葬祭の神保で「お家騒動」

葬祭の神保で「お家騒動」

 会津若松市の老舗葬祭業㈱神保が「お家騒動」に見舞われている。取締役を解任された創業家の男性が、大株主である祖母(故人)が同社の持株会に全株式を譲渡した手続きは不正として、「相続人の自分が取得するのが正当」と主張し、株主権確認を求めて同社を提訴。地裁会津若松支部は訴えを認め、祖母が持株会に譲渡した株の権利は男性にあるとの判決を言い渡した。本誌試算では、神保側が保有する株は議決権ベースで過半数を下回り、創業家の男性保有分が過半数を超えるか半数近くに及ぶ。神保側が控訴したため、決着は仙台高裁に持ち越された。冬が到来する会津の経済界に春は来るか。

創業家が株主権奪還求め経営陣と法廷闘争

会津若松市大町にある神保創業の地
会津若松市大町にある神保創業の地
神保の決算

 会津若松駅から南方向へ一方通行の大町通りには、両側に漆器店や呉服店、茶舗など昔から続く店や寺社がところどころ残る。会津若松市の老舗葬祭業「神保」もここで生まれた。創業は1900(明治33)年。 大町通りは、風情はあるが賑いはない。神保の旧本社のシャッターも閉ざされ、「神保造花店」の看板の文字はあちこち剥がれ落ちている。裏手には創業家の自宅がある。

 そんな大町通りから、神保は2001年に本社を交通の便が良く自社の斎場「セレモニーホール天恵苑」がある国道121号沿いの交差点近くに移した。同業他社も同じ考えで斎場を置き、一帯は競合地と化す。

 神保に分があるのは、参列者が多く、昔ながらの格を重んじる葬儀を行っていることだという。最近、天恵苑で行われた地元の名士の葬儀に参列した社長が語る。

 「市長や経済人が親族の葬儀を開くとなると、天恵苑になることが多い。数百人収容できるというのが1点。100年以上にわたって会津で葬祭業を営んできた蓄積がある。駐車場の誘導や花輪の手配、並べ方一つとってもミスは許されず、その点神保は安心できる」

 人口減少社会と葬儀の簡素化で、葬祭業は少ないパイの奪い合いだ。とりわけ会津は過疎化が深刻で、顧客も急減しているとみられる。神保も会津若松市外の斎場を売却したり、市内でも家族葬向けの斎場に移行するなどしてきた。

 葬儀業界の激変に加え、神保は「お家騒動」を抱える。創業家支配からの脱却を狙う新経営陣の下で解任された創業家の男性が、影響力の奪還を求めて訴訟を起こしたのだ。

 原告は神保直人氏(44)。2023年9月に死亡するまで代表取締役を務めた光一氏(享年68)の長男で、2002年に神保の取締役に就任した。直人氏は後継とはならず、2019年に取締役会の構成は光一氏に加え、従業員出身者や社外の人物が中心になった。新しい経営陣は経営立て直しや創業家の影響力を排すために、光一氏の協力を得たうえで神保家が大部分を保有していた株を役員や従業員からなる持株会に譲渡することを計画。2021年9月に直人氏を取締役から解任した。

「神保」経営陣

 しかし、直人氏は創業家が譲渡した株の権利は本来自分が相続したものだと主張。神保側が応じなかったため、2024年11月に地裁会津若松支部に株主権の確認を求める訴訟を起こした。代理人は大野毅夫弁護士。主に次の3点を主張した。

 ①直人氏の祖母ヨシノ氏(2023年10月に92歳で死亡)が生前に同社の役員、従業員で構成する二つの持株会に計464株を譲渡した手続きは、ヨシノ氏が認知機能が低下し、意思能力を喪失している中で行われたため無効。ヨシノ氏は株式譲渡契約の結果、創業家の影響力が低下することを理解しておらず、息子の光一氏が不正に記名・押印していた。

 ②直人氏は、ヨシノ氏(死亡)→長男・光一氏(死亡)→孫・直人氏と代を跨いで相続する権利があり、実際、遺産分割協議書に基づきヨシノ氏の464株を取得した。もともと自分が持っていた312株と合わせて権利があることを確認する。

