吉野衆院議員「引退報道」の裏側

吉野衆院議員「引退報道」の裏側

 6月9日の福島民報1面に、旧福島5区選出で自民党の吉野正芳衆院議員(74)=8期=が今期限りで政界を引退する意向を周辺に伝えた、という記事が大きく掲載された。

 《党本部が今後、吉野氏に意向を確認した上で後継となる公認候補の選定が進められる見通し。吉野氏と同じく、いわき市を地盤とする自民党県議の坂本竜太郎氏(43)=2期=を軸に調整が進められるもよう》(同紙より抜粋)

 吉野氏はいわき市出身。磐城高、早稲田大第一商学部卒。県議3期を経て2000年の衆院選で初当選。文部科学政務官、環境副大臣などを経て17年4月から18年10月まで復興大臣を務めた。

 周知の通り、吉野氏は近年、健康問題に苛まれてきた。

 復興大臣退任後に脳梗塞を発症。静養を経て復帰したが、身体の一部に障がいが残った。そんな体調で2021年の衆院選に立候補し、選挙中に足を痛めてからは車椅子に頼る生活を送っていた。喋りも日増しにたどたどしくなっていた。

 数カ月前に吉野氏に会ったという経済人はこう話す。

 「事務所の奥から車椅子の吉野先生が秘書に押されて姿を見せた。秘書が『先生、〇〇さんです』と呼びかけると、聞き取れない返事を発しただけで、すぐに奥へと連れ戻された。印象としては、介護施設で面会しているような感じだった」

 今年に入ってからは3月の党県連定期大会など、主要行事でさえ欠席を続けていた。

 要するに今の吉野氏は、国会・委員会での質問、地元からの陳情受け付け、聴衆を前にした演説など、議員としての仕事が思うようにできない状態なのだ。

 ここで難しいのは、政治家の出処進退は自分で決めるという不文律があることだ。周りがいくら「辞めるべき」と思っても、本人が「やる」と言えば認めざるを得ない。

 「だから民報にああいう記事を書かせたのです」と話すのは、あるマスコミ関係者だ。

 「6月上旬は衆院解散が囁かれていたが、吉野氏はいつまで経っても引退表明しない。後継の坂本氏は現職が辞めないうちは表立った動きができないが、現実問題として解散が迫る以上、立候補の準備に取り掛かりたいのが本音だった」(同)

 そこで、吉野氏に〝引導〟を渡すため、福島民報に「引退の意向」という記事を書かせたというのだ。

 「民報にリークしたのは党県連と言われています。上層部がゴーサインを出さないと、ああいう記事にはならない」(同)

 坂本氏が自らリークした可能性はないのか。

 「坂本氏は以前、重大なフライングで評判を落としたので、今回は自分に出番がくるのを大人しく待っている。なので、自分からリークすることはあり得ない」(同)

 重大なフライングとは、前回の衆院選前、坂本氏が森雅子参院議員の案内で永田町を回り、二階俊博前幹事長らに接触するなど、吉野氏が8選を目指す中で自らの立候補を模索していた行為だ。

坂本竜太郎氏
坂本竜太郎氏

 「無所属でも出る」と息巻いていた坂本氏は結局、立候補を見送ったが、この時の反省から坂本氏は「待ちの姿勢」に転じたわけ。

 坂本氏はいわき市出身。磐城高、中央大法学部卒。いわき市議を経て2015年の県議選で初当選した。父親は元衆院議員の坂本剛二氏(故人)、叔父は元参院議員の増子輝彦氏という〝サラブレッド〟だが、いわき市議時代に飲酒運転で逮捕された過去がある。

 前出・マスコミ関係者によると、吉野事務所は「引退は仕方ない」と覚悟しているものの、福島民報の記事に激怒し、引退表明を先延ばししたという。衆院解散が今秋に伸びたと言われる中、坂本氏はもうしばらくヤキモキした日々を過ごすことになりそうだ。

※衆議院議員会館の吉野事務所に問い合わせたところ「代議士本人や事務所のコメントもなく、ああいう記事が出て非常に驚いている。(福島民報の)東京支社の記者は毎日のように事務所に来ているのに、それはないだろう、と。代議士本人も立腹しています」とコメントした。

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