲子園でのプレーを見たら、どんな困難に当たってもそれを乗り越えられると私は確信しております。ありがとうございました。

緑川浩司理事長
選手の皆さん、いい顔になりましたね。単なる勝ち負け以上に、市民の皆さんに勇気と希望を与えてくれたと感じています。先日の試合は私自身も感動しましたし、「感動した」といった声も多く寄せられています。結果としては3回戦敗退ですが、私の中では勝負では勝ったと思っています。これほどいわき市民全員が一つになって感動と喜びを分かち合ったのは初めてではないでしょうか。長年離れていた後輩からもメッセージが届き、あらためて甲子園という存在の大きさを実感しました。
学校法人昌平黌の120年以上の歴史の中で、皆さんが新たな1ページを刻んでくれました。これから新チームとなりますが、監督を中心にさらなる強みを発揮し、次の素晴らしい未来をつくってくれることを期待しています。本当におめでとう、そしてありがとう。





















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