 ③464株はこうした理由から相続したものなので、直人氏の名義に書き換える手続きをしろ。

 これに対し、新経営陣からなる神保は代理人に小池達哉弁護士を立て、手続きの正当性を主張した。ヨシノ氏の認知機能は検査結果からも年相応で問題なかったとしたうえで、説明には光一氏の他に司法書士も立ち合い、意思確認書を作成した。「光一氏がヨシノ氏の了解を得ずに記名押印した」との原告の主張には、「ヨシノ氏が光一氏に契約を代理でするよう委任していたので正当な手続き」と反論した。

一審は創業家が勝訴

 契約の当事者である光一氏とヨシノ氏は鬼籍に入っている。裁判では、契約に立ち会った司法書士が証人に立った。5月29日に行われた証人尋問では、直人氏と現経営陣の他に、神保の制服を着た従業員たちが10人ほど被告側の傍聴席に座り、行く末を見守っていた。

 7月17日の判決で、島崎卓二裁判官は直人氏の訴えを全面的に認めた。ヨシノ氏は複雑な法律問題に対して正常な判断ができなかったと推認でき、そのため光一氏が代理で行った株式譲渡手続きは無効とした。

 裁判所で閲覧した訴訟資料によると、提訴時の株式名簿上の議決権割合は役員持株会と従業員持株会を合わせると54・25%、直人氏が20・39%(312株)という。単純計算で神保の株式総数は312÷0・2039=1530株。これに占めるヨシノ氏の株の割合は464÷1530=30・32%。一審判決に従うと、株主総会での議決権は神保側が23・93%なのに対し、直人氏側が50・71%で逆転するとみられる。

 議決権ベースの株の割合は一概には断定できないが、二つの持株会が光一氏とヨシノ氏から取得した株を元手に成立した点、神保側が控訴している点から考えると、少なくとも創業家の直人氏の影響力が強まる割合なのだろう。

 このように、神保は株主と内紛を抱えてはいるが、市内のある経済人によると、顧客への影響は特にないという。

 「営業に悪影響は感じられない。ただ、紛争を気に病んで従業員が離れていかないかが心配だ」

 一審判決は株式譲渡手続きを不正とし、経営陣の動機にまで踏み込んだ。

 「神保側はヨシノ氏の長男の光一氏に契約を代理させることで持株会への譲渡を画策したものと推認できる」

 「光一氏とヨシノ氏の株式譲渡と同じ日に取締役会を欠席していた直人氏を解任し、持株会が過半数の議決権割合を得たことからも、ヨシノ氏の株式譲渡により神保の経営を立て直すというだけではなく、創業家の影響力を低下させようという現経営陣の意図がうかがえる」

 現経営陣の悪意を認める判決だったが、神保家と付き合いがあった経済人は俯瞰的に見る。

 「長年トップを務めてきた光一氏は良く言えば豪気。悪く言えば放漫経営だった。新型コロナの時期に入れ替わった現経営陣は、不採算施設の売却先を見つけて縮小路線に舵を切り、時代に合わせて家族葬事業を広げた」

 上記の時系列表を見ると、2020年の特に経営が悪化した時期に市外の施設や会津藩校日新館の売却を進めている。主導したのは光一氏亡き後、2人体制の代表取締役の一角を担う鈴木浩二氏だという。

 「鈴木浩二氏は市内で割烹『若央』を営む板前だった。光一氏は良く飲みに行き相談し、頼りにしていた。判決だけを読むと、光一氏を籠絡して創業家を追い出した乗っ取り劇に見えるが、事はそう単純ではない。新型コロナ禍の時期は経営難が深刻だった。光一氏に世話になった恩もあったのだろう。晩年は病気がちだった光一氏に代わり社外取締役兼COO(最高執行責任者)に就き、日新館の売却先探しにも奔走していた」

 この経済人によると、共同で代表取締役を務める鈴木晃氏は神保の従業員出身。創業家体制の時に役員に名を連ねていた神保優子氏は光一氏の妻、神保勇二氏は光一氏の実弟、川副姓の人物は光一氏の実姉の嫁ぎ先の家族という。

 神保の歴史を登記簿や裁判資料などの公開情報からまとめたので、125年に及ぶ歴史のその先がどうなるか推移を見守ってほしい。

神保グループ125年の歴史① ~創業家体制と終焉~

1900(明治33)年会津若松市大町にて創業
1932(昭和7)年神保商店として営業を開始
1972(昭和47)年㈲会津典礼設立。2021年に解散
1975(昭和50)年神保商店を法人化し有限会社に
1982(昭和57)年㈱たちばな会館を設立。2018年に神保に吸収合併
1984(昭和59)年㈱ブライダルユニオン福島設立。2005年に神保に吸収合併
1986(昭和61)年㈲ヨシノ商事設立(代表取締役・神保ヨシノ氏)。2019年に神保に吸収合併
1993(平成5)年神保が有限会社から株式会社に移行
1997(平成9)年㈲花じん設立(代表取締役・神保勇二氏)
1998(平成10)年扇町に「セレモニーホール天恵苑」設立
2001(平成13)年㈲仏壇の神保(仏壇の神吉)を設立
2001年4月21日本社を大町から扇町に移転
2001年4月26日神保光一氏が葬祭関連業㈱エージエー(福島市)の代表取締役に、勇二氏が取締役に就任。2015年に解散
2002(平成14)年天恵苑「門田会館」設立
2002年6月30日神保直人氏が神保の取締役に就任
2005(平成17)年天恵苑「猪苗代会館」設立→現在はJA会津よつばの葬祭施設
2006年会津藩校日新館を若松ガスグループ(高木厚保氏)から取得。売買価格は約2億円。関連会社の会津武士道が運営(代表取締役は神保光一氏と川副正和氏)
2008(平成20)年天恵苑「城南会館」設立
2013(平成25)年天恵苑「喜多方会館」設立→現在は囲碁・将棋サロンに譲渡
2016年2月25日川副正純氏が取締役を退任
2019年7月31日神保ヨシノ氏が取締役を辞任
2019年10月1日鈴木浩二、西田秀一、鈴木晃、酒井俊紀、鵜川公助ら5氏が取締役に
2020(令和2)年経営悪化が深刻に。社内持ち株会方式への移行を計画
扇町に家族葬施設を設立
扇町に遺体を安置する霊安ホテル「神楽想」 設立
2020年6月23日神保光一氏が母ヨシノ氏に神保持ち株会への株式譲渡を了承してくれないか司法書士立ち合いの下説得。同意を得たとする
2020年12月10日神保が役員・従業員持ち株会を設立し、取締役会が神保ヨシノ氏の株式取得を承認。神保直人氏の取締役解任も決議する
2021年2月15日神保優子氏が取締役を解任される
※控訴審の判決は来年1月21日午後1時15分から仙台高裁で言い渡される。

神保グループ125年の歴史② ~経営立て直しと創業家との訴訟~

2021年7月5日㈲会津典礼が株主総会決議により解散。清算人は酒井俊紀氏
2021年9月30日神保直人氏が取締役を解任される
2022(令和4)年門田会館が家族葬施設に移行
2022年2月26日神保勇二氏が神保の監査役を退任。花じんの代表取締役は継続
2022年3月1日日新館を会津若松市出身の会社役員に売却
2023(令和5)年旧たちばな会館(和田)が家族葬施設に移行
2023年9月24日神保代表取締役の神保光一氏が死亡
2023年10月2日鈴木浩二氏、西田秀一氏が共同で代表取締役に就任
2023年10月20日神保ヨシノ氏が死亡。所有株式の譲渡を受けていた神保に対し、孫の直人氏が相続を求めて争いが勃発
2024年9月5日本社を扇町から近隣の亀賀1丁目に移転
2024年10月20日西田秀一氏が代表取締役を退任
2024年11月5日神保直人氏が祖母ヨシノ氏所有の株の権利などを求め神保を提訴
2024年12月1日鈴木晃氏が2人目の共同代表取締役に就任
2025年7月17日地裁会津若松支部が神保直人氏の訴えを認める判決
2025年10月27日神保が控訴し仙台高裁で控訴審の第1回期日
出典:法人登記簿、判決、神保ホームページなど

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